近年、ビジネスにおいて「質問力」が注目されています。コミュニケーションを円滑にしたり、仕事の精度を高めたりする効果があるとされていますが、そもそも質問力とは具体的にどんなスキルを指すのでしょうか。質問力の意味や質問力の活かし方、磨き方などについて、人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所社長の曽和利光さんに伺いました。

曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
「質問力」とはどんなスキルのことを指す?
質問力とは、不明点、疑問点などを解消し、事実を正しく理解するために問いかける力のこと。ビジネスに必要とされる、広義のコミュニケーション能力の1つです。
近年はオンラインでのコミュニケーションが増えたことで、ふとした雑談から情報を集めるのが難しくなり、質問力を発揮して相手の思いや考えを言語化してもらう必要性が増しています。
また最近では、「質問責任」という言葉も聞かれるようになりました。疑問点や不明点、不安な点があっても、質問しなければ相手は「わかっているもの」と見なします。わからないことがあるならば、質問力を発揮して一つひとつ不明点を潰すことがビジネスの大前提と言えます。
質問力はビジネスでどう活かせる?

質問力は、ビジネスにおけるあらゆるシーンで活かすことができます。例えば、次のようなシーンでの活用が考えられます。
・仕事内容やミッションについて上司や先輩に質問し、その意義や背景を理解することで精度を上げる。
・クライアントに質問してニーズを掴み、クライアント自身も気づかなかった課題をも引き出す。
・協働する仲間に的確な質問を投げかけ、期待されている役割を把握しうまく立ち回る…など。
質問力を発揮することで、仕事に関する課題やニーズを引き出したり、必要な情報収集ができたりします。それにより、仕事の精度が上がったり、ビジネスに必要な人間関係の構築につながることがあります。
「探求型」の仕事では特に必要とされる力
仕事には、「仮説検証型」の仕事と「探索型」の仕事があります。前者は、問題解決のための「仮説」がある程度立てられる仕事で、後者は原因がわからず一から原因を突き止める必要がある仕事を指します。そして、後者の「探索型」の仕事において特に、高い質問力が必要とされます。
例えば、「組織の雰囲気が悪くなっている」という問題があったとします。
いくつかの可能性から「マネジメントのレベルが低いからではないか」という仮説を立てられたとしたら、初めからそこに焦点を当て、マネージャーやメンバーに現状をヒアリングし検証することで比較的早期に問題解決にたどり着けます。
一方、「原因がわからないので何とか突き止めたい」という場合は、あらゆる角度から質問を重ねて事実を集め、検証を重ねる「探索型」の姿勢で臨まねばなりません。例えば「マネジメントが原因ではないか」「会議のあり方が問題ではないか」「評価制度を変えたせいではないか」など、あらゆる疑問を持って臨み、その疑問を解消するために質問力を発揮して、的確な質問を積み重ねていく必要があります。
探索型の仕事は、ある程度道筋が決まっている仮説検証型に比べると、真の課題にたどりつくまでにはどうしても時間がかかります。しかし、質問を重ねて探索する中で、偶然新しい課題を発見したり、新しい発想に気づけたりします。質問力を発揮することで、問題解決だけでなくイノベーションを生み出せる可能性もあります。
質問の種類
質問には、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」の2種類があり、この2つをうまく使い分けることでより質問力を発揮することができます。
オープンクエスチョン
フリートークのごとく、相手に自由に考え答えてもらう質問方法。例えば、「社内の雰囲気が悪くなったのはどういう理由からだと思いますか?」「今のマネジメント体制についてどう思いますか?」など。
どこに問題があるかわかららないとき、幅広く多くの情報を引き出すのに有効なので、主に「探索型」の仕事で力を発揮します。
クローズドクエスチョン
はい・いいえの二者択一で回答を求める質問方法。例えば、「今の会社の雰囲気は好きですか?(好き・嫌い)」「会議が多いと感じますか?(感じる・感じない)」など。ある程度絞り込まれた仮説を確かめたいときに有効。回答者が答えやすいというメリットもあります。
「探索型」の仕事においては、まずオープンクエスチョンで課題を抽出したうえで質問を重ねることで絞り込み、いくつかの仮説に絞られたらクローズドクエスチョンで確定させることで、より本質に沿った課題にスピーディーにたどり着くことができます。
質問力を鍛える方法とは?

「どんな質問をすればいいかまだピンと来ない」「いい質問が思い浮かぶかどうか不安」という人のために、ビジネスにおける質問力を鍛え、高める方法をご紹介します。
対象(相手)の情報を集め、理解する
質問するには、大前提として「疑問」が必要です。疑問を持たないことには、質問は思い浮かびません。そして疑問を持つためには、その対象に関する情報を収集し知識を持つ必要があります。
クライアントに対して質問力を発揮し、真のニーズを掴みたいのであればクライアントの情報をできる限り収集しましょう。組織の問題点を掴みたいならば、さまざまな部署・さまざまな立場の人にヒアリングして、組織についての知識を積み上げていきましょう。あらゆる角度から情報を集め、それを理解していれば、自然と「なぜ?なぜ?」と疑問が浮かび、芯を捉えた質問ができるようになるはずです。
例えば、「好きな俳優やアーティストに自由に質問していいよ」と言われたら、それこそ湯水のように聞きたいこと、確かめたいことが湧いてくるはず。それは、好きな俳優やアーティストに関する情報をたくさん収集し、理解しているからこそです。質問力の根源は「相手に関する知識」であると心得ましょう。
「事実情報」を収集する
質問力の前提となる「知識」を持つには、事実情報を集める必要がありますが、事実を確認するのは意外に難しいものです。この場合、問題点は質問する相手ではなく、「質問する側」にあります。
日本では、「一を聞いて十を知る」「空気を読む」を良しとする文化が根強くあります。仕事で「デキる人」と評価されている人ほど、空気を読んでうまく立ち回ってしまうのですが、質問力を発揮しなければならない場面ではそれが仇になります。相手が言っていないことを勝手に想像して、「こういう意見なのではないか」と判断してしまう恐れがあるからです。事実を収集するには、空気を読むスキルを捨て「相手にすべてを言わせる」ことが大切です。
ポイントは、具体的な情景が頭の中に浮かぶまで質問を重ねること。会議のあり方について探るのであれば、「1週間に何回、どんな会議があるのですか?」「会議の中でも“定例会議”には何人ぐらいが参加していて、どれぐらいの時間をかけているのですか>」「1年前に比べて会議が何割ぐらい増えたと感じますか?」「会議が増えたことで、自分の業務にどれぐらい支障が出ていると感じますか?」など。固有名詞や数字で確認していくと、より掘り下げやすくなります。
質問力は、回数を重ねることでさらに磨かれる
質問の精度を上げるには、回数を重ねることも大切。日常の中で、上記の「鍛える方法」を実践する機会を増やしてみましょう。
前述の通り、質問力はビジネスのあらゆるシーンで活かすことができます。上司や先輩、プロジェクトメンバー、クライアントなど、協働する相手に対して質問力を発揮し、相手が求めているもの、自分に求められているものをつかむことで、仕事の精度が上がり評価されると同時に、質問力がさらに磨かれます。ぜひ意識して取り入れてみてください。
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