【人生のある時期は、スピードダウンしていい】働き盛りの女性が知っておきたい心とカラダの話

 女性の雇用促進と少子化が取り沙汰されるものの、目の前の課題やそのニーズとはどうもギャップがありすぎて、他人事のように感じている人も少なくないのでは?

 経済協力開発機構(OECD)が2014年9月9日に発表した調査結果によると、大学卒業以上の女性(25~64歳)の就業率(2012年)は、日本が69%と平均の80%を大きく下回り、34カ国中31位と最低レベル。OECDは「日本では約6割の女性が第一子出産後に退職する」とその理由を指摘した。

 「ウーマノミクス」や「女性の活躍」という言葉がかもし出す輝かしいイメージと、現実が叩きだした数字とでは、どうやら大きな隔たりがあるようだ。

 こういった状況下において、「女性が活躍」する職場を目指すには、ライフイベントとキャリアプランをどう両立していくかを考えると同時に、健康面のケアが不可欠。医学博士であり、NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」理事の有馬牧子氏に、現代の働く女性が抱える問題と、その解決法について聞いた。

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すべての世代の女性が健康で美しく、健やかに生きていくために~有馬牧子氏

プロフィール:医学博士。東京医科歯科大学女性支援部助教。NPO女性の健康とメノポーズ協会理事。第7回更年期と加齢のヘルスケア学会学術奨励賞。国内外の医療制度や研究及び、各世代の女性が、家庭や仕事、地域において活躍するための健康支援、キャリア支援をライフワークとしている。学会・企業、自治体での講演や学会誌、雑誌の執筆も多数。

■適切な取捨選択をするには、適切な情報を得ること

 結婚適齢期の女性は、婦人科へ行きたいと思いながら受診したことがないというケースがまだ多い状況です。内診を受けるのをためらったり、あるいは女性医師だったらその抵抗は少ないかもしれませんが、女性医師がどこの医療機関にいるのか分からないといったことがその主な理由です。
 既婚女性の中には、なかなか妊娠しないため、初めて婦人科を受診したら、子宮内膜症や子宮筋腫などが見つかる方もいます。そこから病気を治療して妊娠・出産を目指すとなると、時間もかかりますし、何より心身への負担も大きい。ですので、女性の更年期から生涯にわたる健康づくりとQOL(生活の質)向上を目指して活動するNPO女性の健康とメノポーズ協会では、不調があったら気軽に相談できる婦人科医のパートナードクターを持つことを推奨し、一般女性に正しい心身の知識を身につけてもらうために「女性の健康検定」も行っています。適切な取捨選択をするには、適切な情報が必要なのです。

■20代・30代女性に多く、見過ごしがちな症状・病気

 20代・30代女性に多く、見過ごしがちな症状・病気としては以下の通り。心当たりのある症状がある人は、早めの婦人科受診をおすすめします。

1.月経前困難症(PMS)

 女性の4割が悩んでいるといわれている、月経前の心身の不調で、イライラ、怒りっぽい、下腹部痛、頭痛、眠気、むくみなど症状は人によって異なります。

2.月経困難症

 月経時に強い下腹部痛や腰痛などが起こり、日常の生活ができなくなるものをいいます。

3.月経不順

 一般的に正常な月経周期は25日~38日前後で、持続日数は3~7日と考えられていますが、月経周期と持続日数がこの範囲から外れることをいいます。

4.子宮内膜症

 20代~40代女性の約10%に見られ、子宮の内側を覆っている内膜とよく似た組織が、子宮内膜以外の場所にできて増殖していく病気です。月経痛や不妊、性交痛、排便痛などを伴うことがあります。

5.子宮筋腫

 婦人科の中でもっとも多く、成人女性の4人に1人がかかるといわれています。子宮の壁にできる良性の腫瘍で、悪性化することはまれです。大きさは米粒くらいのものから、人の頭ほどになるものまでさまざまです。無症状の人も多く、子宮がん検診や妊婦健診の際に偶然見つかるケースもあります。また、不妊や流産の原因になる場合もあります。

■働く女性の健康を害する要因

 働く女性が健康を害する要因はさまざまですが、その主な要因は3つ。「まだ若いから大丈夫」と続けている悪循環が、のちに思わぬ病気を引き起こす結果へとつながりかねません。今から改善できることはないか、順に検証していきましょう。

1.食生活の乱れ

 朝食を抜いたうえに、昼食を食べながらデスクに向かう。そして、休息も取らずに夜まで仕事を続ける…忙しいキャリア女性ほどやりがちな習慣です。すると疲労ばかりが溜まってしまい、栄養不足やエネルギー不足になってしまいます。若いうちは動けても、それをずっと続けていると、40代50代でしわ寄せがきます。コンビニ食を摂る際も、栄養バランスを考えるなどの日々の努力が必要です。

~意識して摂取したい栄養素とおすすめメニュー~

 女性は特に更年期以降に骨粗しょう症になりやすいため、若いうちから今後の人生に必要な骨量を確保することも大事です。それには、カルシウムを一日700mgを目安に摂りましょう。具体的には、牛乳1杯で110mg、豆腐半丁で180mg、プロセスチーズ2切れで440mgです。
(コンビニや居酒屋などでも比較的摂取しやすい)おすすめメニューとしては、枝豆、ゆで卵、豆入りのサラダ、チーズ、焼き魚、バンバンジー(ゆで鶏)などで、良質なたんぱく質が摂れます。また、おでんも一つひとつのタネのカロリーが低く、卵やちくわなどの練り物、豆腐からたんぱく質が摂れ、昆布からはミネラルやカリウムも摂取できます。
 同じご飯ものを摂るのであれば、チャーハンのように油で炒めているものよりも、納豆巻きや鉄火巻きなど、たんぱく質が入っているものを選び、脂質が少ないものを選ぶように心がけましょう。
 またスティックサラダや、海藻が入ったサラダ、わかめや昆布のおつまみ(カリウム、ミネラル)も、カロリーが低く食物繊維が摂れるので良いでしょう。

2.理想と現実のギャップに打ちのめされる(20代)

 特に20代に多いのが、理想と現実のギャップに打ちのめされるケースです。憧れの企業に入社できたものの、実際働いてみたらイメージと違い、結果として早々と退職。そういった人の中には、次の仕事が運よく見つかっても、また似たような場面でつまずいてしまうケースが少なくありません。目の前のハードルは飛ばないと、そのハードルを下げるか、また、そこで転ぶしかなくなるからです。そのストレスから長らく体調を崩す人があとを絶ちません。
 解決法として、つらいなと思ったら、まずは誰かに相談してみることです。近年、悩みをひとりで抱えてしまう人が増えていますが、信頼できる相手に悩みを打ち明けて、聞いてもらう時間は非常に有効です。インターネット掲示板やSNSは一時的な励ましはもらえても、抜本的な解決にはつながりがたい。そこで重要なのは、何もないときから、いざ相談したいと思ったときに頼れる相手を見つけておくこと。同僚や先輩、キャリアカウンセラーなど社内の人はもちろんですが、趣味のつながりや学生時代の仲間など、社外の人でもかまいません。また、精神的に辛いと感じたら、心療内科医や職場の産業医に相談することも視野に据えましょう。

3.選択しなければならないストレスに侵される(30代)

 一方で30代は、人生においても仕事においても選択の時期であり、さまざまなことを選択しなければならなくなります。ライフイベントをどうするのか。結婚するのか、しないのか。子供を産むのであれば時期はどうするのか。仕事と育児のバランスをどう取るか。
 責任あるポジションを任される時期でもあるので、仕事と家庭のどちらかを犠牲にしなくてはと思いがちですが、両方欲張りになってもよいのです。ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますが、どういうバランスでやっていくべきかも自分の選択次第と心得ましょう。家族や職場とのコミュニケーションを密に取りながら、理解者や協力者を増やしていくことが選択の幅を広げる大きな鍵となります。

■更年期を控えて、20代30代が気をつけるべきこと

 女性は、初経を迎える思春期、妊娠・出産を経験する性成熟期、閉経前後の更年期、そして閉経後の高齢期と、生涯にわたって女性ホルモンと深くかかわっています。月経、妊娠、出産など、女性特有の体の機能は、この女性ホルモンの影響を受けています。不規則な生活やストレスなどによってホルモンのバランスが崩れると、月経不順や無月経、不妊などのトラブルのきっかけになります。また、更年期に起こりやすい心身の不調も、ホルモンのバランスが崩れることが大きな要因となります。
 20代・30代は生涯にわたる健康の基礎を作る時期でもあります。カルシウムやミネラルなど、バランスに気を付けた食事を摂ることは将来の骨量維持につながります。閉経後に起きやすい骨粗しょう症を予防することは、この年代からの積み重ねなのです。若さを過信せず、適度に休んで心の栄養も補給することが大切です。

■母親との関わり方について

 最近、実の親と「女性としての生き方」について話せないという声も多くありますが、まず母娘間で価値観がこんなに違う世代も珍しいと割り切って向き合うことも一つの考え方と言えるでしょう。人口の構造は戦後69年の間に、劇的に変わっています。戦前の女性の生理の平均回数は、約50回と言われていますが、平均寿命や妊娠・出産の回数が減少した現在は、その9倍と言われています。それだけでも大きな差です。
 戦前は平均寿命も短いため、更年期の問題は特に取沙汰されることはありませんでした。多くの方が閉経を迎えるか迎えないかで亡くなられていたので、今の20代30代の娘を持つ母親世代の中には、自分の親から更年期についての知識を得られずにきている人も多数います。それと同様に、今の30代40代の女性は、「高齢出産」や「働きながらの育児」という部分では母親世代とは分かち合えない方も多いと思います。このように取り巻く環境が世代によって大きく違うため、実は自分の親世代も「母親と分かり合えない」と悶悶とした時期を過ごしてきているのですね。ですので、女性がライフイベントやキャリアプランを考える際は、母親以外にも相談者や理解者を見つけておくことも必要です。

■早い出産・遅い出産、それぞれのメリット

 妊娠・出産については、縁やタイミングもあるので一概には言えませんが、子供を持ちたいと思える相手がいて、子どもが欲しいと思うのならば、早めのほうがいいと思います。適齢期で産むことのメリットは、なによりも妊娠率が高まり、体への負担が軽いこと。あとは産後の快復力が高いことです。高齢になるほど妊娠・出産の際のさまざまなリスクとともに、帝王切開率も高くなるので、自分の体をリカバリーするのに時間がかかってしまいます。また第二子以降を産むことを考えられる期間が長いのもメリットでしょう。
 一方で、妊娠・出産が遅くなった場合のメリットもあります。一番は、若い妊婦さんに比べて、精神的に安定していること。また、ある程度キャリアを築いていれば、職場復帰後のポジションが確保しやすく、どのように育児と両立して働いて行くかが想定しやすくなります。あとは貯蓄。経済的に余裕があれば、育休も取りやすくなります。また、周りがすでに子どもを産んでいる人が多いので、洋服やベビーグッズなどをもらえたり、出産や育児にまつわるさまざまな情報を得られたりするメリットもあります。

■キャリア女性がライフイベントを迎える際の心構え

 いざ産休を取る、育休を取ると決めても、このまま自分の居場所がなくなってしまうのではと不安に駆られるケースがあります。長く仕事をしてきて、がんばってきた女性ほど、人に弱みを見せることができないものです。
 そんなときこそ「出産や育児などのライフイベントに応じて、人生のある時期は、スピードダウンしていい」と受け入れられるように心がけましょう。特にキャリア女性は「バリバリやっている自分が当たり前」「つわりのつらい時期だけ乗り切って、安定期に入ったらバリバリ働けるから大丈夫」「産後もすぐに復帰して現場に戻れる」と思いがちですが、実際に子どもが産まれてみると、多くの時間が思い通りにいかなくなるのです。子どもが熱を出したり、保育園の送り迎えで仕事をする時間が制限されたり、幼稚園や保育園の行事があったり。それが数年間は続きます。
 日本の労働総人口を考えても、女性の労働者を増やさないと企業も成り立たなくなる時代にもう突入しています。年功序列や終身雇用制度が崩壊した現代では、生きがいを職場と家庭の両方に見出している若者の割合が、女性だけではなく男性にも増えてきています。
 もし、比較的福利厚生が整っている企業で働いているなら、時差出勤や短時間勤務などの両立支援制度がどの程度整備され、実際に利用されているかを今一度調べてみる。育休などの制度が発展途上の会社にいるなら、なるべく理解者や協力者を得て、会社にとってもメリットとなる代案を提案するのもよいでしょう。育休制度等を利用した事例が増えていけば、会社にとっても、ライフイベントを経ても働きやすい会社というイメージがつきますし、自分の後進世代も続きやすくなります。自分が育休などを取得する「パイオニア」となることを怖れずに、人生や仕事の新たなステージへと突き進んでいただきたいですね。

取材・文・撮影 山葵夕子

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