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サイレントヒーローの貢献を共有し、記憶したい―社長の熱い想いから生まれた「Unipos」が欠かせないツールとなるまで

Fringe81株式会社
取り組みの概要
社員が相互に週1200円の成果給を送りあえるピアボーナス制度「Unipos」を実施。経営層やマネジャー層からは見えない現場の貢献が全社に知れ渡るようにした。リアルタイムに感謝の言葉を成果給とともに送りあえるよう、独自のソフトウェアシステムを社内で開発。SNSを見るような感覚で同僚の貢献を知ることができる。
背景にあった課題
急拡大期を迎え人員が増加し続ける中、表に見えづらいエンジニアの組織貢献度合いが伝わらず、モチベーションを失って退職してしまうメンバーもいた。
取り組みによる成果
毎日約30件の称賛が社内で飛び交い、部署を超えて互いの仕事ぶりや貢献度合いを知ることができるようになった。3年9カ月の間、エンジニアは1人も退職していない。
担当者の想い
人知れず組織に貢献する「サイレントヒーロー」をあぶり出し、共有・記憶することは成長ベンチャー共通の課題。自社での取り組みを、世の中にも広めていきたい。

「3年9カ月、エンジニアの退職ゼロ」という驚異的な定着率の理由

「サイレントヒーローをあぶり出したい」

Fringe81株式会社の田中弦さん(代表取締役社長)は、同社が拡大期を迎えた4年前から、その想いをことあるごとに発信してきた。例えば、サービス品質を守るために陰で頑張るエンジニアがいる。そんな人をみんなで褒め称えられないか……。人知れず会社に貢献した人=「サイレントヒーロー」を共有するための仕組みは進化を続け、今では同社に欠かせない存在となった。

年間約500万円の予算でも、十分な投資価値がある

同社がピアボーナス制度として運用する「Unipos」のシステムでは、1日に約30回のやり取りが行われている。方法は簡単。社員それぞれが持つポイントを、会社に貢献したと思う人のところへ、自分の判断でコメントをつけて送るだけだ。誰かが投稿したUniposに「拍手を送る」機能もあり、サイレントヒーローの功績が社内で拡散されていく仕組みとなっている。

Uniposの特徴は、ポイントを送られた側はもちろん、ポイントを送った側も、拍手の数に応じて成果給をもらえること。これが「いいコメントをしよう」というモチベーションにつながっているという。各自が持つポイントは毎週リセットされ、翌週に持ち越すことができないので、その時々のサイレントヒーローをあぶり出すために1週間の中で積極的に活用される。

「現状、Uniposを運用するために、年間の予算として約500万円を投じています。最も多くの称賛を受けた人は、月に1万円ほどのボーナスを受け取っていますね」(田中さん)

年間500万円と聞くと決して安くない予算に感じるが、費用対効果は見合っているのだろうか?

「この制度によって離職率低下につながっているため、十分な投資価値があると考えています。また、対象には職種や雇用形態の縛りを設けておらず、アルバイトスタッフも積極的に活用してくれています。職種の違いにとらわれないインセンティブを設計しつつ、社内コミュニケーションを豊かにするという効果にもつながっているんです」(田中さん)

社員だけでなく、その家族にも喜ばれる仕組みに

こうして、ほめたり、ほめられたりといったコミュニケーションが可視化されていることは、同社のマネジメントにも好影響を与えている。新しく入社したメンバーの強みや、カルチャーへのフィット度合いも見えるようになった。

「『自分はよくほめられているけど人のことは全然ほめていない』『自分のチームのメンバーばかりをほめている』など、社内のつながりに関する問題が見えてくることもあるんです(笑)。そうした場合にもすぐに対処できるようになりました」(田中さん)

さらに毎月の給与明細には、受け取ったUniposの内容や称賛された数の「明細」を同封するといった工夫も行っている。これによって社員の家族にも社内での活躍ぶりが伝わり、喜ばれているという。

この活動を続けた結果、現在まで3年9カ月にわたって、同社のエンジニアは1人も退職していない。「これは急成長するベンチャーの組織課題解決につながるのではないか」と考え、現在ではUniposのシステムを社外にも有償で提供している。

急拡大期を迎えていた4年前、同社では売り上げがどんどん伸び、必然的に営業の成果ばかりが目立つようになっていった。システムを支えるエンジニアの活躍は全社に伝わりづらく、貢献感を得られずにくさってしまうエンジニアもいたという。数字で成果を表しにくい職種のメンバーにも、大きな貢献をしているサイレントヒーローがいる。それが分かりやすく伝わるような仕組みを考え、工夫を重ねてきた4年間があるからこそ、Uniposが飛び交い、人が辞めない現在の同社があるのだ。

「組織が拡大していく中では、どうしても互いのことが見えづらくなります。この問題を解決するため、社員がコメントを添えて互いに成果給を送りあえるよう、権限委譲することを決めたんです。当初は実にアナログな方法でスタートしました」(田中さん)

受け取ったUniposの内容や称賛された数の「明細」が同封された給与明細

Uniposによって共有され、記憶されていく貢献がある

田中さんがトップダウンで始めたのは、「発見大賞」という取り組みだった。メンバーが付箋紙に称賛・感謝したい人の名前を書き、投票箱に入れる。それを田中さんがExcelで集計し、月末に結果を発表するという流れだった。この仕組みをオンラインに移行し、最終的には自社で開発したシステムを使う現在のUniposとなった。

当初はポイントを貯めるとAmazonギフト券と交換できる仕組みだったが、「褒めるたびに成果給が発生すれば、みんながより惜しみなく称賛し合えるようになるのでは?」と考えピアボーナス制度へ。ここから一気にUniposのやり取りが増えたという。

「金銭報酬が明確に定められていたほうが、人は人を称賛できることが分かりました。しかし金銭が大事なのではなく、称賛が大事というわけでもなく、『社内でつながることが大事なんだ』ということもセットで語り続けるようにしていました」(田中さん)

普段知ってもらう機会の少ない仕事の価値が伝わり、社内のトレンドを知ることもできる

2018年4月にFringe81へ新卒入社する予定の松山胡桃さんは、現在内定者アルバイトとして同社で働く大学4年生。内定を受けたときにUniposのことを教わった。

「初めてUniposをもらったのは、広報の方の仕事を手伝ったときでした。ちょっと照れくささもありましたが、すぐにうれしい感情がこみ上げてきましたね。リアルで『ありがとう』と直接言ってくれた後に、オンラインでも伝えてくれたことが余計にうれしかったんです。中学生の頃からTwitterなどを使っているので、システムにはすぐになじめました。『人のことをほめるために投稿する』という感覚が面白いと感じています」(松山さん)

2015年に中途入社した村上聡さん(経営管理部)は、経理をはじめ、さまざまな管理業務に携わっている。

「上司であるCFOから、年1回の有価証券報告書作成や株主総会準備のことをポストしてもらい、120を超える拍手をもらいました。普段は他部署のメンバーに私の仕事内容を知ってもらう機会が少ないので、たくさんの反響をもらえたことは励みになりました。備品を発注したりドアを直したりと、見えにくいところで頑張っている総務のメンバーも、感謝されることがモチベーションにつながっているようです」(村上さん)

2017年に中途入社したばかりの田中翔さん(Growth Consulting Infeed Div. Account Consultant)は、「Uniposを社内ニュースのような感覚で使っている」と話す。

「それなりの規模の会社で働いていると、どうしても自分の部署や関係する範囲しか見えなくなってしまうものです。Uniposはニュースサイトのような感覚でタイムラインを見られるので、『こんな商品が生まれているんだ』といった会社のトレンドを知るツールとしても重宝しています」(田中翔さん)

2006年に新卒入社したエンジニアの三ツ橋和宏さん(技術開発本部)には、忘れられない思い出があるという。

「あるサービスで障害が発生してしまい、終業後に一人、その対応に当たったことがあります。サービスの品質を保ちたい一心で、翌朝の納期に間に合うよう復旧させたんです(笑)。すると翌朝、最初に出社してきたCTOがUniposを送ってくれて、120を超える拍手がつきました。自分としては当たり前のことをやっただけという感覚で、周りに自分の頑張りをアピールするつもりはなかったんですが、障害対応の経験がない若手のメンバーにも『サービスを守る』という覚悟や思いを伝える良い機会となりました」(三ツ橋さん)

松山さん(前左)、田中さん(前右)、村上さん(後左)、三ツ橋さん(後右)

成長ベンチャーの多くが抱える「社会課題」

三ツ橋さんが終業後に一人で障害対応に当たり、復旧させたトピックスは、代表の田中さんにとっても特に印象に残るUniposだったという。

「彼は組織へ大きな貢献をしてくれたんですが、Uniposがなければ、その事実を知る人はほとんどいなかったんじゃないかと思います。限られた人にしか知られなかったり、すぐに忘れ去られたり……。Uniposがあることで全社に共有され、記憶としてみんなの中に残っていくのは大きな価値だと思っています」(田中さん)

経営者はもちろん、マネジャーも、「メンバーが20人を超えてくると現場のことが少しずつ見えなくなっていく」と田中さんは話す。人数が増え、階層が複雑化していけばいくほど、社内のつながりも薄くなる。世の中に大きな価値を提供する成長ベンチャーの多くがそうした道を歩むのも事実。田中さんはこれを社会課題であるととらえ、Uniposがもたらす価値をできるだけ多くの企業へ伝えていきたいと考えている。

サイレントヒーローは案外、身近な場所にいるもの。その貢献を共有するためにUniposはさらなる進化を遂げていくのだろう。

アナログな方法で行っていた、Uniposの前身である「発見大賞」

(WRITING:多田慎介)

受賞者コメント

田中 弦 さん

人数が50人を超えてくると、他の人が何をやっているか分からない。マネジャー層が生まれ、ヒエラルキーが形成されることで壁ができ、生産性が下がる。これはどんな企業でも起こり得ることです。私もそこに悩み、テクノロジーで解決するために「Unipos」を作りました。社員同士が成果給、つまり「お金」を送り合うのはいやらしい感じがするかもしれませんが、逆にお金があることでちゃんと感謝の気持ちを送れるのだという発見がありました。手段があることで、面と向かってはなかなか恥ずかしくて言えない感謝の言葉を送れることも「Unipos」の特徴です。この仕組みをこれからも広げていきたいと考えています。

審査員コメント

守島 基博

人間というのは単純で、お金や、お金に近いものがもらえると、とてもうれしくなるもの。これは人間の浅はかなところであり、同時に良いところでもあります。単なるサンクスカードのような取り組みにとどまらず、「成果給を送る」という明確なアクションを伴う仕組みを作り上げているところが素晴らしいと感じました。さらに、社内コミュニケーションを活性化させるという効果も生んでいます。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第4回(2017年度)の受賞取り組み