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リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

地方移住に必要なものは?伊豆の地域活性化伝道師・飯倉清太のアンサー

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地元企業が100%出資で伊豆にオープンし、経営支援・住居スペース付きのオフィス提供で話題を呼んだ「ドットツリープロジェクト」。
今回は、プロジェクトデザインを担当したNPOサプライズ代表であり、地域活性化伝道師でもある飯倉清太さんにインタビュー。地方創生の声が高まるいま、地方移住・UIターン成功のために飯倉さんが求めることを伺いました。

<飯倉清太(いいくら きよた)プロフィール>
1970生。24歳で現在の伊豆市天城へ移住し、ジェラート店を経営。2008年、地域のごみ問題に対する疑問をブログに書いたことをきっかけに「NPOサプライズ」を設立し、代表を務める。2013年より内閣官房地域活性化伝道師に就任。静岡県伊豆市修善寺において地元企業の古藤田グループに協力しコンセプト賃貸物件「ドットツリー修善寺」のプロジェクトデザインを担当。

【解説】地域活性化伝道師:地域活性化に向け意欲的な取組を行う地域に対し、内閣府が地域興しのスペシャリストを「地域活性化伝道師」として認定し紹介・派遣している。2016年4月時点で全国で350名が登録されている。(参考:内閣府地方創生推進事務局

地域活性化のため、「ごみ拾い」から「何者」になれるか証明したかった

——飯倉さんが、地方創生に取り組んだきっかけは?

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私はもともと観光地でごみ拾いをしており、その活動を通して行政機関との関わりが増えていきました。そんな頃、伊豆市が市内の高校生に「将来、伊豆市に住みたいですか?」というアンケートをとったんです。すると6割以上が「NO」という回答を叩きつけてきた。「娯楽がないから」「仕事がないから」など理由は様々だったのですが、そのとき彼らが将来伊豆市に住もうと思う以前に、そもそも地域との接点がないのではと気づきました。そこで、彼らと交流する「伊豆市若者交流施設9izu(クイズ)」という施設ができ、高校生と一緒に清掃活動をしながら、地域活性化のためには何が必要かを学んでいったんです。

こうして現場で学んだ知識や経験を積み上げていったとき、地元の古藤田グループ・古藤田博澄代表取締役社長からオファーがあり、協力させて頂くカタチで出来上がったのが「ドットツリー修善寺」です。

【解説】ドットツリー修善寺:12棟の2LDKメゾネット住宅と小規模オフィスが建ち並ぶ、コンセプト賃貸物件。「地方創生」と「移住定住」を促進するために「住む」と「働く」をセットにした発想から生まれた「ドットツリープロジェクト」により2016年3月にオープン。行政の補助金に頼らない、民間出資100%のプロジェクトとして注目を集めている。

 

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△伊豆市修善寺に造られた「ドットツリー修善寺」。12戸の募集に対し33件もの応募があった。

——「ドットツリープロジェクト」は、高校生へのロールモデルとして立ち上がったのですね。

私は「四方良し」をモットーにしているのですが、これは近江商人の「三方良し」に加えて「未来良し」という言葉をつけているんです。目指すべき未来を設定し、そこから現在を設計していくという考え方です。プロジェクトチームで伊豆を拠点に挑戦することで「伊豆、まだいけるじゃん」という可能性を若者に示したかった部分はあります。

ただ企画段階では、チーム内でも、「ここでこんなプロジェクトを立ち上げても、12戸も誰が借りるんだ。埋まるはずがない」という意見がありました。そこで私たちは不特定多数に情報を流すのではなく、“特定少数”へ向けたアプローチをしたんです。東京の会社に通勤する人ではなく、すでに自分の仕事を持っている人がスタートアップをする場所として「ドットツリープロジェクト」を位置づけ、ターゲットをどんどん絞っていきました。

ドットツリー修善寺は、「出会い、外へ発信する」ための拠点

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——「ドットツリープロジェクト」では、どんなコミュニティーが作られているのですか?

最初は、古藤田オーナーと「シリコンバレーのようになったらいいね」と話していました。例えばWebの会社が集まってプロフェッショナル集団になれば、世界に打って出ることができるなと。しかしプロジェクトの途中で、「地域商社」という考え方に変わっていきました。

例えばWebの会社が3つ入居したとします。色々なつながりで仕事がドットツリー修善寺に来たとして、今回はA社、次はB社、その次は……と毎回変えるのはすごく手間ですし問題が起きかねない。そこでオーナーと相談して入居は一業種一社のみと決め、それぞれが活かし合える商社的な考え方に移行していったんです。
そして現在はカメラマンやデザイナー、フランチャイザー、観光プロモーションの会社など、幅広い業種が集まっています。

また、カフェなどの飲食業は今回は募集対象としませんでした。理由としてはロケーション的に集客が難しいこと。そして私も経験があるから分かるのですが飲食の場合は結構短いスパンで売上を見ていく傾向があります。それよりも、あくまで自分の時間軸で仕事ができるような人たちに来てもらった方が良いなと。そういう人が集まると、ゆったりした伊豆の時間を演出できると思ったんです。

敷地内にはそれぞれ独立したオフィスがあるのですが、夏などは皆さん外で仕事をしていますね。外には芝生を敷き、イスと机も用意してあるため、外に出たくなる雰囲気があるのだと思います。すると自然と入居者同士での会話が生まれますし、気づいたらバーベキューが始まっていることもあります。

——「ドットツリープロジェクト」入居者へ求めることは何ですか?

最終的にはオーナーが面接し入居を決定するのですが、まずは「利他」ができる人、そして他の入居者をビジネスの対象にしない人に入居いただいています。
テイク(take)ではなくギブ(give)から仕事を始める人ではないとメンバー入りするのは難しいと考えています。「ドットツリープロジェクト」のメンバーになっても自分のスキルやマーケットを抱えたまま、他の人には共有しない人は発展性がないですよね。そうではなく、自分のリソースを与え合う人たちが集まったほうが発展性は高い。ギブ(give)から仕事を始める人とは、協力関係を結べる相手、ということです。

また「他の入居者をビジネスの対象にしない」という点も同様です。この中で仕事をするのではなく、入居者同士がスキルを活かしてタッグを組んだり、私たちが培ってきた仕事をさらに外へ発信してくれる人でないと、「ドットツリープロジェクト」をやる意味が無くなってしまうんです。

そのため業種はバラバラですが、例えば観光プロモーションの企画が立ち上がったとき、プロのカメラマンが撮影し、デザイナーがポスターを作り、それを外部へ発信する。こうして“12戸のユニット”として「働く」コミュニティーを形成しています。「ドットツリープロジェクト」はパズルや魚の群れのように、みんながいるからこそ大きくなり、そして仕事が生まれていくというサイクルができていると思います。

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△ドットツリー修善寺の入居者は多様。伊豆にあるお遍路「伊豆八十八ヶ所霊場」をプロモートしている伊豆霊場振興会の遠藤貴光さん(左)もその1人。

将来、働く人びとが持つ「移動する権利」を後押し

——地方移住に関する今後の課題や、展望はありますか?

私もまずは1年間自分自身が「自分事」としてドットツリー修善寺に住んでみようと考えているため、日々さまざまな課題点や知見は溜まりつつあります。また、時おり不動産会社の方が「ドットツリープロジェクト」から発想を得てリノベーションの話などを提案してくださるのですが、問題はそこへ「仕事」が付いてこないことです。

私はこれから、「移動する権利」を持つ時代になると予想しています。
地方都市で医療施設や商業施設を街の中心部に集める「コンパクトシティ」が理想として掲げられていますが、実現が難しいのは持ち家があるなどの理由で移動ができないから。これまで賃貸物件はコストのロスがあるのではないかと言われてきましたが、「家賃(コスト)を広告宣伝費として換算する」を体現したのが「ドットツリープロジェクト」なんです。ただ住むだけではコストがかかりますが、そこに仕事が回る仕組みがあれば賃貸物件はコストではなくなると考えたんです。

ですから将来的に「ドットツリープロジェクト」のモデルケースを、ほかの地方都市にもっていくことも大いに考えられます。ただ管理する立場から、12戸という数は少し多かった印象があるので、その点は検討が必要だと思います。

——移住を前提にしているということは、「ずっと『ドットツリープロジェクト』に住んで欲しい」というわけでは無いのですね。

はい。不定期ですが「ドットツリー修善寺」では、入居者と金融機関とのビジネスマッチングをしています。
ここで仕事をするには手狭になったので出て行こうと考えたとき、資金や物件など必要なものはたくさんありますよね。そこで、あらかじめ銀行関係者と顔見知りになっておくことは非常に重要です。次のステップへ進むときタイムラグが生じないよう、「いまこういうビジネスをしていて、将来はこうしたいんです」と日頃から話せる機会を設けています。

入居者は意識が高い方ばかりなので、地域活性についても考えてくださっているのですが、基本的には私やオーナーが担当すべき部分かなと考えていました。ここに来た方には地域との交流も大事ですが、まずはここでビジネスが成功するかどうかを試して欲しい、「ドットツリー修善寺に入って売上が上がった」という声を聞きたい、そんな想いです。

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私はもともと24歳で仕事のために伊豆市へ引っ越してきて、当時は地域を活性化する時間も気持ちも実のところありませんでした。地方移住で考えるべきは、やはり仕事が成立するか否かです。仕事が成立しなければ、いくら地域の人と仲良くなっても暮らして行けないんです。だから、なによりもまず「仕事」という考えが自分の中にはありました。その経験をプロジェクトチームと共有することで「まずはオフィス」という考え方から始まり、そこへ住居をつけようという基本的なカタチを作り上げました。

地方でビジネスを成立させると大きなインパクトを与えますし、それにより競争が生まれて地域が活性化することもあります。地方に住むメリットは確かに存在します。
私の仕事は、そのときに移住者や多くの方々を「つなぐ」役割だと思っています。

WRITING・伊藤七ゑ PHOTO:鈴木健介