タイパ(タイムパフォーマンス)とは?メリット・デメリットと、自分時間を豊かにするためのヒント

「ドラマは倍速で視聴」「曲はサビだけ聴く」「まとめ動画を好んで観る」…今、Z世代を中心に広まる時短的な行動の背景には、時間当たりの満足度=「タイパ(タイムパフォーマンス)」をできるだけ高めたい意識があると言われています。タイパが注目されるようになった理由やメリット・デメリット、そしてタイパとの上手な付き合い方について、若者世代のトレンドに詳しい、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所上席研究員の森永真弓さんにお話をうかがいました。

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タイパ(タイムパフォーマンス)とは

「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略語。ある行動にかけた時間に対して、得られる満足度を意味します。つまり「タイパ(タイムパフォーマンス)を高める」「タイパを重視する」とは、限りある時間を効率的に使い、その中でより満足度の高い体験を得ようとすることです。

タイパに似ている言葉として、もともとあるのが、かけたお金に対して得られる満足度を指す「コスパ(コストパフォーマンス)」です。コスパが「費用対効果」と呼ばれるのと同じように、タイパも「時間対効果」と言い換えられることがあります。

タイパはZ世代を中心に流行している

タイパという考え方や行動様式は、主にZ世代(1990年代中盤から2010年ごろまでに誕生した世代)を中心に広まってきたと言われています。iPhoneが日本で最初に発売されたのが2008年ですから、Z世代はスマホと共に育ち、SNSや動画共有サービスなどに親しんできた「SNSネイティブ世代」でもあります。

彼らは若いころからインターネット上の膨大な情報に触れ、その中から自分にとって有益なものを選び取る行動をごく自然に行ってきました。もちろんこれはZ世代でなくともやっていますが、上の世代との違いがあるとすれば、自分にとって無駄(有益でない)ものを大量に捨てて、有益なものを残す行動も重視していることです。限られた時間の中で、できるだけ効率の良い情報収集の方法を選択してきたことが、さまざまな場面でタイパを求める行動として表れているのかもしれません。

スマートフォンを見ている人のイメージ
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「タイパがいい」の具体的事例

タイパを重視する行動として最初に注目されたのは、さまざまなエンタメの楽しみ方です。例えば、ドラマや映画、アニメなどを倍速で視聴したり、重要ではない場面をスキップしたり、コンテンツを短く編集した「ネタバレ動画」や「まとめ動画」を好んで観ることなどです。短い時間でたくさんのコンテンツを楽しむことができたり、全編を観なくてもストーリーや作品についての評判を把握できたりするため、「タイパがいい」と言われています。「作品全体ではなく、ストーリーがざっくりわかりさえすればいい」とも捉えられる消費スタイルと言えるでしょう。

もう一つの典型例は、学びの場でのタイパです。最近は動画授業や動画研修が広く定着しましたが、そうした動画を倍速で視聴するのはすでに一般的なことです。通常再生で1回観るよりも「倍速で2回観ることでより理解度が深まる」という学生も少なくないようです。

社会人も、仕事の勉強のために本を読むのではなく、本の要約サイトを活用したり、まとめ動画を観たりして、効率的に済ませるタイパ志向の人が増えています。こうした利便性の追求は、仕事や学びを効率化したい幅広い世代の人々に広まっていますし、今後も定着していくでしょう。

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なぜタイパが求められるようになったのか

主にZ世代の間で、倍速視聴を始めとするタイパが求められるようになったのには、いくつかの要因があると考えています。

技術の進化とコンテンツの氾濫

昔から本の速読や読み飛ばしをする人がいたように、「効率的に情報を得たい」という人間の欲望は、本質的にはずっと変わっていません。現代は、インターネットで膨大なコンテンツにアクセスでき、倍速再生しても音声を自然に保つ技術が開発され、多くの動画配信サイトに倍速再生機能がつくなど、テクノロジーとサービスが大きく進化しました。

「効率を上げたい」という需要があれば、関連ビジネスも拡大します。例えば映画やアニメ、時事問題など、あらゆるジャンルの「ダイジェスト動画」や「まとめ記事」がどんどん増加し、今や、時短や効果・効率に繋がるクリエイティブはネット上にあふれています。
人の欲望に技術が追いつき、それを意識する作り手も増え、その流れがますます加速していることは、タイパが広まった一つの要因と言えるでしょう。

社会から「効果・効率」を煽られている

Z世代は、キャリア教育などを通じて「やりたいことを見つけよう」「好きなことを見つけよう」と教えられ、またインターネット上で垣間見える大人たちの姿を通じて「無駄は避けて効率的に行動することが必要だ」と考えてきた世代であり、それもタイパを求めてしまう理由の一つだと考えています。

巷には効果・効率を重視したライフハックがあふれ、SNSからは起業家など成功者の声も数多く入ってきます。「成功するには勉強も仕事も効率的に」「人生で回り道する暇はない」といった世の中の圧が、若者の「効率を上げないとドロップアウトするのではないか」という不安を煽っているように感じます。

今は「いい学校を出て大企業に就職する」といった人生の「王道」ルートがなくなり、常に自身で道を開拓しないと生きていけません。やりたいことが明確な人にはいい時代なのかもしれませんが、そうではない多くの若者はいつも焦りを募らせていて、少しでも失敗をしたり、時間を無駄にしたりすることを嫌がる傾向があります。
映画を観る前にまとめ動画などで予習するのも、「自分の感性に合わない作品に時間を使いたくない」という気持ちがあるからでしょう。

コミュニティーでの生存戦略として必要

今の若者の多くは、小学生時代から「多様性」の大事さを叩き込まれています。世の中にはさまざまな立場の人がいることを理解しており、会話の中で不要な意見の対立を生むことを避ける傾向があります。したがって、雑談の場では、社会情勢など意見が対立する可能性があるテーマで場を凍らせたくないため、無難な話題が必要になります。そこで選ばれることが多いのが、コンテンツや「推し活」の話です。

昭和の時代なら、「みんな知っている」「みんな観ている」人気のアイドルやドラマが存在し、それさえチェックすれば会話に不自由しませんでした。今は好きなアーティストもコンテンツも人によってバラバラですが、「人が楽しそうにしている話を聞くのは楽しい」「同じ推しを持つ者として理解できる」と、お互いの推しの話を語り合うスタイルになっています。

しかし、推す対象がない場合や、たまたま自分以外のみんなが、話題のアーティストや作品を知っているといったことが起きる場合があります。そうなると、自分が属するコミュニティーの会話についていくための「生存戦略」として、話題になったり、友達に勧められたりしたアニメやドラマなどを、片っ端から観ていくことになります。限られた時間で大量のコンテンツを観なければならないため、倍速視聴やネタバレ動画を使うなど、タイパを意識せざるを得なくなっているのです。

無論、もっと上の世代にも倍速視聴を好む人はいますが、純粋にそのジャンルの愛好家で、より多くのコンテンツを観るために利用するケースが多いようです。友達とのコミュニケーションを目的とするのは、Z世代特有の傾向だと言えるでしょう。

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タイパを求めることのメリットとデメリット

技術的にも環境的にもタイパを求めることができる現代は、人によって大きなメリットがある一方で、多くの若者にとっては生きづらさに繋がる面もあると考えています。

【メリット】目的が明確であれば凄いスピードで成長できる

限られた時間を効率的に使い、より満足度の高い経験を得ることがタイパの本質だとすれば、大リーグで活躍する大谷翔平選手や、将棋の藤井聡太七冠は、タイパを究極まで突き詰めた事例だと言えるでしょう。

彼らには幼いころから野球や将棋という人生の目的があり、関連するあらゆる情報を自力で集め、自分に合ったトレーニング方法や人材、環境などと繋がり、あの域に到達しています。その成長速度は、これまでのどの世代よりも明らかに速いのではないでしょうか。

スポーツ以外にもさまざまなジャンルで、膨大な情報の中から積極的に学び、タイパを高めることで成長し、活躍している若者はたくさんいます。やりたいことさえあれば、タイパによって最短距離で高みに到達できる可能性があるのです。

【デメリット】やりたいことがないと振り回されやすい

逆に、自分は何が好きなのか、何をやりたいのかわからない人は、活躍する同世代を横目に見て焦りを感じやすい環境でしょう。短時間で大量の体験や情報を摂取できてしまうだけに、人生の目的が定まらないタイプの人ほど、今やるべきことに的を絞るのが難しくなります。

「あれも必要」「これもやっておこう」と自分の時間を切り刻み、集めた情報を咀嚼しないまま消費してしまうため、多くの体験が「○○した気になった」ことの詰め合わせになりがちです。ふと振り返ると、細切れ過ぎて何も残っていない…ということになりかねません。

タイパに振り回されずに時間を充実させるには?

上述したように、人生の目的が明確な人は、どんどんタイパを高めて邁進すればいいでしょう。でも実際は、自分が本当に好きなこと、やりたいことが見つからないまま、タイパが目的化してしまっている人も少なくありません。そんな人は、少し立ち止まって、次のように考えてみてはいかがでしょうか。

情報の中から「好き」と「嫌い」を見極める

「毎日タイパしています」「山ほどドラマを観ています」という人は、それだけ膨大な情報量を日々浴び続けていることになります。そこで、情報を処理する中でぜひ実行してほしいのが、ただ漫然と受け取るのではなく、自分の中で「ピンと来る」「来ない」「好き」「嫌い」を明確に意識しながら仕分けをすること。そのときは「自分はなぜそう思うのか」という思考を一つひとつ挟むことが大切です。

そうすると、自分が得意なことや興味のあること、好きなものがわかってきます。さらに関連する情報を取りに行き、知識や経験を広げていくといいでしょう。一方で、嫌いなものや合わないと感じるものは、我慢せず、そして不安にならずに捨てて構いません。それがなくてもあなたは生きていけます。そうすれば少しずつ自分の中で変化が起き、焦燥感や不安感が軽くなるでしょう。やりたいことや、叶えたい目標も見つかるかもしれません。

無駄なことをする自分を受け入れる勇気を持つ

ある大学でお話をしたとき、「企画のアイデアを出せるようになるには?」と質問され、「無駄なことをいっぱいしておくと、それが独自の発想に繋がります」と答えました。すると、200人超の学生さんから「無駄なことをしてもいいんですね!勇気をもらいました」という主旨の感想文が寄せられたのです。今の若者はそんなにも「無駄なことをしてはいけない」と思い詰めているのか。そう気づいて愕然としたことがありました。

人生から脱落する不安が大きい人は、「無駄なことをする自分」を受け入れる勇気を持ちましょう。例えば、「みんなに追いつくため」の情報収集を一旦やめて、その時間で一つのことにじっくり取り組んではいかがでしょうか。新しい勉強でも、推し活でも、小さいころに興味があったことをもう一回やってみるのでも、何でもいいので、純粋に自分の興味関心のために時間を使うのです。

もし、期待していた成果が出なかったり、飽きてしまったりしても、それはそれとして受け入れていいのです。成果が出なかった理由、飽きてしまった理由を考えれば、それもまた一つの貴重な人生経験で、無駄ではありません。今は無駄だと感じる経験が、10年後に突然、重要な何かと紐づく可能性もあります。そう考えれば、どのようなこともすべて人生に意味のあることに変えていくことができるのです。

森永真弓氏博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上級研究員 森永真弓(もりなが・まゆみ)氏

通信会社を経て博報堂に入社し、現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、 ネットヘビーユーザー、オタク文化、若者研究などをテーマにしたメディア出演 や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』(太田出版)、「グルメサイトで★★★(ホシ3 つ)の店は、本当に美味しいのか(共著)(マガジンハウス)がある。

取材・文・編集:鈴木恵美子
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