デザイン思考とは何か?5つのプロセスと、ビジネス戦略での活用法を解説

新規事業の立ち上げやマーケティング、商品開発などの場面でよく耳にするようになった言葉の1つに「デザイン思考」があります。Appleを始め米国企業の多くが採用しているとも言われるデザイン思考とは何か。基本的知識と進め方のプロセス、ビジネスでの活用法などを、スタンフォード大学でデザイン思考について研究してきた廣田章光氏に聞きました。

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デザイン思考が注目される理由

デザイン思考とは、優れたデザイナーの思考法をビジネスに活用するために生まれた手法です。デザイナーは「問題を発見する」「アイデアを生み出す」「アイデアをビジュアルで表現する」といったことを日常的に行っています。

デザイン=見た目と思われがちですが、人の動きがスムーズになるように動線を計画することもデザイン。「これまでにない製品やサービスを創造すること=デザイン」なのです。

デザイン思考の概念は、アメリカのデザインコンサルティング会社でAppleのワンクリックマウスなどを作ったIDEOとスタンフォード大学が教育プログラムとして体系化しました。そして2000年代から世界に広がりました。

アメリカではGoogleやFacebookを運営するメタ(Meta)なども日常的に使っていることで知られます。日本には2015年頃から拡がりました。デザイン思考が注目されるようになった背景には、近年の経営環境の不透明さや社会の変革スピードの速さなどがあります。

かつては提示された問題を素早く解決する力があれば、企業として生き残っていけました。しかし、ビジネスのグローバル化が進み、デジタルネイティブが生まれ、モノ・コト・情報が多様化するなかで、かつての視点だけでは測れない不確実性が増しています。問題が出てきてから解決する能力よりも、潜在的にある問題を発見する力が重要になってきたのです。

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デザイン思考とアート思考の違いとは

デザイン思考と似た言葉に「アート思考」という語があります。どちらもビジネスにイノベーションを起こすための起爆剤として注目されていますが、この2つには大きな違いがあります。

「アート思考」は一人称。画家でもミュージシャンでも、アーティストは自分が描きたい絵を描き、自分が聴きたい音楽を作る。「自分がこんなことをしてみたい」「私はこんなモノ・コトほしい」が発想の起点です。

これに対して「デザイン思考」は二人称。目の前の相手を理解することが出発点です。本人すら気づかずにいるその人が抱えている問題(潜在ニーズ)を見つけ、それを解決する製品やサービスを提供します。

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デザイン思考のステップは5つ

デザイン思考は問題を見つける行動と解決する行動の2つで構成されますが、一般のビジネスでは問題を解決することが業務の大半を占めています。

いかに早く、安く、正確に提供するかは、日本の企業が得意とするところ。社員教育もそこにフォーカスされ、工業型人材を輩出するトレーニングが継承されてきました。しかし、世の中にない独創的なモノやコト、サービスを設計・計画するには新たなプロセスが必要です。

デザイナーではないビジネスパーソンが、デザイナーの思考法を活用し、日常的に試行錯誤を行うために、スタンフォード大学のd.schoolが開発したのが、次に紹介する5つのステップです。

●デザイン思考5つのステップ
デザイナー思考 デザイナーの創造プロセスを可視化ステップ1. 共感(Empathize)
ステップ2. 問題定義(Define)
ステップ3. 問題解決(Ideate)
ステップ4. 試作(Prototype)
ステップ5. 検証(Test)

※廣田章光氏提供の「デザイナー思考 デザイナーの創造プロセスを可視化」資料より

第1のステップでは目の前の人に共感し、そこで得られた情報から問題を見つけ出して、第2の問題定義をします。第3のステップで目の前の人の問題が解決された体験を考え、その体験を実現するためにどんな製品やサービス、技術が必要かを考えアイデアを出します。

そこで終わりではなく形にしてみることが、第4ステップのプロトタイプです。そして最後に検証するのが第5ステップです。この5つのサイクルを何度も繰り返すことが、基本プロセスとなります。

デザイン思考を活用する上でポイントとなるのが、その特徴を理解することです。デザイン思考における3つの特徴をご紹介します。

デザイン思考の特徴1:共感する

通常のビジネス思考と大きく違う点の1つが、共感することです。多くの企業の場合、突然アイデア出しから始まってしまいますが、デザイン思考では、二人称である目の前の人をまず理解するための情報収集をし、共感して問題を見つけることを重要視します。

社会の変化のスピードが速く、不透明な時代になるほど、従来、「こんなときはこんな方法がいいよね」と思っていた解決法や価値観は刻々と変わり、既成概念はどんどん陳腐化していっているからです。

目の前の人に共感するためには、現場に足を運び観察する。その人に話を聞いたり同じ体験をしてみたりすることが重要になります。

デザイン思考の特徴2:プロトタイプを作る

もう1つのデザイン思考の大きな特徴が、プロトタイプを作ることです。ビジネスの世界ではPDFの文書やPowerPointのスライドなどでアイデアを表現して完結しがちです。しかしそれでは実効性があるのか実現可能なのか検証ができません。

ラフなものやチープなつくりであったとしても、まず実際にモノを作ってみる。そしてそれを必要としている人に使ってもらいます。プロトタイプを渡すことで、手にした時の表情、使ってみてもらうことで得た反応など、検証の精度が違ってきます。

モノではなく、コトやサービスの場合であれば、実際に体験してもらいます。例えばレストランでは料理が美味しくても、スタッフの接客態度が悪かったり、流れている音楽が店に合っていなかったり、隣の席と近すぎて話し声がうるさかったりといったことで、その体験はプラスにもりマイナスにもなります。

では音楽はどういう選曲にするか、料理の出し方や配席はどうするかなどを詰めていき、体験してもらうのです。その上で、カスタマージャーニーマップ(顧客が商品・サービスを知ってから最終的に購買に至るまでのプロセス)に沿って、ターゲットになる顧客の行動と、行動に伴う気持ちの変化を感情曲線にして可視化します。

それをもとに問題を見つけ、思考法の5つのステップを繰り返しながら、どう改善したらどう感情曲線が変化するかを検証・議論していきます。

デザイン思考の特徴3:可視化する

デザイン思考では、情報を可視化して共有します。言葉以外のもの、スケッチやイラスト、図などで表現して可視化することで、一緒にチームを組んでいる人たちと共通認識を持つ点が、デザイン思考の特徴です。

ビジネス世界のほとんどは言葉と数字で表現されてきました。しかし世の中には、言語化できない情報がたくさんあります。例えば「めちゃくちゃむかつく」。気持ちはわかりますが、「めちゃくちゃ」は人によって強弱に差があります。

ビジュアルにすることで、言葉や数字だけでは共有しきれないものを補っていきます。共有体験と可視化をしながら、協働のプロセスをへることでみんなが同じゴールを目指して問題解決に走りやすいのです。

デザイン思考は企画部門や開発部門に必要なものと思われがちですが、実は全社的なシステムの再構築など、営業や人事などあらゆる部門で活用できる手法なのです。

一人デザイン思考でアイデアをストックする

デザイン思考は組織だけでなく、個人のキャリア形成にも有効な手法です。スタンフォード大学では自分のキャリアをデザインするときにデザイン思考を使いますし、新しいビジネスの立ち上げや、日常の会議で意見やアイデアを求められたときの引き出しを増やすことにも活用しています。

デザイン思考を導入するかは会社の事情に左右されますが、個人でトレーニングすることはできます。例えば「観察」。通勤時の観察だけでも、さまざまな人が困っていることや街の課題が見つかるかもしれません。

デザイナー思考 マインドセット+スキルセット
※廣田章光氏提供の「デザイナー思考 マインドセット+スキルセット」資料より

人が得る情報の大半は視覚によるもの。だからこそ匂いや音、振動や手触りなど五感で通じて観察を行い、気づきへの感度を上げておくことが大切なのです。気づきが多ければ多いほど、アイデアのストックや問題を見つけ出すヒントにつながります。

日々の中で気づいたことを「メモする習慣」を持つことも有効です。気づいたことに対して、なぜそれに関心を持ったのかを振り返り、課題定義や問題解決を考えてみるためにも、メモでストックして可視化しておく。スケッチなども交えて、言語と非言語を組み合わせて表現することをお勧めします。

イノベーションとは、異質なものをいかに組み合わせるかで起こります。ということは、異質なものに気づく能力と、それをビジュアライズしていろいろ組み合わせて、発想を広げることが有効です。

アイデア出しが得意な人は、観察で気づく力を磨き、その気づきをメモして準備しているからこそ、アイデアが出てくるのです。観察してメモを取り、折りに触れ見返してみることは、今日から実践していただけるデザイン思考の一端です。ぜひ実践してみてください。

近畿大学経営学部教授(商学博士)
廣田章光 (ヒロタ アキミツ)氏

廣田章光さん株式会社アシックス入社後、スポーツ工学研究所に配属。経営企画室、マーケティング部門設立、運営を経て2008年から現職。スタンフォード大学 客員教授(2013年~2014年)、カリフォルニア大学 客員研究員(2014年)、(公財)神戸市産業振興財団 理事、日本マーケティング学会 理事、近畿大学 デザイン・クリエイティブ研究所 所長。専攻は、マーケティング論、製品イノベーション論、デザイン思考。主な著書に、『デザイン思考』(日経BP 2022年)、『DX時代のサービスデザイン』(共編著 丸善出版 2021年)、『1からのブランド経営』(共編著 碩学舎2021年)など。

取材・文:中城邦子 編集:馬場美由紀
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