「前例がない」と一蹴されても粘り続け、建設コンサルタント業界初の若手有志組織を設立!全国180名の仲間が集まるまで
一般社団法人 建設コンサルタンツ協会 (若手の会)
「前例がない」と一蹴されても粘り続け、建設コンサルタント業界初の若手有志組織を設立!全国180名の仲間が集まるまで
一般社団法人 建設コンサルタンツ協会 (若手の会)働き方への考え方が多様化し続ける現代でも、自らの仕事に社会的意義を感じ、かつ安定が期待できる業界・職種は常に人気の仕事であり続けている。
建設コンサルタント業界もかつてはその一つだった。公共事業における橋梁や道路、トンネルなどといった社会インフラ整備の調査・計画・設計を主な案件として、長く社会の発展に貢献し続けてきた業種だ。高度な専門技術者集団として、新卒入社から定年退職まで安定した職業人生を送れるはずの世界。しかし、そんな建設コンサルタント業界では今、現状を変えたいと考える若手の声が高まり続けている。
役所の要請や国会対応のため深夜まで働く。大量の案件を抱え込み、締め切り期限に追われながら働く。離職者が増える一方で入職者は減り、担い手が不足。若手世代は日常に忙殺され、やりがいを見失い、明るい将来を描きにくくなっている……。これらは建設コンサルタント業界で実際に起きていることだという。
伊藤昌明さん(株式会社オリエンタルコンサルタンツ/統括本部)は、こうした現状を変えようと立ち上がった1人だ。
「業界の課題解決に向け、各社の意見を集約する団体として建設コンサルタンツ協会が存在していますが、業界変革に向けた議論を進めているのは50〜60代を中心とした各社経営陣。これからの業界を担っていくはずの若手が主体的に自分たちの将来のことを考え、議論する場がないことに違和感を持っていました」(伊藤さん)
社命によって協会の総務委員会に所属していた伊藤さんは、こうした違和感を委員会の中でぶつけた。
「今後も優秀な人材が集まるような魅力的な業界にしていくためには、若手自らが業界の明るい将来を思い描き、行動している姿を業界内外に見せていくことが必要です。そこで、協会の総務委員会に紐づく形で若手有志組織を設立したいと提言しました。同業他社の間では横のつながりが薄いため、協会を通じて若手が連携するほうが効果的だと考えたんです」
「当初は『前例がないから』と却下されました。それでも、総務委員会を通じて何度も何度も嘆願書を出し続けました。ようやく『業界展望を考える若手技術者の会』設立にこぎつけたのは、提言を始めてから1年が経つ頃でした」(伊藤さん)
「どんな意味があるんだ」、「成果は何なのか」、「業界の将来を考えるのは我々(各社上層部)がやることだ」……。
協会内で懐疑的な目を向けられながらも、伊藤さんは1年をかけて「協会お墨付き」の形を作ることにこだわった。それが功を奏し、協会からの発信に会員企業各社が動き、20~30代を中心に社内で発言力がある熱量の高い若手メンバーが集まった。
「業界展望を考える若手技術者の会」が本格始動したのは2015年4月。以降、業界を変えるための議論を行う合宿を実施したり、全国の同世代へ向けてメッセージを送る「魂のメルマガ」を刊行したりと、さまざまな活動を展開していく。
「メルマガには『業界を牛耳っているのは古い世代だ。今こそ我々若手世代が立ち上がるときだ』といった過激なメッセージも書きました。当然のように批判を浴びましたが、一方で若手からはポジティブな反響がたくさん集まったんです。現状への不満や将来への不安を抱え、何とか変えたいと思っている人は多いと感じ、心強かったですね」(伊藤さん)
さらにうねりを大きくするため、プロのレゲエミュージシャンとコラボレーションしてテーマソング『MOVEMENT』を制作。「くだらねえ しがらみには 縛られねえ」など、ここでも過激な歌詞が並ぶ。このテーマソングは動画共有サイトで公開されている。
協会内をネットに例えるなら、若手技術者の会の発信は常に「炎上」しているような状態だった。それでも、新たなアクションに批判はつきもの、批判がないのは何もやっていないことと同じだと自分たちを鼓舞しながら、どんなに叩かれてもスタンスを変えずに発信を続けた。気づけばネガティブな反応は少しずつ収まっていったという。
「会員企業の経営者には、『始めたからには頑張れ』と応援してくれる素敵な大人もいたんです。そうした方々に協力を仰いで実施しているのが経営者対談会『建コンアカデミア』。先人の知恵を受け継いだり、経営マインドを肌で感じたりという場にしていきたいと思っています」(伊藤さん)
若手技術者の会には、地方支部から参加しているメンバーもいる。そうした中から「協会本部だけでなく、それぞれの地方支部の中にも有志の会を作りたい」という動きが広がっていった。2016年には初の地方支部設立となる「東北支部若手技術者の会」が活動を開始。他の地方でもこれに続く動きが生まれ、現在ではすべての支部で有志の会が立ち上がった。こうして、若手有志の数は全体で約180人の規模へ拡大しているという。地方それぞれで若手のつながりを生み出す会を開催したり、リクルーティング活動や子ども向けイベントなどの活動を主体的に行ったりしている。
かつて「前例がない」と一蹴された活動がここまで広がっているのは、伊藤さんの思いに共感する同世代の輪が拡大し続けているからだ。それぞれが業界変革への機運や兆しを感じとり、自らが活動の主体になろうとしている。
「残業が多い、女性が働きにくいといった『1社では解決困難な課題』を業界全体で解決したいという思いで会に参加しました。以前はリアルな他社の状況を知る術がなかったのですが、ここで最新情報を得て、自社の職場環境改善の提言にもつなげられるようになりました」(桑田志保さん 中電技術コンサルタント株式会社/事業企画部)
「会に参加した頃、実は私自身が仕事に行き詰まりを感じていた時期だったんです。同業他社の若手と話したことはほとんどなかったので、同世代がどんなキャリアパスを描いているのかを知りたいと思っていました。普段の社内では会社の愚痴に留まることも多いのですが、この会ではそうした話題は何の意味も持ちません。どうしたら業界を変えることができるかを本気で考えています。だからこそ刺激的で前向きな会話ができるのだと思います」(藤原真太郎さん アジア航測株式会社/エネルギーソリューション技術部 環境コンサルタント課)
「この会では『実現すること』に徹底的にこだわりたい。そのためには、業界外の力も必要です。異業種の有名企業の方に非公式で来てもらい、業務効率化や生産性向上など、働き方改革に関する勉強会も始めました。現状に直面する若手だからこそできる提言を業界全体に発信していき、業界変革を先導していきたいと考えています。」(鈴木崇之さん パシフィックコンサルタンツ株式会社/経営企画部)
長年続いている古い慣習を変え、イノベーションを起こすのは簡単なことではない。それは若手技術者の会がたどってきた道のりを振り返っても明らかだ。なぜ伊藤さんは、ここまで走り続けることができたのか。
「きっかけは、入社10年目、32歳で外の世界に出たことでした。大学の社会人コースへ入学し、世の中を変えようと真剣に考える異業種の同世代ビジネスパーソンたちと交流することで、視座が高まりました。そこから自分が身を置く『建コン業界を変えたい』という思いが深まっていきました」(伊藤さん)
現在、伊藤さんは「30年後も働き続けたいと思える業界」を目指してさまざまなアイデアを練っている。建設コンサルタント業界の市場規模は2000年前後をピークに右肩下がりとなり、人口減少社会が進むことで、2030年頃にはピーク時の半分近くに落ち込む可能性もあると見られている(建設コンサルタンツ協会データをベースに若手技術者の会にて推定)。業界の若手は、そうした将来像を理解しているという。
「これまでの活動で業界内の若手とのつながりはできてきました。次なるステップとして、業界構造を本気で変えていくためには、我々の思いを業界内にとどめることなく、行政や官庁の若手世代と、本質的な課題を本音で話し合ってしていくことも必要かもしれません」(伊藤さん)
そうなれば、業界変革が加速度的に早まる可能性もある。今の環境が当たり前ではなくなってしまうかもしれない。それでも「覚悟を持って変える決意が必要」と伊藤さんは言う。そうした思いは「魂のメルマガ」で隠すことなく、今月も発信されるのだ。
(WRITING:多田慎介)
アキレス 美知子 氏
50代、60代の経営層だけに任せていいのかという強い問題意識のもと、企業を超えて若手が集まって、分かりやすく強烈なテーマソングを作ったり、魂を込めたメルマガを発行したりと積極的に活アクションを起こしています。自分たちの思いを言うだけでは伝わりきらないと考え、協会の中で嘆願書を出すなど、正攻法で全国展開を進めてきたところも、うまく活動を前進させた大きなポイントだと思います。
※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。
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伊藤 昌明 さん
建設コンサルタント業界を取り巻く環境は厳しく、公共事業が削減される中で長時間労働が蔓延し、若手が夢を描けない状況になっています。ではどうするべきなのか? それを考えているのはベテランの経営層ばかりでした。その状況にとても違和感がありました。そもそも、業界の将来を担うのはだれなんでしょうか?現役の経営層ではありません。20年後、30年後に業界を担う主役は我々若手世代のはずです。そうであれば、若手世代が自らの将来を思い描き、その実現に向けて今から行動すべきと考えました。それが若手の会を立ち上げた動機です。一般的にモチベーションが高い状態とは、「自ら決断し行動している状態」だと言われています。自分たちの手で作り上げた業界ビジョンこそが、我々の明るい未来を照らすバイブスになると信じて、活動を続けています。