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リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

【水で発電できる電池】東日本大震災の教訓を活かした、紙製容器の非常用電池「マグボックス」誕生秘話

12月中旬に古河電池から発売される、海水や水を入れるだけで発電できると話題になった非常用マグネシウム空気電池「マグボックス」。東日本大震災の教訓を踏まえて古河電池と凸版印刷で開発され、世界初の紙製容器でできている。
この「マグボックス」が生まれた背景には、東北大学未来科学技術共同センターの小濱泰昭教授と進めてきたソーラーカーや電気自動車などの研究開発にもヒントがあったのだという。古河電池で経営戦略企画室(兼 新事業推進室)の企画部長を務める熊谷枝折さんに、その誕生秘話をインタビューした。

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古河電池株式会社 経営戦略企画室 兼 新事業推進室 熊谷 枝折(くまがい・しおり)さん
1975年に古河電池に入社。横浜市・いわき市・日光市などの工場の生産システム構築を担当する。1989年からは東北電力との電気自動車や新エネルギーの共同開発などを担当。東北支店長や新規事業推進も兼務で行ってきた。2011年からは経営企画室で全社の企画部長として活躍。国内外のソーラーカー・電気自動車の大会委員や、JAF委員なども務めている。

東日本大震災の実体験が開発に拍車をかけた

東日本大震災が起きた2011年3月11日、私は宮城県仙台市にある火力発電所に点検に行っていました。電気・水道・ガス・通信などのインフラが破壊され、携帯電話やスマートフォンで情報収集したくても、電池切れで使えなくなってしまう。情報不足で大津波警報を知ることもなく、津波で命を落とされた方も多かったと聞きます。私の部下2名も5日間連絡が途絶え、津波で家が流れてしまいました。

さらには病院からは透析装置の電池が動かないといった連絡や、手術用の非常用電源がないといった事態も多く発生しました。自動車の中でテレビやラジオで情報収集したり、携帯電話などの充電をする人もたくさんいましたが、ガソリンがなくなってしまうとそれもできなくなる。家族と連絡が取れなくて不安な日々を過ごすしかなかった。こうした震災での実体験が、私たちの非常用電池開発に拍車をかけました。

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今回開発したマグネシウム空気電池「マグボックス」は数十年保管することが可能で、乾燥重量も1.6kgと軽いため、防災拠点の常備に最適です。非常時に水を入れるだけで300Whの最大電気量を発電し、スマートフォンを最大30回充電することができる。さらに発電時間は最大5時間、紙容器でできているため、環境にやさしい廃棄ができます。水は海水や川、池のものでもよく、500ml入りのペットボトルで4回注水すれば発電します。

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▲非常用マグネシウム空気電池「マグボックス」

ソーラーカーや電気自動車実用化への挑戦がヒントに

震災前に、私は仙台市でソーラーや風力発電、電気自動車など、環境問題にチャレンジする電池開発に携わっていました。

電気自動車を省エネルギーで速く走らせるには、空気力学と軽量化が重要であり、蓄電できるエネルギーには負荷機器が省電力であることが前提になります。そこで、自然エネルギーだけで走る時速500kmの未来列車「エアロトレイン」の開発者、東北大学未来科学技術共同センターの小濱泰昭教授と出会うんです。「あったらもんだ!(方言でもったいない、の意味)」という省エネを追求するお互いの意識とゴールが一致し、協力体制を作りながらさまざまな実験を繰り返していました。

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▲World Econo Move (電気自動車のECO CAR レース)の様子

そして2012年、小濱教授は「太陽光等の自然エネルギーで、マグネシウムを製造からリサイクルまで可能とする循環社会を構築する」という「マグネシウム・ソレイユ・プロジェクト」という構想を打ち出します。12月には「マグボックス」の元となるマグネシウム空気電池を載せたトライクでいわきから仙台までの110kmの走行実証も世界初で成功させました。小濱教授の既存の常識に捉われることのない発想から、マグネシウム燃料電池は生まれたんだと思います。

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▲トライクで走行実証する小濱泰昭さん(当時:未来科学技術共同研究センター(Niche)、 現在:東北大学 多元物質科学研究所 名誉教授)

異業種とのつながりと発想がブレイクスルーを生む

マグボックスが開発されるまでには、紙製容器では凸版印刷さんなど、企業数十社が携わっています。今回実感したのは、異業種の人たちとのつながりや発想が大事だということ。電池の専門家ではない小濱教授のニーズを重視させた発案もそうですが、同じ目的に向かってそれぞれの知見や経験をもとに意見を出し合ったことは本当に貴重な経験でした。

実は今回のマグボックスを専任で開発を担当していたのは、いわき事業所の女性社員ひとりだけなんです。他のメンバーはすべて兼務でした。でも社内のあらゆる分野の専門家が集まっていたのでそれぞれの知識や経験が活かせ、忙しい中で必要なことだけを少ない時間で考えたので、開発スピードが加速されていたように思います。

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▲マグボックスを専任で開発担当した 技術開発本部 伊藤彩乃さん

マグボックスを地産地消のエネルギーシステムに

震災で何が一番必要かを考えることから始まったマグボックスですが、今後はさらにハイブリッド車やLED照明などに使える省エネ機器への応用や、必要な時に必要な分だけ供給できる電気エネルギーシステムの開発を進めていきたいと考えています。

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そして私たち「マグネシウム・ソレイユ・プロジェクト」がこれから取り組んでいくのは、地産地消のエネルギーシステム作りです。太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを取り入れるマイクログリッドは、今後増大していくでしょう。その地域で電気を作って使い、足りないときは例えば大きなマグボックス(マグジェネレーター)を使ってもらう。

メガソーラーや大型風力発電所がある地域とそうでない地域では、電気エネルギーのロス軽減やコストダウンで格差が生まれます。そうなれば、企業や人口の地方への移転も進むのではないかと。さらには農業・漁業の活性化も進む、そんな未来に貢献できたらと思うのです。

WRITING:馬場美由紀 PHOTO:刑部友康 画像提供:古河電池株式会社 

取材したエンジニアの数は2500人以上。エンジニアが大好きな技術系ライター。