【“創発的破壊”で日本を元気に 2】人を育てるということ

一橋大学イノベーション研究センター教授、季刊誌『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、六本木ヒルズにおける日本元気塾塾長を兼任し、“イノベーション”における日本の第一人者として活躍する米倉誠一郎氏。国籍や人種、年齢を問わず、学生や経営者など、数多くの人材を輩出している米倉氏に、そのエネルギッシュかつイノベイティブな人材育成について聞いてきました。

f:id:rikunabinext:20140604164852j:plain

―――――――――――――――

■高校生を集めた日経エデュケーションチャレンジを始めたきっかけは?

40代の終わり頃、「僕の仕事や使命は何だろう」と考えるようになって、「若い人間に新しい価値を創っていくこと、すなわちイノベーションが一番大事なんだということを教えること」じゃないかと思うようになったんです。そんなことを漠然と思っていた時期に、現・教育と探求社の代表取締役社長で、当時は、日経新聞広告局にいた宮地勘司さんが「先生、夢を見た」と突然研究室に訪ねてきた。

カルロス・ゴーンやユニクロの柳井正さんを高校生が車座で囲んで、カルロス・ゴーンが「イノベーションはこういうことだ!」と言っている夢だと。そういうことをやりたいと言うので、はじめは「アホか!」といって追い返しましたが、向こうもしつこく、何度でも来る。最後に「それ、いいじゃない」と一緒に始めました。

■日経エデュケーションチャレンジではどんなことを?

第1回目は吉野家の安部修仁社長も来て、「280円は値下げじゃない。これはイノベーションなんだ」と熱く語ってくれたんです。仕入れの話から、店の導線、スッとすくった瞬間にきっちりと一人前分の具とつゆが入る調理器具に至るまで徹底的にこだわり、なおかつスタッフが効率的に働いて初めて実現できる価格なんだと。それはもう、感動しましたね。

昨年のオムロンの社員の実演もすばらしかった。自動改札機って、すごいんです。普通に乗ってきた切符と新幹線の切符を同時に3枚入れると、それも裏にしたり斜めにして入れても、必ず小さい切符を一番上にして出てくる。それを人が歩く2秒間にガシャガシャガシャとやる技術力。日本の技術は、そういうことを高校生の目の前で見せてくれるのです。

■出会った学生たちを海外へ連れて行く理由は?

若い人たちには世界の大きさ、将来のライバルは誰かということを見極めさせなければならない。未来はどこにあるのかを。それは絶対に見せなければならないですよね。だから、多くの学生を連れて世界に行く。

日経エデュケーションフォーラムの初期の頃は、優秀作文受賞者を中国へ連れて行きました。2000年初期でも中国の家は日本の家の3倍くらい広くて、子供たちはPCを全員持っていた。その時、中国で一番進歩的だった中学校を訪れたら、生徒一人に対して科学の実験器具が一個ずつ支給されていた。「これが君たちのライバルなんだ」と彼らに直に見せることは大事です。まさに、「日本人よ、寝てる場合じゃない」と声を挙げた生徒がいました。

■教え子の一人、e-Educationの税所篤快さんの第一印象は?

彼の作文の結論は、「平和な社会を創るために首相になりたい」と書いていました。あまりにもベタな作文でしたが、中国人の血を引くおばあさんとのエピソードが良かったので、入賞しました。一緒に中国へ行った時に、「首相には突然なれないから、ステップを考えろ」と言ったら、しばらくして「足立区長になりたい」と訪ねてきました。「お前はあほか、もっと大きなことを考えろ」と喧嘩別れ。ところが、そのあとですよね。本当に行動力があって、あっという間にバングラディッシュへ渡り、「僕のやりたいことはこれです」と、いつの間にかグラミン銀行でプロジェクトを立ち上げていた。インドの空港で待ち伏せされていたこともありましたね。空港に着いた途端、雑魚寝をしている一群の中の赤い機内用ブランケットからひょこっと顏を出すもんだから、ぎょっとしましたよ(笑い)。

■税所さんが好調な時に限って厳しい言葉をかけている印象があります。誰に対しても同じ対応を?

どうでしょうね。でも基本的にはあまりほめないです。代わりに「本当にバカだな」と言う。これがきっと、僕なりのアプローチなんでしょうね。普通の考えより、クレイジーな考えを聞く方が断然面白い。そんな時に「本当にバカだな」という言葉が出る。「もう最高だな」と。

■著書の中で、今の日本は、世界の中でガラパゴス化していると書かれてありますが、その中でクレイジーな日本人が果たす役割とは何でしょう?

結局はイノベイティブかどうかですよね。イノベーションって、大それたことや、そんなことできるわけがないと周りが思うことを実行することですから。

本田宗一郎が自動車に進出すると言った時に、通商産業省事務次官だった佐橋滋と本当に拳を振り上げて喧嘩をした。自動車会社を設立したいと伝えると、「できるわけないでしょ」と佐藤滋に言われた。すると、本田宗一郎は「何言っているんだ。ここは自由の国だから関係ないじゃないか!」と殴りかかったというんです。本当にクレイジー。とてつもないパッションですよ。

著書『経営革命の構造』(岩波新書刊)でも書いたのですが、産業革命をやろうとしていた人たちはクレイジーかつ、ものすごい失敗だらけ。そういう逸話は心が躍るじゃないですか。敗戦後、何もないところから、先人たちは今の日本を築き上げた。日本人って、本当にすばらしいんです。かつ、相当なクレイジーピープルだと思います。

■日本人のクレイジーさはどんな時に実感しますか?

南アフリカに留学生を含めた学生を連れて行った時、日本のパスポートだと入国管理室も税関も文句も言わずに通してくれる。日本ってすごいなとつくづく思う時です。かつてアメリカのパスポートが一番強かった。ところがアメリカは各地で戦争や警察官の仕事をしていますから、以前より警戒され、どこでも素通りというわけにはいかない。ところが日本のパスポートだと、どの国でもほとんど入れます。それが日本人が戦後60年にわたり、平和を守り続けてきた証であり、新しいクレイジーさです。

原爆を2発も落とされ、全てを失った敗戦から、不戦の誓いのもと日本人は懸命に欧米各国に追いつき、追い抜こうとした。一時エコノミックアニマルとまで揶揄されたこともあったが、世界中に面白いものをたくさん提供し、各国の経済発展に積極的に貢献してきた。ウォークマンだって、車だって、家電だって、みな安くて高品質で世界の人がうなり声を挙げるものだった。また、世界中のどんな田舎に行っても、青年海外協力隊がいた。

いま日本の軍事力強化や国威発揚が喧伝されていますが、日本が尊敬され、日本のパスポートが信頼されるのは、ひたすらいいものを安く提供してきたからです。そうした先陣の血の滲むような努力をありがたいと思って、今一度クレイジーなイノベーションで恩返しをしなければならないと思います。

>>続きを読む 【“創発的破壊”で日本を元気に 3】“ズタズタ”になっていい

>>前の記事を読む 【“創発的破壊”で日本を元気に 1】真の次世代リーダーとは

取材・文:山葵夕子

※リクルートキャリア運営「次世代リーダーサミット」 2014年1月20日記事より転載

PC_goodpoint_banner2

Pagetop