仕事に集中できないのはなぜか?原因別に改善策を紹介

仕事を効率よく進めたいのに集中力が続かず、タスクが積み重なっていく…。
そんな悪循環を断ち切りたいと悩む社会人が増えています。そこで、『最高の体調』『ヤバい集中力』などの著者である鈴木祐氏に、科学的・脳医学的な観点から「仕事に集中できない」原因や改善法を語っていただきました。

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人間の集中力が続かないのは仕方がないこと

「自分は集中力がない」と、自己嫌悪に陥る人は少なくないでしょう。しかし、そもそも「集中が得意な人」など、この世に存在しません。人間には「本能」と「理性」があり、常にぶつかり合っています。

科学的に説明すると、人類進化の初期に脳にできたのが、食欲や性欲などの本能的欲望をコントロールする「辺縁系(へんえんけい)」エリア。後期に生まれたのが、複雑な計算や問題解決を得意とする「前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)」と呼ばれるエリアです。

1980年代に研究者たちが脳スキャンを繰り返した結果、人間の頭の中では辺縁系エリアと前頭前皮質エリアが常に主張をぶつけ合い、肉体の支配権を争っている事実が明らかにされました。

本能とは生存のための機能なので、自分に役立つ情報を受け入れるときには集中力を発揮します。しかし、「何のためにこの仕事をしなくてはならないのか」といった意識があると本能は働かず、理性を発動させてこなす状態となります。そして、基本的に理性は本能には勝てません。

ただし理性によってテクニックを駆使し、集中力をコントロールすることは可能です。集中できない原因ごとのテクニックをご紹介していきましょう。

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仕事に集中できない原因とは

やらなければならない仕事があるのに、なぜ集中できないのでしょうか。原因として、次のようなものが挙げられます。

  • 睡眠不足や疲労の蓄積などによる体調不良
  • マルチタスク、仕事量の多さ
  • 仕事場の環境が合わない
  • スマホなど、周辺に「誘惑」が多い
  • 心配ごとを抱えている
  • 正しい呼吸ができていない

皆さんが仕事に集中できない理由として、自分に当てはまるものはあるか。まずは、自分の集中力を奪う要因を認識することが大事です。

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仕事に集中できない原因別に対処法・改善策を解説

ここからは集中できない原因別に対処法、改善策をお伝えします。

睡眠不足や疲労などで集中できない場合

根本的な改善策は、睡眠や休息を十分にとり、体調を立て直すこと。しかし、睡眠不足や疲労が溜まっているときに集中して仕事をするなら、「カフェイン」が有効です。「脳に効く」と謳われるサプリもありますが、疲労物質を一時的にブロックする成分として、カフェインほど効果が立証されたものはないのです。

科学界のコンセンサスとしては「150~200mgのカフェインを飲むと、約30分で疲労感がやわらぎ、注意力の持続時間が向上する」。ただし、カフェインによる疲労物質ブロックを繰り返すと効果は落ちていきます。頼りすぎないようにしましょう

なお、カフェインのメリットは300mgを超えたあたりから薄れ、400mg以上で副作用が出ることが確認されています。一度に缶コーヒー2本(カフェイン400㎎以上)を飲むことは避けてください。

また、起床してすぐにコーヒーを飲むのは、集中力アップの観点からは良くありません。人間の身体は午前6時頃からコルチゾールという覚醒系のホルモンが分泌され、少しずつ目が覚めるようにできています。コルチゾールは起床から90分で減り始めるので、それ以降にコーヒーを飲めばカフェインを集中力に活かすことができます。

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マルチタスク、仕事量の多さによって集中できない場合

多くの仕事を抱えていると、一つの仕事をしていても別の仕事に少しずつ意識が向かいます。脳を別のことにも使うため、機能が低下し、目の前の仕事に回すリソースがなくなってしまうわけです。

根本的な解決法は、優先順位を見極めて人に任せられることは任せてしまうこと。しかし、それでもマルチタスクを強いられる場合、脳に有効なのは「視覚化」することです。「やること」を全部書き出し、「この時間にこれをする」と割り振っておく。すると、整理したことによって脳が安心します。

漠然と「やることがいっぱいある」と考えていると脳は休まりません。不眠の原因になることもあるため、タスクの書き出しは「当日朝」ではなく、「前日寝る前」にするといいでしょう。「この順番で進めれば大丈夫」と、脳を安心させておくことが重要です。

周辺に誘惑が多く、集中できない場合

目の前の仕事にストレスを感じたときに集中力が途切れ、ついネットを見たりSNSをチェックしたり、ペットをかまってみたりと、周辺の誘惑に負けてしまうこともあります。それを防ぐには、以下のように「こうなった場合にはこれをする」というルール設定を設けてみてください。

「スマホをチェックしたくなったら、あと5分だけ目の前の作業を続ける」
「本や資料を読むのに集中できなくなったら、あと5ページだけ読む」

ここでは「5」という数を使いましたが、自分が実行しやすいルールを決めておけばいいのです。いったん集中が切れると、元に戻るまで20~30分を必要とし、これが積み重なれば1日のムダが計3~4時間に達することもあります。

しかし、「あと5分だけ!」と、小さな我慢を重ねると集中力のバランスを壊すことなく、我慢してルールを守れた経験が自信を育てていきます。

しかし、ルールを設定しても「スマホの誘惑に勝てない」という人も多いでしょう。「今日はどうしても集中しなくてはならない」というときは、スマホの電源をOFFにした上で、別の部屋に置いてみてはいかがでしょうか。

仕事場の環境のせいで集中できない場合

人間は周辺環境を目印に、体内スイッチを切り替えています。オフィスではデスクにつくことで仕事のスイッチが入りますが、在宅ワークではスイッチがうまく切り替わらず、集中に入れない人も多いでしょう。

この場合、自宅内に作業ごとの専用スペースを設けることをお勧めします。そして、作業をするときには必ず決めた場所だけで行うようにします。

  • 仕事をするときは自室のデスクだけで行う
  • 勉強するときはリビングスペースだけで行う
  • 筋トレなどをするときはキッチン付近だけで行う

人間の脳は「場所」と「情報」を結び付けて脳内のデータベースに記録する性質があります。同じことを繰り返ししている場所に行くと、自然といつものの行動をとろうとします。この性質を、作業に集中するために活かしましょう。

同様に、「時間割」も設定します。「この時間から○○を始め、この時間に休憩をとり、この時間には△△をする」など、ルーチンを作っておきます。在宅勤務であれば、オフィスで働いていた頃を思い出し、再現してみるのも一つの手です。

心配ごとがある場合

仕事・プライベートに関わらず、何らかの心配ごとを抱えていると集中力を発揮できないことがあります。大きな問題であれば、それを解決するのが先決ですが、軽度の不安の場合は「不安タイム」を設けるのが有効です。

例えば、朝に何らかの心配ごとが生じたら、「今夜○時から不安がろう」と決め、スケジュールに記入します。日中に心配ごとを思い出しても、「これは後で、○時から不安がることだから」と思えば、不思議と目の前の仕事に集中できるものなのです。これは「脳をだます」テクニックであり、研究でも実証されています。

また、「大事なプレゼンを控えていて、緊張のあまり集中できない」といったケースもあります。プレッシャーを感じると心拍数が上がってドキドキしますが、ここでも「脳だまし」の技が使えます。「自分がドキドキしているのは、楽しみでワクワクしているからだ」と考えると、緊張のレベルを適度に抑え、集中力を発揮しやすくなります。

正しい呼吸ができていない場合

集中するためには、呼吸のコントロールも大切です。しかし、呼吸の乱れについては、本人は気付いていないケースも多いものです。

例えば、対応に悩む内容のメールを受け取り、ストレスや緊張を感じながら返信メールを打っている際、無意識のうちに無呼吸状態になる人もいます。これは集中している状態といえますが、「過集中」は良い集中とはいえません。

ある程度リラックスした状態で集中しなければ、作業効率アップにはつながらないのです。呼吸の状態に自分で気付くのは難しいのですが、意識を向けてみてください。1回深呼吸をすることで対処できます。

とはいえ、呼吸のクセを変えるのは難しいので、トレーニングをお勧めします。適切な集中力を発揮している人は、1分間の呼吸数が6回~7回。1日5分でもいいので、この呼吸を意識してみてください。大体、「4秒吸って8秒吐く」ペースです。トレーニングによって身体が感覚を覚えれば、普段の呼吸も改善されるでしょう。

また、パソコンに向かうときに前傾姿勢をとっていると、胸部が圧迫されて呼吸が浅くなります。背筋を伸ばして座ることも、集中するためには重要です。

仕事に集中できない人の共通点

なぜ一つのことに集中できないのか。原因は前述の通り多様ですが、集中力を欠きやすいタイプの人に共通する特徴があります。それは「感情のコントロールが下手」ということです。

人間の集中が途切れるのは、大体感情のコントロールがうまくいってないときなのです。不安やストレスを感じると、そこから逃げるためにインターネットを見てしまう。自分が不快感から逃げていることに気付けていない。ある意味「自分の感情に素直な人」といえます。

自分の感情をコントロールできないかぎり、ご紹介した対処法もその場しのぎで終わってしまいます。そこで、「集中力を高める」目的で感情のコントロールをマスターする方法を2つご紹介しましょう。

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「軽度の不快」に慣れる

集中力を奪われる多くの場合は、「軽度の不快」から逃げようとするときです。普段から軽度な不快をあえて味わことで、不快に慣れ、自分を鍛えてみてください。それにより、仕事中に軽度の不快を感じても乗り越えられるようになります。

例えば「運動」。人によって、「軽いウォーキングだけでも不快を感じる」という人もいれば、「ウォーキングは平気だけどランニングはキツい」という人もいるでしょう。自分にとって快適なラインから、5~10%程度の「不快」ゾーンを経験することで、不快を乗り越える力が養われます。「お酒を1杯飲みたいけど我慢する」「お菓子を半分で我慢する」などでもかまいません。

こうして「ちょっとした我慢」を達成したら、記録をつけておくといいでしょう。記すことで脳が反応し、自信につながります。

「サードパーソン・セルフトーク」を実践する

「サードパーソン・セルフトーク」とは、第三者視点で独りごとを言うこと。自分の感情を他人の視点から描写する手法です。イライラしたり、やる気が起きなかったりするとき、例えば自分が「鈴木」であれば、「鈴木さんは今、イライラしていますね」と声に出してみる。これだけでも自身を客観的に見つめられ、感情のコントロールが利き、集中力が上がります。

アメリカの研究などでも、成績が良い学生と悪い学生を調べると、IQ値はあまり関係なく、感情をコントロールする力が影響しているという結果が出ています。感情のコントロールは集中力にかぎらない万能能力です。ぜひ身に付けることをお勧めします。

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サイエンスライター 鈴木 祐(すずき ゆう)氏

1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。無理なトレーニングや食事制限なく痩身、体質改善を目指す「パレオダイエット」に詳しい。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねつつ、科学に関する最新の知見を紹介する自身のブログ「パレオな男」は月間250万PVを達成。
著書に、15万部を突破した書籍『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『無(最高の状態)』『科学的な適職』(同)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる』(かんき出版)ほか。

監修:薬剤師・久田邦博
取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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