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【20代の不格好経験】会社設立3年目に資金ショートが発覚、「社長に物言えない組織」を反省~株式会社ファームノート代表取締役 小林晋也さん

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第19回:株式会社ファームノート代表取締役 小林晋也さん

ライフスタイルアクセント株式会社CEO 山田敏夫さんよりご紹介)

 

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(プロフィール)
北海道帯広市生まれ。機械部品の商社で営業を担当した後、2004年にCMSプラットフォーム「Movable Type」を専門とするシステムインテグレーター株式会社スカイアークを創業、代表取締役に就任(現任)。2013年11月にスマート農業ソリューションを提供するITベンチャー、株式会社ファームノートを立ち上げ、代表取締役に就任。

 

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▲酪農・畜産経営を効率化するクラウド型牛群管理システム「Farmnote」。スマートデバイスへのタッチ操作だけで牛の個体管理ができ、牧場経営の「見える化」が可能になると評判を集めている。このほど、牛の個体情報をリアルタイムで収集するセンサーデバイスを開発、管理データのリアルタイム化を実現している。


「来月末に700万円分の支払いがあるのに、手元に70万円しかない」

 2004年にCMSプラットフォーム「Movable Type」を展開するスカイアークという会社を立ち上げました。その後、2013年にクラウド型牛群管理システムを手掛けるファームノートを設立し、現在は2社の代表取締役を務めています。

 初めに立ち上げたスカイアークでは、さまざまな失敗やトラブルを経験しました。中には「もうだめか…」と倒産を覚悟するようなトラブルもありましたが、一つひとつ乗り越え、何とか今日まで来られました。それらの経験が糧となり、2社目のファームノートの立ち上げは比較的スムーズでしたね。すべてが一度経験したことですから。

 スカイアークで初めに「もうだめか…」と思ったのは、設立3年目の時。経理のすべてを任せていたスタッフがいたのですが、彼から突然「来月末に700万円分の支払いがあるのに、手元に70万円しかない」と打ち明けられたんです。それまで経営が危ないと思ったことは一度もなく、完全に寝耳に水でした。

 原因は、私があまりに経理に無頓着で、彼に任せきりになっていたこと。そして、会社の立ち上げ期だけに「自分が頑張らねば!」と走り続けていたため、知らず知らずのうちに「気軽に声を掛けづらい雰囲気」を出していたこと。…だからといって、直前まで資金が足りないことを黙っているのはどうかと思いましたが、泣いても笑っても、会社の寿命はあと1カ月。どうすればいいか冷静に考え、その直前にたまたま食事会で出会ったベンチャーキャピタルの方に連絡、何とか出資をいただけることになりました。

 このベンチャーキャピタルの方は、たまたま私と同じ帯広の出身。ぱっと顔が浮かびましたし、先方も突然の申し出にもかかわらず快く話を聞いてくれました。出資をいただいたのは、もちろん当社の事業を評価してくれた結果ではありますが、帯広出身でなければ話を聞いてくれたかどうか。

 この時の失敗経験から、「社長に自由に意見を言える環境を作らないとダメだ」「応援してもらえる要素があればあるほど、生き延びられる確率が上がる。“地元愛”が応援の要素になることもある」という学びを得ました。

「自分が一番できるから」と権限委譲をしてこなかった

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 しかし…振り返ってみれば、それから約10年間、ファームノートを立ち上げるまでは、学びを活かし切れていなかったように思います。

「社長に自由に意見を言える環境を」と言いながら、「自分がやるのが一番手っ取り早いし正確だ」と、周りに仕事を任せてきませんでした。もちろん、社員は大勢いましたが、完全に権限移譲することはありませんでしたね。自分よりできる人であれば任せたい気持ちはありましたが、そういう人を探す努力もしませんでしたし、既存の社員を自分よりできるぐらいに育てようという意識も低かったのです。

 そんなある日、ある畜産農家の経営課題に触れ、クラウドを使った牛群管理システムを手掛けるファームノートを立ち上げることになりました。「この新しいビジネスにかけよう!」という思いから、100%コミットしていたスカイアークの事業を社員に権限移譲したんです。すると…売り上げ、利益ともにぐんと上がったから驚きました。

 おそらく、私がずっと先頭に立って旗を振り続けていたから、社員はみんな私に意見を言いづらく、それぞれの力も発揮しづらかったのでしょう。「社長の影響力が強すぎる会社は、社長に意見を言いづらくなり、伸び悩む。社員に権限委譲し、任せる会社が伸びるのだ」と改めて実感させられました。

酪農家の「絶対に作ってほしい」とのニーズに触れ、クラウド型牛群管理システムの立ち上げを決意

 ファームノートを立ち上げたのは、スカイアークに酪農家から問い合わせが入ったのがきっかけ。詳しく話を伺っているうちに、飼育している牛一頭一頭を管理する苦労に触れたんです。

 例えば、牛舎を回っていて「この牛、ちょっと元気がないな」と思ったら、事務所まで戻って紙で管理した資料の中からその牛の体調変化や治療歴などを見なければならない、とのこと。これをクラウドシステムで管理すれば、スマートフォンやタブレットなどでその場で確認できますし、その牛のデータもどんどん蓄積される。酪農・畜産経営の生産効率が高まり、経営も安定すると想像できました。

 そこで、「この分野に特化した会社を立ち上げよう」と決意。まる1日かけて何千ページという関連資料を読み込み、クラウド型牛群管理システム「Farmnote」のベースとなる事業計画を練り上げました。そして、知り合いづてに3件の酪農家を紹介してもらい、事業計画を見てもらったんです。すると、3件すべてから「絶対にやるべきだ。やってほしい」との意見をもらえました。ユーザーが求めているならば絶対にやるべきだ、と改めて背中を押されました。

 会社の立ち上げは2回目。やり方は覚えていましたし、同じ轍は踏みませんでした。システムの仮説検証に必要となる、ある程度まとまった自己資金を用意し、その後第三者割当増資を実施する計画を立てました。結果、資金面でとん挫することはありませんでした。

システムの仮説検証の過程で「収益化が難しい」ことに気づき、方向転換

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 しかし、今までに経験したことのない壁に、新たにぶつかりました。仮説検証の過程で、「このソフトウェアだけでは利益は得られない」ことに気づいたのです。

 日本の酪農畜産市場は、約1.3兆円。この市場に特化したシステムを作っても、上げられる収益には限界があるとわかったからです。そして我々の前に何社か、同じシステムに挑戦したベンチャーがあったこともわかりました。でも、いずれも利益を確保できず、撤退を余儀なくされていたとのこと。「ユーザーが抱える課題を解消したい!」という思い先行で突き進んできたことを反省しました。

 ここで、農家が求めているものは何か、改めて熟考しました。「Farmnote」に対して農家が感じている最大のメリットは、一頭一頭の詳細なデータがクラウド上に蓄積されていくこと。そのデータを最大限活用する方法を考える中で、「データのリアルタイム性」の重要さに気づきました。

 牛にセンサーを付け、牛の情報をリアルタイムでつかむことができれば、スタッフが目で見て手入力するよりも、さらに詳細なデータが入手でき、いち早く「牛の変化の兆し」に気づくことが可能になります。

 センサーを付ければ、移動距離、採食、半数、睡眠などのデータがつかめます。例えば、病気になったらエサの摂取量が減り、移動距離も短くなるため、兆しをつかんですぐに治療を行うことで健康な牛を増やすことができます。逆に発情期に入ったら活動が活発化し、同じところをうろうろし始めるようになります。このタイミングで人工授精すれば、妊娠の確立が上がり、効率のいい繁殖が可能になります。

 国内では、約400万頭の牛が飼育されていると言われています。これらの牛一頭一頭にセンサーをつけることを考えれば、我々の収益可能性は一気に広がります。

 そこからすぐにセンサー開発に着手、約2年かけてこのほど完成させました。当初のファームノートの事業イメージとはだいぶ変わりましたが、酪農家のためになるものが作れましたし、ようやく収益ベースに乗せられるイメージもつきました。

 なお私は、この過程で何百という農家のもとを訪れ、現場を経験し、農家の経営状況を見ています。現場を知り、ユーザーである農家を知らなければ、本当に支持されるものは作れないと考えているからです。今では農家に「小林さんは私以上に牛のことを知っている」と言われるまでになりました。

 もちろん私一人の知識で終わらせず、得た知識はメンバー全員に共有し、権限委譲も進めています。社員のうち、半数以上は私と同じぐらい牛に精通しています。残りは社歴の浅い新人ですが、新人には1カ月間、現場を経験してもらい酪農家の課題や不満、不安を理解し、経営をコンサルテーションするという研修を実施。着実に知識量を増やしてもらっています。…この点においても、スカイアークでの学びを今に活かせているのではないかなと思っています。

将来は牛のみならず、「食全般」の生産効率向上に尽力したい

 今は牛に特化し、牛群のパフォーマンス最大化を目指していますが、将来は広く「農業全般」に目を向けていきたいと考えています。

 2050年に地球の総人口は90億人を超えると試算されていますが、そうなると1人当たりの農地面積は今より3割足りなくなると言われています。今は食料が潤沢にありますが、早晩食糧危機が訪れる。第一次産業において食の生産効率を高めることが、食糧危機の回避につながると考えており、その一助を我々が担いたいと考えています。

 まず2020年に国内の農業、つまり牛以外の豚舎や鶏舎、そして畑作等にも進出し、2030年にはグローバル展開において成果を上げたい。その頃には、需要と供給を測って余剰生産をなくすなど、別のアプローチからの効率アップにも挑戦したいと考えています。

自分にとっての「スーパーサイヤ人」を見つければ、手っ取り早く夢に近づける

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 自らに制約条件をつけてしまうと、人は行動できなくなります。

 せっかくやりたいことがあるのに、知識量や経験量を理由に自分に制約条件をつけ、「まだ知識が足りないから挑戦できない」「勉強する時間がないから挑戦できない」などと言い訳する人がいますが、そんなことを言っていたらいつまでたっても先には進めません。

 これらを簡単に解決する方法として、私は「スーパーサイヤ人理論」をお勧めしています。

「スーパーサイヤ人」とは、漫画『ドラゴンボール』に登場する戦闘民族「サイヤ人」が戦闘力を上げるために変身した形態のこと。主人公である孫悟空などがそれに当たりますが、「地球人であり、サイヤ人に比べれば戦闘能力が低い」キャラクターであるクリリンは、悟空と行動を共にすることで、地球人としてはあり得ない戦闘経験を積み、「世界で最も強い地球人」になりました。

 目指す分野において優れた経験を積んでいる人、すでに大きく成果を挙げている人など、自分より10倍すごい人、すなわち「自分にとってのスーパーサイヤ人」を見つけ、近づく努力をする。そして近くでその一挙手一投足を見て学び、助言を得ることで、知識量や経験量の制約を軽く飛び越えることができます。

 ファームノートの株主には、スーパーサイヤ人ばかりに入っていただき、悩み事はすぐに相談しています。いよいよ行き詰まってどうしようもないときでも、すぐに「仙豆」(センズ:『ドラゴンボール』に登場する奇跡の豆)をくれる。会社を上場に導いた経験者もいて、私の悩みは皆さんどれも経験してきたものばかりなので、アドバイスが実に明快なんですね。「なるほど!」と一気に視界が晴れるんです。

 同じレベル、もしくは同じレベル以下の人とばかりつるんでいては、成長はありません。目標がある、やりたいことがあるならば、常に自分より10倍すごい人とぜひ出会う努力をしてほしいですね。

 スーパーサイヤ人に「仙豆」をもらえるぐらい近しい存在になるには、素直に教えを乞い、次回会うまでにそれを実践して報告すること。できたこと、できなかったことを分析して次への課題を洗い出すことも大切。努力が見えれば、人は応援したくなるものです。新しい助言をさらに実行していく過程で、どんどん自分を磨き上げていくことができるでしょう。いつの間にか、知識量や経験量の制約がなくなっているはずですよ。

 

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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