【わるなら、ハイサワー♪】タモリさんも絶賛!博水社・田中秀子社長の“大人・楽しい”脇役道(後編)

「わるなら、ハイサワー」のテレビCMソングでおなじみの割材『ハイサワー』。1980年に発売された「ハイサワー レモン」以外にも、「ハイサワー グレープフルーツ」「ハイサワー 青りんご」「ハイサワーハイッピー」などさまざまな商品が売られている。これらの割材はお酒と割って飲む目的で作られているため、そもそもお酒ではなく、甘さも控えめ。お酒とハイサワーを混ぜる量を調整でき、アルコール度は濃くも薄くも変えられて便利だ。最近ではお酒が弱いひとが増え、宴会の席などで「場の雰囲気を壊したくない」と、見た目がお酒のように見えるハイサワーだけを単独で飲んだり、この飲み方で休肝日を楽しむ人も増えているとか。まさに大人の飲み物だ。

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▲博水社3代目社長、田中秀子氏

「『こういう飲み方しかしないで』と言ってしまえば、その時点で新たな飲み方や味との出会いが損なわれてしまう。あえて枠を作らず、“大人・楽しく”、『これで割ってみたらどう?』と何でも寄り添えるのがハイサワーの魅力」と同社社長の田中秀子氏は語る。前編に続き、後編では、田中社長のボランティア活動、『タモリ倶楽部』出演秘話、脇役的な生き方のススメについて伺った。

■仕事のためじゃない人脈が先にあることの意義

 私は幸運なことに、仕事と直接関係のない気心知れている人とのつながりがたくさんあって、その人たちが与えてくれるさりげないアイディアやアドバイス、激励の言葉が、自分の人生や仕事のヒントとなることが非常に多いんです。

 父から社長を引き継がれる際に、たった一言、言われた言葉が「3倍だと覚えておきなさい」でした。意味がよく分からず、「売り上げなのか、会社の規模なのか、社員の数なのか、商品の数なのか、何が3倍なの」と聞き返したら、「社員ひとりあたり、家族は大体3人くらいいるから、そこまでがあんたの守備範囲。社員の人数に3をかけたところまでの、皆の生活を守ることがあんたの社長業としてのやることだ」と言われました。以来、会社やその家族を守ることは私の責務だと思っています。

 その一方で、個人として、十数年前に保健所から来た犬を飼いはじめて以来、保健所の犬猫たちに新しい家族(里親)を探す活動のボランティアスタッフもしています。日本では年間20万匹もの捨てられた犬猫たちが殺処分されていて、その現状や彼らの気持ちを伝えたくて、自ら作詞した歌『まだ間に合うから』と『ありがとう』を6年前から歌っています。人間って、自分に利益がないものだとしても、人生で何かしらひとつくらい、がんばってもいいのではないかなと思うんです。「ハイサワーの宣伝のために、犬猫を利用している」なんて見方をする人もたまにいるんですが、そうじゃない。ハイサワー屋をやっていなくても、犬猫の活動はやっていたと思います。

 ただ、そうやって仕事とはまったく関係のないところで犬猫の活動に携わっている中で、自然と素敵な人たちとの出会いにつながることもあります。私の歌がエンディングテーマに使われている映画『ノー・ヴォイス』が八丈島映画祭に出展された際に、八丈島を初めて訪れたのですが、犬猫つながりで仲良くなった酒屋さんや居酒屋さんたちの店で飲んだ島焼酎がすごくおいしくて、一緒に飲んだり食べたりしているうちに、店に割材のハイサワーを八丈島の焼酎と一緒に置いてくれるようになりました。

 仕事の時だけの人脈もビジネスにはあって当然でしょうが、そうではない、温かく、気心の知れた人脈が先にあることはありがたいです。

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▲八丈島の麦焼酎『情け嶋』とハイサワーレモンを合わせて

■タモリ倶楽部に敬意を表した美尻ポスター誕生秘話

 うちのオフィスは狭いので、みんなが集まれるところが倉庫くらいしかなく、いつしか倉庫がワイワイと宴会をやる場になっていました。そしたら、タモリ倶楽部のスタッフさんが、その噂を聞きつけて、タモリさん、眞鍋かをりさん、井筒監督、ダカルカナルタカさんが収録でいらっしゃったんです。30分番組なんですが、収録が10時から16時までかかってしまい、もう終わる頃には、私もタモリさんもベロンベロン、居酒屋で知り合った同士のようになっていました(笑)。すると、ディレクターさんが「田中社長、花道を作りました!一曲、披露してください」というから振り返ったら、ダンボールの山に隙間が作られ、「ここから登場してください」って言うんですよ。もう笑っちゃいました。

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▲タモリさんお気に入りの「ウメ輩ボール」(ウイスキーのハイサワーうめ割り)

 番組の中でお酒4種類を各々ハイサワーで割ったのですが、タモリさんが特に気に入ってくださったのが、ウィスキーのハイサワーうめ割り。あと、泡盛とハイサワーレモンの組み合わせもやりました。これがさっぱりしていて、おいしく、タモリさんも「うめぇなあ」とコメントしてくださいました。そしたら放映後、「沖縄のイオン全店にハイサワーを置きたいから、見積もりください」と、なんと沖縄から電話がかかってきたんです。沖縄といっても、うちは社員数20人程度の企業で支店なんてありませんし、それどころか、憧れつつも行ったことさえありませんでした。その沖縄に泡盛のハイサワー割りという文化が、ストンと入ったんですよ。びっくり、そして感謝です。

 タモリ倶楽部がなければ、こんなに多くの人たちにハイサワーを知ってもらうことなんてできなかったから本当にありがたいと思って、「タモリ倶楽部に敬意を表するならもうお尻しかないよね」と美尻ポスターを作製することにしたんです。タモリ倶楽部ってビキニ姿の女の子がオープニングでぷりんぷりんってお尻を振って踊っていて、すごくかわいいじゃないですか。なので、海辺の女子のかっこいい後姿の美尻にロゴをハイサワーと入れたポスターを作り、タモリさんと一緒に命名したウイスキーのハイサワーうめ割りの「ウメ輩サワー」メニューも入れました。このハイサワーの「ハイ」は、私の父親が「俺が作ったサワー」という意味で付けた名前で、「我輩」がルーツです。でき上がったあと、タモリさんの事務所に献上しに伺ったのですが、大変喜んで頂きました。今では地元の居酒屋さんでは、目黒発祥だということで「目黒輩ボール」っていうメニュー名でも親しんでもらえてる。

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▲3日で盗まれる伝説の初代美尻ポスター

 当然ポスターなので、お店に差し上げて貼っていただいていたのですけど、それがすごく人気で、大体3日目には盗まれてしまう。居酒屋のママから「店の外に貼っていたら、盗まれたからもう一枚ちょうだい」なんていわれると、そんなに人気なら、じゃあ、カレンダーはどう?と盛り上がり、ついにカレンダーにもなりました(笑)。おかげさまで今ではグラスやマドラー、コースターなどさまざまな美尻グッズを製作・販売しています。

 「お酒を割るって楽しい」の延長で美尻グラスでハイサワーを飲むのも楽しいです(笑)。美尻シリーズは、ハイサワーのパンパンな炭酸を表現したくて、どのお尻もパンパン。元気で明るく、のびのびとした雰囲気を出すために、あえて女性だけのチームで作成しています。キャッキャッと言いながら、尻モデルさんの体型にうっとりしながら、ビキニを選んだりするのがとても楽しい。女子の憧れがたっぷり詰まったカレンダーです。「みんなちがって、みんないい」を表現するために、ホクロもシワも腰周りのタプッとした感じも、あえてそのまま。画像加工はしていません。

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▲“炭酸パンパン”を表現した美尻カレンダー2015

■ハイサワー的な生き方のススメ

 お酒そのものの業界は大手市場。巨大な焼酎メーカーさんとか、ビールメーカーさんとか、その中でわずか20人ばかりの社員を抱える博水社は渡っていかなければなりません。大手さんが黒船だとしたら、博水社はうちの近所にある池上公園の池に浮かんでいるスワンのボート。そんなレベルです。

 でも、そんな中でもやっていけているのは、脇役商品だからだと自負しています。主役はあくまで焼酎であり、ビールであり、ウイスキーやリキュール。ハイサワーは割材。「主役のお酒をおいしくするよ。わたしはでしゃばらないよ」みたいなところでずっとやっているから、残れているのだと思います。ブームのワインだって、ハイサワーと割ると超おいしい!

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▲超おいしい!白ワイン×ハイサワーレモン

 生き残る秘訣は、しゃしゃり出ずに、何にでも寄り添う精神(笑)。実際、いろいろなお酒を自分好みにいろいろなハイサワーで割る。これって本当にワクワクです。だって、マイオリジナルが作れるから。

 今、日本では年間約300品種もの缶チューハイの新種が出ていて、大手さんがさまざまなブームの仕掛けをしています。また、酒税の引き上げ等、国が仕掛けてくる場合もあります。そんな自分ひとりの力では到底太刀打ちできないような流れの中で、主役に踊り出ようなんて気が、さらさらないのがハイサワー。自分がどんと主役のお酒そのものになろうなんて、夢にも思うわけもなく…。「どうぞ、何だったらおいしく割らせていただきます」というスタンスです。

 だから、ハイサワーを使って作ったドリンクに全く別の名前がついても、お客さんが本当においしく飲んでくれれば、カウンターの後ろの脇役でかまいません。お店によっては、割材のハイサワーやハイッピーが、一切お客さんの目には触れない場合も多々あります。「本当においしかったね。友達と久しぶりに会えて、飲めて楽しかったね」と言ってもらえるとうれしい。「大人・楽しい」空間のお手伝い商品。それが脇役である割材としての正しい立ち位置であり、醍醐味です。

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▲オトナのメロンソーダ、青りんごハイサワー×焼酎×バニラアイス

 人間も一緒かもしれませんね。亡くなった母が生前よく言っていました。「砂でもお米でもいいから、すくってみ。すくえる量よりも欲張り過ぎたら、どうせこぼれる。人間も同じ。自分の身の丈を越えて何かをしようとすると、結果的にうまくいかないよ。自分の身の丈をわきまえなさい」と。本当にその通りだな、と最近しみじみ感じるんですよ。

 自分が主役なんかじゃない、完璧なんかじゃないってことをしっかりと自覚していれば、人に対して優しくなれるかもだし、物事に対してもゆったりと構えられるじゃないですか。主役じゃないけど脇役でしっかりと役割を果たす。誰かに寄り添い、引き立てることで、誰かを活かしてあげられる。脇役には脇役の、割材には割材の役割があるのかなぁ?そんな“ハイサワー的な生き方”も、素敵だと思います。

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▲愛され続けて34年

【関連リンク】

【わるなら、ハイサワー♪】タモリさんも絶賛!博水社・田中秀子社長の“大人・楽しい”脇役道(前編)

取材・文・撮影:山葵夕子

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