あなたが言いたいことは、上司の方に正しく伝わっていますか?普段コミュニケーションにギャップを感じているという方は、ちょっと工夫するだけでその状態を改善できるかもしれません。
今回ご紹介するのは、相手に伝わりにくいメッセージを、体験談やエピソードを用いることでわかりやすく伝える、「ストーリーテリング」というコミュニケーション手法。この手法は、営業の現場などでもよく使われていますが、実は後々まで語り草となる名スピーチやプレゼンにも、その要素は含まれています。
今回は、ストーリーテリングに必要な3つの重要なルールを、みなさんの記憶にもある名演を引き合いにお伝えします。
目次
1.聞き手をストーリーに引き込む、入り口をつくる
いくら良いストーリーを持っていたとしても、相手が注目してくれなければその効果は発揮されません。ストーリーテリングを始める際には、相手の心をぐっとつかむ必要があるのです。
そのために重要なのはアイスブレイク。みなさんも野球や天気など、相手と共有しやすい話題で会話の起点を築くことがあるかもしれませんが、ここでお手本にしたいのは、名プレゼンターとして世界的に知られるAppleの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏です。
Ⅰ.聞き手に接近する
ジョブズ氏は母校であるスタンフォード大学の卒業式に招かれ、スピーチを求められた際、こう切り出しました。
「この素晴らしい学校の卒業式に招かれたことを光栄に思います。ただ、私は大学を卒業したことがないので、大学の卒業式に出席するのはこれが初めてです。今この瞬間が、私が“卒業”というものに最も近づいた瞬間なのです」
聴衆(卒業生)に対し、偉大な経営者から、「私はあなたたちの同窓生どころか、卒業もしていない」という共通点をユーモアとともに提起し、一挙に心理的な距離を近づけています。
ここで重要なのは、語り手と聞き手が遠く離れていない、つまり、同じ課題を共有し合える関係であると確認することです。
Ⅱ.ショッキングな問題提起
共感以外に、聞き手を話に引き込むのに有効な手法は“驚愕”です。現在の課題をショッキングに語ることで、否が応でも聞き手は話に興味を持ってしまいます。ここで参考にしたいのは、イギリス出身のシェフ、ジェイミー・オリバー氏です。オリバー氏は子供達への食育の重要性をアピールするスピーチで、まずショッキングな数字を提起します。
「残念ながら、ここで私がお話しする18分の間に、4人のアメリカ人が死ぬのです。その原因は“食”です。」
いかがでしょうか。まず驚愕する話を出すことで、聞き手はその背景や結果などに対して興味を持ちます。つまり、ストーリーの入り口以降に語られる、あなたの言葉に対する興味が喚起されるはずです。
2.相手が物語を捉えるうえで注目すべき、主人公を設定する
抽象的な話は、耳で聞いているだけでは理解が追いつかない、あるいは理解に力を使い疲れてしまうといったことが起こります。
ストーリーテリングにおいては、物語をシンプルに捉えてもらうために、誰(もしくは何)視点で考えればいいのかを示すことが効果的です。ここでの参考は、またも登場の故スティーブ・ジョブズ氏。歴史的なプレゼンと呼ばれる、2007年のiPhone初公開時の語り口は圧巻です。
「今日、我々は3つの画期的製品を発表します。1つ目は、タッチ操作可能なワイドスクリーンiPod。2つ目は、革命的な携帯電話。3つ目は、画期的ネット通信機器。iPod、革命的携帯電話、ネット通信機器…。iPod、革命的携帯電話、ネット通信機器…。もうお分かりですね。独立した3つの製品ではなく、それは1つの製品なのです。その名は”iPhone”」
ここで注目すべきは、iPhoneという画期的製品をストーリーの主人公に据えているだけではなく、iPhoneの持つ3要素を前提で説明し、その要素が一体となった、いわば「この製品がいかに画期的なのか」というアウトラインを滑らかに説明している点です。
このように主人公を設定することで、聞き手がフォーカスすべき点を分かりやすく提示し、より深い理解を促す効果が望めます。
ジョブズ氏のテクニックはかなり高度ですが、主人公を構成する重要な要素を整理することで、聞き手の頭の中に、これからあなたが話す事柄のアジェンダを同時に提示していると解釈できます。
3.クライマックスを意識して、緊張感をだんだん高める
物語の中でも、特に聞き手の印象に残りやすいのはクライマックス、つまり緊張感がどんどん高まり、それが緩まる瞬間です。
資料とともに説明できる状況であれば、相手の感情をクライマックスに向けて揺さぶるテクニックとして、以下のようなものがあります。
◯画像を使う
◯映像を使う
◯ロールプレイを行う
◯マンガを使う
数値やグラフが中心になりがちな資料の中で、一挙に視覚に訴えかける情報を投入することで、相手の気持ちをどんどん高めていくことが可能です。では、資料を使えない、いわゆる“くちプレ”の状況ではどうでしょう。
Ⅰ.声の持つ情報量を増加させる
このような状況下で威力を発揮するのが、声のトーンや話すスピード、熱量の込め方などをクライマックスに向けてだんだんと強くしていき、聞き手を引き込むという、ストーリーテリングの古典的なテクニックです。
このトーンコントロールの好例は、古典映画の中に見いだすことが可能です。その映画とは、喜劇王チャールズ・チャップリンがヒトラーをパロディにした『独裁者』という作品。
作品中、映画史に残ると言われる6分間の演説シーンで、チャップリンは開始から2分10秒ほど経過した時点で一挙に声のトーンとスピードを上げ、「兵士よ、良心を忘れるな。独裁者に惑わされるな!」と訴えます。
それまでの流れと明らかに異なるトーンを使うことで、聞き手に対して「ここが重要なんです」と明確に伝え緊張感を高める。かつ、緊張感が高まったところでスピードを上げ、一気呵成(いっきかせい)に情報を伝える。プレゼンにおいて、ここ一番の情報を伝えるのに非常に効果的な手法です。
興味のある方はぜひ、ネットで検索を。チャップリンの巧みなトーンコントロールに、思わず引き込まれること請け合いです。
Ⅱ.重要情報を繰り返し語る
何度も言われれば、嫌でも頭に入る。多くの方にとって経験があると思いますが、プレゼンにおいても有効です。こちらも、スピーチの古典にそのメソッドは使用されています。
アメリカの公民権運動の指導者として知られるキング牧師。彼のあまりにも有名な「I have a dream(私には夢がある)」という言葉は、1963年の演説中、終盤に8回も繰り返されています。
最も伝えるべきポイントを幾度も繰り返すことがいかに重要かは、彼のスピーチが後生まで語り継がれていることを考えれば、言うまでもないでしょう。
まとめ
以上が、ストーリーテリングを用いるうえで必要な要素となります。世界を動かしてきた先人たちの、説得力の源泉が垣間見えたのではないでしょうか。
あらゆるビジネスシーンにおいて、相手に物事を伝え、理解してもらうには、ある程度の戦術が必要となります。今回紹介したストーリーテリングが、あなたの望む信頼関係を構築する一助となることを祈っています。
監修:リクナビネクストジャーナル編集部