失敗談こそ大いに話せ!日本初上陸の失敗自慢カンファレンス『FailCon』は定着するのか?

「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」とは、松下幸之助の言葉。

 とはいえ、現代の日本社会は、失敗に寛容ではなく、ゆえに新しいビジネスが育ちにくいと言われている。イノベーションを起こすべく、若手が勢いよく船出しても、たちまちコンプライアンスや古参の固定概念でがんじがらめになり、なかなか思い切ったかじ取りができないとはよく聞く話。

 そんな中、2009年にサンフランシスコで始まり、いまやアメリカ・フランス・オーストラリアなど、世界12都市で開催されている起業家の失敗談をテーマにしたカンファレンス『FailCon』が6月18日(水)、東京・代官山で行われた。日本での開催は初で、主催はスタートアップ企業の育成事業を担うOpen Lab Network社。

 起業家が失敗を大っぴらに話すこと自体が日本では珍しいが、“Pay it forward”(人から受けた恩恵をその人には返さず、次の人に与えること)を大事にするシリコンバレーでは習慣化している。というのも、苦労して成功した人たちが、創業したばかりの起業家を指導したり、エンジェル投資したりする文化が根づいているためだ。

 一度起業に失敗しても、再チャレンジする人が半数を超えると言われるシリコンバレーでは、故スティーブ・ジョブズ氏に代表されるように、失脚してから再び信頼や信用を勝ち得て、奇跡の復活を遂げた成功者が、その失敗とリカバリーのノウハウを伝授することは賞賛に値する行為と見なされている。

2度の経済危機とGoogle社との買収話が帳消しに

 この日、キーノートスピーカーとして登壇したのは、アメリカのシリアルアントレプレナーであり、「起業中毒」を自認するジェイ・アデルソン氏。2008年と2009年、タイム誌の“TOP 100 Most Influential People in the World”(世界で最も影響力のある100人)に選ばれた同氏も、2度の経済危機を迎えている。

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▲意思決定の難しさについて語るジェイ・アデルソン氏

 1998年に創立したデータセンター提供サービスのEquniex社は、わずか2年後の2000年に上場を果たし、東京を含めた世界中の都市にデータセンターを建設。

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▲「トップが氷の彫刻を作り出したら、その企業は危ない証拠」と絶頂期を振り返る

 ところが2001年、連邦準備制度理事会の利上げによってドットコムバブルがはじけ、アメリカ同時多発テロ事件が起こり、事態は急変。100人の従業員を一気にリストラするところまで追い込まれるが、周りの起業家たちが投資を控えていた時期に攻めの投資を続けていたことが実を結び、破綻寸前で難を逃れた。

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▲ドットコムバブルを示すグラフ

 2度目の失敗は、一世を風靡していたソーシャルニュースサイトDiggでの経験。2008年、メリッサ・メイヤー氏率いるGoogleから約160億円の買収オファーを受けたものの、振込予定日の前日にGoogle社が撤回。「大金持ちになれたかもしれない」と思っている従業員たちに、再び自分たちのために働いてくれと頼んだが、元には戻らなかった」と言及。

 そこにリーマン・ショックが追い打ちをかけ、Equniex社の教訓から攻めの投資を主張したものの決裂し、2010年にCEOを辞任。Googleとの買収話がなくなってから、わずか4年後の2012年、アデルソン氏なきDiggは、FacebookやTwitterが勢いづくなか、4000万円まで額を落とし、買収されることとなった。

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▲アデルソン氏の辞職を伝えるニュース

 この2つの大きな失敗から、「どう決断するのがベストかは、背景にも左右される。結局、答えは分からない」と同氏は振り返り、「とにかく立ち上がれ。倒れても立ち上がれ」と締めくくった。

大企業との付き合い方を知らず、会社の預金残高が4万円に…

 ジェイ・アデルソン氏の次に登壇したGoodpatch社の土屋尚史氏は、失敗談とともに「ふたりの恩人」について微笑ましいエピソードを披露。

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▲「急にスケールが小さい話になりますから。頭を切り替えてください」と土屋氏

 ひとり目は、起業6ヵ月で共同経営者が大手IT会社に転職して、3か月後にはつぶれるかもしれないというときに妻子がありながら入社を決めてくれたデザイナー。彼の入社で「このままつぶすことはできない」と気持ちを切り替えられたという。

 もうひとりは、会社の預金残高がたった4万円しかなくなったときに「君にできそうな案件があるんだけどやってみる?すぐお金を出します。売上は心配しなくていい」と声をかけてくれた大企業のフロア室長だ。

 同社の担当者に言われるがままスタッフを増強したものの、当時は大企業との仕事の仕方を知らず、そのため書面も交わしていなかった。予算の根回しがされていなかったのか、入金もないまま2か月が過ぎ、「この計画は、このままでは進みません」と言われる。とにかく少しでも可能性があるならと、それまで毎週通っていたのを毎日その企業に通い、パソコンを開いていたら救いの手を差し伸べてくれたのだという。「がむしゃらに行動すれば見ていてくれる人がいる」と振り返った。

 また、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのニュースアプリ「Gunosy」の初期のUIが酷く、そんなに儲かるとも思わずに、友だちのよしみでタダで手伝ったところ、1年もしないうちにTVCMをバンバン流すトップベンチャーに成長。

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 「タダで仕事をする代わりに、成功したらストックを割り当ててねと一筆書かせておけば…(冗談です)」と笑わせながら、最後はエイブラハム・リンカーンのスライドで締めくくった。

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▲アメリカの歴史上最も尊敬される大統領の人生も失敗だらけだった

全部自分の責任にしたところ、警察沙汰や訴訟まみれに

 後半はnanapiの古川健介氏が登壇。19歳の時に運営していた学生向け掲示板「ミルクカフェ」では、投稿している学生に責任を追わせるのが嫌で、全部自分の責任としたら、警察に呼ばれたり、訴訟を起こされたり、「すごい面白い」ことがたくさん起き、「次第に面倒くさいと思うようになった」と語った。

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▲ミルクカフェ時代のトラブルについて説明する古川氏

 その後、無料レンタル掲示板サービス「JBBS@したらば」を立ち上げるも、ユーザーにとっては「掲示板は自分のもの」になってしまい、広告などが貼れなくなる。結果、収益が上らず、2004年にlivedoorに買収された。

 現在運営しているノウハウ共有サイト「nanapi」とQ&Aアプリ「アンサー」は、答えを見つけてもらうことではなく、コミュニケーションしてもらうこと自体を目的にしている。

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▲OGMサービスの成功の秘訣は「ゴールを明確にしないこと」

「意味不明なことをやらないとCGMはうまくいかない」と自論を展開し、「ゴールを明確にすると途端につまらなくなるから、非言語的な機能によって意味不明にすると楽しくなる。初音ミクはいい音楽を作ることが目的なのではなく、初音ミクという手段を使って音楽を作ることが目的になっている。手段を目的化して、いかにおもしろいものを作るか。楽しいと感じてもらうか」と述べた。

 上記に挙げたように、果敢に失敗談を披露した起業家がいた一方で、日本初の開催で塩梅がいまひとつ掴めなかったのか、9人の登壇者の中には、失敗談というには若干「生ぬるい」と感じられる登壇者も。主催者は今回の開催をどのように見ているのだろう?Open Network Lab代表取締役社長兼デジタルガレージ上級執行役員グループCEO本部長の佐々木智也氏にFailConを主催するに至った経緯について伺った。

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▲オープニングとクロージングで登壇した佐々木氏

「昨年の11月、サンフランシスコでOpen Network Lab社の親会社であるデジタルガレージのオープンイベントを行った際、キーノート・スピーカーとして登壇したTwitter創業者のビズ・ストーン氏が『僕のこれまでの人生は失敗だらけ』とずっと話していました。それに共感したFailConのキャス・フィリップから「日本でもぜひ開催したい。協力してくれないか」と声がかかり、創業20年を迎えるデジタルガレージも失敗だらけなので、やろう、やろうと盛り上がったんです」

 元来、起業の道のりは「失敗」があることが当たり前であり、そのつまずきがあるからこそ成功への道が見えてくる。ところが日本で行われている起業家向けイベントではその肝心な「失敗談」が抜かれることが多い。佐々木氏いわく、シリコンバレーの起業家は失敗を恥ずかしがらず、「オレはこんな失敗をしたんだ。でも、こうして乗り越えたんだぜ」と日常的に話し合っているという。とはいえ、恥の観念が強い日本で、FailConは果たして定着するのだろうか?

「日本が100パーセント変われるとは思えないですけど、少なくともこういう文化があると若干知ることができたら、徐々に変わるのではと期待しています。大きな企業であれば社内で共有していると思いますが、スタートアップはなかなか吸収できないと思うので。横の連携でリカバリーのノウハウを共有しながら、スタートアップをどんどん支援していきます」と佐々木氏。

 ――失敗談を話せるのも、そこから教訓を得たうえで、再びチャレンジしている自分がいるから。今、あなたは、過去の失敗について大いに話せますか?

取材・文・撮影:山葵夕子

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