キャリア自律とは?自分に合った働き方を見つけ、将来のキャリアにつなげるために

近年、「キャリア自律」という言葉をよく耳にするようになりました。自分のキャリア形成を所属企業など他者にゆだねるのではなく、自分で考えて行動を起こしていくことが求められています。自発的にキャリアを築いていくためには、どんな観点を持ってどう行動していけばよいのか、リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所の古野庸一さんにアドバイスをいただきました。

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キャリア自律とは?

「キャリア自律」とは、自分のキャリアを自分で考えてコントロールすることを意味します。キャリア形成を会社に依存せず独立して歩んでいくのであれば「キャリア自立」とも言えますが、会社員として会社から与えられた役割、あるいは社会的に担う役割をどのように全うするかも重要です。

自分の思うままに行動すればよいわけでないという観点から、「律する」という字が用いられるのが一般的です。

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なぜ、今キャリア自律が注目されるのか?

昨今、なぜ「キャリア自律」が重視されるようになったのでしょうか。背景として大きく次の3つの観点が挙げられます。

「VUCA」の時代の到来

今は「VUCA(ブーカ)の時代」と言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた言葉です。

この先何が起こるか誰も予測できず、「正解」がない状況において、自分が今従事しているビジネスがどう変わっていくかわかりません。今のビジネス、身に付けているスキルだけに依存するのはリスクが大きいと考えられています。

ビジネス人生の長期化

寿命が延びて「人生100年時代」といわれる一方、年金を受給できるのかどうかが不安視されており、これまでより長期間働き続けなければならない可能性が高まっています。

ビジネス人生は長期化しますが、一つの事業や仕事の寿命は短期化。終身雇用も崩れ、生涯1社で勤め上げることも難しくなりました。

同じ仕事をどこまで続けていけるかわからないため、経験・スキルを掛け合わせながらキャリアの選択肢を増やしていく必要性が高まっています。

価値観の多様化

一昔前は、キャリアの「ロールモデル」を考える際に、選択肢が多くなかった分、逆に、身近にいる上司や先輩の姿から自分の将来像を描きやすかったといえます。

しかし、昨今は働き方そのものや働き方に対する価値観が多様化し、自分にとって最適なキャリアのロールモデルを見つけづらくなっています。自分で自分のキャリアを考えていかなければ、納得のいくキャリアを歩めないかもしれません。

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自律的なキャリア形成はどう考えたらいいのか

リクルートマネジメントソリューションズが実施した、キャリア自律の実態に関する調査(※)では、興味深い結果が表れています。
「自律的・主体的なキャリア形成とはどのようなことを指していると思うか」と、10の選択肢を挙げて質問したところ、以下グラフのとおり、回答がそれほど大きな差が出ず散らばったのです。「キャリア自律」という言葉に対するイメージは、人によって異なることが見てとれます。

●自律的・主体的なキャリア形成が意味すること

自律的・主体的なキャリア形成が意味することデータグラフ画像
(※)出典…リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」/2021年、25~44歳の613名(男女均等・入社半年以上・正社員)に調査実施

キャリア自律に向けて行動を起こそうと思ったとき、2つの要素が揃う必要があることが、研究によって明らかにされています。「自己理解」と「将来を描くこと」です。しかし、先述の通り、ロールモデルが見つかりにくい状況では、将来を描くことはなかなか難しいものです。

先のアンケート調査では「自分のやりたい仕事や将来像に明確なイメージを持てているか」についても質問しました。すると、「イメージを持てている」と回答したのは約半数(49.6%)。過去にはイメージを持てている人が1~2割に留まっていた時代もありましたので、明らかに増えていますが、約半数の人はやりたい仕事や将来像をイメージできていないという結果でした。

●やりたい仕事や将来像のイメージ

やりたい仕事や将来像のイメージデータグラフ画像
(※)出典…リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」/2021年、25~44歳の613名(男女均等・入社半年以上・正社員)に調査実施

また、65%ほどの人が、キャリア自律を求められることに対し、ストレスや息苦しさを感じています。さらに、75%以上の人はキャリア自律を「難しいもの」と捉えています

●キャリア自律のストレスや息苦しさ

キャリア自律のストレスや息苦しさデータグラフ画像
(※)出典…リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」/2021年、25~44歳の613名(男女均等・入社半年以上・正社員)に調査実施

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キャリア自律を進めるにはどうしたらいいのか

キャリア自律を進めるためには、「内省(自己理解と将来展望)」と「試行錯誤」を交互に繰り返すことを意識してみてください。「自己理解を進める」→「気になる領域を調べる/他者に会う」→「将来を描いてみる」→「とりあえずやってみる」というサイクルを回していくのです。

●キャリア自律を進めるサイクル

キャリア自律を進めるサイクルデータグラフ画像
(※)出典…リクルートマネジメントソリューションズ「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」/2021年、25~44歳の613名(男女均等・入社半年以上・正社員)に調査実施

自己理解を深める

「自己理解」なしに次へ進むことはできません。これまでの経験を振り返って「どんな仕事をしているときに充実感があったか」、逆に「どんな仕事をしているときは充実感がなかったか」を洗い出してみましょう。

20代では、仕事をしていて楽しいこと・うれしいこと、逆に苦痛やストレスを感じること・つまらないことなどを自分の中の引き出しにたくさん溜めていくことが大切です。どのような職種も、細かな複数のタスクで構成されています。

営業職を例にとると、「ニーズのヒアリング」「課題分析」「企画書作成」「プレゼンテーション」「顧客との交渉」など。分解してみると、「このタスクは得意・楽しいけど、このタスクは苦手・苦痛」などに分類できるはずです。

自分に向いていると思っている職種であっても、100%楽しいことはなく、面白さを感じる部分は50~60%といったところでしょう。

逆に、自分に向いていない、面白くないと思う仕事であっても、「このタスクは楽しい」と思える部分があるものです。このように解像度を高めることで自己理解が進みますし、嫌いなタスクをどのように面白くするかを考えてみる機会にもなります。

こうして引き出しの中の蓄積が増えるほど、次のキャリアを考える材料が増えますし、選択する際には多角的に考えられます。ですから、20代のうちは、不本意な配属や異動なども単純に嫌がるのではなく、自分にとって嫌なこと苦手なことを経験する機会と考えた方がいいと思います。意外と合っているかもしれません。

また、自己理解を深める方法として「第三者に聞く」のも有効です。上司に「私は何が得意(不得意)だと思われますか」「何を大切に働いているように見えますか」などと聞いてみてはいかがでしょうか。ただし、相手の意見を鵜呑みにせず、参考にする程度にとどめましょう。

このほか、私が運営するワークショップでも行っているのですが、自分を知っている人、なるべくバラエティーに富んだ10人を選んで、自分の長所・短所などを聞いてみるのもおすすめです。

学生時代の友人、社内の同僚、社外の知人など、バックグラウンドが異なる人々の回答であっても、共通しているものがあるでしょう。そこから、自分らしさのコアがどこにあるのかが見えてきます。

気になる領域を調べる/他者に会う

気になっている領域について調べたり、その領域に詳しい他者に会って話を聞いたりしてみましょう。

このとき、社外の情報だけでなく、社内にも目を向けてみてください。実際、社外では多くの情報収集をしていても、自社内にあるものを知らない人は多いようです。例えば、転職サイトでは多様な求人を閲覧できますし、スカウトサービスに登録しておくとさまざまな企業からのスカウトメールが届きます。

一方で、自社内にある公募情報を認知していないケースはよくあります。あえて転職しなくても、自社内で異動してやりたい仕事ができるチャンスに気付いていなかったりするのです。

将来を描いてみる

自分の「持ち味」「価値観」「働き方」「将来」の観点で、将来の展望を描いてみましょう。好奇心を持って、自分にどんな可能性があるのかを探索してみてください。

とりあえずやってみる

これまでやらなかったことにトライしてみます。以下に一例を挙げてみましょう。

  • 社内でトライアルできるところを探す(異動/社内副業など)
  • 社外で副業やボランティア活動をする
  • 「こんなふうに働けたらいいな」と思える人(ロールモデル)に話を聞きに行く
  • 気になるテーマのセミナーに参加する
  • 興味がある分野の資格を取得する
  • 短期間、田舎に住んでみる

こうしたチャレンジをしてみて、内省と自己理解のサイクルを回していくことにより、自己理解が進み、将来の方向が見え、キャリア自律行動を起こしていけるでしょう。

とはいえ、今の仕事が楽しいのであれば、目の前の仕事に集中し、今を楽しむということも忘れないでほしいです。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
組織行動研究所 古野 庸一氏

古野庸一さん1987年、株式会社リクルートに入社。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年より現職。著書に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)、『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書)、『リーダーになる極意』(PHP研究所)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)、訳書に『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』(プレジデント社)など。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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