「ビジネスにおいては洞察力が必要」などと言われることがありますが、なぜいま洞察力が求められているのでしょうか?また、効果的な「身につける方法」はあるのでしょうか?大手企業のデジタルマーケティング支援を行っているトライバルメディアハウス代表であり、SNSなどで若者向けのキャリアや働き方に関する情報を多数発信されている、池田紀行さんに伺いました。

洞察力とは?
洞察力を辞書で引くと「本質を見極める力」と説明されています。
今皆さんが日々かかわっているビジネスは、分野は違えども、「なんらかの課題を解決することで、今より良いものにすること」という部分は共通しています。例えば、売上が下がっているのであれば、その理由を洞察し要因を見極めて対処すれば、売上は上がるはずです。
ただ、真の課題がどこにあるのかを正しく診断しないと、正しい処方もできません。その正しい診断をするために必要なスキルが、洞察力です。
洞察力が今、注目されている理由
過去20~30年のトレンドを見ても、今後の展望から考えても、洞察力のない人は仕事のパフォーマンスが上げにくい時代になっています。若手ビジネスパーソンがこれから仕事で成功し、キャリアアップしていくには、洞察力が必要不可欠と言えます。
一昔前までは、そこまで洞察しなくても、各社が抱えるビジネスの課題が似通っていたため、先人のやり方を真似すれば解決できるものがほとんどでした。そのため洞察力がさほどなくても、行動力や、効率的に物事に取り組む力があれば、結果を出せていました。
しかし現在は、昨年の成功事例が今年は全く通用しないぐらい、事業環境の変化が激しい時代。先行き不透明なVUCA(※)の時代でもあり、いわゆる勝ちパターンが存在しません。このような時代を生きていくには、洞察力を発揮して「今、何に注力すべきか」を常に考え見極める必要性が増しているのです。
※VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
「自分はまだ若手だから、上司の指示を受けてそれを言われたとおりにやるだけ。洞察力を発揮する場はない」と言う人もいるかもしれませんが、ずっと受け身のままでいられるわけはありません。今のうちに洞察力のトレーニングをしておかないと、仕事において「自ら考え、行動する」要素が増えてきたときに、うまく考えられなかったり、ずれた判断をしてしまったりする恐れがあります。繰り返しになりますが、洞察力はこれからのビジネスパーソンになくてはならないスキル。1日も早くトレーニングに着手すべきだと思います。
【トレーニング方法】 洞察力を高める4つのステップ
多くの人は、「できるだけ簡単な方法でスキルを手に入れたい」と考えますが、洞察力の習得に「簡単な方法」なんてありません。ただ、これから説明するトレーニング方法に真剣に向き合い、それを継続していけば、誰でも習得は可能と考えています。
Step1:「洞察力がないと仕事にならない」ことを認識し腹を括る
まずはそもそも、「洞察力を身につけないと仕事にならない」と正しく認識することが何より大切。自分に洞察力が備わっていないことに、危機感を持つべきです。
多くのビジネスパーソンは、洞察力について「あればいいな」とは思っているけれど、そこまで真剣に捉えてはいないようです。しかし前述のとおり、洞察力なしではビジネスで成果を上げるのは、どんどん難しくなっていきます。
トレーニングを継続するのに重要なのは、何をおいても「動機付け」。継続さえすれば必ず洞察力を高めていくことができるため、しっかりと継続できるようにまずは腹を括りましょう。
Step2:本を読んで最低限の知識をインプットする

洞察力を高めるには、前提となる知識が必要。その知識をインプットすることが最初のトレーニングです。
よく「洞察力を高めるには、『なぜこの事象が起きたのか』という問いかけを繰り返すなぜなぜ分析が有効」などと言われます。実際有効ですし、ぜひやってほしいのですが、知識がない段階で「なぜなぜ」を繰り返しても正しい洞察はできません。
例えば、マーケティングに関する知識がない人がコンビニの棚を見ても、大した洞察はできないでしょう。せいぜい「先週まであった商品が1つ無くなっているな。売れなかったのかな」ぐらいのことしか考えられないはずです。
でも、マーケティングに関する知識があれば、今どんなものが売れているのか、コンビニとスーパーの棚の違いなど関連知識を駆使しながら、「商品が1つ無くなった」という事実の奥にある真因まで想像が及ぶようになります。
本は年間100冊が目標。最低でも月2、3冊は読もう
知識のインプットに有効なのは、何をおいても読書です。自分が身を置いている業界や分野、業務に関連のある本を、とにかく読んでください。
本は、わずか数千円で先人が積み重ねた知識や知恵、経験を極限まで抽象化し、最高レベルで整理整頓されている、最良の情報パッケージです。そして読書は、誰にも迷惑をかけず、誰の邪魔もしないインプット方法です。できれば年間100冊は読んでほしいですが、最低でも月に2、3冊の読書はマストにしてほしいですね。余談ですが私は20代のとき、年間100冊ではなく「100万円分」の本を読んでインプットに努めていました。
単に本を読むだけでは、洞察力は上がりません。ただ、本を読むと少しずつ頭の中の「本棚」が埋まっていきます。
そして何十冊と読み進めていくと、頭の中の本棚が小さな図書館になります。この棚には業界知識、この棚はマーケティング、この棚はロジカルシンキング…など、読んだ本を棚に整理していく中で、ある時ふと仕事の中で「あ、あの本に載っていたことだ」と思い出し、本棚から知識を引っ張り出せるようになります。
Step3:世の中で起きていることを「なぜなぜ分析」して図に書き出す
ある程度本を読んだら、「なぜなぜ分析」を行ってみましょう。お勧めしたいのは、話題のニュースの中から3つをピックアップしてみて、「つまりはどういうこと?」と考えてみること。
たとえば、「この商品がヒットしている」「この店が話題になっている」「このテーマパークが人気を集めている」という3つのニュースだったら、共通するパターンや法則はないかを「なぜなぜ」を繰り返して考えてみるのです。
このように、異なる事柄の中から共通点を見つけ「つまりこういうこと」とざっくりまとめることを「抽象化」と言います。抽象化のためには洞察力を発揮して本質を見極める必要があるので、必然的に洞察力が鍛えられます。
その際に大事なのは、「書き出す」こと。チャート図やロジカルツリーなどどんな形式でもいいので、起きている事象や因果関係などをパワポなどに書き出しましょう。世の中には、具体を抽象化するための図がたくさん出回っています。SNSでバズっている図も多いので、そういうものを参考にしてみてください。
もしも思うように図にできなかったら、自身の考えがまだ整理できていないということ。さらに思考しながら、頭の中を整理していきましょう。
図にするトレーニングを重ねることで、具体的な事象を抽象化する力が高まり、共通パターンや法則を見出すための洞察力も磨かれます。今起こっていることやこれからすべきことを、整理してわかりやすく第三者に伝えられるようにもなるでしょう。
Step4:洞察力ができる人からフィードバックをもらう

洞察力がなかった人にとっては、自分は正しく思考できているか、トレーニングの成果は上がっているか、自分で判断するのは難しいものです。したがって、洞察力がある人に1カ月に1回、四半期に1回など、定期的にフィードバックをもらいPDCAを回すことが重要です。課題に対する自分なりの洞察と、書き出した図を見てもらい、意見を仰ぎましょう。
「そんな人は身近にいない」と思うかもしれませんが、それを探すのもトレーニングのうち。社内を見渡し、リサーチを重ね、「この人は洞察力が高そうだ」という人を探し当ててアプローチしましょう。
洞察力がある人は必ず「仕事ができる人」なので、とても忙しいはず。知識がほとんどないまま丸腰で臨んだところで、相手にしてはもらえないでしょう。そのためにも、Step2のインプット、Step3の図に書き出すトレーニングをある程度重ねておくこと。相手に「頑張っているみたいだから、ちょっと見てあげようかな」と思わせるぐらいの姿勢を見せることが大切です。
フィードバックを得たら、それを参考にPDCAを回して自身の洞察力をブラッシュアップしていきましょう。もちろん、その傍ら本を読み、図に書き出す取り組みも継続すること。
どんなに有効なトレーニングの虎の巻を得ても、続けなければ身に付きません。立ち止まりそうになったらStep1の「腹を括る」に立ち戻り、自分を鼓舞してほしいですね。
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池田紀行さん
株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長
1973年横浜市出身。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表などを経て現職。300社以上の広告宣伝・広報・販売促進を支援。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『売上の地図』(日経BP)、 『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)ほか著書・共著書多数。
X(旧Twitter): @ikedanoriyuki
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