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「創」「蓄」「省」のエネルギー技術を車に応用展開することで、エコカーの未来と快適な電気自動車づくりを先取りするパナソニック。現在の課題である車内の暖冷房を改善するべく、「熱」技術の研究開発者がこれからのエコカーを熱く語る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.03.02
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パナソニック株式会社
オートモーティブシステムズ社 事業開発センター 横断事業開発グループ チームリーダー 石田 明氏 |
昨年(2010年)10月幕張メッセで開かれた、アジア最大級のIT・エレクトロニクス総合展示会「CEATEC JAPAN 2010」。パナソニックのブースでは、フルHD対応プラズマテレビやホームエネルギーマネジメントシステムなどと並んで、オートモーティブシステムズ社(以下オートモーティブ社)が総力を挙げる「EVシステム」ソリューションが参考展示されていた。 電気自動車(EV)のスケルトン模型にリチウムイオン電池が搭載され、そこに充電スタンドからエネルギーを供給する様子がデモされた。パナソニックグループの要素技術が、EVのどこに組み込まれていくのかが、一目でわかる展示内容だった。 パナソニックではいま普及価格帯のEVの実現に向けて、低コストな標準モジュールの開発が進む。家電用の省エネ空調技術を車に応用する研究や、高効率で安全な車載充電器や電動コンプレッサーの開発も同時に進んでいる。
エコカーの普及のために、いま家電で培った技術が最大限活かされようとしているのだ。CEATECのデモはこうした取り組みの一端を示すものだった。 |
せっかく地球環境に優しいエコカーに乗っても、暖房を切って、ドライバーがガタガタ震えながら運転するのでは、快適なカーライフとはいえない。これまでのエンジン車ではエンジン廃熱を暖房に利用できた。ところが、エンジンを搭載しないEVになると、暖房する際にも動力源であるリチウムイオンなど電池の電力を消費せざるをえない。バッテリーには限りがある。暖房を続ければ続けるほど、航続距離が伸びなくなるというジレンマを抱えているのだ。
現在市販されているリチウムイオン2次電池駆動の電気自動車(EV)は、公称の航続距離に対して、ヒーターを使用するとそれが約半分に落ちてしまう。日常的な買い物に使う程度なら問題ないが、遠出のドライブにはちょっと不安だ。
家庭用電源と接続している際に遠隔操作で冷暖房をあらかじめ効かせておいて走行中の冷暖房駆動を抑えようとしたり、座席にヒーターを搭載し、ドライバーを直接暖めることで,通常のヒーターの利用を抑えるなど、省エネの工夫はさまざまに行われている。しかし、それでも暖房時の航続距離は低下せざるをえない。
暖房なしの場合と同じ距離を走らせるためには、電池のエネルギー密度を増大させるか、ヒーターの暖房効率を高めるか、どちらかしかいまのところ解はない。どちらも、今後のEV普及の鍵を握る要素の一つだ。後者の解、つまりより効率的な熱マネジメントシステムの開発に取り組むのが、石田氏らのチームだ。
「現在のEVは暖房にヒーターを使っています。ところが、家庭用のエアコンでは、大気中のエネルギーを汲み上げ、その熱を有効的に使うヒートポンプが主流です。ヒートポンプに使う消費電力は必要な熱エネルギーよりも少なくて済みます。そのヒートポンプを構成する上でキーデバイスの一つとなるのが電動コンプレッサーです」
と石田氏は言う。
電動コンプレッサーについてパナソニックの研究開発は世界をリードしているが、ただ家庭用エアコンのコンプレッサーをそのまま車に載せるわけにはいかない。
「車は住宅と比べたら断熱性が弱い。窓から熱がどんどん逃げていきます。しかも車に載せるにあたっては、全体をかなり小型化しなければなりません。そこで、小型・高効率な電動コンプレッサーの開発が必要です。更に、耐久性能も、もっと高める必要があります。」
石田氏のチームの研究は、電動コンプレッサーの車載化だけでなく、今後は、車の中の熱を有効に利用するためのシステムの検討も含まれている。廃熱を効率的に再利用するために、現在は媒体として水が使われている場合が多いが、水にかわるよりベストなものがあるのかどうかの検討も深めなければならない。
熱マネジメントシステム全般の知見を深めるためには、パナソニックグループ内の要素技術をいかに集約して、車に取り組むかが重要になる。石田氏らが属する横断事業開発グループ自体が、オートモーティブ社の車載技術と、パナソニックグループの他部門にある省エネ・環境技術を融合させることを目的にしたものだ。
こうした研究成果の融合を繰り返しながら、熱マネジメントシステムの開発はどこまで進むのだろうか。
「車には温めるものと冷やさなければならないものの両方がありますが、この発熱・冷却をトータルに考えて最適の効率化を考える必要があります。現状は暖房用に消費するバッテリーの容量をフルに走行に活かすことが、究極の目標です。
さらに将来は、車に太陽電池パネルを搭載し、走りながら自然のクリーンなエネルギーを取り込み、それを走行や冷暖房に使うことになるかもしれません。」
車にどんな部品を積み込むのか、積み込むにあたってはどんな条件が必要なのか。そうした一般的な車載条件については、カーメーカーに豊富な蓄積がある。しかし、EV特有の条件となると、これは彼らにとっても未知の領域だ。
「逆にいえば、私たち総合家電メーカーに提案できる余地があるということ。エンジン車から電動車への技術転換は、私たちにとってのチャンス。日々技術が進化していくという実感も得られる現場です」
と石田氏は言う。
今後パナソニックのEV技術を高度化するにあたって求められる人材像を尋ねてみた。
「車は総合的な技術の集積ですから、一つの技術だけでそれを完成させようというのは無理な話。自分の専門技術に加え、周辺の技術についてどれだけカバーにしているかが重要。モーターやインバーターがどういう動きをしているのか、たとえそれが専門ではない技術者も知っておく必要があります。社内外のさまざまな分野の技術と協業していくためのコミュニケーション能力も不可欠でしょう。特に、将来、プロジェクト・マネジメントをしてもらうためには、こうした技術とコミュニケーションのクロスオーバーができる人というのが条件になると思います」
現状で、EVそのものにかかわった経験を持つ技術者は少ない。ただ、本当にEVにかかわりたいのであれば、そこで求められる技術要素を、独学であれなんであれ、自ら進んで求めようとする姿勢。これは高く評価されるはずだ。
石田氏自身、大阪本社のR&D部門にいたころ、自分の専門であるシステム制御技術以外のことを勉強しようと、土日を使って大学の研究室に通った経験をもっている。
「会社に命令されたわけではないんですが、自分の技術領域を広げたいと思ったんですね。私の休日の研究のなかから、会社と大学の共同研究プロジェクトが立ちあがったこともありました」
とりわけ、自動車技術のコアがエンジンから電気へと大きく転換するいま、技術者が自由に発想を広げ、自分の領域を広げていくことは大切だ。自分のこれまでのコア技術が、EVにどのように活かせるのかをとことん突き詰めること。と同時に、快適なEVを実現するために、いまどんな技術が求められているかを考え、足りない部分は補っていくという姿勢も欠かせない。
ないものを生み出すための格闘はエキサイティングだ。ただ、最終的な課題達成のためには、長期にわたる地道な実験・実証が続く。その苦しい道のりを歩み続けるために、最終的に求められるのは、意志・情熱・志しといった心の持ちようかもしれない。
「自分たちの技術で環境に貢献するんだ、という志しは強ければ強いほどいいですね」と、石田氏は、エンジニアの強いマインドを求めている。
1988年松下電器産業(当時)に入社。本社R&D部門電装品開発推進センター配属。システム制御技術者として、車両制御、カメラセンシング、GPS位置制御技術などの研究開発に従事。2003年オートモーティブシステムズ社に異動し、2008年より事業開発センターに所属し、EV関連の熱マネジメントシステムの研究開発を進める。
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