具体化とは?言葉の解像度を高め仕事に役立つ「具体化力」の鍛え方

「具体化」とは、言葉の解像度を上げること。頭の中にある意見や考えをうまく言語化して伝える際には、この具体化する力が特に必要とされます。具体化力がビジネスに必要とされている理由、そして具体化力を高める方法などについて、『「うまく言葉にできない」がなくなる言語化大全』の著者であり、伝える力【話す・書く】研究所所長、山口拓朗ライティングサロン主宰・山口拓朗さんに伺いました。

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「具体化力」がビジネスに必要である理由

具体化とは、具体的な情報を付加して言葉の解像度を上げることです。

解像度が高い=すなわち情報の密度が高いということ。密度が高ければ、第三者になにかを伝える際にも細部まで具体的に伝えることができ、相手も話の内容をよりくっきりと明瞭にイメージすることができます。

しかし、実際には「頭の中に伝えたいことはあるのに、それを具体化して伝えるのが苦手」という人は少なくありません。その結果、相手に「言っていることがフワっとしていて要点が伝わらない」「話の内容がイメージできない」などと言われてしまうケースも多いようです。

具体化力を上げるためには、脳内にあるさまざまな情報を整理し、一つひとつに具体的な情報を肉付けし膨らませることで、言葉の解像度を上げることが大切です。
具体的な情報が3つでもあれば、相手は話の内容をイメージしやすくなり、言いたいことが正しく伝わるようになります。認識のずれや誤解も大幅に減らせるでしょう。

ビジネスにおいては、頭の中にある意見や考え、アイディアなどを言葉にして伝えなければならない場面、すなわち「言語化力が必要とされる場面」が多いですが、「言いたいことはあるのに、それをうまく言葉にできない」と悩む人が少なくありません。

具体化力は、言語化力を身につけるうえで特に重要な要素です。情報が頭の中で具体的にイメージできていないと、言語化できるはずないからです。具体化力を磨けば、どんな人でも必ず言語化力を高めることができ、ビジネスパーソンとしてより評価を得られるようにもなるでしょう。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

事実はまず「5W3H」で具体化する

情報を具体的にするためには、「5W3H」を活用するのが有効です。

「5W3H」というのは、「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」「How many(どのくらい)」「How much(いくら)」で情報をわかりやすく伝える基本です。

相手に何か伝えたり報告したりしたときに、「それってどういうこと?」「ちょっとわからないところがあったんだけど」などと聞き返される場合は、大抵この5W3Hのいずれかが抜けています。言葉で伝える場合ならば、相手がこのように聞き返してくれる可能性が高いので、その場で不足を補うことができますが、文章の場合はそうはいきません。わざわざ問い合わせしてくれるのは稀で、誤解されたままだったり、記憶の片隅に追いやられたりしてしまうでしょう。

5W3Hを使って具体化すれば、伝えたいことが整理され、情報の解像度も高まります。特に、業務日誌や日報、進捗報告、業務以来などの「事実情報」を具体化するときに役立ちます。
すべての項目に当てはめることはできないかもしれませんが、まずは当てはめてみようとする姿勢がトレーニングになります。

●「5W3H」

When=いつ・いつまでに(期限・期間・時期・日程・時間)
Where=どこで・どこへ・どこから(場所)
Who=誰が・誰に(主体者・対象者・担当・役割)
What=何を・何が(目的・目標・要件)
Why=なぜ・どうして(目的・理由・根拠・原因)
How=どのように(方法・手段・手順・様態・様子)
How many=どのくらい(程度・数量)
How much=いくら(価格・費用)

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物事を具体化する「5つの思考のものさし」を鍛えよう

ただ、頭の中にある物事を具体化しようとしても、「どうしても何も思い浮かばない…」という場合もあるかもしれません。

そんなときに力を発揮するのが、「思考のものさし」です。いわば解を導く補助線のようなもので、思考がぱっとクリアになり解像度が高まります。
「ものさし」の種類はたくさんありますが、特にビジネスで使い勝手がよく、万能なのは次の5つです。

●ビジネスシーンで役立つ「思考のものさし」

1.「メリット・デメリットは?」
2.「ビフォー・アフターは?」
3.「類似点・相違点は?」
4.「誰におすすめ?」
5.「どうやって?どんなふうにして?」

何も思いつかないときは、まずこの5つのものさしに当てはめてみると物事が自然と具体化していきます。それぞれの使い方を、ご紹介しましょう。

ものさし1:メリット・デメリットを考える

これはメリットか、それともデメリットか、で物事を考えていく方法です。

たとえば、「上司から社員食堂を廃止することについて意見を聞きたい」と言われた場合。自分の考えがまとまらず、具体的な意見が思いつかない…と悩む人は多いでしょう。

そんなとき、メリット・デメリットで考えてみると、たとえばメリットは「社員食堂の運営費が削減できる」、デメリットは「若い単身者が多いわが社では、食堂を利用することで栄養バランスを保っている社員も多いから、食堂がなくなることで彼らが体調を崩し業績に支障が生まれる恐れがある」などと、自分の意見を洗い出しやすくなります。

メリット・デメリットというものさしは、自分視点、会社視点、SDGs的視点など、いろいろな視点から考えられるのも利点です。そしてメリットだけではなくデメリットも踏まえたうえで出された結論は、説得力が格段に上がりますし、周りから「多角的に考えられる人」として評価されるでしょう。

ものさし2:ビフォー・アフターを考える

前述の「メリット・デメリット」が物事の表と裏を比較しているのに対し、「ビフォー・アフター」は時間軸で比較します。

たとえばあなたがスポーツジムのトレーナーで、相手に入会を勧めたい場合、「会員の方の86%が3カ月以内に体重を5キロ減らすことに成功した」など、ビフォー・アフターで考えると伝えたいことを具体化できます。

ほかにも、例えば面白い本を読んでその感想を伝えたいとき、「いつも残業に追われていたけれど(←ビフォー)、この本のタスク管理術を実践したところ、仕事の効率が良くなって残業時間が大幅に減った(←アフター)」という具合に具体化することができます。

このように、ビフォー・アフターは「過去と現在」や「今と未来」を比較することで、その変化を相手がイメージしやすい形でイキイキと伝えることができるので、覚えておくと便利です。

ものさし3:類似点・相違点を考える

比較する対象を見つけて類似点・相違点を考えるというのも、使いやすいものさしです。「たとえば、○○と似ているところは?違うところは?」などと自問自答してみましょう。

たとえば、目薬の販促用のポスターをA案、B案のどちらにするか決めるとき。「A案とB案の類似点は、タレントさんが目薬を手にしているところ。相違点は、A案は目薬を差した直後の『くぅ~!』な状態であるのに対し、B案は商品を手に取って『どや!』と掲げている状態である」などと、類似点・相違点を洗い出すことで、「A案のほうが、この商品ならではのクールな差し心地が伝わってくるな。B案はタレントさんの顔に目が行ってしまい商品の印象が薄くなるかも」など、自分では気づいていなかった理由も具体的に浮き彫りにできるでしょう。

このように、類似点・相違点を使って比較しながら考えをまとめると、第三者に伝わりやすい意見にブラッシュアップすることができます。

ものさし4:誰におすすめ?を考える

「誰におすすめ?」は、この○○を喜ぶのは誰か、すなわち「ターゲットは誰か」を考えるというものさしです。

たとえばあなたが飲料メーカーの営業担当者で、得意先のスーパーマーケットに健康飲料の新商品を陳列してもらえるようお願いする際、このものさしを活用して「高血圧が気になる働き盛りのビジネスパーソンや、健康長寿を目指すシニア、子どもの飲食に気を配っている親御さん」などとターゲットを挙げていくと、具体化が進み、スーパーの担当者が納得・共感しやすくなります。

この考え方は、商品やサービスなどの企画を考えるときにも役立ちます。ターゲットを明確にすることで、その人たちが受け入れやすい価格やパッケージ、販促方法などディテールを詰めやすくなるため、提案する相手の同意も得やすくなるでしょう。

ものさし5:どうやって?を考える

「どうやって?」は行動が生じる場面の具体化にうってつけです。

たとえば、運営している通販サイトにもっと人を呼び込み買ってもらいたいとき。人を集める販促手法やPR方法を考えようとしても、なかなか具体的に思い浮かばないケースがあります。
そんなとき、「たとえばどうやって?」という視点で考えれば、「5W3Hを意識して商品の説明をより詳細に書き、魅力を伝えやすくする」「キャンペーンや割引を実施して、お試し買いをしてもらう」「掲載写真を増やして商品のディテールを伝える」「商品を使用する様子を収めた動画を埋め込む」などと、具体的な手段や方法が洗い出され、行動に移しやすくなります。

もし「どうやって?」で具体化しても「まだ漠然としている」と感じたときは、さらに「どうやって?」を繰り返し自問自答しながら具体化を進めていくといいでしょう。

具体化力は、グローバル化に伴いますます必要とされるスキル

日本には古くから、「察しようとする文化」があります。多くの日本人には「皆まで言わずとも察してほしい」という思いがあるし、「自分自身も相手の意図を察したい」という思いやり、優しさがあります。

ただ、時代は移り、確実にグローバル化が進んでいます。そして、10代を中心に「詳しく言ってもらわないとわからない」という人が増えています。いにしえの日本人的なコミュニケーションのままだと、たとえ日本国内にいても「何を求めているのかわからない」と思われてしまい、誤解や誤認、行き違いを生んでしまう可能性があります。
それを避けるためには、物事を伝える際にできるだけ具体化して、「相手に察する余地を与えない」ことが大切。前述したような方法で情報を具体化し、コミュニケーションをブラッシュアップし続けてほしいですね。

なお、具体化力を磨くことは言語化力を身につけるためにも重要とお伝えしましたが、「語彙力」「伝達力」という2つのスキルとも大きくかかわっており、これら3つを鍛えることで言語化力を高めることができます。詳しくは、以下の記事をご覧ください。

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「言語化大全」書影山口拓朗さん

伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」などの文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)などがある。最新刊の『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)は発売3カ月で5万部超えのベストセラーになっている。
公式サイト:http://yamaguchi-takuro.com/

EDIT&WRITING:伊藤理子

 

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