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武蔵野美術大学卒業。在学中に「月刊漫画ガロ」で漫画家デビュー。その後、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなど多面的に活躍。「マイブーム」など多くの流行を生むことでも知られる。活動の幅が広いので詳しくは http://miurajun.net/ へ。1958年京都府生まれ。血液型AB。 |
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世の中のことは友達じゃないから、よくわからない | ||
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人の考えで気に食わないことってあるじゃない。僕は同感したり同情したりすることが素晴らしいと思い込んでるから、人に違う考え方をされると単にイヤなんだ。「僕と友達になりたいなら同感しろよ」って思う(笑)。全く同じでなくても近いところで「グッとくる」のが友達だと思っているので、「それは違うよ」ってされると、「じゃあ友達じゃないよ」。それでも友達ヅラするヤツには腹が立ってしまう(笑)。
だから、世の中のことって友達じゃないからよくわからないよね。総理大臣がどうこう言うけど、友達じゃないもん。友達じゃない人のことを「頭にくる」とか、よく言うなと思っちゃう。それでも気に食わないことを感じたら、「そこがいいんじゃない!」って口に出して言うんだな。僕もそうしているから。 最近感じるのは、自腹を切ったり損をしたりする人が減ったこと。ボランティアとかエコって損じゃないからね。だから「損ブーム」がくると面白いと思う。でも、損をしそうだと感じると脳が「まずいぞ」と働くから、その一瞬前に「プレイボール!」とか意味のないことを叫ぶんだな。そしたら脳が「何を言っているんだ、お前は」とまひして、損ができるようになるかも。 |
エンジニアも不安だが、みうらじゅんも不安に敏感 | ||
僕は前から不安ですよ。不安な人って気持ちが大きくないし、悪い意味で敏感なんですよ。堂々としている人は鈍感でね、ある意味でバカなんです。これはDNAに入っているから直しようがない。だから、不安を先取りする。それが最先端なんです。
僕は今、「孫がかわいいかどうか」が不安なんですけど、孫なんていません。つまり、手近にある不安は深刻だから、自分に起こるものすごい先の、どうでもいい不安を先取りしておくわけ。そんな話は誰も真剣に聞いてくれないから、不安が増殖しないでいいと思いますよ。僕は最高の不安を「不安タスティック」って呼んでるんだけどね(笑)。 自分に起こるいいことと悪いことの選択肢があって、いいほうばかりを取っていたら「上がり」になると思うんだよね。僕は就職しなかった、ではなく会社に受からなくて就職できなかった人間だから、エンジニアとかサラリーマンの人のことはわからないけど、こんな商売していると上がったら終わり。といって、自分に都合の悪い道を選ぶなんて大胆なこともできない。だから、僕はどっちも選んでいます。 ロックが好きになったのもそうだけど、人が行かない崖のギリギリに立っている人はやっぱりカッコいいし、安全圏にいる人に心は動かないじゃない。満足しちゃうと先には行けないから、不安は進歩するための要素なんです。だから、不安に思ったら「不安タスティック!」と思って、「やったー!」って自分を洗脳しちゃえばいいんですよ。 |
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ゆるキャラ、クソゲー……使うのはパソコンで検索できない言葉 | ||
ファミコンのころはゲームが好きで好きで大好きでね、ソフトは全部もっていたんじゃないかな。でもつまらないゲームもあるから道端に捨てて、家の前が通学路だったから誰が拾うか部屋から見ていたの。そしたら、誰にも拾ってもらえないゲームがあることに気がついた。それを「クソゲーム」ってことにして、仲間を集めてクソゲームだけで遊ぶ大会なんかをやっていたんです。 そうしたらメーカーが怒ってね。「クソゲームとは何だ!」って。「ゆるキャラ」も同じで、「うちのはゆるくない」ってやっぱり怒られた(笑)。「バカ映画」もそうだったな。どれも最初はこんな感じなんだけど、自分の手を完全に離れたときから、価値観が変わることがあるんです。僕が考えたときではなくて、皆が誤解して使って流通して、僕の手を離れてから流行する。 僕はパソコンを使わないけど、もってはいて、買ったころに思いついた言葉を検索してもらった。当時は出てこない単語がいっぱいあって、その言葉は世界中で話題になってないわけでしょ。もう、やる気マンマンになるわけですよ。『アウトドア般若心経』(幻冬舎刊)もそうだけど、僕はそんな言葉を使ってきたんです。 |
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般若心経の文字を看板の写真で表す『アウトドア般若心経』 | ||
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10年くらい前かな、駐車場の前に「空アリ」って文字があって、僕は「くうあり」と呼んだわけ。般若心経の真髄である空の教えが書いてあると。空は何もない状態なのだけどそれがアリ、ないのにある。別の駐車場では「空ナシ」もあって、こっちはないことがない。難解でしょう。それからカメラを片手に、「空アリ」と「空ナシ」の看板の写真を撮り続けていたんです。 そんなある日、有馬温泉に泊まって、夜に夢を見た。夢に人が出てきて、井上陽水さんみたいな声で「なぜ全文を集めないの?」って聞くんだ。まいった。それは最初の撮影のときにひらめいたんだけど、「いくら何でもそれはキツいよ」って否定したから、その後ろめたさが原因だろうな。思い立って翌朝は有馬温泉を回って、般若心経の文字を探したんだけど、そうそうあるわけじゃない。で、般若心経の豆本を買って、看板を1文字撮ってはバツを付けていったわけ。 |
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続けていくと、「無なら『無煙焼肉』だ」みたいに勘が働くようになるんだけど、「無」はかなり多く出てくる文字。写真の流用はよくないと思っていたから、同じ文字を集めるのはつらかったね。でも、それ以上に大変だったのは、通常では「確実に」使われない文字があるということ。 レインボーマンは阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)と言って軽く変身していたけど、「耨」の字がなくてね。大阪のお寺の塔婆に書いてあるって聞いて行ったら、近松門左衛門の戒名の一文字だったりね(笑)。「呪」もマイナスイメージの字じゃないですか。店の名前に付けないわけですよ。結局、兵庫県の町名にあるって聞いて撮りに行って、それでも足りないから『呪怨』(映画)の新作の上映を待って看板を撮った。 |
5年で278文字を撮影し、みうらじゅんが見たものとは | ||
何年間も費やして思ったのは、やっている間は一瞬だけでも日常の悩みが消えること。「夢中」というだけあって夢の中にいる、トリップしているんだよ。経文を読むのも座禅を組むのも無の状態になるのが目的だけど、僕はストイックなことに向いていないから、「ホビー狂」としていい思いをしたと思う。それに、気づかされたこともいっぱいあった。 本にする気はなかったんだけど、本になったら本当の般若心経に見えるじゃないですか。バラバラのものがそろうと何かに見えるというのは般若心経の神髄だし、そもそもなかったものがそう見えているだけだということもわかった。それって、万物が流転することをいち早く知る道なんだよね。 例えば、ここに並んでいる人形、僕は「フィギュ和」と呼んでいるんだけど、日本各地で買った人形なんです。東京だと世田谷のボロ市なんかで買うしかないので、行ってみると、首の取れたような人形が段ボール箱に雑多に入ってる。たぶん、どなたかが亡くなってご遺族が出したんだろうけど、遺族にとっては不要のものだったんだよ。そして、僕が死んだらやっぱり遺族は「いらない」って言うから(笑)、同じように捨てられて誰かの手に渡る。そして、いつかは土に帰っていく。流転していくわけ。つまり、コレクションをするのは万物流転を一瞬だけ止めた状態で、とても空しいことだというのがよくわかった。 |
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今、いちばん興味があるのは「ゴムへび」(と思い込む) | ||
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ゴムへび。正月に台湾に行ったんですよ。「台湾じゃないかな」と思って買いにね。ガイドブックに載ってたおもちゃ屋の集まる街に行ったら、ホントにすごかった。思わず大量買いしたら、おもちゃ屋が驚くわ喜ぶわで(笑)。 普通の人はゴムへびにひとつのイメージしかないと思うけど、大きく分けてもとぐろ型と自由形があって、多くの人のイメージはとぐろ型だよね。手触りや質感もモノによって全然違うし、ゴムへびは重ねていると化学反応を起こして溶けるんだ。ほら、そのオレンジのへびのしっぽのところ。台湾で買ったのを同じバッグに入れてたら溶けちゃった。 ただ、ゴムへびには何の興味もなかった。ある日、江の島だったかな、ゴムへびが売ってて、数千円もしたわけ。子供の小遣いの領域も、大人な趣味の範疇も超えている値段だから、誰が買うんだろうと思って、僕が買うんだと思って買った。3つくらい集めると世界観も出てくるし気になり始めるから、「勝手に観光協会」(スカパー!のEXエンタテイメントで放送中)で地方に行ったときには「へびセンター」に寄ったりしてね。今でもゴムへびは好きじゃないけど、好きか嫌いかなんてどうでもいいことなんです。 だって、好きなことなんて向こうから飛び込んでこないじゃないですか。あってもせいぜい高校時代までで、自分で好きだと思い込まないともう見つからないんです。ゴム製のバッタはあるけど、ゴムバッタとは言わないでしょ。ゴムとへび、これほど合っているものはないと、思い込もうとしているわけです(笑)。 |
仏像を好きになるのだって、つらい道のりだった | ||
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「興味のないことを好きになる!」って言い出したのは最近だけど、実はずっと前からそうなんです。僕らの小さいころは怪獣ブームだったから、怪獣はもう大好きだった。でも、その後の仏像(みうらさんの仏像好きは殊に有名)から怪しくて、どうも好きになろうと思った感じがするんです。 僕は小学校4年生から地元の京都や奈良、和歌山などのお寺を毎週末に訪ねていたのだけど、苔寺のように仏像のない寺にも行っていたからね。仏像にしても、怪獣流れで千手観音のような異形のものが好きで、小観音なんかは苦手だった。いとう(せいこう)さんと「TV見仏記」を始めたときも、小観音の前では絶句なわけです。京都や奈良ではない地域に行っていて、ごく普通の小観音で、おまけにボロボロ。カメラは回っているけど、どこを褒めていいのかさっぱりわからない。好きになっていかないとどうしようもない。今は仏像の全部が好きですけど、ここに来るまでは結構つらい道があったということです。 |
技術者たち、ニッポンの未来をよろしく | ||
エンジニアはモノを作る人でしょう。僕はグッズをいくつも作ったし、デザイナーや開発の人とも話しているけど、彼らにいちばん感じるのは「こだわり」かな。こだわりのある人って、ちょっとしたことにもこだわるよね。だからいい製品が出来上がるし、逆にこだわっていないものには意味がないよ。 こないだ買った自転車がそうなんだけど、いい製品をもつと盗まれることが心配になっちゃう。こだわったモノはほかの人も欲しくなるからね。だから、こだわりの品は大事に扱うし、そうでないものはよくも悪くも大切にしなくて、取られても「また買えばいいや」と思ってしまう。盗まれても自分は傷つかない。 |
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盗まれていいモノを買うって変なんだけど、必要だから買っているわけで、もしかしたら人が傷つかないように、盗まれてもいいように作ってあるのかもしれないね。ビニール傘なんて、愛着をもたれないようないい具合だから(笑)。でも、これが本当に意図したことだったらやはり「こだわり」だから、素晴らしいことだと思うよね。これからもエンジニアには、こだわりをもち続けてほしいね。 あと、僕なんかもそうなんだけど、彼らは「大雑把に言わないでよ」と思っているんじゃないかな。世の中って、ものすごく大きなくくりで見られているわけです。鉄道オタクにしても銀座線がめちゃくちゃ好きなヤツもいればSLには興味のないヤツもいると思うし、「面白い人が好きです」って言う女の子にも、聞けば好きなお笑いタレントが出てきて違いがあるわけ。ハサミひとつにしても、使いやすいものや左利き用があったりと、千差万別でしょう。「細かく分かれているから、一緒にしないでよ」と思っているような気がしますね。 |
最後に、エンジニアへの応援メッセージ | ||
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う〜ん……結局、生きているのはヒマつぶしだからね。つぶし方が面白いかつまらないかだけだからね。きっとね、死ぬのって気持ちいいと思うんだ。自殺する人が怒られるのは、おいしいショートケーキのイチゴを先に食べてしまうからなんだ。パンケーキの部分もちゃんと食べなきゃダメ。そして、楽しくヒマをつぶさなきゃ。
ほら、「俺、本業は仕事ですから」って言う人がいるじゃない。違うって、人間の本業は子孫繁栄だから。20歳そこそこで決めた仕事が本業のわけがないし、定年がある本業なんてないから。皆もこのことには薄々気がついているんじゃないかな。ただね、楽しいヒマつぶしは頑張らないとできないんだ。だから、そこを頑張りましょう、かな。 |
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技術者たち、ニッポンの未来をよろしく
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