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社内副業でアナウンサー!個人のスキルを集め、育成して、会社に新たな価値をもたらした「公式アナウンス部」の活動

ヤフー株式会社
取り組みの概要
話すスキルや素養を持った人を集めて「公式アナウンス部」を立ち上げ、定期的な訓練の機会を設けてアナウンススキルを向上。メンバーがイベント司会や動画のナレーターとして各部署に協力することで社内の知名度を高め、「質の高い語り手」を必要とする案件の依頼が寄せられている。
背景にあった課題
社内でイベントの実施や動画が制作される際、社員が司会やナレーターになることがしばしばあったが、スキルが十分でないと思われる人が担当するケースも散見された。それではせっかくのイベントや動画の効果が十分に発揮されず、もったいないと感じていた。
取り組みによる成果
アナウンス部メンバーは現在20名を超え、イベント司会やナレーターの依頼は1年間で100件以上寄せられている。社外向けイベントで活躍する「社員アナウンサー」も登場し、質の高い語り手の存在がヤフーのイベントや動画のコンテンツ力を高める存在となりつつある。
担当者の想い
せっかくコストをかけてイベントや動画を準備するなら、司会やナレーターにもこだわってより良いものにするべき。自身が副業としてナレーターや声優の活動をしてきたスキルを生かせば、「語り手」としての活動に興味を持つ人を育成して適任者の選任ができるのではないか、両者のニーズをうまくマッチングしてイベントや動画の品質アップを図りつつ、社員の情熱と才能を解き放てるのではないかと考えた。

ナレーターを副業とする社員の感じた「もったいなさ」から「アナウンス部」が発足

ヤフー株式会社の高橋正興さん(コーポレート統括本部 コーポレートコミュニケーション本部 インターナルコミュニケーション室 イベント統括)は、一風変わった社員だ。会社に副業届を出し、社外でナレーター・司会者・声優としても活動している。

そんな「話すプロ」である高橋さんは、社内を見回して、ちょっとした「もったいなさ」を感じていたという。

イベントの効果を大きく左右する「司会者」。その役を担う社員が適任か?

「社内では、コミュニケーション促進のためのイベントが各所で行われています。そこで司会進行役が必要になるとき、運営担当者が気軽に身の回りの『しゃべり慣れていそうな人』へ依頼をすることはよくあります。

しかし、司会が進行に手間取ったり、言葉が聞き取りづらかったり、分かりづらかったりすると、観客は集中しきれず、肝心の登壇者の話が頭に入ってこないということもあります。司会者はきれいに話せるだけでなく、全体の段取りを把握し、空気を読んで観客や状況に合わせて場を回す力も必要。せっかく準備をして人に集まってもらうイベントなのに、進行役の力量不足で伝えたかったメッセージが十分に伝わらないのはもったいないと感じていました」(高橋さん)

社外向けのイベントや大きなイベントであれば、キャスティングフィーを払ってプロに依頼することもある。しかし社内向けの中小規模イベントではコスト捻出が難しい。良質な「語り手」がいればイベントの効果はもっと高められるのに、社員の誰がそのスキルを持っているかわからないため、必ずしも適切な人にその役が任されないという状況だったのだ。

一方、高橋さんは多くの社員と出会う中で、「この人はきちんと訓練すれば、もっと良い語り手になるのではないか」と感じることもしばしばあったという。社内には語り手としての基礎スキルや話すことへの情熱を持つ人が相当数いた。全社朝礼などの社内イベントで自身が司会を依頼されることは多かったが、「案件によっては、自分が担当するよりも、もっとふさわしい職種・キャラクターの人が担当したほうが参加者に楽しんでもらえるのでは」と感じるようになっていた。

「それなら実際に行動に移そうということで、有志活動から始めました。過去に部活や専門学校でアナウンスの勉強をしていたり、とにかく話すことが好きだからやってみたいと考えていたりする人たちと一緒にスキルを磨くところから始めて、社内のニーズに応えられるようにしていったんです」(高橋さん)

「公式アナウンス部です」と名乗り、知名度アップに努める

全社に資する活動を、有志たちが組織の枠を超えて集まり、実行する。そのような会社公認の有志活動として、ヤフーには2年前から「公式カメラ隊」が存在していた。高橋さんはこの先達の活動を参考に「公式アナウンス部」を旗揚げした。

旗揚げをしてもすぐに案件の依頼や参加者が集まってくるわけではない。まずは少数の有志で勉強会を重ねながら、社内の口コミやイントラネット経由で司会・ナレーションの仕事を受けていった。そうやってスキルを磨き、実践経験を積みながら徐々に参加者や案件の規模を拡大し、認知度を高めていった。

「メンバーがイベントの司会を務めるときには『公式アナウンス部の○○です』といった形で名乗りを入れ、来場している社員に知ってもらうようにしました。最初は『公式アナウンス部って何?』という反応だったんですが、徐々に社内に『アナ部』というものがあるんだということが伝わっていきました」(高橋さん)

アナウンス部と名乗るからには、「やっぱり上手い」と感じてもらえる品質を保つことも大切だ。そのための練習も本気で行っている。社内のスタジオに週2回集まり、ストレッチや筋トレ、発声、滑舌などの基礎トレーニングや、フリートーク、原稿読み、司会、インタビューなどの実践的な練習も進める。

アナウンス部のメンバーで誰がどの案件を担当するかという「デスク業務」は現在まで高橋さんが担当している。依頼された案件に応じて最適な人をアサインするため、担当するメンバーのアナウンススキルだけでなく、所属部署や職種、性格までも考慮する。たまに「新人さんの練習の場にしてくれていいよ」と言ってくれる依頼者もあり、そんな時はまだ経験の浅いメンバーと先輩メンバーをペアにしてデビューさせることもあるという。

こうして地道な活動を重ねた結果、ついに2017年度には全社への貢献が評価されて予算がつくようになり、社外の教育機関も使った本格的な「語り手」の育成ができるようになった。

練習風景

ヤフーの社外向けコンテンツも視野に入れ、「語り手の育成」を続けていく

アナウンス部の活動で会社に貢献する規模を大きくするため、2017年4月には「1年で100件」という「受注目標」を決めた。品質・知名度の高まりとともに依頼件数も増え続け、年明け1月にはついに目標の100件受注を達成した。最終的には大きく目標を超えた着地になりそうだ。

成果を感じているのは、有志活動としての組織だけではない。アナウンス部に参加しているメンバーにもまた、この活動によって得られたものがあるのだという。

「社内副業」が本業のスキルアップにもつながっている

立ち上げ初期から高橋さんとともに活動する鈴置さんは、アナウンス部の活動によって個人的な成長につながっていると話す。

「司会として場の空気を読み、場を回す練習を重ねたことで、日頃のコミュニケーション能力も磨かれていると感じています。『この場で言うべきこと』を探るとともに、時には『敢えて黙ること』も選択します。ことばの選び方を常に意識して場の最適化を心がけています」(鈴置さん)

現在アナウンス部の成長株として活躍する涌井さんには、大学時代にアナウンススクールに通った時期があった。

「本業のほかに頑張りたいと思う対象ができて、本業そのものも、より一層頑張れるようになったと感じています。私はアナウンス部の仕事が大好きなので、今の『社内副業状態』を楽しめていますね。社内イベントを多く担当していると、会社のことを自然と深く知れますし、人間関係も広がっていきます」(涌井さん)

学生時代から話す仕事に興味を持っていたという髙島さんは、未経験でアナウンス部に入り、「上手くなりたい」と高橋さんに相談して猛練習を重ねた努力家だ。

「半年間練習を頑張り、初めて社内イベントにアサインしてもらえたときは、本当にうれしかったですね。練習を通じて言葉が人へどう伝わるかを注意深く考えるようになり、本業でのファシリテーションスキルも磨かれています」(髙島さん)

社内放送も担当し、ますます広がる活躍の場

話すことそのものは、誰にでもできる簡単なスキルと思われがち。しかし質の高い司会やナレーションを実践するには、意志を持った組織のもとで、長い期間をかけてしっかりと訓練する必要がある。公式アナウンス部の活動は、その価値観を社内に広めつつある。

「イベントやコンテンツ制作の現場では、今後ますます『良い語り手』が求められていくはずです。ヤフーが展開するサービスの中でも動画や音声を使ったリッチなコンテンツが増えていて、ナレーションに対するニーズも高まっています。発信元となる会社の立場を自分ごととして理解している分、ものによっては社員アナウンサーこそが最も良い語り手になるコンテンツも出てくるかもしれません。そのときに向けて、聞き手にしっかり伝えられる語り手をこれからも育成していく必要があると思っています」(高橋さん)

現在、アナウンス部のメンバーは、毎週月曜日の朝に届けられる社内放送もレギュラーで担当している。9時55分からの3分間、社内のお知らせやニュースを伝える。

「アンケートでは『アナウンス部が話しているので安心して聞ける』『毎週、この声に癒されています』といったメッセージもいただきました。数千人の社員の耳に入るものですので、もちろん責任を重く感じています。聞きやすく分かりやすいように、丁寧さとカジュアルさを塩梅よく混ぜていく面白さのある仕事で、メンバーみんな頑張ってくれています。」(高橋さん)

プロフェッショナルのスキルを持った個人の想いが、ヤフーに新たな強みをもたらそうとしている。これからネットで視聴するコンテンツは、アナウンス部メンバーの声で届けられるようになるかもしれない。

受賞者コメント

高橋 正興 さん

この活動を通じて得た一番の気付きは、どんな取り組みであっても、社内を広く見渡せば「一緒に才能と情熱を解き放ちたい」と考える仲間がいるということです。「これをやろう!」という旗を立てれば、人が集まってくる。集まった人たちに仕事を頼みたいという人も出てくる。このマッチングがうまくできれば、会社の本業だけでは発揮しきれない才能や情熱も生かせるのではないでしょうか。このような有志活動は、会社の「組織」とはまた違う新しい働き方につながると思います。まずは、まだまだ珍しい「インターネット企業のアナウンサー」をもっと広められるよう、活動を頑張っていきたいと思っています。

審査員コメント

藤井 薫

社員の中には、本業の業務や役職で発揮していること以外にも、まだ見ぬさまざまな才能が眠っている可能性があります。隠れた才能の発露を支援していくことで、ギルドのような社内の専門家組織が生まれていくのかもしれません。もしかすると私たちが見ている会社組織は一つの側面でしかなく、別の側面から見れば、そこにはまったく新たな組織を作ることもできるのでは。そんなチャンスを垣間見た思いのする取り組みでした。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第4回(2017年度)の受賞取り組み