チームでアイデアを出し合い、製品やサービス、新規事業プロジェクトなどの成果につなげるブレインストーミング。ブレストの本質を理解し、アイデアを生み出すブレストのコツについて、『すごいブレスト』著者の石井力重さんに伺いました。

目次
そもそもブレインストーミングって何?
ブレインストーミング(以下、ブレスト)とは、複数人が集まり、あるテーマについてアイデアを出し合う会議の進め方を指します。
ブレインストーミングの基本ルール
ブレストの基本ルールは、次の4つです。
- 量を求める
- 他の案に便乗
- 突飛さ歓迎
- 批判禁止
複数人で議論するブレストの目的は、たくさんのアイデアを出すことにあります。他の人のアイデアにヒントを得て連想し、どんどん便乗して発展させていきましょう。奇抜なアイデアを面白がり、「そんなのできっこない」などと否定したり判断したりすることなく、自由に発想できるよう肯定し合うことが大切です。
ブレストで大切な姿勢は「啐啄同時」
ブレストを行う上で大切なのは、「啐啄同時(そったくどうじ)」の心意気です。この考えを理解すれば、ブレスト初心者であっても、本質から外れることはありません。
「啐」とは、ひなが孵化するときに、殻の中で鳴く声のこと。「啄」は母鳥が外から殻をつっつくことです。それが同時に起こる「啐啄同時」は、「熟した機をとらえ、悟りに導くこと」を意味します。
ブレストでは、生まれそうで生まれない揺らめくアイデアが、他の人との相互刺激によって表出化されることが起こります。わずかなひらめきから未成熟な概念を取りだそうと頑張るメンバーに、他のメンバーが相槌や合いの手によって引っ張り出すのを手伝う。
「それって、つまりこういうこと?」と、相手の視界を一緒にのぞき込んでいく。そんな「啐啄同時」ができれば、自然と良いブレストとなっていくでしょう。

ブレストのメリットは「新奇と展開」
ブレストのメリットは「新奇と展開」にあり、「一人の脳を超えられる」ところです。自分が思考することは、自分が知っていることです。
一人で新しい発想を生み出そうとしても限界がありますが、ブレストは、インプットが他人からもたらされます。他人の脳が持つ発想、情報から新奇の要素が入り込み、新たな発見につながる。これが、一人の脳を超えるということです。
さらにブレストでは、自分の限られた発想から出たアイデアを、他の人が広げてくれます。小さなアイデアが、他の人の視点が加わることで、思いがけない内容につながっていくことがあるのです。
ブレストの進め方のポイントは実施前後の動き方
ブレストではタイムキープをするファシリテーターのもと、「アイデア出し→アイデアをグルーピング→ディスカッション→次にやることを決める」という流れで進めていきます。また、効果的に進めるには、ブレスト前後の動き方も重要です。私は以下のABCで整理しています。
↓
B:ブレスト(Brainstorming)
↓
C:コネクト(Connect)
A:アシストの工夫
「アシスト」とは、ブレストの場になじめない人をうまく導入していくことです。例えば、新しいメンバーが参加する場合、場の雰囲気にすぐ溶け込むのが大変だったりします。そこで、新しいメンバー向けにインプットの時間を事前にとるのも、アシストの工夫の一つです。
また、ブレストでは「様子見のロス」がたびたび起こります。「こんなこと言っては場違いでは」と躊躇し、他のメンバーの意見を聞いて自分がどう振舞うべきかを判断する時間が生じてしまう。最後まで自由に意見が言えないこともあります。そこでアイスブレイクとして、一緒にお菓子を食べたり、雑談したりして打ち解ける時間を作ったりするのもいいでしょう。
C:コネクトの工夫
ブレスト後のコネクトとは、ブレストで出たアイデアを次のステージにつなげることです。せっかく出たアイデアを出しっぱなしにせず、次の企画会議でさらにブラッシュアップされるために、アイデアの受け取り側とのコネクションが大切です。
そこでお勧めなのが「ハイライト法」です。これは、ブレストの終盤に、たくさん出てきたアイデアの中から、質の高いと思うものに各メンバーが星マークをつけるというもの。星が集まった上位のアイデアを、次の会議へ提案します。
これまでの研究から上位4%に星が集中する傾向が出ており、「優等生のアイデア」はある程度絞ることができます。でも実は、星が集まらなかったアイデアの扱い方が重要です。星がまったくつかなかったものは潔く捨てますが、「誰か一人が支持したアイデア」はイノベーションの芽になる可能性を秘めています。
そこで、再度、残ったアイデアでいいと思うものを各自一つだけ選んでもらい、「優等生のアイデア」と併せて次の企画会議に残します。敗者復活からのアイデアは、「尖がっていて実現化は難しそうだけど、面白い!」と意外性のあるものが少なくありません。
実際に、世のヒット商品には「大勢が反対だったけれど、たった一人が“ぜひやりたい”と賛同して動いた」というプロジェクトは少なくありません。アイデアを次につなげることで、ブレストが意味のあるものになるのです。
関連記事:「ファシリテーター」の役割とは?必要なスキルを身につける方法を解説
ブレインストーミングを成功させる2つのポイント
ブレストを効果的に行うために、2つの方法をご紹介します。
沈思黙考と議論白熱の時間を交互に作る
まずは、一人で考える「沈思黙考」と、みんなで意見を交わす「議論白熱」の時間を作ること。もちろん「ブレストよりも個人で考えた方が効率的」という声もあります。アイデアを書き出す作業をする上では一人の方がはかどるため、意見を交わすことが重視されるブレストは非効率的ともいえます。
そこで、ブレストの時間内に一人で考える時間を取り、そこで出たアイデアを話し合う時間を作るのです。議論を経て、また一人で整理する時間を取り、みんなで話し合う。異なる時間の使い方を交互に入れることで、アイデアは量・質ともに上がっていきます。
「What」と「How」の時間を分ける
ブレストがうまくいかない理由の一つに、「What(何をやるか)」と「How(どうやるか)」を同時に考えてしまうことが挙げられます。そこでお勧めなのがWhatとHowの時間を分ける「二段階ブレスト」です。前半はWhatのみを考えます。どう実現できるかは度外視で、「こんなことできたら面白い!」とコンセプトだけを出していきます。
メンバーの多数決やブレストのテーマを定めたオーナーの判断などでアイデアを絞った後、後半のHowブレストに入ります。どうしたらそのアイデアを実行できるのか、という視点で方法論を考える。二段階に分けることで、Whatのアイデアを「実現可能性がない」と頭ごなしに批判されることがなくなり、アイデアの幅が広がっていきます。
ブレストで新しいアイデアを生み出すポイント
ブレストで意見をたくさん生み出せるようになるには、新しい情報のインプット量が重要です。仕事に関係ない領域でも、自ら体験することで、新たな発想が生まれることもあるでしょう。
特にクリエイティブな仕事をしている方には、「毎月〇円は“感性の仕入れ代金”として使う」ことを勧めています。使う金額が決まっていると、興味のないことでも「行ってみるか」「やってみるか」と動くようになる。そこから発想が広がっていきます。
ブレスト中に大事な3つの姿勢
ブレストの場において、有意義な時間にするために大切な姿勢があります。
1. 面白がりの姿勢
相手のアイデアの面白いところや良いところを見つける
2. ちょくちょく上の空
相手の話に「面白い」「こんな展開も考えられる」と思いついたら、すぐにメモを取る。話を聞くことと、自分のアイデアを書き出すことが大事
3. 紙に書く
脳内で記憶の保持に使われるスペースが大きくなると、アイデアをもとに「概念の加工」をすることが難しくなる。思いついたらすぐに書き出し、脳内の記憶の保持スペースを空ける
いいアイデアが思いついたのに忘れてしまった…という経験は誰にでもあるはず。書くことは、脳内にアイデアを発展させる場を作るためにも、シンプルで効果的な方法です。
発想法を取り入れる
ブレストが後半に差しかかってくると、「アイデアは出し尽くした」「これ以上は考えられない」と、煮詰まる時間がやってきます。そこで効果的なのが「発想のトリガー(引き金)」を取り入れることです。
発想法のフレームワークには有名な「SCAMPER法」がありますが、私が勧めるのは「CEMRAPS法」です。CEMRAPSでは、組み合わせ、削除・省略、拡大・縮小、修正、逆転、並び替え、適用、他の使い道への転用、代用の順で9項目を整理しています。
「Aのアイデアに、何かの要素を組み合わせては?」「何かを削って、焦点を絞れないか?」など、思い浮かびそうな発想トリガーに絞って、ブレストを進めるのもいいでしょう。

批判力を有効に使う
ブレストの基本ルールは「批判をしない」ことです。しかし、批判禁止ばかりではアイデアを発展させにくい面もあります。では、どのような批判なら、アイデアをより良くしてくれるのでしょうか。
前向きな批判のポイントは、「批判によって改良の余地があるかどうか」「具体性があるかどうか」の2つです。
例えば、新商品ブレストで「これは危険だからやめた方がいい」という批判が出たとしましょう。でも、それを言い出すと何も作れなくなる。改良できなければ、建設的な意見とはいえません。
また、「予測できない災害が起こったらどうするか」など具体性のない事象を指して批判することも建設的ではありません。同じように「なんとなく、うまくいかなそう」など、考える材料が全くない批判もすべきではありません。
批判をする際は、メンバー同士の信頼関係があることも重要です。相手に批判を受け取ってもらうには、批判の4倍は褒めること。まずはポジティブな意見を伝えることが、批判を良いアイデアにつなげる有効なやり方です。
ブレインストーミングのお勧めツール
リモートワークの浸透により、オンラインでブレストを行う機会が増えています。オンラインならではのツールを活用して、有意義に議論を進めましょう。
オンラインブレストのお勧めツール
オンラインツールとしてよく知られているのが「Miro」です。Miroは、チームでの共同作業をオンラインで可能にするホワイトボードアプリ。付箋やテキストを使ってアイデアの書き込みができ、可視性の高さも魅力の一つです。
チャットに書き込むように気軽にアイデアを出し合えるツールとして、注目されているのが「hidane」です。最大の特徴は、ブレストの基本的な流れが、タイムスケジュールとともに設計されている点。テーマに沿ったアイデア出しから、アイデア整理、ディスカッションへとスムーズに進めることができる。ブレスト初心者にも使いやすいツールです。
オフラインブレストのお勧めアイテム
オフラインでは、スケッチブックとノック式のペンがお勧めです。コロナ禍以降、距離をとって議論する機会が多くなっていることもあり、離れた場所のメンバーにも見せやすいスケッチブックが実用的です。
ペンは、キャップを外す手間なく片手ですぐに書けるノック式がいいでしょう。思いついたらすぐ書けることが大切だからです。
▶あなたの知らない自分を発見できる。無料自己分析ツール「グッドポイント診断」
アイデアプラント 代表 石井 力重氏
早稲田大学・奈良女子大学・名城大学 非常勤講師(デザイン論、創造学、創造的思考法) 日本創造学会 任命理事
東北大学大学院修了後(理学修士)、大手電機メーカー系専門商社を経て、同大2つの大学院(工学、経済学)博士後期課程にて創造工学を研究後に退学、新エネルギー・産業技術総合開発機構のNEDOフェローとして大学発ベンチャーに3年駐在。2009年にアイデアプラント設立。創造工学の研究、ブレインストーミング・ツールの開発、アイデアソンのデザインとファシリテーション、創造研修を推進。自ら開発したアイデア創出ツール「ブレスター」は みやぎものづくり大賞「優秀賞」受賞。
発想を引き出す専用メモ紙「nekonote」が日本創造学会 学会賞受賞。著書に『すごいブレスト』(フォレスト出版)、『アイデア・スイッチ』(日本実業出版社)。
▶アイデアプラント公式サイト