英語は暗記科目ではない!効果的な学習方法と理解を深めるためのポイント

英語学習には暗記は避けて通れない、そんな風に思っている人は少なくないでしょう。でもそれは、ただの思い込みに過ぎないかもしれません。英語学習のやさしい“お医者さん”、「イングリッシュ・ドクター(TM)」の西澤ロイ先生からのメッセージをお届けします。

coreと書かれた木製ブロック
Photo by Adobe Stock

西澤ロイ(にしざわ・ろい)イングリッシュ・ドクター

西澤ロイ著書『英語を話したいなら、まずは日本語の話し方を変えなさい!』表紙英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を“治療”する専門家。

ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)ほか、著書は累計16万部を突破。英会話教材「脳トレ英会話」が好評を博している。

★「イングリッシュ・ドクター」HP(

英語は本当に暗記科目なのか?

多くの英語学習者が、いや、それだけでなく英語を教える立場の人たちも、「英語は暗記科目」だと考えています。

私はこの考え方こそが、英語ができないという日本人を生む最大の要因であり、同時に英語嫌いを引き起こしている元凶である――という仮説を持っています。これまで英語上達法の独自研究を25年以上行なってきた上での最終結論をお伝えさせてください。

まず混乱の原因となっているのは、「暗記」という言葉の意味が、人によって違っていることです。そのために、お互いに同じ言葉を使いながら、実はすれ違ってしまっているのです。

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「暗記」とは本来は「何も見ないで言える」こと

辞書や百科事典系のウェブサイトで「暗記」という言葉を調べてみます。

文字・数字などを、書いたものを見ないでもすらすらと言えるように、よく覚えること。『デジタル大辞泉(小学館)』

このように、「何も見ないで言えること」が本来の意味なのですが、書籍によっては以下のような記載もあり、「暗記」という言葉は別の意味でも使われています。

その意味,理解と無関係に反復だけで機械的に記憶すること。『世界大百科事典 第2版(平凡社)』

また、『日本大百科全書』では、「丸暗記」だと定義しつつも、成人の場合には既に知識があることで「理解」に近くなるという鋭い指摘もしています。

構造や意味に従って論理的に記憶する論理的記憶logical memoryに対していわれ、材料をただ暗唱して記憶する仕方を意味する。(中略)成人の記憶は、暗記を意図しても、すでにもっている知識の枠組みのなかで構成されることが多く、自然に論理的記憶となっている。『日本大百科全書(小学館)』

私なりにまとめますと、下記のようになります。

  • 「暗記」という言葉は本来、「何も見ないで言える形で記憶すること」を表しているが、その手段は問われない
  • ところが現代では、きちんと、もしくはある程度の“理解”をしながら記憶するという方法と、とにかく意味などは後回しで“丸暗記”してしまうやり方の2通りがあり、人によってその解釈が異なっている

そして全く同じ図式が「覚える」という言葉にも当てはまります。

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先生から「覚えなさい」と言われた生徒はどうするか?

英語の授業中に、先生から「覚えなさい」と言われる場面は多くの人が経験しているでしょう。

例えば、分からないことがあって質問した時に「英語はそういうものだから覚えなさい」と言われるケースがあります。これは先生が明らかに「丸暗記」を勧めています。その結果として、英語を「暗記科目」、つまり「丸暗記が必要な教科」だと思い込んでしまう人が続出するのです。

また、例えば宿題として10個の英単語を「覚えなさい」と指示された場合、これは理解と丸暗記のどちらにも解釈ができます。

この時に、勉強のできる生徒や英語が得意な生徒であれば、自分なりに理解しようと工夫するでしょうし、既に持っている知識が自然とつながることもあるので丸暗記にはなりません。

たとえばunderstandableという単語の場合、understandとableの意味を知っていれば、「理解できる」という意味になることを自然と受け入れやすくなるケースなどです。

しかし、英語や勉強が苦手な人は、ワケの分からないまま丸暗記をしてしまうことになるのです。

しかし「丸暗記」は本来、どんなに頑張っても理解できなかった時にのみ用いる“最後の手段”であるべきです。理解が可能ならば、理解するに越したことはなく、丸暗記が不要になるのは明らかですよね。

しかし、日本人のほぼ2人に1人が英語嫌いだと言われています。とても悲しいことですがそれはこうやって、特に中高生のうちに苦しい丸暗記をさせられ続けてしまった結果だと言えるのです。

最後の手段であるべき丸暗記が、なぜ堂々と行われてしまうのでしょうか。

その理由として、上でお伝えした「暗記」という言葉に関するすれ違いに加え、もう2つの要素が存在しています。

英語の「理解」を妨げる2つのハードル

1つ目のハードルは、英語という言語の特徴が、日本語とはかけ離れているという現実です。

文字は、アルファベットが26文字しかありません。発音も全く違い、英語の音は日本人の耳にはなかなか入ってきません。

語順はほぼ逆であり、日本語には存在しない冠詞や関係代名詞などの文法項目もあります。基本単語には、日本語に直訳しても意味がうまく理解できないものが多く存在します。

このことから、日本では英語教育が始まって以来、英語をどのように捉え、どうやって理解してよいかがそもそも分からないケースが多かったのです。そのため、先生たちも英語を丸暗記で学び、生徒にも同じ学び方を強いる…という図式が存在してきました。

なお最近は、英語感覚に関する研究もかなり進み、英語の理解の仕方がだいぶ明らかになってきましたし、そのような情報を伝える人も増えてきました。

しかし、もう1つのハードルとして立ちはだかっているのが、「英語は暗記科目」だという思い込みです。

過去の経験から、英語は丸暗記をしなければならないと信じて疑わなかったり、丸暗記がクセになったりしている学習者がいます。

このような状態になっていると、「暗記は要らない」「丸暗記しないで」などと言われるだけでは、なかなかそこから抜け出せないのです。

記憶には4段階の深さがある

私が英語教材の共同開発を行なっている記憶術の専門家、吉野邦昭氏は「記憶には4つの段階がある」と述べています。

1つ目は「appleは“りんご”」のように、コトバで覚える段階。2段階目は「視覚」、つまり絵や映像などのイメージを伴う記憶です。

コトバで覚えることは丸暗記に近いため記憶には残りづらく、少なくとも視覚を伴うことが、長期的に記憶するための重要なコツなのです

また、3段階目として視覚以外の五感(触覚、聴覚、嗅覚、味覚)を伴ったり、4段階目として感情(喜怒哀楽)が付随したりすることによって、さらに深く記憶されるのです。

ここから導き出される、暗記をしない英語学習のコツをお伝えします。

丸暗記をしないための学習上の心がけ

英単語を覚える際には、まずは以下の3つのことをぜひ意識してみてください。

A.コトバで覚えない
B.単語の基本イメージをつかむ
C.単語のイメージを広げる(※特に基本動詞や前置詞の場合)

A.コトバで覚えない

ここで言う「コトバ」とは、日本語訳のことです。
私たちが辞書を引くのは英単語の「意味」を知りたいからですが、そこに載っているのは基本的に「日本語訳」でしかないことを忘れてはいけません。

特に、意味が広い単語の場合には、たくさんの日本語訳が載っています。そこで「英語は覚えることがあって大変だ」と考える人も多いですが、そもそもそのような覚え方自体がオススメできません。

コトバ(日本語訳)は、単なる参考情報と考えてください。理解を助けてくれるための補助輪のようなものであり、本当に押さえるべきは「単語の基本イメージ」なのです。

B.単語の基本イメージをつかむ

これは先ほどお伝えした記憶の2段階目、「絵や映像などのイメージ」をつかむということです。

例えばfloorという単語は、「(部屋の)床」と「(建物の)~階」という2通りの日本語訳を持ちます。ここで、日本語訳というコトバを頼りにしてしまうと、イメージをつかむことができません。

実際につかむべきfloorのイメージは以下の画像のような、言わば「足元にある板状のもの」ただ1つです。日本語ではそれぞれ別の名前がついており、別物だと考えますが、英語では両者を同じものとして捉えています。だから同じ単語を使うのです。

英語の床と階についてのイメージ
西澤ロイ先生提供

C.単語のイメージを広げる

さらに、意味が非常に広い基本単語(特に動詞や前置詞)の場合には、「意味の広がり」をもイメージで捉える、そのイメージを広げる、という作業が重要になります。

例えば、haveという動詞は「意味がたくさんあって覚えるのが大変だ」と思っている人もいることでしょう。日本語訳を列挙するならば、「持っている、(家族が)いる、(動物を)飼っている、(病気に)かかっている、食べる、飲む、(子どもを)産む、させる……」などたくさんあります。

しかし、haveの核(コア)にあるのは、以下のような1つのイメージです。

英語haveの概念イメージ
出典元:脳トレ英会話

専門的には「HAVE空間」と呼ばれますが、日本語で敢えて表現するならば、「自分のところにある(≒なわばりに入っている)」という感じでしょうか

そのイメージが広がることで、様々な日本語に訳されますが、haveの根本的なイメージが変わるわけではありません。「木」に例えるならば以下の図ように、核となるイメージが幹として存在し、そこから様々な枝葉に派生しているのです。

英語haveを木と枝葉に例えた図
出典元:脳トレ英会話

ここで、うまくイメージを広げて理解することができれば、大量の暗記を減らすことが可能になります。またそれだけでなく、感覚に基づいて英語を使うことや、表現を使い分けることも非常にやりやすくなるのです。

さらに英単語が覚えやすくなる2つの秘訣

覚えた英単語を強く定着させるために、さらに以下の2つのことを意識するとよいでしょう。

D.状況や文脈を知る
E.五感や感情を伴う

D.状況や文脈を知る

英単語の一覧などをただ見て記憶しようとすることは、並べられた名刺を元に人を覚えようとするようなものです。

人を覚えておくためには、実際に会って話をすることが重要ですよね。いつどのような場所で会い、どんな話をしたか…といった状況の記憶が、その人物を記憶にとどめておく大事な要素となります。

英単語に関しても同様です。英単語帳を使うのであれば大切なのは少なくとも例文を読むことですし、より理想的なのは実際にその単語が使われている場面を経験することで、記憶に残りやすくなります。

どこで出合った単語なのか(例:日常会話、映画の中、小説など)という状況、どのような内容の話だったのかという文脈、前後にどのような単語が使われていたかという組み合わせ――。そういった情報が、記憶を強くサポートしてくれるのです。

E.五感や感情を伴う

さらに、その英単語に対して、あなたの五感や感情の記憶を付与できると、さらに強く記憶に残ることになります。

例えばですが、レストランで美味しそうな食べ物が出てきて、「あぁ、よだれが出そう」と思ったとします。それを英語では「It’s mouthwatering.」(敢えて訳すならば「それで口の中が潤う」)と言う――と教えてもらい、食べてみたら実際に本当に美味しかったという経験をしたならば、五感の複数に関係するこの表現は強く記憶に残ることでしょう。

他にも、せっかく覚えて使ってみたのに、発音が悪くて通じずに悔しい思いをしたフレーズや、逆にうまく通じて嬉しかった表現などは、一生忘れないかもしれません。それも、強い感情を伴っているからこそなのです。

丸暗記をしない学習法のメリットとデメリット

これまで、丸暗記をしない学習法についてお伝えしてきましたが、丸暗記をすることのメリットとデメリットには以下のものがあります。

<丸暗記のメリット>

  • 基本的に誰でもできる
  • 短期的には簡単/楽(に思える)
  • 大量に記憶するのには向いている

<丸暗記のデメリット>

  • 覚えることがたくさんあるので大変になりやすい
  • 忘れてしまいやすいため、覚え直す手間もかかる
  • 中学生以上の大人(の脳)には向いていない
  • 応用が利かず、英語が実際に使えるようにはなりづらい

中長期的に考えるとデメリットが大きいのですが、短期的にはメリットがあります。だからこそ、英語の試験で点を取るための手軽な方法として行なわれ、そのまま癖になってしまいやすいのが実情です。

では、先に述べたA~Cを心掛けて、イメージ(≒英語感覚)をつかむことによる、納得を伴った学び方のメリットとデメリットについてもご紹介しておきましょう。

丸暗記で挙げた上記の項目が正反対になっているものが多いですが、それ以外のものには★マークをつけてあります。

<イメージを理解する学び方のメリット>

  • 覚えるべきことが圧倒的に減り、学習が楽になる
  • 憶に残りやすいため、覚え直しの手間が減る
  • 脳/記憶の仕組みに合う方法である
  • 応用が利き、感覚に基づいて言葉を使い(分け)やすくなる
  • (★)英語の基礎を深く理解するために向いている
  • (★)英語が深く理解できることにより、苦手意識が自然と薄れる/解消される
  • (★)知的好奇心が満たされ、英語を学ぶことが楽しくなる/意欲が増す

<イメージを理解する学び方のデメリット>

  • これまでとの学び方の違いに抵抗感を覚えやすい
  • (★)誰でもできることだが、(特に大人は)理解のコツをつかむ必要がある
  • (★)日本語にうまく訳せないことへの戸惑いが生じやすい
  • (★)上手に指導できる先生や教材を見つける必要がある
  • (★)難しい教養語には適用しづらい

イメージをつかむ学び方は、特に中学英語を理解するのに向いています。ですから、中学英語が8割を占める日常的な英会話のスキルを高めたい場合にも非常にオススメできます。

イメージをうまくつかめると、それまで丸暗記だった人からは「英語が初めてきちんと理解できた」という感想がよく出ます。そして、英語への苦手意識が薄れていったり、すっかり解消したりします。

また、英語が深く理解できることにより、さらなる学習への意欲が増す人もたくさんいるのです。

ここで、この学習法のデメリットについてもきちんと言及しておきましょう。

まず、このような学び方に慣れていないために、抵抗感を覚えやすいことが挙げられます。感覚的に英語を身につけることは本来誰にでもできますが、大人になると、日本語の知識があるばかりに、いったん訳そうとします。

それはつまり、英語を理解するための拠りどころとして、日本語訳を求めてしまうということ。英語をイメージで理解すべきなのに、日本語訳ばかりを見てしまうことによって、英語のイメージに目がいかなくなりやすいのです。

このように理解のコツをつかむ必要があることや、丸暗記をしてしまうクセからなかなか抜け出せないことが、ハードルになる要因と言えます。

また、英語感覚という名の元に、その「感覚を説明したコトバ」を覚えさせる指導がなされがちなことにも注意が必要です(例えばto不定詞は「未来」、動名詞は「過去」を表すなど)。学習者に感覚を上手に伝えるためには、教える側にも技術が必要となります。

教養語はどう学べばよいか?

大学入試の英語試験や、TOEIC試験、英検準2級以上などの受験を目指す場合に必要となるのが、「教養語」と呼ばれる難しい単語です(例:extinguish-消火する、絶やす)。このような単語の場合には、イメージをつかむ学び方はあまり向いておりません。

数としても数百~数千単語を覚える必要性があることも多く、コトバ(≒日本語訳)での暗記になりやすいのです。

このような状況で英語を学習する場合は、せめて丸暗記にならないようにすることが記憶の面では重要です。方法としては、状況や文脈、五感や感情を伴う形で学ぶのがオススメです。

また、学習の難易度はやや上がりますが、「語源」を理解することにより、少しでもイメージが伴うようにする――という方法もあります。

先ほど例に出したextinguishは、「完全に」を意味する接頭辞ex-と、「消す」ことを表すラテン語”stinguere”がくっついた単語なのです。それが分かれば、日本語訳をただ丸暗記するのではなく、「消火する」ことと「絶やす」ことに共通するイメージが少しでも持てるようになるでしょう。

まとめ:丸暗記をしないように意識しよう

結論として、私がイングリッシュ・ドクターとしてお伝えしたいのは、英語を学ぶ際には丸暗記をしてしまわないようにぜひ心がけましょう、ということです。

「英語は暗記科目である」という思い込みのもとに、いまだに丸暗記が広く行なわれてしまっているのは本当にもったいないことです。

英語が嫌いになってしまったり、英語学習に挫折してしまったりすることなく使える英語力を身につけるためには、深い理解こそが重要である――という当たり前のことが、一人でも多くの学習者に(そして英語を教える方たちにも)届くことを心より祈っております。

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