マネジメントをするうえで、意識すべき視点とは何か?
業績に貢献する人材を育てる秘訣とは何か?
新任マネジャーに限らず、多くの管理職の方が常に課題に感じている「マネジメント」。そんなマネジメントに必要なスキル・ノウハウについて、現在第一線で活躍中の経営者・人事のプロに伺いました。今回は、ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長の岩瀬大輔さんです。
目次
~岩瀬大輔氏のマネジメント論~
いわせ・だいすけ:ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長
<プロフィール>
1976年、埼玉県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。卒業後、1998年にボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパン(現RHJインターナショナル)を経て、アメリカへ留学し、2006年にハーバード大学経営大学院を日本人4人目のベイカー・スカラー(成績上位5%)として修了。帰国後の2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年に代表取締役社長に就任。2010年には、世界経済フォーラムの「Young Global Leaders」の1人に選出されている。
■未知の分野で、年齢も経験も上のメンバーの上司になった
僕は、大学卒業後の6年間で3社の投資コンサルティング企業に勤めました。多くのコンサルタントがそうだと思いますが、4~5人程度の少人数でチームを組み、3~4カ月のプロジェクトが終わるたびにメンバーが入れ替わります。そのなかで、1人のプレーヤーとして働いていたのです。
組織をマネジメントする立場になったのは、2006年にライフネット生命保険を起業するタイミングが初めてでした。それも、生命保険という僕にとって未知の分野でいきなり副社長になり、自分より詳しい年上の人たちを部下に持つことになりました。一般的な管理職は部下に教えながら指導するのでしょうが、生命保険の素人である僕は、あれをやれ、これをやれと指示することもできませんから、スタッフみんながそれぞれ考えてやっていくしかありません。
「ネット生保」という前例のない業態をつくっていくプロセスの最中だったことは、幸いでした。当時はとくに、全員が何をできるかを考えて実行することで、エネルギーを発散しているような雰囲気があり、当時はそのやり方が合っていました。僕がやっていた仕事といえば、開業資金を集めてくることや、大きな絵を描くこと、広報役を担うこと……あとは、みんなが気持ちよく働けているかに気を配る。それくらいですね。
■自分より能力の高いプレーヤーを、いかにマネジメントするか
もっとも、自分より年上だったり、自分にはないスキルを持っている人をマネジメントしなければならないケースは一般的にも珍しくありません。そのような場合に求められることは、違う目線でリードして、彼らにない付加価値を提供することだと思います。
たとえば、僕はシステム部を直接見ていたことがあるのですが、システムの細かいことは全然わからないんですね。それでも、経営目線で彼らに意見することで、より大きなトレードオフを示して判断させたり、もっと長期的な視野で議論させたり、経営戦略とシステムをより密接につなげたりすることはできます。現場と同じ目線では知識も経験もかないませんが、彼らの目線を持ち上げることはできる。そうすると、自分たちとは違う役割として頼りにされるようになるし、求心力が持てるようになると思います。
逆にいうと、個人として数字を取ってくるタイプの人に、チームを任せられるかというと、そうはいきません。ある種の安定感だったり、仲間からの信頼だったりということが、上から見てマネジメントを任せるうえでは重要なのです。たとえば、感情のブレが少ないこと。自分の利益だけでなく全社のことまで視野を広げられること。こういったことは現場での成果には直接結びつかないかもしれませんが、ポジションが上がっていくにつれ、必要になってきます。
■選手としてダメだったとしても、名監督になる可能性はある
プレーヤーとマネージャーの話は、スポーツでいい選手がいい監督なのかという話と似ていますよね。僕は、日本の大企業的なマネジメントの発想は、野球に似ていると思うのです。日本の野球は、名選手が監督になるケースが多いように思います。日本の大企業の社長や役員の多くは、ヒラから課長になって、そして部長になるといった流れで昇進してきたわけです。下の仕事は全部やったことがあるから、トップの社長が一番知識も経験も豊富で、みんなの仕事をわかっているという前提がある。だから年功序列になるし、「社長は偉い」とされています。
しかし、サッカーの監督の場合、選手としては大成しなかったザッケローニのような人を、文化の違う海外から連れてきたりします。欧米のマネジメントはどちらかというとサッカー的で、プレーヤーとマネジメントは違う役割だと認識しているので、名プレーヤーであることがそこまで重視されないのです。
もちろん、「営業マンのマネジメントは営業経験があった方が気持ちがわかる」とか、「やったことがない上司に言われても説得力がない」という意見もわからなくはないですが、少なくともチーム全体のマネジメントに関していえば、その分野の経験がなくてもいいマネジメント足りうるはず。経験のないところからトップを連れてきてうまくいった会社もありますし、本当に優れたビジネスパーソンは、そういうことができるのではないかと思います。
EDIT/WRITING宇野浩志 PHOTO坂本康太郎
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