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環境負荷の小さい自動車や家電を購入すると、助成金やポイントがもらえる。この春から始まったエコ製品購入にあたっての新制度。景気浮揚策の一環だが、「地球環境を守る」アクションの一つともいえる。省エネと省マネーの一挙両得。環境技術に敏感なエンジニアたちはどう反応したのだろうか。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:09.09.16
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環境負荷の小さい自動車や家電を購入する際の優遇策は、政府が4月に景気浮揚のための追加経済対策の一つとして決定したもの。自動車に関連して4月1日から実施されたのは、環境対応車を購入するときの取得税・重量税負担を軽くする「エコカー減税制度」だ。環境性能に応じて減免幅は3段階あるが、ハイブリッド車など次世代自動車なら、100%免除になる。各社の主力車種の多くのモデルで50%以上の軽減を受けられる。 もう一つが、旧型車を廃車して新型の低燃費車に買い替える際に補助金を出す制度。「スクラップ・インセンティブ」と呼ばれるもので、フランスやドイツでいち早く導入され、新車販売台数が伸びにつながった。日本では購入後13年以上の古い車を廃車して一定以上の環境基準対応車に買い替える際に、補助金を出すことになった。買い替え対象車が2010年度の燃費規制をクリアしていれば登録車で25万円、軽自動車で12万5000円の補助を受けられる。 いずれも永続的な制度ではなく、補助金制度については、2009年4月10日から2010年3月末まで、または予算(3,700億円)が消化されるまでの間とされている。これらの制度を活用すると、どのぐらい安く車が買えるのか。たとえば車両価格189万円のホンダのハイブリッド車「インサイト」の場合、通常13万7700円の取得税・重量税がゼロになる。トヨタの「プリウス」なら、238万円のグレードの場合、減税額は15万8800円。古い車を廃車にして25万円の補助金を受け、プリウスを買えば合わせて約40万円がお得という計算だ。 家電でも優遇策が導入された。省エネ家電の購入支援策「エコポイント制度」だ。対象になるのは、エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビの3つ。このうち「統一省エネラベル」(経済産業省による省エネ性能の5段階評価)で4つ星以上の製品を購入すれば、「エコポイント」が得られる。政府は省エネ家電の購入支援策に約3000億円の予算を計上。これによって年度内の家電販売数が1.5から2倍に増えると見込んでいる。 エコポイント制度は5月中旬からスタート。8月からはポイントを商品やサービスと交換することができるようになった。ただし、この優遇策も、2010年3月末までの購入と期間は限定されている。単に消費刺激策としてだけでなく、省エネ家電への買い換えが進むことで、環境負荷の削減につながることも期待される。環境省の試算によれば、今回の支援策で家電の買い替えが進めば、今後10年間で約4000万トンのCO2削減につながるという。 |
さて、こうしたエコカー、省エネ家電の購入支援策。エンジニアの琴線にどう響いたのだろうか。今回の調査にあたってTech総研ではまず1万人を対象にしたスクーリング調査を実施した。そのうち、2009年4月以降にエコ家電・エコカーを購入していた人は1300人、13%に達していた。 これらを参考に、2009年4月以降にエコ製品を購入したことのあるエンジニア200名を対象に、9月にあらためて本調査を実施。対象者の属性は全員が男性、20代が26%、30代が62%、40代が11%となっている。職種は多岐に及ぶが、Web・オープン系のシステム開発、ネットワークの運用・監視・テクニカルサポート、機械・機構設計などが多い。 彼らはいったいどんな製品をどのぐらいの価格で購入したのだろうか。まずエコカーをから見ていこう。この時期にエコカーを購入したのは35人(18%)。購入総額は8,800万円、平均購入価格は約253万円だ(DATA1)。 購入したメーカーの順位はDATA3の通り。トヨタ車がダントツだが、ホンダ車も健闘している。実際にエンジニアの購入ポイントを紹介していこう。「試乗とカタログの熟読」を重ね、「インターネット上のユーザーの書き込み」も参考にしての購入だから迷いはない。ただ、見事なまでに政策の狙いにはまったと、いえないこともない。 DATA2 エコカーで購入したメーカー |
■ | 「プリウス」を300万円で購入(システム開発/31歳) |
車には多く乗る方なので数年で元が取れると思った。ハイブリッド車の中でも燃費が特に高い方だと感じたから。購入に当たって「インターネットの口コミサイト」を参考にした。 |
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■ | 「プリウス」を240万円で購入(システム開発/38歳) |
車両本体価格が旧型プリウスに比べ、10万円ほど安いうえに、今回のエコカー減税&補助金も効いている。実用燃費性能が今の車(ロードスター1800cc6MT)に比べ、倍近く伸びる。価格と燃費の両面を重視した。 |
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■ | 「インサイト」を200万円で購入(生産技術/38歳) |
インサイトは過去最安値のハイブリッド車。さらに減税&補助金とくれば、買うなら今しかないと思った。エコカーについては、昨年の燃料高騰のときに、低燃費車に非常に興味を持った。高速道路料金割引期間中に、超低燃費車を最大限に利用しようと考えた。 |
家電についてはまず、エコポイント対象であるかどうかは問わず、一般に省エネ型と呼ばれている製品の購入について聞いている。やはり多いのは、テレビ(119人)、冷蔵庫(19人)、エアコン(18人)だ。各製品の平均購入価格はDATA1の通り。
このうちテレビを例にとって、エンジニアの購入傾向を見ていこう。
もちろん日本でも2011年7月にはデジタル放送に完全に切り替わる。エコポイント導入の相乗効果もあって、今年から来年3月にかけて、地デジ対応大型テレビへの買い換えが一斉に進むと見られている。
しかしエコポイント対象であるか否かにかかわらず、春から夏にかけての家電量販店でのセールスプロモーションは、確実にエンジニアの心をとらえたようだ。 家電量販店のセールスの背景には、以下の事情がある。政府からエコポイント制度が発表された直後に、全国の家電量販店では買い控えのため省エネ家電の売り上げが急減した。そこで、各店とも買い控えを防ぐために、5〜10%の値引きやポイント還元など独自の販促策を展開した。エコポント制度導入後も販促策を継続する店は多く、広い意味ではこうした先取り的な販促策もエコポイントの導入効果と見ることができるのだ。 5月中旬にはエコポイント制度が前倒しで導入され、さらに「買う理由」が増えた。結果的に、この時期、エコポイントやエコカー減税制度を利用して買い物をした人は、全体の66%に及んでいる(DATA3)。 DATA3 エコポイントやエコカー減税などの補助制度利用 |
とはいえ、メカやエレクトロニクスに詳しいエンジニアのこと、セールスに釣られてとはいっても、たんに「安いから買った」わけではない。そこには技術者としてのこだわりが、かいまみえる。以下のコメントにもあるように、カタログスペックを丹念に読み込み、実機に触れ、将来の拡張性なども考慮して、総合的かつテクニカルに判断していることがわかる。購入にあたっては、価格.com などインターネットのクチコミサイトもよく参照されている。 |
■ | ソニー製品88,000円(機械設計/38歳) |
DLNA機能があった。同じ価格帯の中では映像が奇麗だと感じた。 |
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■ | パナソニック製品200,000円(生産技術/38歳) |
プラズマTVは応答性がよく、コントラストも高く画質がきれい。消費電力も小さくなってきているため購入に踏み切った。 |
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■ | パナソニック製品84,000円(システム開発/43歳) |
省エネ性能とIPSαパネルのきれいさで決めた。 |
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■ | パナソニック製品128,000円(運用・監視/32歳) |
倍速機能、HDMI端子の数、画質、パソコン接続時の解像度などを考慮して、ベストな商品だと考えた。 |
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■ | 東芝製品148,000円(システム開発/29歳) |
外付けハードディスク(USB接続)に録画できるなど、パソコンとの連動性が他メーカーより優れていたから。 |
中には「私が設計したチップがあるため」(半導体設計/34歳/東芝製品90,000円)ということを購入理由に挙げる人もいた。家電セットメーカー勤務のエンジニアは当然だが、そのサプライヤーとして半導体開発や組込みソフト開発にかかわる技術者もまた、やはり店頭では自分が手がけた製品が気になるもの。社内販売よりは家電量販店で買う方が安くつくことも多く、店頭ではついつい“自分の”製品を指名買いしてしまうのかもしれない。 結果として、エアコン、冷蔵庫など他の家電も含めたメーカー・ランキングではパナソニックとシャープ、東芝がいい勝負をすることになった(DATA4)。 省エネと省マネーは、今後も消費動向を左右する重要なキーワードだ。一消費者として店頭で製品を選びながら、一技術者としても、省エネ・低コストのモノづくりにかかわるエンジニアたち。エレクトロニクス製品や自動車が売れれば、自分の給与やボーナスもアップする。エコ製品の購入支援策に加勢し、消費復活の動きを押すべく、熱心に買い物をした、今年前期の商戦だったに違いない。 DATA4 エコ家電で購入したメーカー |
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