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リクナビNEXTジャーナル

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「日本の高等教育は世界のライバルに後れを取りつつある」世界的権威が語る

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 世界水準の大学とは何か?国際化と質保障の課題とは?

 東洋大学は2月13日、「『スーパーグローバル大学創生支援』採択記念シンポジウム」を開催。国内外の識者による基調講演やパネルディスカッションが行われた。
「スーパーグローバル大学創生支援」は、文部科学省が、大学の国際競争力の向上を目的に海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進め、けん引していくグローバル大学に重点していく支援制度であり、世界のリーダーとなりうる人材の育成を目的としている。東洋大学は、2014年10月に「スーパーグローバル大学創生支援タイプB」を採択した。

 同シンポジウムでは、元ボストンカレッジ国際高等教育センター所長のPhilip G. Altbach氏が登壇。各国における高等教育関連の競争資金審査員などを歴任し、高等教育政策や大学のリーダーシップに関する研究の世界的権威である同氏は、日本の高等教育について「本当の意味でのグローバル化がまだ起きていない」と語った。

 真のグローバル化に向けて、日本の大学が今後解決していくべき課題とは?以下、同氏の記念講演より抜粋。

 

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ボストン・カレッジ教授 Philip G. Altbach氏

シカゴ大学で博士号を取得後、ウィスコンシン大学マディソン校、ニューヨーク州立大学バッファロー校、ハーバード大学で教壇をとり、1995年から2013年まで、ボストンカレッジ国際高等教育センター所長。2004年から2006年までフルブライト新世紀奨学金プログラムの名誉リーダーに指名されたほか、カーネギー財団のシニア・アソシエート、高等教育の主要学術誌の編集責任者を務める。ドイツ、日本、アフリカ諸国の研究機関に特別招へい研究員として招かれているほか、各国における高等教育関連の競争資金審査員などえを歴任。世界の大学が競争環境下において質保証、国際化の取り組みをすすめている状況、グローバル化が大学に与える影響などを分析し、高等教育政策や大学のリーダーシップに関する研究を推進している。

 

■日本の教育の良い面・悪い面

 日本の大学の教育水準は、世界クラスではありますが、世界トップとはいえません。さらにいうなら、昨今は世界のライバルたちに少しずつ道を譲り、後れを取りつつあります。
 十分な速さで改善が行われてこなかったことと、グローバル社会で通用しうる本当の意味での競争文化を育んでこなかったことが要因です。では、グローバル環境における日本の高等教育はどのような特色が。少し振り返ってみましょう。

まずは日本の良い面から。

≪日本の高等教育の良い面≫
1.日本の私立大学は世界でも稀に見る高水準

 日本は私立大学の水準が非常に高い国です。日本はこれまで、とても建設的に、私立大学の効率化に取り組み、他国とは違う学術システムを確立してきました。日本は世界でも数少ない有能な研究所を所有する私立大学を保持している国なのです。そのレベルはおそらく、アメリカを除いてはトップクラスといえるでしょう。他国の私立が利益追求型で、あまり質の良い教育を届けていない傾向にあるなか、日本の私立はさまざまな市場ニーズに応える努力を続けてきました。ですので、世界が日本の私立大学から学べることはたくさんあります。


2.人口減少の研究分野において唯一無二の存在

 日本は、ヨーロッパ同様、人口減少が進んでいる国であり、その問題の研究に関してはまちがいなく世界トップです。というのも、日本はこうした問題を学び、取り組むことを同時進行で進めていかなければならない必然性と緊急性があるからです。このままいくと日本は世界で初めて人口減少の問題に取り組む国になるかもしれません。ぜひ、日本の経験を世界に発信していただきたいと思います。

次に日本の悪い面です。

≪日本の高等教育の悪い面≫
1.グローバルな高等教育の方針がいまだ定まっていない

 グローバル時代において、高等教育をどのように変革していくのか。最もリスクが低く、破壊的ではないかたちを取るには何が必要なのか。21世紀初頭に浮かびあがってきたそのような問題に対し、十分な議論がなされてきたとは言えません。
 中国、韓国、香港など、アジアのライバルたちは、グローバル教育分野において劇的な成長を遂げており、もはや日本がアジアのリーダーであり続けることは難しくなっています。国際的なアプローチや国際的なアドバイスを重視するという風潮が、そういった地域の大学ではすでに根づいています。一方、日本はどうでしょう。日本の高等教育は本当の意味での国際化がまだ起きていません。それが大きな足かせとなっているのです。

2.トップ校以外の中堅大学がミッションを見失っている

 どのように研究費を確保し、継続的に有能な卒業生を輩出していくか。それが特に中堅大学において大きな課題となっています。
 世界のナレッジ経済を保持するためには十分な予算が必要ですが、世界的にも政府の高等教育向け費用が減額されているのが現状です。それにより研究首班の大学が道を失いつつある。日本も例外ではなく、一部のトップ校以外の中堅大学は経済難によって、自分たちのミッションを見失いつつあります。

3.政府の規制・集中化によりイノベーションが停滞気味

 経済基盤と高等教育の質を同時に保っていくのがなぜ難しいか。これは日本だけではなく、韓国でも同じことがいえますが、長い間、中央政府のコントロールが効きすぎて、政府の声が大きすぎるという点があげられます。もちろん、その風習にはメリットもあると思いますが、政府の規制と集中化によって、かなりの部分のイノベーションが滞っています。そこにメスを入れ、グローバル基準の知識経済で物事を判断し、より新しい考えができるように変えていく必要があるでしょう。複雑な現実について知ろうとし、多国籍企業や多国籍機関で働けるような、国際的競争力を持った人材を育てていく。国内環境だけで機能する人材を育てればいいというわけではありません。大学の世界ランキングをどう見るかという問題については賛否両論ありますが、そこから垣間見れる高等教育のグローバル化には、政策策定の変革も欠かせません。

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■グローバルな競争力をつけるには

 では、日本の大学がグローバルな競争力をつけるには何が必要なのでしょう。私は次のように考えています。

1.学生の流動性をあげる

 近年、日本は、海外への留学生も、また海外からの留学生も減少傾向にあります。これをどうしたら回復できるのか。日本にくる留学生を、どのように歓迎し、日本で勉強してもらうか。大学は多額な費用を費やして、留学生を受け入れており、いわば(国交や外交を支える)彼らは大学における貴重な資産です。その問題を解決するには、大学だけではなく、国として彼らにどのような勉強をしてもらうのかを真剣に考えなければなりません。現在、日本に来ている留学生は、その多くがアジアからの留学生であり、北米や欧州からの留学生は数が少ない。その点も課題です。今すぐに長期の留学生を多数集めるのは難しいでしょう。しかし、短期留学をした場合、一部の学位認定に単位を使ってもらえるようにすることは可能だと思います。


2.教職員のグローバル化をはかる

 大学のグローバル化を考えるなら、教職員のグローバル化も必然的に考えなければなりません。世界のトップ校から人種や国籍の壁なく、有能な教員を招へいする。有能な外国人の教員を採用するにはどうすればいいか。どうすればその力を最大限に発揮してもらえるのか。生徒たちの国際交流や留学を考えた際、すでにそれを経験している外国人の教授にどのように活躍してもらうかという方針があいまいで、結果的に日本は、外国人の教職員に良い給与を払っている割には、大学運営において大きな役割を任せずにきています。大学全体のグローバル化や、グローバルな人材の輩出は、もはや不可避であるにも関わらず、日本の大学は外国人の教職員という資産を有効活用できていません。
 高等教育において外国人の教職員が半数を占めるサウジアラビアなどと比べると、確かに日本は、自国の教職員の質は高く人材も豊富であるといえますが、一方でその教職員たちの国際化に早急に取り組む必要があるでしょう。それは日本で長い間、高等教育の課題とされてきました。
 その点、アメリカは(外国人教職員の活用の仕組みにおいて)アドバンテージがありました。なぜなら、もともと、アメリカは多文化社会で移民文化が根づいていて、他の国から来た人を自国の文化に受け入れることに長けているからです。少なくとも高等教育において、アメリカ生まれであるかどうかで差別はしてません。そうやって世界各国からトップレベルの教職員を次々と招き入れて高水準を保っています。
 トップレベルの教職員がいなければ、トップレベルの高等教育は実現しません。外国人教授の受け入れについて、いろいろ議論もあるでしょうが、私は外国人の学部長や行政担当を選ぶべきだといっているわけではありません、少なくとも学術面においても、クリエイティブな学術的キャリア形成においても、競争と協力の両方が必要なはずです。資格があるからこそ昇進する、というシステムや、競争力のある給料が必要です。
 日本の高等教育における教職員の給与体制は、世界的に見ても比較的よいほうですが、どのように給与が提供されるかという点において競争が起こっていない。いまだ徐々にあがっていくという体系を保持したままです。しかし、給与と昇進をじかに生産性に結び付けてほしいと感じている教職員もいることを考えなければなりません。

3.高水準な私立の優位性を有効活用する

 私立の高等教育分野において、日本とアメリカでは状況が違います。日本の高等教育においては、私学に通う生徒と国公立に通う生徒の割合は五分五分でした。しかし、アメリカでは、8割が国公立に通い、2割が私立に通っています。現在、グローバル視点で世界の教育を見るなら、私立のほうが成長過程にあるといえます。これまで大多数のリサーチ大学が国公立でしたが、現在は私学のほうが流動的です。特に動いているのがラテンアメリカ。ラテンアメリカは、30年前はほぼ国公立に通う生徒ばかりでしたが、今はキューバ以外は私立に通う生徒の割合のほうが多いのです。私立は、その成り立ちが市場のニーズをくんだものが多く、よって競争社会においては学生が増加しやすいともいえます。そういった意味で、世界レベルの私立のリサーチ大学がある日本は、アドバンテージがあり、世界は日本の教育の歴史から学べることがたくさんあると思います。そして、日本でも「自分たちが世界に教えられることは何なのか」と自身で問いかけることは可能でしょう。


4.遠隔教育を有効活用する

 世界には遠隔教育の研究に取り組んでいるエキスパートが大勢います。遠隔教育は、高等教育の新しい有り方であり、やり方です。海外の授業を受け入れると同時に、日本の授業を海外へどう発信するか。遠隔教育をグローバルにどう展開していくのか。UCLAなどの例にならい、日本においても研究を深めていく必要があります。

5.英語力をつける

 これも常に論争となるトピックです。今、私は英語で話していますが、ざっと見渡しても、この会場で同時通訳用のイヤホンつけている方はいません。英語で直接聞いて、理解されている方が多いようにお見受けします。しかし、これが日本語だったらどうでしょう。もしも私が日本以外の国へ行き、日本語でスピーチしても、誰も聞いてはくれません。
 英語がグローバルな言語として使われ、英語圏以外でも使われている。この英語の役割はとても重要であり、世界の共通語として使われていることは注目すべき課題なのです。例えば中国では、中国人の学生向けに、中国の教育を英語で提供することがすでに行われています。(英語を勉強するのではなく)英語“で”勉強することに生徒たちは関心が高まっています。
 自国の言葉より英語での論文発表を推奨する風潮については世界的に物議があり、議論があるのも事実ですが、グローバルイングリッシュをどのように使っていくかを考える際は、より戦略的な観点に立つことが必要といえるでしょう。

 

取材・文 山葵夕子