深夜営業、お酒も飲める“森の図書室”が渋谷に登場。その「仕掛け人」とは?

7月1日、東京・渋谷の繁華街に「図書室」がオープンする。会員制を取り、蔵書はオープン時約5000冊、ゆくゆくは約1万冊を揃える予定。小説やエッセー、ノンフィクション、ビジネス書など、オールジャンルの本が揃う。
普通の図書室と少し違うのは、深夜まで営業している点。そしてお酒を飲みながら本が楽しめるという点だ。

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この「森の図書室」のオーナーは、森俊介さん、30歳。クラウドファンディングの手法で開店資金を集め、このほど同手法の出資者数で日本新記録を達成した。出資者数は1737人、支援金額は1000万円近くに上る。

当初の目標額は、書籍購入費10万円。しかし、友人、知人のクチコミからどんどん情報が広がり、著名人も出資に参加。そこからさらに出資者が急増し、目標を大幅に上回る結果となった。

■大手企業を辞めて、「図書室」を作る

森さんは、大手情報サービス会社に新卒で入社し、広告営業に携わった。同社出身の起業家は多いが、「図書室」のようなアナログなビジネスを選択するケースは稀だ。しかし森さんは、「今までの人生で、最も時間とお金をかけたものが本だから。儲けなどは関係なく、やりたいことをやるだけ」と事もなげにいう。

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5月下旬の某日、急ピッチで内装工事が進む「森の図書室」。その中で状況確認をする森俊介さん

物心ついたときから、本を読んでいた。親が読書好きだったわけでも、読書好きに育てるべく英才教育を受けたわけでもないが、幼稚園のときにはすでに「本の虫」で、自転車のチャイルドシートに乗るときも本を手放さなかったという。小学校に入ると町の図書館に通いだし、家族が借りられる貸出限度冊数すべてを一人で使った。
小学5年生のとき、初めて周りの友人より明らかに多く本を読んでいることに気づき、「自分のアイデンティティは読書だ」と自覚したという。

「図書室を作りたい」と思ったのは、中学生のころ。
「そのころ読んだ本に、私設図書館を作ったおじいさんの話が出てきたのがきっかけ。本の中での出来事ではありますが、個人がこういう施設を作れるなんて思いもしなかったから、『僕にもできるんじゃないか?』とふと思ったんです。ただ、本気で考えていたわけではなく、『老後にでも作って、本に囲まれて余生を過ごせたらいいな』ぐらいの淡い夢レベルでしたね」

それが急に現実的な目標になったのは、2012年。4年間勤めた会社を「なんとなく違うことがやりたくなったから」という理由で辞め、「なにか自分でビジネスができたらいいな」と漠然と考えていたときだった。

「大学卒業後、就職を機に渋谷に住むようになったのですが、たまたま近所の店舗物件情報を目にしたんです。渋谷のど真ん中なのに、手ごろな賃料。この条件ならば、今の自分でも出店できるのでは?と思ったんです」

その物件は、残念ながら外食チェーンに借りられてしまったが、一度燃え上がった想いは簡単には消えない。以来2年間、理想の物件を探し続けるようになった。
「もちろん物件探しだけに専念していたわけではなくて、海外を放浪したり、ももいろクローバーZの曲『ももクロのニッポン万歳』を巡る日本一周の旅に出たり、NPO団体の運営を手伝ったりと、会社勤めではできないさまざまな経験をしました。ただ、その間も不動産会社から届く物件情報を常にチェックしていました」

■誰もが気軽に本を手に取れる空間を、この手で作りたい

そして、今年の頭にようやく道玄坂沿いの物件を見つけ出し、ようやくオープンにこぎつけようとしている。中学生からの思いがまさに成就しようとしている今、どんな心境なのか。
「長年の夢が叶うことももちろん嬉しいのですが、これだけ多くの方に賛同をいただけたということが何より嬉しい。でも、一方で不安な気持ちもめちゃくちゃ高まっています。これだけの方がいると、『せっかく出資したけれど、自分が思い描いていた図書室とは違う』と感じてしまう人も出てくるのではないかと…。僕が今できることは、精一杯『本を楽しんでいただける場所を作り出す』ことだと思っています」

本の楽しみ方を押しつけるようなことは、したくないと思っている。友達の家に遊びに行ったら、面白そうな本があるから、読んでみる。そんな気軽な気持ちで本を手に取れる雰囲気が作れれば、みんなが楽しめる空間になるのではないかと考えているからだ。

「森の図書室」で提供されるドリンクのコースターには、森さんおすすめの本と、その理由が記されている。こういう遊び心をどんどん取り入れて、集う人が本についてワイワイ語り合えるキッカケを作りたいと語る。

最後に、好きな本を一つ挙げるとしたら?
「うーん…たくさんありすぎて…。でも、今までに一番多く人にプレゼントした本は、辻村深月さんの『ぼくのメジャースプーン』です。小学生の男の子の目線で書かれている小説で、読んだ後、何とも温かい気持ちになれる大好きな本。もちろん、コースターでもおすすめしていますよ」

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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