【孤独のグルメ第5弾開始!】深夜を襲う「夜食テロ」を生み出し続けるドラマ制作スタッフのこだわりとは

松重豊氏扮する雑貨商の井之頭五郎が、仕事で訪れたさまざまな街で一人もくもくと食事をする――そんな風景が淡々と描かれるドラマ『孤独のグルメ』。久住昌之氏原作、谷口ジロー氏画の、同名の漫画をドラマ化したものだ。

2012年1月に第1回が放映されるやいなや、深夜にもかかわらず「五郎さんの食べっぷりが素晴らしい」「旨そうなものばかりで深夜に見るのは酷すぎる!」などとネットで話題になり、「夜食テロ」と言われるまでに。その後シリーズ化され、この10月2日(金)からはいよいよSeason5が放映される。新シリーズが予告された日はSNSが「夜食テロ再び」と湧いたほどだ。

放映に先駆け、同番組のプロデューサー吉見健士さんに『孤独のグルメ』が支持され続けている理由を聞いた。

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株式会社共同テレビジョン プロデューサー
吉見健士さん

原作の世界観を愛し、10年間「ドラマ化したい」と訴え続ける

 吉見さんは、出版社勤務からTV局の広報に転じ、その後プロデューサーになったという異色の経歴の持ち主。しかも、プロデューサーとしての専門分野はバラエティー。ドラマを手掛けたのは、この『孤独のグルメ』が初めてだった。

「原作者の久住昌之さんの大ファンで、もちろん『孤独のグルメ』も大好き。五郎さんが知らない街で、その時の気分に合った飲食店を自分の勘を頼りに探し出して、門構えに少し躊躇しつつも飛び込んでみる。そして迷いに迷って注文し、もくもくと、しかし美味しそうに食べる…。言ってみれば“ただ食べるだけ”の漫画なのですが、この世界観がたまらない。この世界を映像作品にしたいと、10年ほど前から言い続けてきたんです」

 初めは、自身が得意とする情報番組やバラエティーでの映像化を考えたが、世界観を表せるイメージが湧かない。五郎の心の声を前面に押し出せる「モノローグ(独白)で構成されるドラマ」で表現すべきだと思い、TV局の人に会うたびに原作本を見せて「これをドラマ化しませんか?」と訴えたという。「もちろん、当時の本業はバラエティーだったので、合間合間にでしたが、心の中に常に『孤独のグルメ』がありました」

 誰が観るのか、そのようなドラマに30分枠は取れない…など、なかなかOKがもらえずにいたが、やはり言い続けるものである。テレビ東京の編成から「深夜の枠が30分空くから、やってみるか」と声が掛かったのだ。

世界観を活かすためには、ドラマ性は極力排除し、シンプルに伝えたい。だからこそ、主人公を演じていただく俳優さんは、“画力”(えぢから)の強い人が絶対条件でした。『商談を終えて、食べるだけ』なので、役者に絶対的存在感がないと成り立たないんです。そんなとき、TVドラマや映画で松重さんを見て、この人だ!と確信しました」

8,568通り、あなたはどのタイプ?

スタッフが足で情報を集め、店の雰囲気と味を体感して「これぞ!という1店」を決める

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 久住氏は、吉見さんの情熱を理解し、松重さんのキャスティングにも共感してくれた。唯一出された条件は、「漫画に出した店ではなく、自分たちで新しい店を探す」こと。しかし、これが予想を上回る難しさだったという。

「今もそうですが、作品の世界観に合う店をスタッフ全員で探してリストアップし、1店につき2人以上が別々に食べに行って全員がここだ!と思えてから、初めて取材交渉をします。でも、ほとんどが小さな定食屋やレストラン。『このお店の、ここが素晴らしいと思った』と、われわれの思いを真摯に伝え、頭を下げますが、『常連さんに迷惑をかけたくないから』などと断られることが多くて、打率は意外に低いんです。でも、絶対に無理強いはしません。孤独のグルメの世界観を理解し、われわれの思いを受け止めてくれたお店にご登場いただいています。今までに約50のお店を紹介しましたが、1件もトラブルが起きていないのが唯一の自慢です」

 ドラマ制作に当たって、過度な演出をせず、普段のお店の雰囲気を忠実に再現しているのもトラブルがない理由の一つだろう。リサーチの段階で、お店の人の動き方やお客さんとの何気ないやり取りを密かにメモに取り、脚本に活かしているのだという。「あからさまにメモを取ると不審がられるので、お店の紙ナプキンなどにこっそりと」という努力が、ドラマの臨場感につながっている。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

放映中「うまそう!」「深夜に卑怯」「テロだ!」などネット書き込みが異常に伸びる

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 このような、ドラマにかける熱い情熱と原作愛、1店1店へのリスペクトを持って作られた『孤独のグルメ』。当初は「自分の好きな作品を1回でも番組にできたら幸せ」と思っていたが、初回の放映後、すぐにネットがざわつき始めた。

 手応えを感じたのは、全12話の中盤に当たる第8話。

「深夜といえど、少しでも数字につなげる必要があるし、あわよくば続編も作りたいという思いもあったので、中盤にキラーコンテンツである“焼肉”を持ってこようと決めていました。リサーチにリサーチを重ねて、ようやくこれぞという1店を見つけて頼み込み、五郎さんに一人焼肉をしてもらったんです」

 その回が放映開始されるやいなや、Twitterやネットの掲示板に「うまそ~!!」「深夜にこれは卑怯」などの感想が連発。深夜にもかかわらず、食欲を刺激された視聴者による投稿がものすごい勢いで伸びるさまを見て、吉見さんは初めて本格的な手応えを得たという。

最新シリーズではいよいよ海外へ!海外でも店選びの姿勢は変わらず

「1回限りでもいい」と思っていたものが反響を呼び、シーズンを追うごとに視聴率が上昇。いよいよSeason5に突入しようとしている。

 なんと今シーズンでは、初の海外出張も予定されている。「海外であっても、国内と同じリサーチ手順を踏んでいる」と言い、ガイドブックには載っていないディープなお店の登場が期待できそうだ。

 当初は、深夜の放映だけに20~40代の男性がメインターゲットと思われたが、「主演の松重さんは、よく女性や子ども、年配の方にも『五郎さん』と声をかけられる」ほど、今や老若男女に愛される番組になった。ここまで愛される理由は、どこにあるのだろうか?

「われわれスタッフが皆、今の人気に甘えることなく、常に緊張感を持って臨んでいるからではないでしょうか。制作チームはSeason1から全く変わっておらず、『孤独のグルメ』の世界を知り尽くしたスタッフばかり。リサーチャーは絶対に使わず、自分たちの足で情報を集め、店の雰囲気や味を体験して、これ以上ないという1店を探し当てることに情熱を燃やしています。作品の世界観を映像で実現するために、いつも1話のために全力投球。その思いが視聴者の方々に伝わり、ご支持いただいているならば、こんなに嬉しいことはありません」

 新しいシーズンでは、どんなお店が登場し、どんな「夜食テロ」が勃発するのだろうか。吉見さん始めスタッフの情熱を思いながら観ると、また新しい楽しみ方ができそうだ。

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ドラマ24『孤独のグルメ Season5』
10月2日(金)より、毎週金曜深夜0時12分より放送。
放映局はテレビ東京・テレビ北海道・テレビ愛知・テレビ大阪・テレビせとうち・TVQ九州放送。※テレビ大阪のみ、翌週月曜 夜11時58分 (10月5日スタート)

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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