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愛車に対する感動から開発への参画を希望して転職を決意

生産技術の貢献度を武器に部品メーカーからスバルへ応募

水平対向エンジンやAWDシステムに代表される、独自技術を打ち立ててきたスバル(富士重工業)。「主張を持つエンジニア集団」としても一目置かれる企業だ。今回は、そんな社風の同社へ、生産技術の立場からエンジン開発に携わりたいと応募したエンジニアを紹介する。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:03.12.17
スバル(富士重工業)
応募したエンジニア 企業の面接担当者
橘田さん
橘田謙太郎さん(当時29歳)
張さん
群馬製作所大泉工場
第3生産技術部エンジン技術課 課長
張 弘毅氏
当時の職種
生産技術エンジニア
募集職種
パワーユニットの加工組立生産技術者
業務の内容
客先の設計変更に特急で対応するための円錐ころ軸受組立・検査ラインの立ち上げ
仕事内容
エンジンの生産仕様の見極め、生産工程・設備の立案と具現化。加工組立ラインの生産増強計画立案・具現化
職務経歴
軸受メーカーで6年強、円錐ころ軸受製造の工程設計、設備仕様検討、組立・検査ラインの開発と改良を担当
応募資格
エンジンの箱物、軸物の生産技術経験者。加工組立全般についての一般技術常識のある方
志望動機
キャリアアップとともに、特にスバル車の開発に加わりたかった
募集背景
来年から再来年にかけての新車発売計画に基づき、生産技術の即戦力を増強するため
面接の流れ
まず、明らかに採用要件から外れている応募者を人事部が除外。次に、生産技術部門内で担当の部課長が選考。
事前にWeb上で1時間程度の試験を行う。面接官は人事部の管理職1人、担当部署の部課長クラス2〜3人。所要時間は約30分。

【通過率:約2割】
面接日から2週間以内に通知する。
Part1
自己紹介と志望動機

(実際の面接には人事面接官も同席するが、ここでは一括して、技術面接官の張氏からの質問の形でまとめた)

乗って感じたスバル車の「感動」が応募動機
張:
 本日はようこそお越しくださいました。早速ですが、中途採用の選考面接を開始させていただきます。最初に、簡単な職務経歴の説明を含めて自己紹介をお願いします。
橘田:
  橘田謙太郎と申します。昭和49年3月24日生まれの29歳です。○○○(軸受メーカー)××工場でベアリングの生産技術、主に組立と検査工程を担当しております。勤続期間は新卒入社して6年半です。
張:
 【Point1】今回、当社の中途採用募集に応募された動機を聞かせてください。
橘田:
 私は以前から自動車に興味を持っていました。転職をするなら、技術に集中できて大好きな車の仕事にしようと決めていました。特に完成車メーカーです。私は今、御社の車に乗っているのですが、使い勝手や走りなどにかなり感動しています。何としても入社したいと思いました。
張:
 当社の何に乗っているんですか?
橘田:
「レガシィ」のセダンと、「プレオ」です。
張:
 2台に乗っているんですか。ありがとうございます。【Point2】車のどこが好きだったのですか?
橘田:
 小さいころからとても車が好きでした。父が車好きだったせいでもあるのですが、いつでも、どこへでも行ける便利な道具と、物心ついたときから思っていました。
張:
 当社という以外の、転職の動機はありますか?
橘田:
 技術者として正当な評価を受けたいという希望があります。今の会社の6年間で、いくつか技術的な改良を施し、効率や精度を向上させてきました。しかし、その評価が、自分が期待したほどには十分になされていない気がするのです。転職動機は先に述べたとおりですが、技術者を正当評価する企業という意味でも、御社を希望いたしました。
Point1
[面接官]この質問は必ずします。ほとんどの応募者が「車好きだから」と答えますが、ほかの自動車メーカーではなく、当社を選んだ理由まで説明してほしい。
[応募者]私はスバルが第一志望でした。その理由をストレートに話せば納得してもらえると思いました。
Point2
[面接官]「車大好き人間」でないと採用しないのかといったら、そうではありません。特に生産技術では、機械のほうがもっと好きという技術者も多くいますから。そして、組立技術のエンジニアならば、手作業で多くの人がかかわる工程もあるため、機械好きであると同時に人好きであることもチェックポイントになります。つまり、このあたりの一連の質問は、人物像を把握するのが目的です。
Part2
技術実績と入社後の技術応用

直行率60〜70%を独自の改良で99%まで向上
張:
 橘田さんは提出書類の自己PRに、「ユーザーにどんな感動を与えるかを基準に仕事を進めています」と書いています。【Point3】これまでの仕事でユーザーを最も感動させたのは、どんな仕事で、そのときのユーザーの満足度はどうでしたか?
橘田:
 【Point4】今の仕事でユーザーといえば、製造現場の方たちです。この人たちをどれだけ喜ばせる成果を出せるかと、まずは考えます。私はラインと設備の両方を担当していますが、円錐ころ軸受の自動組立機の改造では、大変喜ばれました。
 【Point5】その組立機は従来、不具合が多く、直行率が60〜70%止まりでした。それが現場の方たちを悩ませていたのですが、私の改良で99%まで向上させました。
張:
 どんなふうにして改造したのですか?
橘田:
 現場で機械に触りながら悪い点を一つひとつ探し出し、改善を加えていく形です。オーバーホール後に再投入したら、このような好結果が出たわけです。その後の社内では、同タイプの改造機が展開されています。
張:
 その改良で技術上、苦労したのはどんな点でしたか?
橘田:
 円錐ころ軸受はテーパーです。【Point6】部品供給の際の整列が非常に難しい。そこで、まずはこの整列がきっちりなされるようにすること。次に、磨耗した治工具の整備・確認サイクルです。この2つがポイントでした。
精度1ケタアップの検査技術で貢献度を証明
張:
 ご存じのように、当社のエンジンは水平対向です。組立の設備も工程も、世界中で当社だけのもの。そういうものを扱う自信、あるいは扱って貢献できる何かがありますか?
橘田:
 機械の組立工程には基本があると思います。基本がしっかりしていれば、応用は利くはずです。また、私は計測技術と検査工程も得意ですから、その点では貢献度が高いと自負しています。
張:
 検査に関する仕事で、橘田さんのいちばんの成果は何ですか?
橘田:
 ある完成車メーカーさん向けに、新製品のABSセンサーシール付きの軸受を製造したケースです。【Point7】従来の検査技術では精度が1ケタ足りなかったのですが、私の改善で検査機を立ち上げ、精度を1ケタ上げました。
日ごろの意識から不具合対策の発想力がわく
張:
 橘田さんは「生産技術が自分の天職である」とも書かれています。どういうところが天職と思えるのですか?
橘田:
 【Point8】製造現場で機械に触っているうちに、こうすれば不具合が出にくくなるのではないかという発想が、自然とわいてくるんです。その発想に基づいて対策を打つわけですが、その技術スキルにも自信があります。
 結果的に今日まで、失敗もありましたが、成功のほうが多いです。私の成果は現場で評価され、数多く導入されました。こうしたことから、組立の生産技術は自分の天職だろうと感じています。
張:
 そういう発想が出るように、日ごろから心掛けていることはありますか?
橘田:
 うーん。いつも注意して製造現場を見ておくことですね。それから、【Point9】利益を高めていくには、自動化を進めることと、設備の能力をフルに出させるようにすることが必要ですから、その意識を維持していることが大切だと思っています。
Point3
[面接官]この質問の狙いは、過去の実績の中で最も自信がもてるものは何で、どんな意識、姿勢で取り組んだのかを知ることです。
Point4
[面接官]評価できる内容です。しかしながら、欲をいえば、コストダウンを図ってエンドユーザーまで喜ばせたなどの話がほしかった。そうすれば、パーフェクトの答えだったでしょう。
Point5
[面接官]製造品のNGをここまで減らすには、高レベルの技術力と相当の努力が必要。橘田さんが優れたエンジニアであることを証明しています。
Point6
[面接官]改良の手法はもちろんですが、この答えがすんなり出てきたというのも合格点です。組立設備というものをよく理解している証拠。自動組立における供給の部分は技術的に確立されていませんから、トライ・アンド・エラーの連続にならざるを得ない。こういう答えが返ってこなかったら、逆に応募者の技術レベルを疑います。
Point7
[面接官]検査技術の精度を1ケタ上げる改善というのは、並大抵のことではできません。橘田さんが自信をもってアピールするのもうなずけます。
Point8
[面接官]生産技術の現場では技術スキルもさることながら、センスも重要。橘田さんがいう「改造の発想が自然にわく」の具体的な内容はわかりませんが、結果は出しているわけです。少なくとも、センスが悪い人ではないと判断しました。
Point9
[面接官]ここの答えの前者には、視野と経験の浅さを若干感じました。頻繁に設計変更が起こる部分の組立は、むしろ自動化しないほうがコスト圧縮になるからです。一方、後者の答えは好ましく思いました。生産技術のエンジニアとして、目標を追求する人物だと受け止めました。
Part3
海外勤務の確認と将来の目標

仮に年収ダウンでも入社の意思は変わらない
張:
 当社には米国にもエンジン工場があります。【Point10】将来、海外勤務が予想されるのですが、それについてはいかがですか?
橘田:
 米国は自動車発祥の地です。スバル車の良さを米国人にわが身でアピールする機会ですから、ぜひとも行ってみたいです。
張:
 ところで、橘田さんの現在の年収と入社後に希望する年収は事前に伺っているのですが、【Point11】現在の年収よりも低くなる可能性がないわけではありません。それでも当社へ入社する意思はありますか?
橘田:
 今回の転職は年収アップを目的にするものではありません。自分の夢を実現するために御社へお世話になりたいと考えています。
張:
 当社へ入った場合、将来に対してどういう目標をもって仕事に取り組もうと考えていますか?
橘田:
 これまでミクロンオーダーの軸受の組立、検査、品質保証を担当してきました。この経験を生かして「レガシィS401」のエンジン組立(現在は職人技での組立)を量産工程で実現させるのが当面の夢です。それと、【Point12】御社が掲げるプレミアムブランドをよりレベルアップした形にして、世の中に送り出し、ユーザーにもっともっと大きな感動を与えたいです。

(このあと、張氏は入社可能時期や希望勤務地、社宅の希望などを確認。橘田さんからの質問を促した。それに対して橘田さんは「エンジンのピストンとシリンダーの真円度はそれぞれどのくらいか」と尋ねた)
Point10
[応募者]前職では海外工場のライン立ち上げを希望してきて、かなわなかった経緯があります。この問いにはうれしくなりました。
[面接官]この質問は、確認という意味でどの応募者にもします。仕事があれば、どこへでも行くというたくましさがほしいのです。
Point11
[面接官]この質問の意図は本当の転職動機を探ることにあります。こう尋ねたとき、どんな答えをどんな表情で話すかに注目するのです。
Point12
[面接官]この考え方は好ましく感じられました。生産現場のことだけを考えるのとエンドユーザーまで視野に入れて生産技術に取り組むのとでは、仕事の質が違うのです。新エンジンの開発では生産部門から設計部門へフィードバックするものが少なくありません。視野の広さは極めて重要なのです。
面接官はここを見た!
●基礎技術力に加えてトップ水準の技術が1つでもあるか
●個性がスバルに合い、広い視野を持っているか
●仕事を最後までやり抜く強い意思を持っているか
 生産技術であっても組立と加工ではチェックする要素技術が異なる。しかしながら、それぞれの技術の基礎力に加えて、トップレベルの技術が何か1つでもあるかという見方は共通する。また、ライン設計と設備設計の両方の経験レベルを判定する。製造対象が経験内容と希望職種とで違っていても、入社3〜6カ月で一人前の戦力になれそうなら問題なし。適性面では個性と視野を重視。意欲面では仕事を最後までやり抜く人物かどうかを探る。
橘田さんはコレで決めた!
「スバルはエンジニアの個性や夢を大切にする会社と聞いていました。
これが大きな応募理由でもあるわけですが、
実際に面接を受けてみて、そのことが本当だと感じられました」
 私はエンジニアですから、技術や効率の向上を考えて、自己主張することもあります。ですから、いわゆる「出る杭は打たれる」ではない企業を探していました。その中でスバルは、個性や夢を大切にする会社と聞いていました。そして、実際に面接を受けてみたら、そういうにおいが随所に感じられたのです。面接後の雑談では、夢を持たないエンジニアが会社をつぶしていくとまで聞かされました。この会社こそ、自分に合っていると思えました。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
 橘田さんは「生産技術が天職」と語りました。私は、このような言葉を面接でいえるエンジニアは、実は少ないと思います。彼には、「単なる好きではなく、実績と結果を残してきたプロだ」という自信があるのでしょう。ですから、具体的な貢献度もアピールできるのだと思います。11月入社の彼は、まさにこれから仕事が始まります。
 転職先に考えている企業や、興味のある職種などがありましたら、ぜひお知らせください。

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