会社から仕事を効率化して残業を減らせと言われているけれど、業務量は多いまま。どう効率化すればいいかわからない…と悩む人は少なくありません。どのように日々の業務を見直し、効率化すればいいのか、著書『無駄な仕事が全部消える超効率ハック』が話題の羽田康祐さんに、無駄な仕事をなくす効率化のポイントを伺いました。

今、仕事の効率化に着手すべき理由
世の中にはさまざまな情報が溢れていて、インプットの量が膨大になっています。仕事では、インプットをもとに自分なりの付加価値を出す必要がありますが、一方で国も会社も「労働時間は減らせ」という流れにあります。
インプットは増えているのに、それを付加価値に変える時間を効率化しなければならない。しかし成果は求められる…。この矛盾した環境の中で悩み、心身のバランスを崩す人が増えているのが現状。仕事を効率化し、生産性を上げることで、仕事の「質」と「量」のバランスを取ることが急務になっていると感じます。
ビジネスパーソンに今求められているのは、やみくもに努力することではなく、「努力をしないで済む工夫」をすること。日々の業務を見直して自分なりに工夫を凝らし、自分らしくメリハリを持って働ける状態を作り出すことが大切です。
仕事を劇的に効率化する8つの視点
日々の業務を8つのカテゴリーに分けたうえで、それぞれの「超効率ハック」をご紹介します。
中には、すでに知っているものもあるかもしれませんが、「知っている」と「できている」の差は大きいもの。自分はできているかどうか、併せてチェックしてみてください。
1:時間
日々時間に追われ、いつのまにか毎日が過ぎ去っている…という人は、「時間」はお金よりも貴重な財産であることに一刻も早く気づく必要があります。
お金は、たとえ失ったとしても後から取り戻すことが可能ですが、時間は砂時計のようにどんどん減っていくだけ。「時間に追われている状態」は人生そのものを削り取られている状態と同じだと認識しましょう。
そして、自分の職業人生を充実した時間にしたいならば、できるだけ他人に振り回される時間を減らし、自分でコントロールできる「主体的な時間」を増やすことに着手すべきです。
そのためには、一つひとつの仕事に当事者意識を持つことが大切です。
「時間に追われる」と感じる原因の一つは、当事者意識の欠如にあります。受け身の姿勢や指示待ちの状態でいると、他人に振り回されるという精神的な負担を感じやすくなるからです。
一つひとつの仕事に当事者意識を持つことができれば、他人事の仕事が「自分事」に変わり、なぜこの問題が生じているのか?どう解決すればいいのか?など、自然と「自分の頭で考える習慣」がつき、その習慣を繰り返すことで考える力が磨かれます。その結果、周囲に対して自信を持って自分の考えを伝えられるようになり、主体的な時間を確保できるでしょう。
2:段取り
段取りが下手な人は、目の前のことや、思いついたことから着手しがちです。しかし、思い付きで作業を進めると、本来必要のないことまでやってしまったり、重要なことを後回しにしてしまったりして、周囲に迷惑を掛けることがあります。
遠回りのようで近道なのが、最初に「段取りを計画する」こと。新しい仕事が発生したら、まずタスクを洗い出し、どういう段取りを踏めばゴールにたどり着けるのかを考えたうえで、所要時間を予想しスケジュールを引く。これを始めにやってしまえば、行動がぶれなくなり、抜け漏れなどのミスを防ぐことができます。併せて、段取り一つひとつについて「自分でやるべきか、他者に任せるべきか」も考えておくとスムーズです。
この計画を念頭に置いて作業を進めれば、自分が今、全体のどこにいるのかを把握できるので、期限が迫ってから慌てることがなくなります。また、別の割り込み作業を依頼されたときにも、「今は受けられない」「このタイミングなら受けられる」など、自分のペースを守りながら別の仕事もさばけるようになります。
3:コミュニケーション

一人ではうまくやれていたのに、他人がかかわると途端に生産性が低下することがあります。
よくあるのが、「言ったはずなのに伝わっておらず、動いてもらえなかった」というもの。このようなコミュニケーションのズレは、抜け漏れや手戻りの増加や、言った・言わないのトラブルにつながり、仕事を滞らせる原因になります。
コミュニケーションのズレを防ぐには、「物事を正しく、わかりやすく伝える」。シンプルですが、これに尽きます。
ポイントは、自分ではなく、相手目線で伝え方を考え、整理すること。自分の頭の中にあることをそのまま伝えるのではなく、相手の頭の中を想像し、この言葉、この伝え方で理解できるかどうか考えてから伝えることが大切です。
予備知識はあるだろうか、この専門用語は理解できるだろうか、この組み立てで理解が追い付くだろうか…など、相手によって適切な言葉選びや順番を選ぶことも重要。これだけで、齟齬がなくなり、抜け漏れや手戻りも最小限に抑えられるはずです。
なお、伝える前に何について話すのかを指し示す枕詞を挟むと、より正しく伝わりやすくなります。例えば、「まずはこのプロジェクトの概要ですが…」「ここが最も重要なポイントなのですが…」などと挟むと、相手の頭がより整理され理解が進みやすくなります。
4:資料作成
真面目で几帳面な人ほど、「情報は多いほどいい」「情報な抜け漏れがない方がいい」と考え、情報を完ぺきに集めることに意識が向きがちです。その結果、グラフや図、文章をパワーポイントにパンパンに詰め込んだ膨大な資料ができあがりますが、読み手はそんなことは求めておらず、逆に理解されづらくなるだけだったりします。
資料作成の生産性を上げるには、読み手の時間を奪わない、シンプルで無駄のない資料を作ること。資料作成の時間を短くできるうえ、読み手が理解するまでの時間も減らすことができるので、生産性は劇的に向上します。
ポイントは「論理構成とストーリー構成を明確にする」、「文章をシンプルにする」、「装飾をシンプルにする」の3点。余計な装飾や形容詞などを外し、何についての資料なのか、結論は何か、その根拠は何かをシンプルに盛り込めば、本質的な要素が際立ち、伝わりやすい資料になります。
5:会議
「今日は〇〇について議論します」から始まる会議は多いですが、本来議論は「やること」であり、「目的」ではありません。何のために、どのレベルまで議論すればいいのかが明示されていないので、いつまでもだらだらと議論が続いてしまうことになります。
生産性が高い会議にするには、ゴールの明確化が何より大切。今日はどんな議題について、どのレベルまで議論するのか「ゴールの条件」を会議導入時に示すことで、議論は円滑に進み、ダラダラや脱線も防げます。
「ゴールの明確化」は、会議主催者でなくても可能です。とはいえ、「会議のゴールを明確に示してください!」と直接的に伝えては角が立つので、例えば「すみません!私の理解が合っているかどうか確認したいんですけれど、今日のゴールは〇〇ということで大丈夫ですか?」などと質問すれば自然です。たとえこの「〇〇」が間違っていたとしてもOK。「いや、今日は△△について話したいんだ」など、主催者が意図する真のゴールを引き出し、参加者全員に明示することができます。
6:学び
人は誰しも、疑問や問題にぶつかったときに、性急に答えを求めがちです。私自身も、若い社員から「どう対処すれば正解ですか?」などと結論を求める質問を受けることが多いのですが、答えを学んでもそれを応用できなければ意味がありません。
仕事において学ぶべきは、答えそのものではなく、どのようなものの見方や考え方をすれば、優れた答えにたどり着けるのか?という「答えの出し方」。自分の周りにいる優秀な人の「頭の使い方」を学び、自分のものにしてしまうことが、生産性の高い学びの方法です。
頭の使い方を学ぶ際のポイントは、次の5つ。
・視野の広さ=自分との視野の広さの違いを意識する
・視座の高さ=視座の違いに着目する
・視点の角度=視点の多さを意識する
・時間軸=時間軸を切り替えながら考え、思考パターンを学ぶ
・思考のプロセス=考え方の流れを理解する
特に「思考のプロセス」を学ぶことは、優秀な人の頭の使い方を自身にインストールすることになるので、見える世界がガラリと変わり、世界が広がるきっかけになります。
7:思考
生産性を上げるために最も重要だと捉えているのが「思考」です。
人は自分の頭で考えられる範囲でしか、行動することができません。つまり、思考する力がないと、行動の範囲も限られてしまい、自身の可能性をも狭めます。
思考力がなければうまく段取りすることも、コミュニケーションすることもできず、仕事の生産性を落としてしまいます。
「思考」の生産性を上げるためにお勧めしたいのは、「答えを探す」思考から、「問いを探す」思考へと、頭を変えることです。
例えば、携わっている商品の売り上げがガクンと落ちたとします。ここで焦って「どうすれば売り上げを戻せるのか」を考えようとしても、手掛かりもない中ではどう考えていいかわからず、思考停止になるのは当たり前。たとえ思いつきレベルで答えを出したとしても、的外れなものである可能性が大です。
そんなとき、「問いを探す」に意識を向けると、「そもそも、なぜ売り上げが下がったのだろうか」という問いに思い至り、「売り上げが下がった原因を突き止める」というアクションにつなげることができるはずです。
売り上げが下がった原因が「客単価が下がったから」であれば、ではどの層の客単価が下がったのか→10~20代の若年層の客単価が下がっている→ではなぜ若年層の単価が下がったのか…というように、「何で、何で」を繰り返すことでどんどん掘り下げていけば、問題の根本原因を突き止めることができるでしょう。
この「何で、何で」による掘り下げは、思考の効率化にはとても重要。一見、面倒くさく回り道な作業のようにも見えますが、問いを重ねる過程で「何を考えるべきか」の範囲が絞り込まれるので、問題解決の糸口が見つけやすくなり、結果的に楽です。
8:発想

仕事の生産性を下げる原因の多くは、「いいアイディアが出ず、立ち往生してしまう」ことにあります。
アイディアに行き詰まる人の多くは、いきなり「何かいいアイディアはないか」と考え出そうとそうとします。しかし、誰しも常識や先入観を持っているので、それらに縛られてしまい、「どこかで見たようなアイディア」になってしまう可能性があります。
発想の生産性を高め、クオリティを上げるには、まず今の常識を洗い出し、その常識を覆すというステップを踏むのが効果的です。
例えば、「新しいホテルのアイディア」を考えなければならないとします。その際「どんなホテルならば新しいと思ってもらえるだろう」と結論から考えるのではなく、ホテルに対してどんな常識や先入観を持っているのか、まずは洗い出します。
その結果、「ホテルは泊まる場所である」「整然としている場所である」などの常識が洗い出されたら、今度は「もしも泊まる場所でないとしたら?」「整然としていないとしたら?」など、常識を一つひとつ覆してみましょう。
例えば、「各部屋でスポーツや音楽のパブリックビューイングが楽しめるホテルはどうだろう?」とか、「雑然とした魔境感があるホテルは?」など非常識で突飛な、しかし新しいアイディアが出てくるようになります。
効率化で無駄をなくせば、面倒くさい作業も減らせる
効率や生産性というと、「面倒くさがりの自分には向かない」と捉えてしまう人がいますが、決してそんなことはありません。実は面倒くさがりにこそ効率化はお勧め。無駄をなくすことで、日々の「面倒くさいこと」を激減できるからです。
しかし、面倒くさい作業を減らすために、身を削るような努力をするのは本末転倒。今回ご紹介した8つの視点での効率化は、いずれも「頭のスイッチを切り替える」だけでできることばかりです。まずはご自身が着手しやすいものから、始めてみてほしいですね。
羽田康祐さん
株式会社朝日広告社ストラテジックプランニング部門の戦略ディレクター。
広告会社の営業、マーケティング担当を経て朝日広告社に入社。マーケッターとして活躍する傍ら、産業能率大学院ビジネススクールを修了(MBA)。一度退職し、3年間外資系コンサルティング会社に参画。2010年に再び朝日広告社に戻り、現職。広告会社流の右脳とコンサルティング会社流の左脳を併せ持つハイブリッドキャリアを持つ。
著書に『問題解決力を高める推論の技術』(フォレスト出版)『インプット・アウトプットを10倍にする読書の方程式(フォレスト出版)』『ブランディングの教科書』(NextPublishing Authors Press)。自らの経験をもとに本当に使える仕事術を厳選した『無駄な仕事が全部消える超効率ハック――最小限の力で最大の成果を生み出す57のスイッチ(⇒)』(フォレスト出版)が話題に。
k_birdのハンドルネームでブランディング&ビジネスのブログ「Mission Driven Brand」を運営中。