意志力を、鍛えよ! ―今、気になるビジネス書の要約

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NORRIE3699/iStock/Thinkstock

 仕事が忙しいと夫婦関係が悪くなるのはなぜか? 何度もダイエットに失敗してしまう理由はどうしてなのか? やらなくてはならない仕事を先延ばしにしてしまう理由は?

 これらの疑問や悩みを解決する鍵は、「意志力」と呼ばれる力にある。意志力は科学的に証明された力で、筋肉と同じように使いすぎると消耗してしまうため、何かを我慢したりプレッシャーを感じたりすると、全く別の行動にも影響を及ぼしてしまう。また、意志力は回復させることもできるし、鍛えることもできる。

 本書では、意志力が持つ特徴を述べるともに、意志力を取り戻す方法やそこに潜むジレンマ、そして意志力を鍛える方法が紹介されている。仕組みを理解しておくことで、冒頭の課題を解決するためのきっかけがつかめるはずだ。また、社会心理学に基づいた実験結果から明らかになる人間の不思議な行動は、それ自体とても興味深く、読んでいて面白い。(苅田 明史)

意志力とは何か?

意志力は消耗する

 空腹の学生に焼きたてのクッキーの香りが広がっている部屋に入ってもらい、一部の学生はクッキーやチョコレートを食べてもいいと言われたが、不運な何人かはラディッシュ(廿日大根)しか食べられない、という実験を行った。ラディッシュしか食べられない学生はクッキーの誘惑と戦い、何とかクッキーを口にする誘惑に逆らうことができた。

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Jupiterimages/Creatas/Thinkstock

 

 その後、学生たちは別の部屋に連れて行かれて、図形パズルを解くように指示される。このパズルは解けないようにつくられており、このテストの目的は、解くのを諦めるまでの時間を測るというものだった。その結果、クッキーとチョコレートを食べられた学生たちはおよそ20分間パズルに取り組んだが、ラディッシュしか食べられなかったグループはたった8分間でパズルを解くのをやめてしまった。クッキーの誘惑に逆らうために意志力を使ってしまったため、パズルに取り組むエネルギーが減ってしまったのだ。

 同様に、夫婦喧嘩がおこる原因も意志力が関係している場合がある。仕事で意志力を使い果たしていると、職場で消耗しきってしまうため、そのしわ寄せが家庭にきてしまう。そうした場合には、仕事を早めに終わらせて家に帰るべきだ。

意志力が弱まると刺激が強くなる

 刺激を強く感じたら、意志力が弱まり、自我が消耗している証拠かもしれない。意志力が弱まっている人は、悲しい映画を見るとより悲しく感じ、楽しい絵を見るとより楽しい気持ちになる。酒やたばこの依存症患者は、酒やたばこをやめているときに、それらへの欲望をふだん以上に感じることになる。依存症の再発率が高いのは当然のことなのだ。

 また、我慢したあとは次の誘惑に負けやすい。試験期間中の学生は自己コントロール力が低下しているため、生活上の好ましい習慣をすべてやめてしまう。運動をしなくなり、たばこの本数やジャンクフードの消費量が増えた。電話の返信や掃除の実行率が低下した。寝坊や衝動買いの傾向も高くなり、短気で怒りや失望を感じやすくなった。こうした負の感情は試験のストレスによるものだと一般的に誤解されているが、実はストレスによって意志力が消耗し、その結果として負の感情をコントロールする能力が低下していたのである。

意志力の貯蔵庫は1つ

 意志力は思考や感情、衝動、パフォーマンスをコントロールすることによって使われる。さまざまな実験から明らかになるのは、意志力の2つの特徴が明らかになる。

  • 意志力の量には限りがあり、それは使うことで消耗する。
  • すべての種類の行動に用いられる意志力の出所は1つである。

 意志力の出所については、仕事のために1つ、ダイエットのために1つ、運動のために1つ、家族にやさしくするために1つ、とそれぞれ別の「貯蔵庫」があると思われているかもしれない。だが、「クッキーの誘惑に逆らうこと」と「図形パズルを解くこと」という、まったく関係ない2つの行動の関係性を、同じ源泉から生じたエネルギーが使われていることが証明されている。

 したがって、新年の抱負をリストアップするようなことはやってはいけない。リストに並んだ目標を実現するだけの意志力を持った人などいないのだ。どれか1つの目標を実現しようとするたびに、その他すべてのために使うエネルギーの貯蔵量が減ってしまう。目標を絞って集中することが重要だ。

意志力のもとになるエネルギーを高める

グルコースなくして、意志力なし

 グルコース(ブドウ糖)と自己コントロールとの間に関連があるとわかったのは、低血糖症患者についての研究がきっかけだった。低血糖症の患者は普通の人よりも集中するのが苦手で、腹を立てたときにマイナスの感情を制御するのが下手だった。

 また、被験者に砂糖入りとダイエットシュガー入りのレモネードを飲ませてから、だんだん難易度が上がっていくコンピュータゲームをさせたところ、砂糖入りのレモネードを飲んだ被験者たちは小声でブツブツ言いながらも何とかゲームを続けることができたが、ダイエットシュガー入りのレモネードを飲んだ被験者たちは大声で悪態をついたりコンピュータを叩いたりし始めた。グルコースなくして、意志力なしというわけである。

GI値の低い食べ物をとろう

 研究の結果、自己コントロールを発揮してグルコースを消費すると、体は甘いものを強く欲するようだ。ふだんの生活でも、自分をコントロールしなければならないときほど、甘いものへの欲求が強くなる。ただし、体がエネルギーを最も手っ取り早く手に入れる方法として甘いものを強く欲したからといって、甘い「麻薬」ばかり食べていてはいけない。糖分の少ない高タンパクの食品やその他の栄養のある食品も、甘いものよりも効果が出るのに時間がかかるかもしれないが、甘いものと同じように体内でグルコースに変化する。

 砂糖と同じく、白いパンやジャガイモや白米といった炭水化物やスナック菓子、ファストフードは短時間でグルコースに変化する。しかし、これらの食べ物を食べると血中のグルコース濃度が急激に上下動し、結局はグルコースが不足して自己コントロール能力が低い状態になる。自己コントロール能力を一定に保つには、野菜、ナッツ類、生の果物、チーズ、魚、肉などGI値が低い(短時間でグルコースに変化しない)食べ物を選んで食べるほうがよい。

【必読ポイント!】 意志力の鍛え方

なぜ決定を先延ばしにしてしまうのか?

 イスラエルの刑務所では、判事がそれぞれの受刑者の主張を聞き、審議委員からの助言をもとに、仮釈放を認めるかどうか決定する制度がある。仮釈放を認めれば受刑者とその家族は喜び、税金の節約にもなるが、仮釈放中の受刑者が別の犯罪を起こしたら、判事の評判に傷がつくことは避けられない。

 研究者は、判事の決定に共通するはっきりとしたパターンがあることに気がついた。判事が休憩する直前に審議を受けた受刑者が仮釈放を認められる確率が明らかに低いのに対して、休憩直後に審議を受けると、仮釈放が認められる確率が高くなる、ということだ。たとえば昼食直前に仮釈放が認められる確率は10%だが、昼食直後には60%以上にはねあがる。判定は精神的に負担の多い作業であるため、意志力に必要なグルコースを消耗してしまい、休憩前にはリスクの少ない選択肢に傾きがちだったのである。

 このように、ものごとを決定するには意志力が必要なので、人は疲れているとき決定を延期するか避ける方法を考えるようになる。近年、結婚という人生最大の選択を先延ばしにしているのも同様の理由だ。20世紀半ばにはほとんどの人が20代前半で結婚していたが、教育を受ける期間が長くなり、長い準備期間が必要な職業を目指す男女が増えた。避妊具が流通して社会的価値観が変化した。大都市に住む人が増えて配偶者候補の選択肢が増えた。それゆえ、かつてなかったほど選択肢が減ることを恐れなければならなくなったのである。

ダイエットせずに減量を成功させる

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DAJ/Thinkstock

 

 空腹な被験者に対してミルクシェイクを与える実験を行った。一部の被験者には少量のミルクシェイクを、別の被験者には大きなカップ2杯分のミルクシェイクを与えた。また、ミルクシェイクを全く与えられなかった被験者もいた。その後、クッキーやクラッカーが盛られた皿を与えたところ、ダイエットをしていない被験者は、ミルクシェイクを2杯飲んだ人はクラッカーを少しだけ食べ、少ししかミルクシェイクを飲んでいない人はもっと多くのクラッカーを食べた。ミルクシェイクを与えられなかった人は、クッキーやクラッカーを半分以上食べた。これは全て理解できるだろう。

 しかし、ダイエット中の被験者は、大量のミルクシェイクを飲んだ人の方が、数時間何も食べていなかった人よりも多くのクッキーやクラッカーを食べた。彼らはその日のダイエットは失敗と見なし、「もう取り返しがつかないのだから、今日は楽しんだほうがいい」と考えてしまう。一線を超えると歯止めが利かなくなってしまうのだ。

 また、こんな実験もある。ダイエット中の若い女性に映画を見せ、そのあいだすぐ手が届くところにチョコレートのボウルを置いた場合と、部屋の向こう側にボウルを置いた場合でどのような違いがあるかを実験した。すると、すぐ手が届くところにチョコレートがある女性の方が意志力を消耗していたことが明らかになった。この場合、意志力を消耗してしまったことで、あとで他の食べ物を食べ過ぎる可能性が高い。すなわち、もしあなたがダイエット中で、自己コントロール能力を失いたくないなら、チョコレートのすぐそばで長時間過ごさないことである。

 しかし、この問題を避ける方法がもう一つある。それは、ダイエットをしないことだ。ダイエットをしていない人は、お菓子の隣に座っていても意志力を使わない。ダイエットをしてしまうからこそ、意志力を消耗し、食べるのをコントロールするという難題に直面する。この誘惑に抵抗し続けるためには意志力を補給しなくてはならないが、そのためにはグルコースを与える必要がある。ダイエットをしている人は栄養摂取のジレンマに陥ってしまうのだ。

意志力はこうして鍛える

 意志力を鍛えることができれば、はかりしれないほどの利益がある。それでは、意志力を鍛えるためにはどうしたらよいのだろうか?

 ある実験では、大学生に自己コントロールの基準値を測るテストを受けてもらい、その後簡単な消耗テストをして、どのくらい意志力が減退したかを調べた。その後、何らかのエクササイズを2週間行い、その後また前と同じテストを行った。学生は3つのグループに分けられ、それぞれ「気づいたら背筋を伸ばすようにする」「食べたものをすべて記録する」「前向きな気分やプラスの感情を保つようにする」というエクササイズを行った。

 結果的に、テストの成績が上がったのは「気づいたら背筋を伸ばすようにする」「食べたものをすべて記録する」のグループで、特に「気づいたら背筋を伸ばすようにする」の成績が最も向上した。意志力が向上した学生は以前ほど意志力を速く消耗することはなく、そのため他の作業もできるスタミナが残っていた。

 意志力強化のためには、背筋を伸ばすエクササイズを試してもいいし、他のエクササイズをしてもかまわない。背筋を伸ばす動作に不思議な力があるわけではなく、他の方法でも同様の効果が得られるからだ。要は、習慣的な行動を変えることに集中すればよい。こうして意志力を向上させれば、禁煙や倹約などのより大きな課題に取り組むときのよいウォーミングアップになるだろう。

今回紹介した本

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『WILLPOWER 意志力の科学』

著者: ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー 著、渡会圭子 訳
定価:1,944 円
単行本: 360 ページ
出版社:インターシフト(2013/4/22)

著者情報

ロイ・バウマイスター

フロリダ州立大学・社会心理学部の教授。心理学者として世界で最も研究成果の引用が多く、影響力があるひとりとして知られる。意志力の科学の国際的リーダーであり、「意志力=筋肉説(意志力は筋肉のように披露し、また鍛えることもできる)」の提唱者。

ジョン・ティアニー

ジャーナリスト。『ニューヨーク・タイムズ』紙をはじめ、多数のメディアに寄稿。その優れた活動により、アメリカ科学振興協会、米国物理学会、ニューヨーク出版協会などの賞を受賞。

※本記事は、本の要約サイトflierより転載しております。

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