【20代の不格好経験】想いを込めて作ったサービスなのに、モニターの反応は「使いたくない」。創業事業をいきなりスクラップする羽目に~マネーフォワードCEO 辻庸介さん

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今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第9回:株式会社マネーフォワード代表取締役社長・CEO 辻庸介さん

株式会社ユーザベース代表取締役共同経営者 梅田優祐さんよりご紹介)

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(プロフィール)
1976年大阪府生まれ。2001年京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。本社経理部にて、AIBO(アイボ)などの部門経理を担当した後、2004年にマネックス証券に出向(その後転籍)。在職中に米ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、2012年5月にマネーフォワードを設立。

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▲複数の口座情報を一括管理、家計簿を自動作成するサービス「マネーフォワード」(画像左)。登録すれば自動で情報をアップデートするので「お金の管理の煩わしさが解消できる」と話題に。利用者数は現在170万人を超える。MFクラウド(画像右)は、会計・確定申告をラクにする会計&請求書サービス

■想いを形にすることに熱中しすぎて、周りを見ず突っ走る

 会社員時代、MBA留学中、起業後…さまざまな壁にぶつかり、いろいろな失敗を経験しましたが、振り返ってみて一番ダメージが大きく、かつ学びも大きかったのは、起業してすぐ立ち上げた自社サービス第1号を、スタート後にすぐ潰したことですね。

 潰した「マネーブック」というサービスは、いわば「Facebookのお金版」。ユーザーが自分の資金運用方法を匿名でアップし、皆でより良いお金の管理や運用の仕方をシェアし合い、学び合うというコンセプトのサービスでした。

 マネックス証券在職中の2009年、米ペンシルバニア大学にMBA留学していました。帰りの飛行機の中でFacebookのマーク・ザッカーバーグの著書を読んだのですが、その中に記されていた「もっとオープンになって誰もがすぐに自分の意見を言えるようになれば、経済はもっと贈与経済のように機能し始めるだろう。贈与経済は、企業や団体に対してもっと善良にもっと信頼されるようになれ、という責任を押しつける」という言葉に「これだ!」と感銘を受けたのです。かなり噛み砕いて言えば、「世の中がもっとオープンになれば、皆悪いことをしなくなる」という考え方なのですが、「テクノロジーを駆使すれば人々が抱えるお金の課題を解決できる。Facebookのお金版って、うまく資産運用している人のノウハウを見られるようにすれば、市場はもっと活性化し、日本経済も豊かになるはずだ。また、お金の話がどんどんオープンになれば、間違った情報を信じる人も減り、不利益を被ることも減るのではないか」とひらめいたのです。
 この想いを形にしたい!と考え、構想を温め続けて2012年に起業。想いに共感してくれた仲間を創業メンバーとして巻き込み、3~4カ月ほどかけてサービスを開発、テスト版のローンチにこぎつけました。

 開発期間中は、「絶対にうまくいく!」という信念のもと、ひたすら完成に向けて突っ走りました。自分の想いがどんどん形になっていく過程をつぶさに見ることができ、忙しいながらも本当に楽しかったですね。それまで仕事において全くの0から1を生み出す経験はしたことがなかったので、なおさら「自分の手で、自分の想いを形作っていく」喜びを日々満喫していました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

■自分のアイディアや思いつきなんて、信じるな

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 しかし…想いを込めて作り上げたサービスを10人のモニターに試してもらったところ、何と10人全員が「使わない」と答えたのです。「人の資産運用方法を見るのはいいけれど、自分のものは見せたくない」「そもそもネットで自分の資産を公開するなんて怖すぎる。絶対使いたくない」という意見でした。
 今考えてみれば、かなり過激すぎるサービスだったかもしれません。匿名であり、かつ承認した人にしか見られない設定にはしていましたが、自分の資産運用の一部始終を他人に公開することを良しとする人はごくわずかでしょう。でも、私は「このサービスが絶対に日本経済をより良くする!」と確信し、肝心のユーザー目線をおろそかにしたまま突き進んでしまった。発案者である私はさておき、巻き込まれた創業メンバーはたまったものではありませんよね。3~4カ月の間、5人でかかりきりになって作り上げたサービスを潰す決断をしたときは、心から反省し、皆に「申し訳ない」と頭を下げました。

 この時に肝に銘じたのは、「自分のアイディアや思いつきを信じるな」。少々極端な考え方かもしれませんが、いくらいいアイディアだと思っても、それに酔い、熱中しすぎると、ユーザー目線を見失ってしまう恐れがある。全てにおいてユーザー目線を最優先してサービスを設計し、かつ節目節目で調査やヒアリング、テストを重ねて客観的に判断をすることを徹底すると誓いました。つまりは「リーンスタートアップ」のセオリーなのですが、「マネーブック」ではこのセオリーとは完全に逆を行っていたわけです。

 そして一から体制を立て直し、作り上げたのが、今のサービス「マネーフォワード」です。お金に関するどんなWebサービスだったら受け入れられるのかマーケット調査を行い、ターゲットを「ネットでのお金の管理に積極的な、お金に興味のあるアーリーアダプター層(新商品やサービスを比較的早期に受け入れ、他に大きな影響を与える層)」に設定。ターゲットへのヒアリングを重ね、「個人の家計状況を見える化できるもの」を作ることを決め、完全クローズドの家計・資産管理アプリを作り上げました。スマートフォン向けのアプリとしては、おそらく日本初だったかと思います。

 スタート時の機能は、資産一括管理、家計管理という本質的な部分のみに集約したミニマムなプロダクト。その後、反響を見ながら機能を追加していく計画でした。現在好評をいただいている銀行の入出金やカード情報をもとにした自動家計簿作成機能や、法人向けクラウドサービスなどは、後から追加したものです。

 サービス開始後、初めの2~3カ月は1日のアクセス数がわずか10程度という日々が続き、非常に気を揉みましたが、前回の失敗を糧にヒアリングを重ねに重ねて作り上げたもの。自信を持ってPRし続けたところ、徐々にメディアに取り上げられる機会が増え、ユーザー数が急増しました。「家計の管理が楽になった」「節約の結果が見える化できた」などの反響が寄せられたときは、この上ない喜びを感じることができましたね。現在では利用者数170万人を超えるまでになり、本当に嬉しく思っています。

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■大抵のものは思い通りにいかない。成功のためには、失敗は必要な過程

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 当時を振り返り、改めて実感するのは、「大抵のものは、思い通りにはいかない」ということと、「失敗がなければ成功もない」ということ。「こうやれば、うまくいく!」と自信を持って取り組んだところで、机上の計画と現実は違います。計画通りになんて絶対に進みません。でも、ぶつかった壁を一つひとつ乗り越えていったところに、成功がある。つまり、自信を持って取り組んだことにおいては、「失敗は必要な過程」なんです。

 そういえば、起業家の中には「自分は失敗した経験なんてない」などと言う人が多いですが、それは失敗を失敗で終わらせることなく、糧としているから、そう言えるのだと思いますよ。そもそも、起業なんてしちゃったら、思い通りに行かないことなんて当たり前すぎて、「多少の失敗は誤差の範囲だ」って思うようになりますけどね(笑)。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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