苦手な人とどう付き合う?上司、先輩、同僚、顧客…相手別・うまく接する方法

職場や取引先に苦手な人がいるけれど、仕事だから避けたり逃げたりするわけにはいかない…と悩むビジネスパーソンは少なくありません。このように、「苦手だけれど、かかわらざるを得ない相手」とは、どのように付き合えばいいのでしょうか?これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医・井上智介先生に、ストレスを軽減する上手な付き合い方について教えていただきました。

不安そうな表情を浮かべるビジネスパーソン_イメージカット
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苦手な人とうまく付き合うための「基本行動」

大前提として、「苦手な人との関係性を良くしようとは思わない」ことが重要です。
仕事をうまく進めるには、苦手な人であっても関係性を良くしないといけない…などと考える人が多いと思いますが、苦手な人と信頼関係を築くのは難易度が高いでしょう。

信頼関係とは、自分がまず相手を信頼することで成り立つ関係性です。しかし「苦手な人を信頼しろ」というのが、そもそも無理な話。たとえ頑張って信頼しようと努めても、心がついていかず思うようにいかなかったり、相手に思いが伝わらず無力感に苦しんだりして、余計にストレスになります。

苦手な人と接するときに大事にしてほしいのは、「自分が傷つかないようにする」ことと、「ストレスを抱え込みすぎない」こと。そのためには、苦手な相手と適度な距離を取ることが重要です。
距離を取る方法としては「物理的な距離を取る」方法と「精神的な距離を取る」方法の2つがあります。具体的な方法を、以下にご紹介します。

物理的な距離を取る方法

苦手な人とは物理的な距離を取り、できるだけ視界に入らないようにすることが大切。リモートワークや在宅勤務などをうまく活用して、直接顔を合わせる機会を極力減らしましょう。毎日は難しくても、週1回だけでも顔を合わせない日を作れたら、それだけでも心がかなり楽になると思います。

苦手な人の顔が見える状況だと、それだけで心が乱れ、仕事に集中できなくなる人も多いようです。半休制度やフレックスタイム制などもうまく活用しながら、少しでも同じ空間にいる時間を減らすといいでしょう。

精神的な距離を取る方法

オフィスで会話するビジネスパーソン_イメージカット
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苦手な相手と業務で日常的にかかわらなければいけない場合、物理的な距離を取るのは限界があると思います。精神的な距離の取り方も、いくつか覚えておきましょう。

メールやチャットでのやり取りに切り替える

同じ環境で働いていても、対面でのコミュニケーションを減らせば心を乱される機会も減ります。たとえば連絡事項はすべてメールやビジネスチャットで送るなどすれば、自分のペースを乱されず精神的にも安定します。相手にも、仕事の依頼や連絡は口頭ではなく「文字に残して忘れないようにしたいので、メールかビジネスチャットで送ってほしい」などとお願いするといいでしょう。

直接コミュニケーションの機会を極力減らす

苦手な人とのコミュニケーションを、業務上必要なものだけに限定することも大切です。もし仕事以外の雑談を振られたら、最低限のリアクションにとどめましょう。無理に雑談に乗って、話を広げる必要はありません。
その結果、相手に「あいつはあまり話に乗ってこないから、雑談を振るのはやめよう」と思ってもらえれば幸運なことで、向こうから必要以上に距離を詰めてこなくなります。

周りを巻き込み1対1のやり取りを減らす

苦手な相手との1対1のやりとりを減らすことは大切。誰かを巻き込めば、1対1に比べて相手との関係性の濃度が薄まり、精神的な距離も保てます。
たとえば苦手な上司であれば、他の関係者も巻き込み複数人で会議や打ち合わせを行ったり、苦手なクライアントであれば、上司や先輩に商談に同行してもらったりメールのCCに関係者を入れたりするといいでしょう。相手の意見やしてき、要望の矛先が自分1人に集中しないので、精神的な抜け道が確保できます。

いくら苦手でも「やらないほうがいいこと」とは?

「苦手な人とはかかわり合いたくない」と無視しようとする人がいますが、仕事である以上、無視したり避けたりすれば間違いなくトラブルになります。トラブルの火消しのため、逆に深くかかわらざるを得なくなり、余計に辛くなるかもしれません。

無視したいぐらい苦手でしんどい相手に対しては、無視ではなく「無関心」でいることです。何を言われてもどんなことをされても、必要以上に反応せずに無関心を貫き、やるべき仕事はしっかりやり切る。心がブレそうになったら、目の前の仕事に意識を全力で集中させれば、相手に対するネガティブな気持ちも紛れるでしょう。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

苦手な上司、理不尽な顧客…相手の立場別・うまく付き合う方法

握手するビジネスパーソン_イメージカット
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苦手な上司や先輩、扱いに困る後輩や部下、理不尽な要求ばかりしてくるクライアントなど、相手の立場別の上手な付き合い方をご紹介します。

上司の場合は「仕事に集中し余計なコミュニケーションは取らない」

上司は自分より社会的地位が高いから、自分を評価してくれる相手だから…などと無理に愛想よく振る舞おうとする人がいますが、そんなに無理をする必要はありません。時間を守る、挨拶をするなど、社会人としての基本的な礼儀や約束ごとは守りつつ、仕事に真面目に取り組めば、それ以上相手に踏み込まなくても大丈夫です。「やるべきことはやり、余計なコミュニケーションは取らない」の姿勢を貫きましょう。

ただ、コミュニケーションを取らない=意見を言わず押し黙ってしまう人がいますが、「単なるおとなしい人」という印象は与えないほうが無難です。万が一相手に悪意がある場合、「何をされても事を荒立てず、黙っているタイプ」と認定されてしまうと、面倒くさい仕事を押し付けられたり、理不尽に辛く当たられたりする可能性があるからです。

そのリスクを避けるためには、「いざというときには声を上げそうなタイプだ」と思ってもらうことが重要。たとえば、会議の場で積極的に発言する、有志の集まりやプロジェクトなどに積極的に参加する、など。仕事に対して能動的にあり続けることで、無用な攻撃を受けずにすむでしょう。

先輩の場合は「相手を立てて承認欲求を満たす」

やたら後輩にちょっかいを出したり、意見してきたり、嫌味を言ってきたりするような、いわゆる「ウザ絡み」をしてくる先輩は一定数います。「自分のほうが社歴が長い」「自分のほうがこの仕事のことを良く知っている」など、後輩より優位に立ちたいという意識の表れであり、ある種の承認欲求です。

そのため、苦手でコミュニケーションを取りたくない相手であっても、たまには褒めてあげたり、感謝したりするといいでしょう。「○○社から契約を得たなんてすごいですね」「○○について教えていただき助かりました」などと伝えると、承認欲求が満たされ、面倒くさい絡みが減らせます。

また、「先輩がやたら飲みに誘ってくるのが嫌」という人もいますが、無理に付き合わず断ることも大切です。ただ、「すべて行く」「すべて断る」と0か100かで考えるのではなく、「3回に1回ぐらいなら行けそうだ」「1対1ではなく複数人だったらたまには行こうかな」など、自分の中で許容範囲を決めておくといいでしょう。

同僚の場合は「頼られすぎたら線引きをする」「マウンティングは受け流す」

同僚は、仲間でもありライバルでもあるという難しい存在です。仲間だからと過剰に頼られたり、逆にやたらマウンティングしてきたりするケースもあるようです。
相手の都合も考えず頼ってばかりの同僚に、無理に付き合ってもストレスが溜まります。たとえば「今日は1時間だけなら手伝える」「この業務のこの部分だけなら手伝える」など、できる範囲を明確に線引きして伝えるといいでしょう。

「自分のほうが仕事がデキる」などとマウンティングしてくる相手には、正面から向き合ってもしんどいだけ。むっとしたり、張り合ったりせず、心の中で「お先にどうぞ」と受け流すようにすると心の平穏を保ちやすくなります。
もしも心に余裕があれば、ちょっと褒めてあげるといいでしょう。「すごいね」「○○にはかなわないなあ」などと褒めれば、相手の承認欲求が満たされます。癪にさわるかもしれませんが、マウンティングの矛先から外れられるので褒めたほうが結果的に楽です。

後輩や部下の場合は、「相手の意向に合わせたコミュニケーションを取る」

一生懸命仕事を教えているのに真剣に聞かない、真面目に取り組んでいるように見えないなど、部下や後輩にこちらの思いが全く刺さらないときに苦手意識を持つケースが多いようです。

怒りや無力感を覚えないためにも、まずは後輩や部下が仕事に何を求めているのか、しっかりつかんでおくことをお勧めします。今の若手世代は、仕事よりもプライベートを大事にしたいと考える人が多く、「そんなに必死に仕事をしたくないし出世にも興味がない」「仕事は最低限にとどめプライベートを充実させたい」という仕事観を持つ人も少なくありません。そんな相手に、自分の価値観を押し付けてしまうと、おたがいにギャップを感じストレスを溜めてしまうだけ。無用な軋轢を生まないためにも、相手の意向に合わせたコミュニケーションを意識しましょう。

顧客の場合は、「上司など第三者を巻き込み情報共有する」

無理な要求をしてきたり、理不尽なことばかり言ってきたりするクライアントに、苦手意識を持つ人は少なくありません。顧客の場合は、コミュニケーション量を減らすわけにも、無理な要求を受け流すわけにもいきません。貴重な取引先だからしかたない…と我慢して対応している人が大半かと思いますが、それではストレスが溜まりいつかパンクしてしまいます。苦手と感じる理由が火種となり、いずれトラブルに発展する恐れもあります。

お勧めしたいのは、全てのやり取りに第三者を絡めること。商談や打ち合わせには上司や先輩に同行してもらい、メールを送る際には、自分の上司と別の先方担当者をCCに入れ、やり取りをすべて共有しておくといいでしょう。対面やメールでのやり取りから、クライアントの無謀さ、理不尽さを上司に理解してもらうことができますし、もしトラブルになった場合も原因が明確なので会社を挙げて迅速に対応できるようになります。

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それでもストレスが溜まったら…セルフケアを実践しよう

前述のような方法で対応しても、苦手意識がゼロになるわけではありません。うまく対応しているつもりでも、いつの間にかストレスが溜まってしまうということもあるでしょう。

そんなときは、まずは「寝ること」です。心と身体を同時に癒せる方法はそう多くありませんが、睡眠は双方にとってプラスです。ストレスを感じたと思ったら、いつもより1時間多く寝てみるとか、昼休み中に少し仮眠を取ってみるなど、睡眠量を増やすことを意識するといいでしょう。

もしくは「自然と触れ合う」のも効果的です。休み時間に近くの公園に行って、木々や草花を見ながら風を感じるだけでも、リフレッシュ効果があります。ランチをデスクで食べるのではなく、公園で食べるのもいいでしょう。仕事から意識が切り離され、いい気分転換になります。

自分にとって癒しになる画像や動画を見るのもお勧めです。ネコやイヌ、赤ちゃん動画などもいいですし、家族の写真を見てリラックスするのもいいでしょう。好きなアイドルなど「推し」の写真や動画でもいいと思います。心が疲れたときにそういうものを見ると、心が軽くなりストレスが軽減されるというエビデンスがあります。

これらを試してもストレスがひどく、身体に不調が出るようでしたら、早めに専門家に相談を。われわれ産業医のこともうまく活用してください。

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メンタル産業医・精神科医 井上 智介さんメンタル産業医・精神科医 井上 智介さん

兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)など著書多数。

EDIT&WRITING:伊藤理子
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