プレゼンは「他人への思い」で、グッとよくなるもの──澤円のプレゼン塾(その9)

話し手・聞き手に加えて第三者を想定する「第三極の思考」を持つために必要なメソッドとは何か?思考を飛ばすために必要なのは他人の目で物事を見ることができる想像力だと澤さんは言います。それは一体どういうことなのでしょうか。
澤円のプレゼン塾・第9回は、プレゼン力を上げるために不可欠な「想像力の強化」について解説していきます。

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他者の目を借りて物事を見る習慣

この「第三極の思考」を持つためには、とにかくいろいろな人の思考パターンを自分の思考の引き出しの中にしまっておかなくてはなりません。そのために必要なことは「他者の目を借りて物事を見る」という習慣をつける必要があります。

それはすなわち「想像力」を持つことにほかなりません。想像力は、人間に与えられた能力の中でも、トップレベルで貴重なものであると私は考えています。

想像するのは、コストもかからないし、他者にも迷惑をかけることはない。そして、何より楽しいですよね。想像力を思い切り働かせれば、いろいろないいことが起きます。自分のプロジェクトの結果を幾通りも仮定することができるようになり、自分が開発したクラウドサービスが世界中で利用されているシーンを思い浮かべることができるようになります。

そして、普段の生活の中で自分の周囲にいる人たちへの気配りができるようになります。相手がどう思うのか、相手が不愉快に思わないか、常に気を使うことが習慣化されます。

つまりは「人間力」がアップしていくわけです。

人間力が豊かな人のプレゼンテーションは、とても魅力的です。言葉がどんなにシンプルでも、スライドなんて一枚も使わなくても、会場が古くて薄暗い公民館の片隅でも、その言葉は必ず相手に伝わります。「相手のことをもっと考えて行動しましょう」「相手の気持ちを思って振る舞いましょう」なんて言葉は、学校でさんざん聞かされたことでしょう。

もしかしたら、「どういうことだろう?」と不思議な気分になった人もいるかもしれませんね。私もその一人です(笑)。「自分のことで手いっぱいなのに、他人のことまで…」と思う人もいるでしょう。気持ちは分かります。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

聞き手への思いやりがプレゼン力をグッとアップさせる

日本では昔から「情けは人の為ならず」ということわざがあります。
Wikipediaによれば「情けは人のためではなく、いずれは巡って自分に返ってくるのであるから、誰にでも親切にしておいた方が良い」となっています。

他者を思いやるということは、すなわち自分にとってもプラスになるわけです。「おいおい、ずいぶんとプレゼンとはかけ離れた話をしてないか?」と感じる方もいらっしゃると思います。

でも、そうではないのです。他者への思いがプレゼンをぐっと良くするのです。

ご存知の方も多いと思いますが、プレゼンテーションの語源は「プレゼント」です。贈り物は、相手を思う気持ちが強いほど、魅力的なものになりますよね。

相手、すなわちオーディエンスのことを思うだけではなく、まったく違う視点を持つ人にも伝わる心を持てば、ご自身のプレゼンテーションをさらに魅力的にできるわけです。

どうでしょうか。「第三極の思考」を持つことによるプレゼンテーションのさらなる進化。そして、それを可能にする「想像力の強化」。これは、今すぐに始められることです。

では、具体的な強化プログラムについて考えていきましょう。

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想像力が求められる生活シーン

まず、想像力を強化するためには、何をすればいいのでしょうか?
澤の持論は、「想像力は普段の生活の中で鍛えられる」です。

ちょっと思い出してください。

満員電車の中で、降りようとするときにドアの真ん前に立っていて行く手を阻んでいる人。困りますよね。

ただ、たいていの人は悪気があってやっているわけではないでしょう。
単に「自分がどれくらい邪魔か」という想像力が足りていないから迷惑をかけてしまうのです。

「自分が一度降りたほうがスムーズに流れるだろうな」と想像すれば、おそらく自然と体は動くことでしょう。

自転車を駅前の歩道に止めてしまう人、いますよね。「駐輪場が近くにないのだから仕方がない」というのが言い分ではなかろうかと。

でも、その自転車で全盲の方が行く手を阻まれたり、ベビーカーを押している母親が進退きわまったりする場面を想像できれば、そうそう歩道に放置する気にはならないのではないかと。

いずれの場合も、想像力を働かせれば全く別の行動が取れるはずです。
プレゼンテーションも全く同じです。

想像力を働かせながらスライドを作成すれば、プレゼンテーションをしている自分の姿を鮮明に描くことができます。

想像力を働かせながらプレゼンテーションをすれば、セッションの後の聴衆の行動がどうなるか、自分の上司に説明することができます。

想像力を働かせながら質問に答えれば、質問者がその回答を他の人にどう伝えるか、具体的な場面が脳内に浮かんできます。

想像力は、人類に与えられたきわめて貴重な能力です。想像力は、人類のあらゆる文化・学問・芸術・事業の根幹に存在する物であると私は思っています。

駆使しない手はありません。徹底的に使いましょう。

「でも、どうやれば想像力を駆使できるんだ?」「わたしは昔から想像力が貧困で…」という方もおられますよね。

ということで、次回は想像力を高めるメソッドについてお伝えしたいと思います。

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著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術
Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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