【あの町のヒーロー列伝】カープとお好み焼きに絶対寄りかからない敏腕ディレクター~広島ホームテレビ・金井大介さん~(後編)

 自分の能力に対する責任感や職業的使命に燃え上がり、今日も地元で奮闘する“あの町のヒーロー”。この連載では、そんなヒーローたちの胸の内を探るべく、これまで歩んできた道のりや、地域と仕事への想いについて語っていただきます。

 今回のヒーローは広島ホームテレビの人気深夜番組『アグレッシブですけど、何か?!』の総合演出を手がける金井大介さん。前編では、銀行員からADへの転職、日本一の吹奏楽部を率いる熱血顧問との出会い、すべてを自分ひとりで手掛けられる日本一のローカル番組ディレクターを目指して故郷・広島へ帰郷するところまでをお伝えしました。後編は広島からスタートします!

本日のヒーロー:広島ホームテレビディレクター 金井大介さん

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(プロフィール)国際基督教大学教養学部卒業。広島ホームテレビ(HOME)の制作部門を担うホームテレビ映像に所属するテレビディレクター。広島県のみならず、13県のテレビ局でも放送されている人気バラエティ番組『アグレッシブですけど、何か?!』の総合演出を担当。企画・撮影・編集・MAをほぼ一人で手がけている。同番組にて、テレビ朝日系列 第11回ものづくりネットワーク大賞優秀賞を受賞(2007年)。番組上での名前は「カナイマン」。

■大志を抱いて、いざ広島ホームテレビへ!

「天下獲るぞ!日本一のローカル・バラエティ番組を作ったるぞ!」と気合十分に、故郷・広島へ戻った金井さんが最初に任されたのは、予想に反して5分間のマンション紹介番組。「すごくリビングが広いですねぇ」と台本通りに撮影する仕事だった。次に任された仕事は、国土交通省のホームページにアップするトンネル開通式の3分間動画。もはやテレビ番組ですらない。

 そんな一見すると都落ちとも思える状況下で、金井さんは結果を出す。そのきっかけとなったのが、東京のテレビ局では当たり前となっている張り紙だ。東京では、『視聴率好調!●パーセント』と張り紙がしてあるのが常だったが、広島ホームテレビにその文化はなかった。そこで高い視聴率をほめられたときに、「張り紙してください」と頼んでみたところ、それを見た人からのオファーでレギュラー番組が一本増え、最終的にレギュラーを4本頼まれるまでに。

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 広島ホームテレビの制作部門を担うホームテレビ映像に転職して2年ほど経った頃、そんな金井さんに「深夜番組を立ち上げるから、君にやってほしい」と待望の声がかかった。そこで金井さんは、失敗しようが、成功しようが、果敢に何かに挑戦する、“アグレッシブ”をコンセプトとした企画をやりたいと申し出た。その企画は、最終的に『アグレッシブですけど、何か!?』という番組タイトルがつけられた。

 それまでの2年間、心が折れなかったのは、台本書きからアポ取り、撮影から編集、音づけまでを全部一人でやっていたからだと振り返る。東京では外注できたことも、地方局ではすべて自分ひとりでやらなければならない。

「これってテレビの基本じゃないかと。東京でディレクターをやって指示するだけよりも、実際に作業しているほうが力がついていると思っていました。この2年間、東京の奴らよりも、絶対に伸びているって。僕自身がまさに、“アグレッシブ”だったんです」

■ローカルタレント・中島尚樹さんをMCに抜擢

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 バラエティ番組の人気に大きく関わってくるのが、MCの存在。ローカル局が新しい番組をスタートさせる場合、地元出身で東京で売れているタレントか、もしくは東京で一度売れたタレントを起用することが多い。しかし、金井さんは無名のローカルタレントに目をつけた。

 番組スタート時からMCを務めるローカルタレント・中島尚樹さんと出会ったきっかけは、金井さんが広島ホームテレビで最初に担当した5分間のマンション番組だ。台本通りに決められたことを読むだけの“その他大勢”のローカルタレントだった中島さんとロケをするたび、「なんで、コイツ、カメラが回っていないときはこんなに面白いのに、くすぶっているのだろう」とずっと気になっていた。

 日本一のローカル番組を目指す以上、少なくとも広島一面白い人を主役に立てないと負ける。そこで意を決した金井さんは、中島さんを焼肉屋へ誘った。焼肉の網を間に挟みながら「やるぞ」と気合いっぱいに口にすると、中島さんの返事は冴えなかった。

「無理です。オレ、そんな…しょえないッス」

 それでもあきらめきれない金井さん。そこで一週間後、中島さんを再び焼肉屋へ呼んで「やるぞ」と伝えた。この2度目の申し出に対し、中島さんは「んー、じゃあ、給料を視聴率歩合制にしてください。オレ、そんなにテンション上がっていないし、背負いきれないから、そうしてくれたら少しは気合入るかも」と了承した。それを受け、中島さんの報酬は源泉徴収を含めて視聴率1パーセントにつき1万1,111円となった。

■社内の反発を払しょくするには

 局で初となる深夜バラエティ番組の立ち上げは、当然のごとく順風ではなかった。地方局であるがゆえの低予算。それによる人材の不足。しかしながら、その逆風こそ、今年で8年目を迎える『アグレッシブですけど、何か!?』の礎を築き上げたとも言える。

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 企画のエッジを立てなければダメになる。その危機感から生まれる企画は、常に放送網ギリギリを狙っている。日本国民なら誰もが知っている大物タレントに体当たりで交渉し、ノーギャラでゲストとして登場してもらう『アポ取り選手権~ノーギャラで仕込める大物タレントの限界~』、声をかけた人が1つ前にしていたアルバイトをし、それを繰り返しながら進む『バイトすごろく』、『田舎に泊まろう!』(テレビ東京系)にインスパイアされて、“ヤンキー”が苦手な中島さんにそれを克服してもらう『ヤンキーの家に泊まろう~暴君ヤンキーに突然お泊まり交渉~』など、その内容はどれも大胆かつ突飛だ。

 こういったバラエティ番組につきものなのが、ネットなどで一気に広まるクレームや炎上だ。そういったことが起きるのではないかと懸念する社内の声は、少なからずあった。しかし、社外に味方をつけることで、金井さんたちは現状を打破することができたという。

「どこの会社でもあると思うんですけど、初めてやることに対しては絶対に批判があります。うちの場合よかったのは、そういった声をプロデューサーが全部止めてくれていて、僕の耳には入れないようにしてくれていたんです」

 そのプロデューサーの思いに答えるように、番組立ち上げからちょうど一年後、『アグレッシブですけど、何か!?』は、テレビ朝日系列局『ものづくりネットワーク大賞』の優秀賞を受賞し、一気に知名度が上がる。同年7月には、愛媛朝日テレビ、山口朝日放送、北陸朝日放送の3局が版権を買い、同3県での放送がスタート。今では13局に及ぶ。一地方局が制作した番組をこうして他の地方局が購入するのは極めて異例だ。

■理想のヒーロー像について

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『アグレッシブですけど、何か!?』の出演者や制作者は、視聴率よりも視聴者数に目を向け、四半期に一回のファンとの交流イベントを大切にしている。婚活イベントや街コン、ボツネタトークショーに演劇など、ファンと接する機会を増やすことで、下から支えてもらっているという実感を得られるのだとか。

「売れるとか、ヒーローになれるとか、出世するとかって、大きな力が上から引っ張り上げてくれるようなことだと思っていて、ずっと上ばかりを見て仕事をしてきた気がするんです。でも、最近はそうではなくて『もしかしたら、あいつ、売れるかも」とか、『あいつ、ヒットするかも』という声が一定量集まるとふいっとヒーローにさせてもらえる、そんな下から押し上げられるものだと思うんですよ」

 金井さんが語る理想のヒーロー像は、“その人がいるだけで、その世界がちょっと変わる人”だ。また、自分が弱っていないと、ヒーローの存在にはなかなか気づけないとも。そんな彼には、いまだ忘れることができないスーパーヒーローがいる。

「ADの頃、ミスの続いていた僕に、あるディレクターさんから、『お前、エレベーターを使うな』と“きつい指導”を受けたことがありました。残りのADの連中も『ハイ、これで金井消えた!』って感じで、5階のスタジオから編集所へ大量のテープを運ぶのに誰も手伝おうとしてくれない。そんなとき、一番デキる、一番ギャラの高い、一番おもしろいディレクターさんが黙ってテープを持って、一緒に階段を降りてくれました。

 当時の僕にとっては雲の上の人で、それまで一言もしゃべったこともありませんでした。その人が、僕がタクシーを乗る瞬間に「お前、絶対やめんなよ!」って、一言だけ言ってきたんです。そこから一年間、ミスばっかりしていた僕は干されてて、また振り出しに戻ったんですが、新企画があがったときに、そのスーパーディレクターが『ADは金井で』と僕を指名してくれました。その企画こそ広島での自分を築き上げるきっかけとなった『吹奏楽の旅』でした」

「絶対やめんなよ!」――その言葉がすべてだったと振り返る金井さんは、ヒーローは自分が気づかない間も必ずどこかで見てくれていると、今もずっと信じている。

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取材・文:山葵夕子  写真提供:広島ホームテレビ

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