「予定通り進めているのに、期限まで結果を出せそうにない」「頑張っているのに、仕事がなかなか終わらない」「周りに比べて、自分だけ要領が悪い気がする」――こんな悩みを抱えているビジネスパーソンは少なくないようです。
仕事で成果を挙げるには、PDCA~Plan(計画)・Do(実行)・Check(点検・評価)・Act(改善)~サイクルを回すことが重要ですが、ソフトバンクで社長室長を務めた経験のある三木雄信氏は、「PDCAをもっと早く、機能的に回す(=高速PDCA)ことで、前述のような悩みはすべて解消する」と言います。
先ごろ発売された三木氏の著書『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごいPDCA』の中から、高速PDCAを生み出した背景、高速PDCAを回す方法について、一部ご紹介します。
孫社長の仕事を分析してわかった「一般の人が仕事を滞らせている6つの要因」
著者の三木氏は、新卒で入社した三菱地所を3年で退職し、25歳のときにソフトバンクに転職しました。三菱地所時代は、「精一杯頑張ってはいたが、どちらかといえばうっかりミスの多い平凡な社員だった」といいます。
そんな彼がソフトバンクに入社し、任されたのは孫正義社長の秘書。そして、初めて命ぜられた仕事は「3日で経営要素1万件をピックアップしろ」という“むちゃぶり”だったとか。とてつもない数、しかも漠然とした依頼にとまどったそうです。
その後もどんどん新しい仕事が降りかかってきたものの、孫社長から言われることは「常人の志向ではとてもついていけないものばかり」。でも、孫社長自身は、誰もが無理だと思っていることを次々やり遂げていました。
そこで三木氏は、孫社長の仕事のやり方を徹底的に分析。その結果、孫社長はPDCAに忠実に仕事をしていること、そしてその回し方が早くて機能的だということに気付いたのだとか。
また、分析を通して、普通の人が仕事を滞らせている6つの原因にも気づいたと言います。
<仕事で「いい結果」が出ない6つの理由>
1.「計画に完璧さを求めること」
計画の綿密さばかりにこだわってしまった結果、多くの人が結果を出すところまで行けていない。
2.「一球入魂主義」
何かの仕事をやるとき、それをクリアするための方法を一つひとつ試しているから、すごく時間がかかる。
3.「期限の甘さ」
目標設定をしたとき、それを達成できたかどうかを確認するスパンはだいたい1週間や1カ月。そのため、なんで自分は目標達成できたのか、できなかったのかがよくわからなくなっている。
4.「数値で設定されていない曖昧なゴール」
せっかく目標設定をして結果を記録しているのに、それを数字で管理できていないために次に活かせていない。
5.「検証の中途半端さ」
いろいろな方法を次々に試していく中で、結局何が一番効果的な方法なのかわからなくなり、最終アウトプットが中途半端に終わっている。
6.「自前主義」
何かを新しく始めるときゼロから学び始めてしまう結果、結局何も生み出すことができなかった、という状況に追い込まれている。
これら6つの問題を、“高速PDCA”ならばすべて解決できるといいます。
「高速PDCA」を回すことで、仕事のスピードも成果も上がる
一般に言われる「PDCA」は、Plan(計画)→Do(実行)→Check(点検・評価)→Act(改善)のサイクルを何度も回し、時間をかけて、確実にうまくいく手段にたどり着くというものです。
一方で、ソフトバンクで実践されている“高速PDCA”は、基本のPDCAをベースにしつつも、さらに早く確実にPDCAを回すという方法。流れを整理すると、次の8ステップになるそうです。
<高速PDCAの8ステップ>
1. 大きな目標を立てる(週、月単位など)
2. 小さな目標を立てる(1日が原則)
3. 目標達成に有効な方法をリストアップする
4. 期間を決めて、すべての方法を同時に試していく
5. 毎日、目標と結果の違いを検証する
6. 検証をもとに、毎日改善する
7. 一番すぐれた方法を明らかにする
8. 一番すぐれた方法を磨き上げる
この高速PDCAの回し方について、本書の中では「コピー・FAXの複合機の営業代理店に入社した新人営業マン」の事例を挙げて解説しています。
その新人が上司から課されたノルマは、月5件の契約獲得。見込み客リストを渡され、上から順に電話をかけて、アポが取れた相手を訪問するように指示されました。それから1カ月間、その新人はひたすら営業をかけ続けましたが、電話がつながらなかったり、すぐ切られてしまったりして、アポを2件取るのがやっと。それでも何とか契約を取ろうと、アポが取れた2人を訪問したものの、1件も契約できずに終わってしまいました。
三木氏によると、この新人がノルマを達成できない理由は、①何も考えずに電話をかけている、②毎日の結果を記録していない、③自分の仕事を数字で把握していない、の3つ。そして、「多くの人が現実にこうした働き方をしている」と指摘します。
この例を、前述の「高速PDCAの8ステップ」の当てはめて考えると、次のように変わります。
1.「1カ月5件の契約を取る」を大きな目標に設定する
2、そのために、仮に「1日につき、10人の見込み客と3分以上話をする」という小さな目標(個人目標)を立てる
3.小さな目標を達成するために、上司からもらった「見込み客リスト」を活用
4.そのリストに片っ端から電話を掛け、かけるたびに「何分話せたか、どんな内容の話をしたか」などを細かく記録する
5.1日の終わりに、個人目標を達成できたか必ずチェックする
6.明日はどうやって電話をすればいいか考える
7.記録をつけるうちに、傾向が見えてくる(例えば、電話をかけた相手の職業や年齢によって、電話のつながりやすさや会話時間が変わることに気付く、など)
8.記録をもとに、2週目はつながりやすい属性の見込み客に集中して電話を掛ける
通常のPDCAを、上記のような“高速PDCA”に変えることで、アポを取るため、契約を取るための最も優れた方法が見えてくるようになります。
高いコストを掛けなくても、高い能力がなくても、許容できる範囲のリスクで実行できる営業手法を片っ端から試し、「1日に10人、3分以上話す」という小さな成功を積み上げながら、やがて「月に5件の契約を獲得する」という最終ゴールへたどり着く。こうして試行錯誤しながら、高速PDCAを回していけば、経験のない新人でも確実に目標を達成できる、と言います。
本書では、「高速PDCAの8ステップ」の流れを、孫社長や、ソフトバンクにおける実例を交えながら詳しく紹介しています。読んだ後に、その方法を真似しながら確実に実行できるよう、具体的なアドバイスになっています。
仕事のスピードを上げたい、確実に結果を出したい…という方は、手に取ってみてはいかがでしょうか?考え方は、とてもシンプル。今日のこの仕事から、すぐに役立てられるはずですよ。
参考書籍:『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごいPDCA』/三木雄信/ダイヤモンド社
EDIT&WRITING:伊藤理子