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最近、時短制度やノー残業デーを設けることで、残業時間の規制に取り組む企業が増えている。また、改善提案など勤務時間外の職場活動にも残業代を支払うことにした企業もある。こうした残業見直しの流れの中で、今エンジニアはどのぐらい残業し、いくらぐらい残業代を得ているのか。その実感値を尋ねた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也) 作成日:08.07.04
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霞ヶ関の官僚らが、深夜帰宅のタクシーの中で酒食や現金で接待をうける「居酒屋タクシー」。そのニュースを読んで、怒りと同時に、うらやましく思ったエンジニアも多いのではないだろうか。 「タクシーで帰れるだけマシだよ。こっちはいくら遅くなってもタクシー利用厳禁、帰れなくなったら会社に寝泊まりだものなあ」。 日本のビジネスパーソンのワーカホリックぶりは、いわばお家芸のようなものだが、近年はさまざまな角度から働きすぎに対する監視の目が厳しくなっている。例えば、企業の残業費抑制。総賃金コストを下げることに必死の企業は、「だらだら残業」を厳しく制限するようになった。これまた日本のサラリーマンのお家芸だった、安い給料を補うための、ちゃっかり残業という手がなかなか使えない。 国民の健康福祉という観点から、厚労省あたりも口を酸っぱくしている。いわく、深夜残業は、睡眠時間の減少につながり、うつ病や心筋梗塞の発症と高い相関関係を持つ……ウンヌン。それを受けて、遅くとも深夜0時には家で就寝できるよう、22時以降の残業を原則禁止にした企業も出てきた。 たしかに毎日、午前様の帰宅では、家庭生活もまともに営めるはずがない。このままでは少子化がますます進むということで、仕事と家庭を両立する「ワークライフバランス」が、国の施策として打ち出されるまでなっている。個人の生活時間までを国にあれこれ指図される理由はないが、そうでもしないと、深夜残業は是正されないということだろう。 最近は、残業が増えると事業所のエネルギーの使用量が増え、CO2排出も増すなどと、残業問題を地球温暖化にからめるむきもある。それはともあれ、今回はいまどき話題集中の残業の話。エンジニアの残業実態はどうなっているのかを探ってみた。 |
今回はまずエンジニア3264人を対象に予備調査を行い、残業代(時間外勤務勤務手当)をもらっているかどうかを問うている。それによると、「残業手当はフルに支給される」が7%、「みなし労働制のため残業手当相当分は固定して支給されている」が12%、「一定時間を超えると、残業手当はカットされる」が15%、「基本的に残業手当はつかない」が16%となっている。 |
DATA1 現在、残業手当は支給されている? |
今回は残業手当の額を把握するため、予備調査対象から残業代がつかない人を外し、さらに無作為に300人を抽出して、本調査とした。職種の内訳では「システム開発(Web・オープン系)」が17%、「機械・機構設計、金型設計」が15.7%と多いが、おおよそソフト系、ハード系が半数ずつといった割合だ。 この300人を対象にまず平均退社時間を聞いてみた。多い順に並べると「19時〜20時」35.3%、「20時〜21時」23.3%、「〜19時」18.3%、「21時〜22時」14.3%などとなっている。午後7時前に退社できる人が18%強存在するのは意外といえば意外だ。 |
DATA2 職種分野別/平均退社時間の時間帯は? |
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しかし、退社時間が20時以降になる人は全体の46.3%を占めており、慢性的な残業状態が続いていることがわかる。割合こそ少ないものの、平均退社時間が23時以降という人が1.7%存在するのは意外といえば意外だ。存在している。これらの人はたぶん家に帰り着くのは深夜0時を回る。体調を崩さなければいいのだが……。 退社時間を職種分野別にみてみると、20時以降の率が、ソフト・ネットワーク系(ソフト系)で42%、電気・電子・機械系(ハード系)で50%と、大きな差ではないものの、ややハード系のほうが「遅い」という結果になった。 月額平均の残業代はどのぐらいだろうか。全体を平均するとざっくり「6万円」という結果だ。調査対象者の税込み平均年収が「488.4万円」なので、月の残業代を12倍して単純計算すると、年収に占める残業代の割合は約14.7%ということになる。年齢別では20代後半(25〜29歳)が「5.8万円」、30代前半(30〜34歳)が「6.1万円」。職種別ではソフト系が「5.4万円」、ハード系が「6.6万円」となっている。年齢的には20代より30代、職種ではソフト系よりもハード系のほうがより残業をこなしている、ということが言えるだろう。 |
DATA3 職種分野別/毎月平均の残業代はいくら? |
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冒頭にも触れたように、最近、ダイバーシティ(職場の多様性)やワークライフバランス(仕事と私生活の両立)といった観点から、あらためて、労働時間の総量規制、残業規制、時短制度やノー残業デーなどを導入する企業も増えている。その実態についても聞いてみた。 「制度がある」という回答が56%で、半数を上回る。内、約3分の1が「以前はなかったが、最近制度ができた」と答えている。「そのような制度はない」というのは44%だ。制度の一部をアンケートから拾ってみる。 |
DATA4 勤務先に残業に関する制度はある? |
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ノー残業デーが「水曜日」に集中しているのは面白い現象だ。何か法的な取り決めがあるわけではないだろうが、疲れがたまる週の真ん中に設置したほうがよいという考え方が背景にあるのだろう。 これらの制度は常に、言うは易く行うは難しもの。今回の調査では実施率を定量的に把握することはできなかったが、「勤務管理表上は残業がないことになっている」とか「定時になるといったんはオフィスが消灯するが、すぐに再点灯される」というコメントには、制度と実態のズレに対する皮肉が感じられる。中には、「“残業はするな。ただし仕事に支障がないように”という、ただし書きがあるため、実態は形骸化している」というコメントもあった。 |
こうした制度があるだけマシだと考える人も少なくない。制度に対する満足度を聞いたなかでは、「かなり不満である」と回答した人が13%に上り、この層では制度の不備や欠陥を指摘する声が強い。例えば、以下のようなものだ。 |
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回答者の中には「残業代をもらうより、帰ることを優先したい。自分の時間を優先したい」という人がいる一方で、「まったく残業がないのも、生活面に困る」という人もいる。残業しなくても生活に困らないだけの給料が稼げればそれに越したことはないが、実態はそうはなっていない。そうだったらせめて、「残業時間をきちんとカウントして欲しい」「残業代にあたる割増賃金をもっと多くして欲しい」というコメントもあった。というのが本音のように思える。 とはいえ、今回の調査では、残業時間や残業代に関する会社の制度について、全体的には満足度が高かったことも指摘しておく必要がある。「大変+まあまあ満足」は59%に達しており、「やや+かなり不満」の41%を上回った。 |
DATA5 勤務先の残業制度に対する満足度は? |
現状の制度に満足しているという回答の中には、「36協定厳守、退社時間厳守が徹底されているが、ここまで徹底したのは、労基署の監査が入ったおかげ。監査が入る前から、制度としてはいろいろ整っていたが、形骸化している面もあった。しかし、監査後は、制度を厳格に運用するようになった」というコメントもあった。 これをもって、すべての企業でサービス残業が少なくなっているとか、エンジニアのワークライフバランスを重視するようになっている、と結論づけることはできないが、会社がエンジニアの残業に気を使うようになった“風潮”は感じとることができる。 とりわけIT関連業種では、深夜におよぶ残業が慢性化すると、それが労働者の健康を損なうだけでなく、ソフトウェアやサービスの品質にも影響し、新卒採用面でも不利になることが指摘されており、改善の姿勢は見せる企業が増えていることは事実だ。アンケートにあらわれた満足度には、そうした流れを受けて、残業実態が改善されることへの“期待”も込められている、とみるべきだろう。 |
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