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「私は昔、腐ってました」FOVE CEO小島由香が気づいた 100%頑張る重要性

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世界初の視線追跡型ヴァーチャルリアリティヘッドマウントディスプレイ「FOVE」をご存知だろうか。

仮想空間を見るための、ただのヘッドマウントディスプレイではない。FOVEでは、眼球の動きによって、仮想空間を自由に操作することができるのだ。

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例えば、現れた宇宙船を視線で狙うだけで、ビームを発して撃ち落とすことができる。あるいは、仮想空間に生きるキャラクターに視線を合わせることで、キャラクターと目を合わせながら、かつてないほどリアルなコミュニケーションをとることができる。

テクノロジーの応用によって、手足の不自由な人がピアノを弾いたり、ロボットを操作したりするなど、可能性は無限大だ。


そんな夢のあるプロダクトを生み出した株式会社FOVEのCEO、小島 由香氏とは、いったいどんな人物なのだろうか。小島氏へのインタビューから、小さなころから追い続ける夢と、望んだ仕事ができず腐り続けた過去があったことが見えてきた。

 

根底にあるのは、“物語”に関わりたいという思い

- 小島さんは、ゲーム会社でゲームプロデューサーとして働いた経験をを経てFOVEを起業されていますが、もともとゲームがお好きだったのですか?

はい。父がゲーム好きで、小さいころからゲームはよくやっていました。ただ、「マリオ」とか「がんばれゴエモン」みたいなアクションゲームばかりやっていて。小学3年生のときに初めて「ドラゴンクエストⅢ」でRPGをやって、のめり込みました。自分でそのキャラクターになりきって世界を冒険できる感覚がすごく面白くて。

映画や小説は一方的に情報を与えられますが、ゲームはいくつかある設定から自分で情報を補完しながら、物語を一緒に作り上げていけるところが魅力的ですよね。それから大学2年生くらいまでは、暇さえあればゲーム、という生活をしていました。

 

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- では、就職もゲーム業界に行こうと、最初から決めていたのですか?

いえ、ゲームも好きだったんですけど、漫画も好きだったので、いつか漫画家になりたいと思っていました。大学に入ってからは担当編集者さんがついたりもしたんですよ。でも結局デビューまでは至らず、就職して仕事以外の時間に漫画を描く道を選びました。

就職活動で重きを置いていたのは、やはり“物語”に関わることですね。 ゲーム会社はもちろん、コンテンツ制作会社や家裁調査官も受けました。

家裁調査官は毛色が違うと思われるかもしれませんが、根底にある思いは同じです。家裁調査官の仕事は、家庭裁判所で取扱うありとあらゆる家庭内のもめごとの事実関係を調査したり、心のケアを行う心理職です。家裁はまさにリアルな“物語”が集まる場所で、すごく興味があったんですよ。

結果的には「自分一人の力では作れない、大きな物語を作れる会社」ということで、ゲーム会社に就職しました。

 

腐って、腐って、目の前にあることに100%で取り組まなかった過去

- ゲーム会社に就職して、「大きな物語をつくる」という夢に大きく近づけたのではないかと思うのですが。

そうですね。あのまま着実に実績を積み重ねていれば、ゲームディレクターになることはできたのかもしれません。

ただ、私が目指していたゲームディレクターは、映画監督に近い職業。ゲームは年々開発費が高騰していて、「AAA(トリプルエー)」にランク付けされる一流タイトルは、ハリウッド映画と同じくらいの予算が動きます。それゆえ、絶対に負けられない戦いを若造には任せてもらえない。ゲームディレクターは、あまたの競争相手に勝ちながら、10年・20年と実績を重ねて、そのときにポジションが空いていたらなれるという、非常に狭き門の職業なんです。

私には、その年月が待てなかった。

- ゲームディレクターになる道をあきらめるという選択は、今思えば正解でしたか?

うーん…どうでしょう。私、昔は“腐ってた”んですよ。その当時やっていた仕事の延長線上に、やりたい仕事があるとわかっていても、実際の仕事はスケジュール調整や社内外の調整ばかりで。「これでいいのかな」と悶々としてしまって…。目の前のことに100%力を出せなくなっていたんですよね。

今となっては、「それでも目の前にあることを100%やるべきだった」と思っています。あのころの自分に、そう言ってやりたい。

- それはなぜでしょう?

自分が経営者になってわかったのですが、マネジメントする立場の人間は「必ずしも望んだポジションじゃなくても100%頑張ってくれる人に、チャンスをあげたいと思う」ということです。絶対にやりたくない仕事だったら転職すべきだと思いますが、少しでも自分の将来やりたいことと方向性がかぶっているのであれば、それを全力でやってみてもよかったのかなって。そこを越えた先に広がるチャンスもあっただろうと、今は思います。

 

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- 起業に対する意識は、以前からあったのですか?

いえ、2社目のGREEに入ってからですね。そのころになってやっと、「どの会社でも自分のやりたいことを完全にやれることはないんだ」という、当たり前のことに気がついて。「やりたいことをやるためには、信頼の貯金を積むしかない」と。そこからがむしゃらにやって、それなりに結果も残しました。

そのまま働き続けてもよかったんですけど、GREEで起業家精神旺盛な仲間に囲まれて、起業していく先輩を何人も見ているうちに、「私にもできるな」と思うようになりました。

プロトタイプを作るのは、大変じゃない

- いつからFOVEのプロダクトを作ろうと考えていたのですか?

2013年の夏ごろのことだったと思いますが、カメラ機能を備えた新型ゲーム機を使った企画のコンペがありました。そこでカメラの機能をどう活かそうかと思考錯誤していたときに、視線追跡型ヴァーチャルリアリティヘッドマウントディスプレイのアイディアを思いつきました。

それまではユーザーからゲームの世界を見ることしかできなかったんですけど、カメラが付いたことによって“ゲームの世界から私たちがいる世界を見ることができるのではないか?“と気付きました。

- FOVEでは、なぜ視線追跡の技術に着目されたのでしょうか?

「目は心の鏡」という諺があるように、視線というのは、私たちのコミュニケーションにおいて、感情と密接に結びついた重要なものなんですよね。

これまでゲームの世界では、「Yes or No」といった選択肢で意思表示するのが常識でしたが、私たちのコミュニケーションは、もっと曖昧なもの。それをどうやってヴァーチャルの世界に持って行こうかと考えた時に、目が重要だと考えたんです。

- なるほど。しかし小島さんはいわゆる技術者ではないと思うのですが、どうやってFOVEを作り上げていったのですか?

うちの場合、オーストラリア人のCTOがいるので、すぐにできちゃいました。

これは声を大にして言いたいのですが、プロダクトのプロトタイプ(試作機)を作るのって、全然大変じゃないんです。私も昔は「大企業で作っているようなハードウェアを個人で作れるわけないじゃん!」という感じで、はなからできるわけがないと思っていたのですが、海外ではプロトタイピングの文化が当たり前にあって、「欲しいものがあれば作ってみる」というのが、当たり前なんですよね。

 

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オーストラリアではHacker’s Spaceという、エンジニアたちのコミュニティスペースがあって、みんなそこに集まって教え合いながら、切削機や3Dプリンタなどを使って、普通にプロトタイプを作っています。

Google Glassのプロトタイプが段ボールでできていたように、FOVEも某ヘッドマウントディスプレイを改造して、基盤もむき出しのまま無理やりカメラをつけて作りました。

 

“やりすぎでしょ”と思うくらいの選択肢を選んできた

- 起業家というと、スティーブ・ジョブズや孫正義のような、飛び抜けた才能を持った人物を想像します。小島さんは、ご自分にどのような才能があると思いますか?

私は孫さんのような天才肌ではありません。ビジネススキルがずば抜けているわけでもありませんし、企業にいれば役員間違いなし!というエリートタイプでもありませんでした。

ただ、私の才能があるとすれば「決めるときに決める“思い切りの良さ”」でしょうか。「失敗するんだったら、早く失敗したい」と思っているので、判断を誤って失敗する恐怖はあまりないんです。どうなるかわからないなかで悩んで躊躇していたら、すぐに自分が古くなってしまいますから。

だから、自分が“こわい”とか“大胆だな”と思う選択肢を、あえて選択するようにしています。何でも“やりすぎでしょ”と思うくらいのことを意図的にやっていこうと。

スタートアップの経営者じゃなくても、特に若いうちは守りに入るのは、逆にリスクだと思います。やりすぎて失敗して失うものって、「あいつまた張り切りすぎてんな」と思われて、ちょっと恥ずかしいくらいですから。

 

原動力は「思い切りの良さと、あきらめの悪さ」

- 小島さんを夢へと近づける原動力とは何でしょうか?

私が大好きな漫画『シャーマンキング』の一節に、「誰もが大人になると、頭上にせまっている自分の限界とも言うべき天井に気がつく」といった言葉があります。みんな20代後半に差し掛かると、しだいに自分で限界を決めて、あきらめる癖がついてくるんですよね。でも幸いなことに、私は人よりもあきらめが悪かった。そこであきらめられないくらい、負けず嫌いで、野心家だったんです。

“いつか自分ですごい物語を作れるに違いない”って。あきらめられなかったんです。

そのために、会社に勤めていたときは、家に帰ってから漫画を描いて、プログラミングを勉強して、英語も勉強して…。でも、それらすべてを全力でやるなんて、無理なんですよ。結局、何ひとつものにならなくて、腐ってしまいました。

「いつか自分は何かできたはずなのに」と後悔しないためには、どんな場面においても、“何かひとつのことにコミットする思い切り”が大切だと、今は思います。

目の前のたったひとつのことに100%コミットすれば、自分でも自分のやったことに納得がいく。もし失敗して違う道に進むときも、「自分の夢にフルコミットしてきました」という人の方が、魅力的じゃないですか。

私の原動力は、「思い切りの良さと、あきらめの悪さ」。このふたつだと思いますね。

 

<プロフィール>

小島由香
FOVE 代表取締役 / 共同創業者
目の動きで仮想世界を自在に操作する、世界初の視線追跡型VR用ヘッドセット「FOVE」を開発中。ソニー・コンピュータエンタテインメントのゲームプロデューサーとして、プレイステーション3、PSP、プレイステーションVita、Move向けゲームの制作リードを務める。物語の未来はゲームの双方向性にあると信じ、視線追跡と顔認識技術を最大限利用した仮想世界での非言語コミュニケーションを提唱。FOVEはそのビジョンと高い専門性を世に送り出す最初の製品となる。5月より実施されたKickStarterキャンペーンで48万ドル強を集め、6月にはサムスン・ベンチャーズからの資金調達を実施するなど製品化への動きを加速している。