読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

「お金が回る仕組みが、市場をスケールさせる」 “ヒットのノウハウ”を蓄積した編集者社長が考える、ピースオブケイクの次なる一手

コンテンツ配信サイト「cakes(ケイクス)」と、クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス「note(ノート)」で知られる株式会社ピースオブケイク。無料のサービスが圧倒的な割合をしめるIT業界において、「note」も「cakes」も、「課金制」の仕組みを取っている点でユニークだ。

 

代表を務めるのは、過去に『もしドラ(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら)』などの超ヒット作を担当された編集者・加藤貞顕さん。コンテンツマーケティング全盛の現在において、“ヒットのノウハウ”を蓄積した彼が目指す課金制サービスの未来と、ピースオブケイクの新たな一手とは――

 

f:id:careerca:20151005140532j:plain

加藤貞顕さん/株式会社ピースオブケイク 代表取締役社長

1973年新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト「cakes(ケイクス)」をリリース。2014年、クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス「note(ノート)」をリリース。

 

ヒットさせるにためには「受け手の数と、価値の届け方」を考える

f:id:careerca:20151005140608j:plain

「子どものころからずっと本が好きだったんです。あと、コンピューターも小学生のころからすごく好きでした。大学卒業のとき、まだ働きたくないなと思い大学院へ進学しました(笑)。その後、仕事中に本を読めて、コンピューターに関わる仕事がしたいと思い、コンピューター誌の編集者を目指したんです」

 

大阪大学の大学院で経済学を学んだのち、アスキー(現アスキー・メディアワークス)に編集者として就職した加藤さんは、その特殊なキャリアのスタートについて笑いながら話す。しかし、就職先ではITの隆盛発達によって訪れた雑誌不況の波を第一線で味わうことになったと言う。

 

「2000年にアスキーに入社して、コンピューター雑誌の編集者になったんですけど、同時期にGoogle日本語版がサービスリリースされて、そこから情報は雑誌を買うよりも検索した方が早くなっていきました。ニュース、アダルト、コンピュータ情報誌を皮切りに、デジタル化の流れが進み、出版市場が小さくなっていきました。僕はその時、書籍編集の面白さに目覚めていて。雑誌よりも書籍の方が自分で企画したものを形にできる自由度が高いので、書籍編集者としての道を考えていました」

 

2005年、コンピューター情報に限らずさまざまな分野の書籍を担当するため、ダイヤモンド社に転職。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」などのヒット作を生み出した加藤さんは、ヒットのノウハウを身につけた数少ない編集者となった。果たしてヒット作に対する目利きは、どのように行っているのだろうか。

 

「2004年に『電車男』が話題になって、それぐらいの時期からネット経由でコンテンツを見つけて本を作るという流れが生まれてくるんですけど、僕も以前からそういうことをやっていたんです。アスキー時代に出した『英語耳』もそうですし、ネットで出会った人と仕事をすることは、当時から比較的多かったと思います。

 

『もしドラ』の著者である岩崎夏海さんとの出会いもそう。当時ブログで『もしドラ』のあらすじのようなものを書いていて、それがとてもバズっていたので連絡をしました。

 

とはいえ、最初は僕自身もドラッカーとか難しそうで、たくさんの人に興味をもってもらえるか自信がなかったんです。でも中身を知っていくと『ああ、これは実はみんなに必要なものなんだな』ということがわかった。じゃあみんなの買えるような作り方で、読みやすく作ろうという方向性を決めて、『これ、書籍にしませんか』と提案しました」

 

ヒットのにおいがするものを、いかに多くの人に届けられるかも編集者の腕の見せどころだ。ヒットする作品の企画の組み立て方について、加藤さんは「どれだけ届けたい相手のことを深く考えるか」と「受け手がどういう伝え方をされると1番うれしいのか」をポイントに挙げる。

 

「ネットを介して知り合う作家は、作風や書ける内容がある程度わかっているので、それをどうやって世の中に広げていけるかを考え、作者に提案します。

 

面白いコンテンツや情報は世の中にいっぱいありますが、それらがヒットするかどうかは、受け手がたくさんいるかそして受け手にきちんと届くように作れているかが大事です。

 

たとえば、さっき企画の打ち合わせをしていて、『20代30代の若者向けにキャリア論の書籍を作ろう』っていう話をしていました。これはターゲットとなる人がいっぱいいて、しかも内容もかなり面白いんです。しかし、これらをそのまままとめても、たぶん売れないと思います。

 

だから今日の打ち合わせでは、『20代30代の人は、今どういう状態なんだろう』『貯金はしてるのか』『将来どうなりたいのか』などといったことを話し合いました。ターゲットとなる人たちがどんな暮らしをしていて、どんなものを欲しているのかをとにかくよく考えるしかないんですよね」

 

新たな企画が浮かぶと“届けたい相手”のことを徹底的に考え、実際にヒアリングをして回ることもあると言う。

 

「『もしドラ』だって、『ドラッカーをわかりやすくする』っていうやり方はもちろんよかったんですけど、ターゲットとなる人たちに伝わる切り口や言い方がなにか考えました。 表紙は文字だけがいいのか、それともイラストがあった方がいいのか、イラストにするならどんなテイストがいいのかとか、いろんな方法、構成があったわけです。タイトルだってほかにもあり得たし。それらを決定する指標として、受け手がどういう伝え方をされると1番うれしいのかということを考える必要があると思っています。」

 

「『少年ジャンプ』は無料では作れない」

f:id:careerca:20151005140725j:plain

「編集者の仕事というのは本を作ることが1つで、もう1つは売ることなんです。今一番やるべきことは、市場が広がっている場所、つまりネットですよね、そういう広がっている場所で売れるようにするのが重要ですよね。だから僕は編集者の仕事の延長で、デジタルでコンテンツを売る仕組みを作る会社をやっているんです。売るための仕組みがなければ、そこから作るべきだと思いました。」

 

2011年、加藤さんはダイヤモンド社から独立してピースオブケイクを立ち上げる。それまで出版業界に身を置いた加藤さんが挑戦するビジネスは、「課金制」によるマネタイズとコミュニティ形成がキーとなるサービスだった。

 

「たとえば『少年ジャンプ』だって、無料だったらあのクオリティを維持できない。広告だけでなく読者からもお金をもらって売上を立てているからこそ、作家さんにしっかりと原稿料を払ってあれだけのクオリティのコンテンツを生み出し続けているんです。出版業界はそうやって成長してきました。だから僕たちは、デジタルになってもバナー広告やネイティブアドだけには頼らず、新しいビジネスモデルを作ってモノを売ることにこだわっています。

 

デジタルでコンテンツビジネスができる仕組みを作るうえで、課金の仕組みは必要不可欠です。課金をするんだったらどういうやり方があるのかを考え、将来的にはいろいろな課金モデルが複合された状態になるだろうと考えているんですが、1番汎用的な課金の仕組みになりうる『継続課金』からやるべきだろうと思いました。また、クリエイターが見られた量に応じてお金がもらえる仕組みが、未来の標準になるんじゃないかという仮説があって『cakes』はその仕組みで運用しています。

 

実際に『cakes』でも、人気作家は雑誌に連載するのと同等以上の原稿料を稼げるようになってきています。こういった例が増えてくることで、『cakes』はよりクリエイティブなメディアになっていくと考えています。

 

あとは、課金によって生まれるコミュニティというのがあるんです。たとえば『note』では『くるり』などのプロミュージシャンが継続課金のファンクラブを運営しているんですが、そういうコミュニティはそのアーティストが好きな人だけが集まるから、とても平和な空間になります。わざわざお金を払ってネガティブな発言はしたくないし、ある程度価値観を共有している所って、とても快適な場所になるんです」

 

「面白くなければ、見られない」コンテンツマーケティングの行く末

f:id:careerca:20151005140745j:plain

書籍の編集を通して長年コンテンツマーケティングに携わってきた加藤さんは、コンテンツとアドの関連性と、その行く末についてはシンプルな考えを持つ。

 

「コンテンツとアドの境目っていうのがそもそも相当難しくて、そもそも雑誌なんか、ほとんどネイティブアドですから。それでも読者は喜んで買っていて、それを読むことを楽しんでいますよね。

 

『もしドラ』だって、見方によってはドラッカーの『マネジメント』のネイティブアドです。あの本が出たことで、『マネジメント』が100万部を超えたんですよ。それまでは10年かけて10万部だったのに(笑)。それがきっかけというわけではないですが、最近になってそういう本がすごく増えましたよね、『おもしろい記事だな』と思ったら何かの宣伝だったというパターン。それは全然良いことだと思います。

 

逆に言うと、これからは面白くないものは露骨に読まれなくなっていくのだと思います。昔は本は、面白くなくて、ただ役に立てば売れたんです。なぜかと言うと、コンテンツの物量が少なかったからで、本というのは出版するのにお金がかかるから、そんなにたくさん出版できませんし、コンテンツの増え方はwebに比べれば緩やかだったんです。簡単に作れないという状況があったために、役に立つ情報が載っていれば売れた時代がありました。

 

そこから競争が激しくなった結果、面白くて、かつ役に立つ内容でないと売れなくなりました。ネットは最初からタダみたいなものなので熾烈な競争下にありますし、面白くないものは読まれないですよね。飛びぬけて面白い記事か、役に立って、かつ面白い記事でないと見てもらえない。そういう時代がきていると思います」

 

「仕組みを作ることが、市場を作る」 ピースオブケイクの次の一手

f:id:careerca:20151005140802j:plain

「cakes」は、編集されたコンテンツを集合的に見せて、コンテンツが好きな人達のコミュニティを形成し、そこでまたコンテンツを作ったり、プロモーションしていく場所。「note」はそれらを個人単位で展開できる場所。集合的にやるか、個人でやるかという点で見せ方は違うが、「デジタルにおいてメディアビジネスの仕組みを作ること」という会社のミッションに沿ったサービスだ。そしてすでに「cakes」、「note」に続く次の一手を考えていると言う。

 

「これまでのサービスは、マネタイズするための仕組み部分は自社で運用するかたちで作っていました。次は、『メディアビジネスをやりたい』という人たちに向けて、マネタイズの仕組みをパーツ化して提供していきたいと考えています。

 

マネタイズできる仕組みがなければ、市場はできない。ソーシャルゲームも『初音ミク』も、そこに売上を立てる仕組みがあったからこそ、市場ができたんだと思います。自分たちでコンテンツやサービスを作って売っていきたいという想いもありますが、それだけが目的ではない。僕らが一番やりたいことは、『世の中にメディアビジネスをできる環境を作る』ことです。それを通じて世界をもっと面白くできたらいいですね」

 

文:カツセマサヒコ 撮影:安井信介