お世話になった人が部署異動や転職をする場合、どんな「別れの挨拶」をすればいいのでしょう。挨拶を考える上でのポイントや盛り込んだほうがいい話題などについて、コミュニケーション研究家で「All About」の話し方・伝え方ガイドでもある藤田尚弓さんに伺いました。別れの挨拶でよくある「メール」「対面」「スピーチ」といったシチュエーションを想定し、例文も紹介していきます。

目次
【相手別×送る側・送られる側】メールで挨拶する際の例文とポイント
同じ部署以外の人が送り相手の場合、まずはメールでの挨拶になることをお詫びしましょう。お世話になった相手であれば、冒頭に「本来は会って直接ご挨拶したいのですが…」などと一言お詫びを添えると好印象を与えることができます。
メールは簡潔すぎるより、少し長めのほうが丁寧さを感じ好印象になる傾向があります。「お世話になりました」だけで終わらせるのではなく、エピソードを交えながら感謝の思いを伝えましょう。
【例文】同じ部署だったメンバーへのメッセージ
鈴木さんの働きぶりには、いつも刺激を受けていました。私の方が1年先輩なのに、関連部署へのきめ細かい心配りや丁寧なフォローなど、教わることばかりでした。
鈴木さんとは社外の勉強会を何度か行ってきましたが、会社が変わってもまた一緒に何かできればと思っています。今まで本当にありがとう。そして今後ともよろしくお願いします。
【参考】自分が異動・転職する場合は?
異動・退職する理由に軽く触れた上で、今までの感謝を伝えましょう。相手が異動・退職する場合と同様、共通のエピソードを交えながら感謝の気持ちを伝えるといいでしょう。
なお、転職する場合は、転職先の企業名までは伝える必要はありません。「次は○○業界で」「○○関係の仕事に」など、抽象度を上げて伝えるといいでしょう。今後もお付き合いを続けたい相手であれば、転職先への入社後に具体的に報告するのが一般的です。
【例文】社内でお世話になった人へのメッセージ
加藤主任には入社以来、ずっとお世話になりっぱなしでした。私がマーケティング部に異動した後も、何かと気にかけていただき感謝しております。新しい部署でなかなか力を発揮できず落ち込んでいたときに、私の悩みや不安をとことん聞いてくださったことは一生忘れられません。加藤さんがいたから、ここまで頑張ってこられたのだと思っています。
本当に長い間、お世話になりました。新しい職場でのご活躍を、心よりお祈りしております。
【参考】自分が異動・転職する場合は?
この場合も、まずは直接会って挨拶できないことをお詫びしつつ、これまでお世話になったエピソードに触れて感謝の気持ちを伝えましょう。エピソードが思いつかないという場合は、「なぜこの人にあいさつしたいと思ったのか」を考えると思い浮かびやすくなります。
【例文】顧客や取引先へのメッセージ
貴社の担当となり、柏木様に初めてお目にかかった時のことを、昨日のことのように思い出します。以来、○○プロジェクトや△△イベントなど、様々な取り組みをさせていただきました。我々を信頼いただき、どんな意見にも耳を傾けてくださり、心から感謝しております。
【参考】自分が異動・転職する場合は?
相手が顧客の場合は、特にしっかりとメールでの挨拶になることをお詫びしましょう。中には「担当だったにも関わらず直接の挨拶がない」と怒ったり、不快に思ったりする人もいます。また、後任の紹介も入れましょう。顧客や取引先は、次の担当に対して不安を覚えています。後任の人となりがわかるような情報と合わせて紹介するといいでしょう。
【相手別】対面で直接挨拶する際の例文とポイント
すべての相手・シーンでの「別れの挨拶」に共通することですが、よくある定型フォーマット通りの挨拶はお勧めしません。
別れの挨拶を伝えたい、もしくは伝える関係性であるということは、それだけ距離が近く、お世話になった機会も多いということ。自分の言葉で、自分ならではのエピソードを交えた挨拶をすることで、感謝の気持ちを伝えましょう。
ここでは、職場やミーティング、打ち合わせの場など、異動・転職する相手に対面で直接別れの挨拶をする際のポイントと例文をご紹介します。
【例文】上司へのメッセージ
ご迷惑をかけっぱなしでしたが、特にA社へのプレゼン前日、遅くまでロープレに付き合っていただいた時のことは忘れられません。
○○部に異動されるのはとても寂しいですが、これからも田中マネージャーの教えを大切に仕事に励みたいと思っています。本当にありがとうございました。
ポイント
上司が異動・退職する場合は、「助けてもらったエピソード」を盛り込むといいでしょう。上司にエスカレーションした案件、ミスをフォローしてもらった機会など、誰しも経験があることでしょう。そのエピソードを挙げつつ、「その節はお世話になりました」と感謝の気持ちを伝えましょう。
【例文】先輩へのメッセージ
先輩には、私が配属された当初から面倒を見てもらい、本当に感謝しています。営業のイロハを教えてもらったのはもちろん、先輩お気に入りのランチスポットや居酒屋で一緒にハシゴしたことも忘れられません。転職しても、またお店でお会いしましょう。新天地でのご活躍をお祈りしています。
ポイント
先輩へのメッセージポイントは、基本的には上司と同じと捉えて問題ありません。ただ、上司よりも距離が近い先輩には、助けてもらったことではなく「教えてもらったこと」を取り上げるのもいいでしょう。親しい先輩であれば「○○部長は、贔屓の球団が負けた次の日は機嫌が悪いので近づかないほうがいい」「△△のランチはお値打ちなのでお勧め」のようなカジュアルな内容でもOKです。
【例文】部下・後輩へのメッセージ
ポイント
部下や後輩が異動・転職する場合は、「褒める」ことがポイント。相手を認めることにつながります。上司・先輩のあなたに褒められたことで、自信を持って異動先や転職先で活躍してくれるでしょう。
【例文】同期へのメッセージ
渡辺の行動量の多さにはいつも感心していて、「成果を上げるために人の倍、行動する」という信念を尊敬しています。転職先でもこれまで培った経験とスキル、強みを活かし、トップ営業を目指してください。
ポイント
同期に対しても、部下や後輩と同様「褒める」のがポイントですが、伝え方に注意が必要。褒める行為には承認のニュアンスも含まれるので、相手によっては「上から目線」と感じてしまう可能性があります。「褒める」に「尊敬している」というニュアンスを加えてまとめましょう。
【例文】顧客へのメッセージ
ポイント
お世話になった顧客へのメッセージは、これまでの共通のエピソードを交えて感謝を伝えるといいでしょう。これはほかの相手の場合も言えることですが、「自分と相手が登場人物になっているエピソード」を取り上げるのがお勧めです。
例えば、「失敗してしまったときにリカバーしてくれた」「大変なプロジェクトを共に走り抜いてくれた」など。2人が登場人物であり印象的なエピソードなのであれば、例えば「出張中に大雨に降られた話」「プロジェクトの打ち上げで盛り上がった話」などもよいでしょう。
ただ、顧客は職場の人に比べ「一緒に過ごす時間」が短いため、象徴的なエピソードはないというケースもあります。その場合は、「○○さんとの打ち合わせがいつも楽しみでした」「△△さんの仕事ぶりにいつも刺激を受けていました」などの言葉を添えるのも一つの方法です。
【シチュエーション別】スピーチで挨拶する際の例文とポイント
例えば飲食店での送別会の席や最終出社日でのフロア送別など、大勢の前で別れの挨拶をするケースもあるでしょう。オフィシャルの場でのスピーチだけに、相手の立場に関わらず「敬語を使う」のが基本です。
送別会の場はお酒が入る場でもあり、少し崩した表現もアリですが、ベースは敬語であるべきです。最終出社日のスピーチは、よりオフィシャルな場になるので、異動・退職する相手に対して最上級の丁寧な言い回しで挨拶し、敬意を持って送り出しましょう。
【例文】送別会の場での挨拶スピーチ
佐々木さんは努力家で、顧客のことをとことん調べる姿勢に感銘を受けていました。A社の大型受注を獲得した時は、自分のことのように嬉しかったのを覚えています。また、営業部の中では「スイーツ番長」でもあり、お昼休みにこっそり遠征して人気店のパンケーキを食べに行ったのもいい思い出です。
次の部署でも佐々木さんの強みを活かし、活躍してくれることを願っています。落ち着いたら、またいつもの居酒屋で近況報告でもし合いましょう!
【例文】最終出社日での挨拶スピーチ
杉本さんは人事部配属以来、ずっと新卒採用に取り組んでくれていました。就活生に本気で向き合い、一人ひとりに寄り添う姿勢に感銘を受けたものです。おかげで毎年、採用目標数を達成できており、退職率も過去最低水準を維持しています。これは杉本さんの努力の賜物であると確信しています。
杉本さんはムードメーカーでもあり、採用が大詰めで皆が疲弊しているときも、明るい笑顔とトークで場を和ませてくれました。私も杉本さんに癒され、刺激を受けた一人です。来月からは新天地で働かれるとのこと。どうか身体を大切に、新しい職場でも杉本さんらしく活躍してください。ありがとうございました。
別れの挨拶で「コネクティングドッツ」を作ろう
「相手が異動・退職したらこれから関わらなくなるのだから、わざわざ挨拶をする必要はないだろう」と思う人もいるかもしれませんが、仕事でできた縁が思わぬところでつながり、活きてくる場面があります。
過去の経験や人脈が、後日思いもよらない形で活きることを「コネクティングドッツ」といいます。一つひとつの縁を大切にすればその縁に助けられるなど、必ず何らかの形で今後のキャリアに活きてきます。
別れの挨拶は、コネクティングドッツを築くための第一歩。自分の言葉・自分だけのエピソードで、心からの感謝を伝えてほしいと思います。
株式会社アップウェブ代表 藤田尚弓さん
警察署にて防犯のコミュニケーションデザインを担当。その後民間企業を経て、株式会社アップウェブ代表取締役に。講師としては法政大学大学院客員教授、東京スクールオブビジネス非常勤講師などを経て、現在は企業研修中心に活動。テレビ出演多数。日本社会心理学会会員、早稲田大学オープンカレッジ講師、コラムニスト。