デキるデキないの差は「編集力」にあった

「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」等の文章力・コミュニケーション力向上をテーマに執筆・講演活動を行う山口拓朗さん。そんな山口さんに、今回は「ビジネスに必要なスキルである“編集力”」について、その必要性と習得の仕方について解説していただきます。

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「編集力」はすべての仕事で求められる必須能力である

「編集力」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? 書籍や雑誌の編集、あるいは映像や音声の編集などを思い浮かべる人が多いかもしれません。たしかに、編集力はメディアの世界で重要な役割を果たしています。編集力次第で「商品(テレビ番組、映画、新聞、雑誌、書籍、インターネットサイトなど)」の価値が決まるからです。彼らが編集力に磨きをかけるのは当然といえるでしょう。

しかし、編集力は、決してメディア業界に限定して使われる能力ではありません。業種業態を問わず、営業、企画、宣伝、事務、接客、マーケティング、プロモーション、セールス——等々、あらゆる職種で求められるスキルです。

たとえば、会議での発言がうまい人とヘタな人。両者の差は編集力の差ともいえます。発言がうまい人は、把握している情報量が豊富なうえに、目的に応じて情報を適切に取捨選択し、なおかつ、選択した情報をわかりやすく再構成して伝えることを得意としています。この一連のプロセスこそが「情報の編集」にほかなりません。

一方、会議での発言がヘタな人には、「情報の収集量が少ない」「目的に応じた“情報の取捨選択”ができない」「情報をわかりやすく再構成することができない」などの傾向があります。本人は単に「自分は人前で話すのが苦手」と思っているだけかもしれませんが、実はその根っこには“編集力のなさ・低さ”が隠れているかもしれないのです。

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情報の編集は「収集→取捨選択→再構成」の3ステップで行われる

ちなみに、編集力は以下の3ステップに分けることができます。

1.情報の収集
2.情報の取捨選択
3.情報の再構成

具体例を紹介しましょう。映像の仕事であれば、以下のようなプロセスで編集が進められていきます。

1.情報の収集:撮影
2.情報の取捨選択:撮影した映像の要不要の見極め(カット作業)
3.情報の再構成:映像の並び替え/映像の加工/BGMやテロップ、ナレーション入れなど

医師であれば、以下のようなプロセスで編集が進められていきます。

1.情報の収集:診察/治療アプローチの勉強
2.情報の取捨選択:診断および治療法の決定
3.情報の再構成:最適な治療を最適な順番で行う(例:手術→投薬→リハビリ)

営業職であれば、以下のようなプロセスで編集が進められていきます。

1.情報の収集:販売する商品の情報を収集/営業先の情報を収集
2.情報の取捨選択:営業先の利益になる商品の選定など
3.情報の再構成:営業先が理解・納得しやすい流れで商品を提案する

一日の仕事のスケジュールをどう組み立てるか。そんなケースでも、その人の編集力が問われます。仮に、今日は13時にA社、17時にB社を訪問しなくてはいけない、とします。編集力が乏しければ、何も考えずに「A社→帰社→B社」という行動を取るでしょう。

一方、編集力がある人は、「帰社する時間がもったいないから、A社とB社の中間地点にあるC社に連絡を入れて、15時にアポをもらおう」と考えたり、「B社の近くのカフェに入って、パソコンで企画書の続きを書こう」「乗り換え駅にある書店で仕事の資料を見つけよう」と考えたりします。彼らは「時間」「場所」「空間」「労力」などを編集しながら仕事をしているのです。

このように仕事における編集力とは、仕事の効率と生産性を高めるためのものであり、なおかつ、自分自身のパフォーマンスを最大限に引き出すための武器でもあります。私たちの仕事は、編集力の有無や優劣に大きく左右されるのです。

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「編集の3ステップ」で押さえておきたいポイント

では、編集におけるそれぞれのステップで、重要なポイントを見ていきましょう。

1.情報の収集

「情報の収集」で大切なのは「制限を加えない」ということです。たとえば、あなたが、自社で経営するコンビニA店の「近況報告書」を作成するとします。このとき、手元に届いたA店のデータをチェックだけして終わらせることもできますが、実際に現場に行って、その目で店舗全体の状態をチェックしたり、店長やスタッフから話を聞いたりすることもできます。現場で五感をフルに働かせることによって、A店についての情報が、さまざまな形で入ってきます。

また、A店だけでなく、B店やC店の情報も収集できれば、さらに「近況報告書」が充実するでしょう。B店やC店と比較して初めて見えてくるA店の傾向もあるからです。もちろん、闇雲に情報収集すればいいというものではありませんが、初めから「もらったデータだけで十分」と満足してしまえば、本当に重要な情報をつかみ損ねてしまうかもしれません。収集段階では、優劣をつけずに、幅広く情報を集めることが大切です。

2.情報の取捨選択

「情報の取捨選択」で大切なのは「ムダの断捨離」です。コンビニA店の「近況報告書」の例でいえば、報告書の目的に合わせて、手元にある情報を取捨選択します。この段階で初めて情報に優劣をつけていきます。ムダ(不要なもの)は捨てて、必要なものは残す。仮に、近況報告書の目的が「収益率低下の原因特定」であれば、収益率低下と因果関係のない情報は捨てて、因果関係の高い情報だけ手元に残します。

片付け同様、「ムダを捨てるのが苦手」な人は注意が必要です。せっかく集めた情報を手放したくない気持ちはわかりますが、不要な情報を残してしまうと、重要な情報の価値まで薄まってしまいます(全体の情報量が増えるため)。その結果、仕事の目的達成率を下げてしまうのです。「“ムダの断捨離”は、重要な情報を光らせるために必要な作業である」と心得ておきましょう。

3.情報の再構成

取捨選択した情報をそのまま並べるだけでは、残念ながら50点です。「情報の再構成」とは、コース料理でいうところの「提供する順番」や「盛り付け」です。せっかくのおいしい料理も、「提供する順番」や「盛り付け」を誤ると、食べる人の満足度を下げてしまいます。

「情報の再構成」をするときには、その情報を受ける人の立場・気持ちになる必要があります。コンビニA店の「近況報告書」であれば、それを読む人が、理解しやすい順番で情報を並び替える必要があります。「現場の様子→現場の課題(収益率低下の原因)→課題の解決方法」といった具合です。これが、コース料理でいうところの「提供する順番」です。

必要であれば「図やグラフをつける」「写真をつける」「見出しをつける」などの工夫を凝らす必要もあるでしょう。これが、コース料理でいうところの「盛り付け」です。

もしも、あなたが「仕事がうまくいかない」と思っているとしたら、いちど自身の編集力に目を向けてみましょう。一つひとつの仕事を「編集力」というフレームに落とし込んでチェックしてみるのです。「1.情報の収集/2.情報の整理/3.情報の構成」のどこかに自分の弱点が潜んでいるかもしれません。

あなたの人生は「編集力」で大きく変わる!

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もうお気づきの方もいるかもしれませんが、編集力は、仕事のみならず、人生全般において必要不可欠な能力です。人間関係、恋愛、子育て、勉強、家事、スポーツ、お金の使い方……などなど。

毎日、毎時間、毎秒のように、私たちは編集し続けています。「今日はどの服を着るか」「夕食は何を作るか」「週末は誰と過ごすか」「どこに住むか」「通勤時間に何をするか」「誰と付き合うか」など。もっと大きなことを言えば、「どういう人間になりたいか」や「人生をどう生きるか」も編集です。そう、人生は「編集力」でキマるのです。

たしかに、生きていれば“天の采配”としか思えないような出来事に遭遇するときもあるでしょう。個人の編集力の効果がおよばない“偶然”を完全否定するわけではありません。

しかし、それでもなお私たちの人生は、そのほとんどが、自分自身の編集力によって築き上げられている、といっても過言ではないのです。置かれた立場や環境を含め“今ある自分”は、これまで自分がしてきた編集の結果なのです。

逆にいえば、「人生=編集」という事実を受け入れて、編集力を鍛えていくことができれば、今後の人生は大きく変化するはずです。もちろん、“仕事も人生も編集力である”というこの考え方を受け入れるかどうかも、あるいは、日々の生活や仕事に取り入れるかどうかも、その人の「現時点での編集力」に左右されます。

あなたは、いま読んだこの記事(情報)をどう編集しますか?

著者:山口拓朗

『「また会いたい」と思われる!会話がはずむコツ』著者。

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伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。最新刊『「また会いたい」と思われる!会話がはずむコツ』(三笠書房/知的生き方文庫)のほか『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)、『問題を解くだけですらすら文章が書けるようになる本』(総合法令出版)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)他がある。

山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/

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