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築60年の古い町工場を「カルチャー発信」の拠点へ。全員でオフィスリノベーションに挑戦した2週間に込めた想い

株式会社CRAZY
取り組みの概要
組織の拡大に伴い、繊維工場だった東京・両国の4階建て・築60年のビル1棟を丸ごと借りて移転。これを自分たちらしいオフィスへ生まれ変わらせるため、12月の2週間にわたり業務を完全にストップして全社員参加のリノベーションを実施した。
背景にあった課題
自社のカルチャーを発信する拠点として選んだ移転先だったが、古い物件の改修が追いつかず、「自社らしさが失われてしまう」という危機感を持つに至っていた。
取り組みによる成果
リノベーション完成後は年に1500人が見学に訪れる名所となり、自社のカルチャーを存分に発信する場となっている。社員も家族や友人、取引先を積極的にオフィスへ誘うようになった。
担当者の想い
メンバー全員で共通の体験をし、自社らしさを考える場としたかった。それぞれが「自分で作った」と胸を張って語れるオフィスにしたかった。

「仕組みも意識も追いつかない」。新オフィスに危機が訪れていた

自社のカルチャーを表現する手段は、企業によってさまざま。経営理念に深く印象に残る言葉を刻みつけるケースもあれば、大がかりな社内イベントを実施して社員全員で確認し合うケースもある。

この企業の場合は、「オフィス移転」が大きな契機となった。創業以来大切にしてきた「自分たちらしさ」をどうやって表現するか?苦心の末に完成したオフィスは今、地域住民や社員の家族、他社の社員の方など、大勢の人が訪れる新たな名所となっている。

「人の家とも自分の家とも感じない」ような無責任な状況

ウェディングを主力事業とするCRAZYが現在のビルに移ったのは2015年のこと。事業拡大に伴い、以前のマンションオフィスは30名を超えた頃から手狭になっていた。林隆三さん(クリエイティブディレクター)を中心に、新たな拠点を探すプロジェクトが始動していた。

「ウェディングという主力事業を考えれば、表参道などの華やかなイメージがあるエリアのほうが良いのかもしれません。でも僕たちはウェディング屋さんではないし、新しいオフィスはそれがメッセージとして伝わる空間にしていきたいと思っていました。日本的文化が色濃く残る東東京エリアにそんな場所を作れたら面白いな、と考えていて。このビルは、地道に自転車で回りながら見つけたんです」(林さん)

その4階建てのビルは築60年。以前に入っていた繊維工場はすでに退去していたが、残置物が放置されたままだった。いわゆる「古い町工場」という雰囲気。味はあるけれど、いずれは自分たちで手を入れていかなければいけないだろうな……。そんなことも覚悟しながらの決断だった。

移転した当初は、1階を物置、2階をサロンにして、3階を無理やり執務空間にしていた。4階には簡易的な厨房を設けて社員のためのキッチンスペースに。仮設的に改修も進めていたが、そもそも建物が古いので清潔感がなく、整理整とんも進まず、「仕組みも意識も追いついていない」状況だったという。

「『人の家とも自分の家とも感じない』ような無責任な状況になってしまっていて、どんどんオフィスが汚れていきました。これってCRAZYらしいあり方だっけ?と悩みました。移転前に考えていたことも表現できていないし、このままではお客さまを迎えるのもはばかられてしまう。仕切り直しが必要でした」(林さん)

メンバー全員が共通の体験をすることでカルチャーを育てる

CRAZYが大切にしてきたカルチャーとは何なのか。それが色濃く表れている取り組みの一つに、毎年恒例の「全社員企画」がある。年末から年始にかけて約2週間業務をクローズし、全員参加で何かに取り組むという試み。以前は世界一周旅行をしたこともある。メンバー全員で共通の体験をし、自社のあり方に思いを馳せること。そんな全社員企画を通じて、同社はカルチャーを発展させてきた。

林さんには「このタイミングしかない」という想いがあった。2016年末の全社員企画では、全員参加のオフィスリノベーションをやりたい。みんなでやる必要があり、かつみんなでやれるタイミングがある。それが全社員企画だった。

「日常的なコミュニケーションの中で、リノベ―ションやDIYに後ろ向きな人もいることは分かっていたんです。だからこそ全社員企画に重ね合わせたいと思いました。『何のためにやるの?』ということを語り合い、互いにモチベートしながらやっていくのが全社員企画。素人仕事でいい。できないなりのリノベ―ションでいい。不器用なりに全員が手を動かすべきだと伝えました」(林さん)

完成したオフィスの中心にはシンボルツリーを制作

「CRAZYらしさ」を取り戻すまで

リノベーションに後ろ向きな人がいるのは無理もなかった。DIYを趣味とするメンバーはほとんどいないにも関わらず、できるかぎり外部の手を借りず、自分たちだけで完成させようとする計画だったからだ。

しかもその工程は、事前にほとんど明らかにされなかった。社内コミュニケーションをもう一段回深めるため、チーム分けもメンバーにとっては想定外のもの。

こうした仕掛けの一つひとつが、このプロジェクトに真の意味を持たせていった。

リノベーションが進むに連れて、自然とチームワークが向上

DIYの経験がまったくない小守由希子さん(CRAZY WEDDINGブランドプレゼンター)も、全員で行う自社オフィスのリノベーションに不安を抱えていた1人だ。それでも最初にオフィスリノベ―ションについて聞いたときは、純粋に「やりたい」と感じた。

「ここに移転した頃は、ちょうどママになったばかりのメンバーが復帰したタイミングでもありました。オフィスの床からは釘が飛び出しているところもあって、『赤ちゃんを連れてこられる環境じゃないね』と話していたんです。これが原因で彼女が好きな仕事を離れることになってしまったら嫌だな、と感じていました」(小守さん)

とはいえ、リノベーションやDIYはまったくやったことがないので不安もあった。当日までの準備と言えば「つなぎを準備するからサイズを教えて」と聞かれる程度。発表されたチーム分けは、普段の仕事とはまったく違うメンバーの組み合わせだった。

それぞれのミッションは当日の朝に発表される。「今日は天井を塗ってね」「壁の補修に回ってね」といった形だ。期間中は、進捗に合わせて毎日違うチームを組む。

「日頃の仕事ではあまりコミュニケーションの機会がないメンバーが集まるチームでした。でも不思議なことに、リノベ―ションが進めば進むほど達成したい目標がはっきりしてきて、自然とチームワークが高まっていくのを感じたんです」(小守さん)

作業に行き詰まったら、みんなでネット検索をして方法を探す。そんな風にコミュニケーションを取り、自分たちで考えながらリノベーションを進める。気づけばその作業が、たまらなく楽しくなっていたのだという。

自分たちの手で自分たちの場所を作ったという誇り

こうして完成した全員でのリノベーション。林さんは監督として全体の指揮に当たった。「できあがりは不細工な部分もある」というのが正直な感想だった。

「だけどクオリティではなく、行為そのものに意味があり、それがとても美しいと感じたんです。メンバーそれぞれが『自分で作った』と語れるオフィス。そんな場所は世の中にほとんどないはずです。非効率だけど、自分たちの手で自分たちの居場所を作ったという誇りをみんなで持つことができました」(林さん)

生まれ変わったCRAZYのオフィスには、現在では年に約1500人の見学者が訪れるようになった。区や地元のイベントで使われることもあるという。

「リノベーションの成果はもちろん、CRAZYという会社そのものも見てほしいと思っています。だから多くの人が見学に来てくれるのは大歓迎です」(林さん)

メンバーの親が見学に来たり、子どもが夏休みの宿題をやるために訪れたりといった風景も当たり前になった。「赤ちゃんを連れてこられる環境じゃない」と嘆いていたメンバーの懸念もなくなった。

「素直に家族をオフィスに誘いたいと思える、誇りを持てる場所になったし、社員にとって愛着のある場所になったのだと思います。『CRAZYらしさ』を取り戻すことができました」

(WRITING:多田慎介)

受賞者コメント

林 隆三 さん

私たちは「境界線の曖昧なオフィス」をコンセプトにして、今回のリノベーションに取り組みました。会社と家、仕事とプライベートなど、あらゆる境界線を曖昧にすることで、「働く場所は与えられるのではなく、自分たちで作るもの」という考えが浸透したように思います。今では赤ちゃんを連れて出社する社員も増え、まさに生活が根付いています。オフィスというものは、経営の想いや思想を体感できる空間でなければいけないと思っています。それを暮らしの一部であると考えるなら、なおのことストーリーが大切。これからも主体性を持ち、自分たちで価値を生み出せる集団でありたいと思っています。

審査員コメント

藤井 薫

CRAZYさんはオフィスを「自分たちで作っていくもの」と表現しています。自分たちが働いているオフィスを自分たちで作り直すという経験をした人はほとんどいないでしょう。でも、例えば、自分たちでペンキを塗った経験があれば、そのオフィスに対する愛着は人一倍になるはずです。暮らしと仕事の境界線を曖昧にするということは、「職場は、会社のものでなく自分のものなのだ」というオーナーシップを強くすることにもつながるのだと感じます。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第4回(2017年度)の受賞取り組み