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脱石油、CO2削減の流れが加速する中、脚光を浴びているのがクルマにおける電気エネルギー利用技術。燃料電池車、純電気自動車など、かつては未来カーと思われていたクルマが次々に目の前に登場している。それら次世代エコカーの開発最前線をレポート。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己・早川俊昭)作成日:08.11.13
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ホンダFCXクラリティは、水素を使って発電する燃料電池を主電源とする次世代のサルーンカー。燃料電池車(FCEV)は通常の充電式バッテリーに比べて重量出力密度、すなわちユニット重量あたりの発生可能パワーが格段に高く、電気自動車(PEV)に比べて大型のモデルを作りやすいというメリットがある。
航続距離もPEVと比べると格段に長く、FCXクラリティの場合、10・15モード走行時で実に620kmを達成してる。デメリットはコストがきわめて高いこと。ホンダはFCEVを量産してコストを下げるにはどうしたらいいかを探るため、FCXクラリティを3年間で200台生産する“量産ライン”を構築し、さらに研究中。
最初に作ったFCEVの試作車「FCX-V1」は、当時ホンダがリース販売を行っていた電気自動車「EVプラス」の床下に、他社製の燃料電池スタックを搭載。「とりあえず走らせてみるという目的で作った」(藤本氏)。が、そのスタックの重量は約200kgもあり、サイズも巨大。積む場所は、ボディを新しく作るにしても必然的に床下となり、クルマとしては腰高になってしまう。
その試作車をさらに進化させた「FCX」は02年、日本の首相官邸やカリフォルニアのフリートユーザーなどにリースされ、公道を走りはじめた。FCEVを走らせるという最初の目標を達成すると、藤本氏がもともと志向していた「走って楽しいクルマ作り」へのこだわりがふたたび頭をもたげてきた。
高圧水素タンクについては、シャーシ設計チームの創意工夫によって、タンクを抱え込むように構造材を配しながらボディ剛性を出すしくみを考案して問題を解決した。が、燃料電池スタックのほうはさらに置き場が限られる。スペース確保が可能な場所を検証した結果、運転席と助手席の間のセンターコンソールに置くことに決めた。 工夫のすえ、水素や空気をそれまでの横方向ではなく、縦方向に流す「Vフロー方式」を考案。さらに燃料電池内部のセパレーターに刻まれた流路を波形にすることで、軽量・コンパクト化も達成した。 FCXクラリティに搭載されるVフロースタックは、標準的な旅行用トランクと同程度の大きさにもかかわらず、最大出力は100kW。これ1台で一般家庭25軒分の電力を余裕でまかなうことができるのだ。そのパワーを背景に、FCXクラリティはアクセルペダルを踏み込むと、実に力強く加速する。 「もちろんFCXクラリティの開発では、いろいろな技術を確立することができた。3年で200台を生産することで、量産を本格的に行うためのノウハウも蓄積できると思う。しかし、FCXクラリティは5年も10年もトップランナーでい続けることができるわけではない。もっともっと他メーカーも含め、切磋琢磨してFCEVをさらに進化させていきたいと考えています」(藤本氏) 今日、自動車メーカーはFCEVを先端技術から普及技術へ落とし込むための取り組みを進めている。そのためにはより多くのエンジニアが必要となるが、どういう人材が求められているのだろうか。 「正直、燃料電池を知っているか、あるいは自動車工学を熟知しているかどうかは、あまり関係がないと思う。私自身、燃料電池については門外漢でしたが、それでも開発責任者を務められていますし。一番大事なのは、FCEVが好きであるということ。臭い言い方をすれば、愛があればいくらでも創造性を発揮できるんですよ。あとは、全く他分野でもいいので、ある程度の規模のプロジェクトをきちんと完遂し、そこから自分なりの収穫を得られたという経験。FCEVはこれからも進化していかなければなりませんが、そこには他分野のエンジニアのイマジネーションが役立つ局面も多々あると思います」(藤本氏) 技術的メドが立ち、公道を走り始めたFCEVだが、クルマという商品としてはまだ地平に立ったばかりという段階。これから本格的な発展が始まるなか、開発に携わる楽しみもまた大きなものと言えそうだ。
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三菱i MiEV(アイミーブ)は、軽自動車の「i」をベースに、エンジンとトランスミッションをまるごとモーターとインバーターに換装。さらに床下に大型のリチウムイオン電池モジュールを搭載するという手法で作られた次世代電気自動車(PEV)だ。燃料電池車に比べて航続距離は短いが、コストが圧倒的に安く、また量産効果によるさらなるコストダウンも進むとみられるなど、実用性の高さが魅力である。
また、モーターとインバーターの騒音はきわめて低く、走行時や停車時の静粛性が高いのも特徴。都市部において、同社の益子修社長がすでに実証実験車両と同じタイプのモデルを社用車として使っているほどだ。
PEVのエネルギー効率の高さは、さまざまな種類のクルマのなかでも、飛び抜けて高い。アイミーブの場合、エネルギー効率はバッテリーが90%以上、モーターとインバーターで約90%と、トータルで8割以上という高さにまで詰めたという。もちろん発電所での熱効率や送電ロスなども考える必要はあるが、それでも環境性能は目下、圧倒的なチャンピオンである。
ところが、従来の鉛電池やニッケル水素電池に比べ、性能的にはるかに優越しているリチウムイオン電池の登場で状況は一変。「まだまだ性能的には大きく伸ばしていく必要がある」(吉田氏)ものの、軽自動車サイズのアイミーブでは、10・15モード走行時で航続距離160kmを狙えるようになった。都市部での使用であれば、十分に実用に耐えるスペックである。 たとえばリチウムイオン電池。実験段階で問題が発生した場合、電極、セパレーターなど内部のどこでどのような不具合が出たかを調べる必要があるが、リチウムは水分を嫌うため、分解してしまうと的確な究明ができなくなることもある。 「どうしたらいいか、みんなで散々考えた末に、試しにCTスキャンにかけてみたらどうだろうということになったんです。やってみたら、内部の状況が手に取るようにわかった。担当者が思わず『あっ、見えた!すげえ』と歓声を上げたくらい見事に」。 こうした工夫はモーター、インバーターなど電気自動車を構成するユニットの設計や各種試験など、あらゆる部分であるという。 「現在、電力会社様などと実証試験を行っていますが、そこでもいろいろなノウハウを得ることができた。極低温環境下で基板に結露が発生したりして、『ああ、ここはとくに徹底的に設計を詰めないとダメなんだな』ということがわかったり。また、電池を潰しても火災や有毒ガスの発生を防止するといった安全設計もずいぶん工夫しました」。 来年には本格的に公道を走り始めるPEVだが、その進化はむしろこれからが本番だ。コアテクノロジーは何と言ってもバッテリー。バッテリーの性能が上がり、コストが下がれば、さらに航続距離を延ばすなど、リッターカークラス、1.5リッタークラスと、より大きなクラスのPEVでも実用性を確保できるだろう。 「今後、自動車メーカー各社がPEVの開発に本腰を入れるに従って、バッテリー開発における材料、設計、試験など、関連するスキルを持っているエンジニアが必要になると思いますよ。コンピュータも重要。モーターやインバーターなど、これまで自動車メーカーでは層が薄かった強電分野のエンジニアも必要とされるでしょう。こうした動きは完成車メーカーだけでなく、サプライヤーにも広がると思います」。 自動車業界は今、アメリカ発の金融危機の影響を直接被っており、業績悪化懸念も少なくない。が、その一方ではPEVをはじめ、次世代技術による新規需要創造の動きも今後活発化する見通しだ。こういう時代だからこそ、自動車エンジニアにはチャンスがある。
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かつてエコカーと言えば、どう燃費を削減するか、どう排出ガスを削減するかといった、内燃機関を使った既存のクルマの技術革新という色彩が強かった。が、CO2削減や脱石油のニーズが強まった今日、エコカーの主流はハイブリッドカー、電気自動車、また将来的には燃料電池車と、電気エネルギーを利用したクルマである。
エコカー開発が進むにつれ、エンジニアニーズも加速度的に増える可能性は高い。PEVにおけるバッテリー、FCEVにおける燃料電池スタックの基盤技術や生産技術の開発について、かなりの人材需要増が期待できるほか、電気エネルギーを利用するクルマの商品開発が盛んになれば、クルマの設計など開発実務の分野でも電気利用技術に慣れたエンジニアも必要となる。 |
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