2017年ヒット商品から見えてきた、現代のビジネスパーソンに「求められているもの」とは?

多くの人に支持されているヒット商品、サービスは、今の世の中の流れや消費者の嗜好を色濃く反映しているものだ。新年度になり、新しい仕事に取り組んでいる人も多いだろうが、どんな仕事においても「これからのヒットの傾向」をつかんでおけば、的を射たビジネスアイディアが浮かび、自身の仕事に大いに活かせそうだ。

そこで、元『日経トレンディ』編集長で、現在は商品ジャーナリストとして活躍する北村森さんに、2017年のヒット商品の傾向を踏まえ、これからの動きを予測してもらった。

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北村 森さん
1992年に日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、『日経トレンディ』『日経おとなのOFF』などの編集に携わり、2005年に『日経トレンディ』編集長に就任。2008年に商品ジャーナリストとして独立し、製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を行うほか、地方自治体と連携し地域おこしのアドバイザー業務などに携わっている。著書に『ヒット商品航海記』(日本経済新聞出版社:共著)、自身の体験を元にしたノンフィクション『途中下車』(河出書房新社)など。

消費者が「ほしいと思っていなかったこと」「あきらめていたこと」に踏み込む

 昨年から足元にかけて、明確に見えてきた「ヒットの傾向」が2つあります。

 1つ目は、「消費者が欲しいと思っていなかったもの」に踏み込んでいること。
 消費者ニーズとして顕在化している時点で、誰かほかの人がすでにそのニーズに応える商品づくりに着手しているはず。そこから一歩踏み込み、消費者が考えてもいなかったこと、もしくは「無理だろう」とあきらめていたことを実現できれば、誰もが驚き、心の奥底にあった消費欲が掘り起こされます。

 例えば、ダイソン初のヘアドライヤー「Dyson Supersonicヘアードライヤー」は、大風量であっという間に髪が乾く点が支持されました。ロングヘアの女性の多くは、髪の毛を乾かすのに10分を優に超える時間をかけていましたが、「仕方ない」とあきらめていた人が多かったはず。しかし、このドライヤーを使えば7〜8分と半分ちょっとで乾かすことが可能です。48,600円~と高価ながら、「これならば惜しくない!」と多くの女性が殺到しました。

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▲形状も特徴的な「Dyson Supersonicヘアードライヤー」

 2つ目は、「○○はこうあるべき」という、作り手の主張が強く感じられること。

 予想しない角度から「こうあるべきだ」と主張されると、人は心を動かされます。例えば、三重県のトマト農園「デアルケ」が発売する「極上200%トマトジュース」は「トマトジュースは糖度である」という旗印を掲げて大ヒットしました。2015年に人気に火が付き始め、昨年に大ブレイク、今も4カ月待ちの状態が続いています。先に挙げたダイソンのヘアドライヤーも、「ヘアドライヤーは大風量・短時間で乾かせるものであるべき」と主張しています。

 これら2つの傾向からわかるのは、現在のヒットの条件は「マーケットイン」型ではなく「プロダクトアウト」型に回帰しているということ。すなわち、消費者が何を欲しているのかをのんきにリサーチしているようでは後れを取るだけであり、提供側の「この商品はこうあるべき」という思いを声高に主張してこそ、消費者は心を動かされるのです。

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「長距離バスは安くてしんどいもの」を払しょくする「豪華完全個室バス」

 以上2つの傾向に当てはまり、今年ヒットが期待できそうな商品、サービスをいくつかご紹介します。

 今年のキーワードとして挙げられるのは、「豪華個室」。トレンドに敏感な方であれば、豪華寝台列車として話題のJR東日本「トランスイート四季島」(5月1日運行開始予定)、JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」(6月17日運行開始予定)を思い浮かべるかもしれませんね。確かにいずれも、「豪華列車旅」人気の火付け役となったJR九州の「ななつ星」に続くと期待されていますが、私が注目しているのは、長距離バス「ドリームスリーパー」です。

 このバスは1台11席で、壁と扉で天井まで仕切られた「完全個室」。おおよそタタミ一畳分のスペースながら、ケーブルやコンセントはもちろん、プラズマクラスターイオン発生器やオーディオ設備も完備。窓は大きく開放感があり、旅情も十分感じさせてくれます。シートはほぼフラットに倒すことができるので、身体への負担もありません。バス内にはトイレ、パウダールームもあり、ほぼホテル仕様。私は池袋22:50発、大阪なんば6:40着の便を利用しましたが、長距離バスにありがちな「体バリバリ」になることはなく、到着後すぐに仕事ができました。

 ここまで快適で、かつプライバシーを守ってくれる長距離バスは、まずありません。「長距離バスだから、深夜だから、窮屈でもプライバシーがなくても仕方ない」とあきらめていた消費者を、見事に裏切ってくれました。料金は20,000円(東京~大阪間。5月8日~6月30日の月~木は18,000円))と、新幹線のグリーン車よりも高い設定ですが、外国人観光客の急増でホテル料金が高騰している折、「新幹線+ホテル代を考えればこちらが得」と考える人は多いでしょう。

 何より、「こんなバスに乗ったんだよ!」と誰かに語りたくなるのが高ポイント。「インスタ映え」というキーワードは今年もヒットの一要素ですが、思わず室内をパシャパシャ撮影し、SNSにアップしたくなるはずです。

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▲完全個室の「ドリームスリーパー」。4月1日からは「広島・福山~東京」も新設されている

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「お手軽ドローン」の出現で、ドローンマーケットが変わる

 消費者が「無理だろう」とあきらめていたことで言えば、今年は個人向けの「お手軽ドローン」にも注目です。

 遠隔で無線操縦する「ドローン」は、個人でも気軽にダイナミックな空撮ができることから人気。昨年にかけて、個人向けの安価な小型ドローンが多数発売されましたが、操作性がいいとは言えず、一般の人には扱いが難しいものばかり。私もいくつかチャレンジしましたが、木々にぶつかったり、すぐ落下してしまったりして、撮れた動画は「激突映像」だけでした。誰もが「ドローンは練習が必要。素人が使いこなすのは難しい」とあきらめていたと思います。

 そんな中、中国のZEROTECH社から発売されたドローン「DOBBY」は、操作性が非常に高いのが特徴。スマートフォンがコントローラーとなり、アプリ画面をワンタッチするだけで離陸、回転させたり、撮影したりすることが可能。199グラムと軽量で、ポケットにも収まるサイズである点も人気で、「個人向けドローンのマーケットを変える」と言われています。

 価格は定価54,800円(税込)、実勢価格で50,000円前後とやや高価ですが、「気軽にインパクトある動画を撮って、インスタやYouTubeに上げたい」と考える人が購入し始めています。通常、集合写真を撮るときは「撮影者だけ集合写真に入れない」という悲劇を生みますが、ドローンなら撮影者も映ることが可能。ホームパーティーや同窓会、結婚式など活用範囲は大きく、今後さらに普及すると見ています。

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▲「DOBBY」は個人向けドローンマーケットを変えるか

高性能炊飯器、新品種米…2017年は「コメ」に追い風が吹く

 昨今、いい悪いは別として、炭水化物を制限するダイエットがもてはやされおり、コメの消費は厳しい局面に立たされています。しかし、今年はコメ全体に今までにない追い風が吹いています。

 昨年、愛知ドビーという名古屋の鋳造メーカーが作る炊飯鍋「バーミキュラ ライスポット」がヒットするとお伝えしましたが、現在3~4カ月待ちの大ヒット。そして、この2月には、自然の風を再現した扇風機や、極上のトーストが焼けるトースターなど数々のヒットを飛ばしたバルミューダが、電子炊飯器「BALMUDA The Gohan(バルミューダ ザ・ゴハン)」を出荷開始して話題を集めています。

 そんな中、各地の「米どころ」から、鳴り物入りの「コメの新品種」が市場に投入されます。
 コシヒカリの主要産地である新潟県からは、「新之助」が登場。コシヒカリとは異なる美味しさを持つ新品種で、今秋より一般販売予定を開始、6000トン程度の生産量が見込まれています。猛暑に強く、甘みと粘り、粒感があり、新しいブランドとして期待されています。富山県も「コシヒカリを超える新品種米」の開発に打って出て、2018年秋に「富富富(ふふふ)」を投入予定。こちらも粘りや食感、飽きの来ない味わいが支持されており、新たな有力ブランドに育つと期待されています。

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▲いよいよ今秋に市場投入される新品種「新之助」

 いずれも「日本の主食は、コメである」というプライドを感じさせるものであり、「コメは旨味と粘りである」という主張も強く感じさせます。最先端炊飯器の登場と相まって、注目を集める可能性は高いと見ています。

「スープは選ぶ楽しさがあるべき」と主張する「tabeteゆかりの」に注目

 コメについて取り上げた後ですが、一方で炭水化物ダイエットの人気は根強く、今後は「スープ」がますます注目を集めると見ています。

 スープは炭水化物ダイエットの救世主。野菜が多く取れるうえ、炭水化物がなくてもお腹も満たされます。昨夏からスープ専門店が増えつつあり、若い女性を中心に支持を集めていますが、私が注目しているのは、国分の「tabeteゆかりの」。これは、47都道府県のご当地鍋や汁物をフリーズドライスープにしたもので、例えば、岩手は「いちご煮風」、新潟は「のっぺ汁」、大阪は「肉吸い」など、その土地に根差した味になっています。

 初めは「47種類も作って、果たして売れるの!?」と思いました。この商品の楽しさは、47都道府県すべての中から好みの1つを選び出すことにあり、店頭にラインナップ全てを置くのは難しいと思われたからです。しかし、「tabeteゆかりの」は主に百貨店の全国駅弁大会に展開したり、大手生活雑貨店が売り場に導入するなどして、人気を集めているのだとか。購入した駅弁と同じ土地のものや、自分の出身県のものなどを楽しそうに選び、買っていく人が多いのだそうです。「スープは“選ぶ楽しさ”があるべき」「日本に根ざしたゆかりの味を楽しむべき」という作り手の思いを強く感じる、消費者がワクワクできる商品だと思います。

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▲47都道府県のご当地スープがズラリ。選ぶ楽しさに溢れた「tabeteゆかりの」

壁にぶつかったときは、「何を変え、何を変えないか」を見極めよ

 これらを含めた数々のヒット商品を見ていて思うのは、失敗したときに「何を変え、何を変えないかを見極める力」と、「発信力」の大切さ。

 企画を練りに練り、研究開発を重ね、試行錯誤を繰り返したうえで自信を持って世に送り出しても、すぐに売れる商品なんてほんの一握り。多くがそのまま消えて行ってしまいます。

 しかし中には、「初めはパッとしなかったものの、その後じわじわ売れて行った」ものもたくさんあります。これらの商品を取材したところ、売れない要因と真摯に向き合い、変えるべきもの、残すべきものを見極め、軌道修正した結果、火が付いたものばかりでした。

 例えば、岐阜の寝具・インテリア製品メーカーのエストが発売している“おしゃれマスク”「エストクチュール」は、1枚約1,000円と高価ながら、レース柄、キャラクター柄などのおしゃれな柄が受け、月に1万枚以上売れています。

 ただ、当初はどこの問屋に持ち込んでも「こんな高いもの売れない。ニーズもない」と門前払いを食らったのだそう。そこで担当者は現状を冷静に見直し、「既存の流通に乗せても売れない」と判断、自社でネットショップを開設し、若いギャル風女性をモデルにマスク姿を撮影。「マスクもおしゃれに着替えたい」「マスクを楽しむ春が来た」などキャッチも工夫したことで、女子高生を中心に一気に火が付きました。すなわち、同社が変えたものは「既存の流通」、変えなかったものは「価格」「デザイン」でした。

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▲画像、キャッチコピーにこだわり、ターゲットに「エストクチュール」を訴求

 この発想は、どの仕事においても共通するものです。例えば、「頑張って練り上げた渾身の企画が通らない」、「一生懸命取り組んだプロジェクトなのに途中でとん挫しそう」などの状況に陥った時、一からすべて見直してしまっては今までの労力が水の泡。今までの経験を活かしながら、変えられる部分を見極めて、次の手を打つ。この発想がますます求められる時代になると感じています。

伝わらなければ、存在しないのと同じ。ビジネスパーソンも「発信力」が重要

 また、日本においては「いいものを作ればいつか必ず評価される」という感覚が未だに根強く残っていますが、今の時代はそうではありません。たくさんの商品、サービスが世に出され、ネットを中心に情報が氾濫している中、いくら「いいもの」であっても、「これはこういう理由で“いい”のである」と伝え切らなければ、誰にも気づいてもらえません。

 前述した「エストクチュール」からは、発信力の大切さも学べます。「伝わらなければ、存在しないのと一緒」という担当者の危機感をもとに、「マスクもおしゃれに着替えたい」という他の商品には置き換え不可能のキャッチコピーをつけ、写真のクオリティーにもこだわり、ターゲットである「若いギャル」に向けて徹底的に発信し尽くしました。

 この「発信力」は、もちろん新商品、新サービスにおいても重要ですが、日々の仕事においても意識するべきだと思っています。

「頑張って仕事に取り組んでいれば、その姿を誰かが必ず見てくれている」という時代ではありません。働き過ぎが社会問題化しており、労働時間の短縮化が進んでいる今、部下の成果は見ても、「働く姿勢・プロセス」までは見る時間がない…という上司が否応なく増えると予想されます。

 手掛けている仕事の内容、挙げた成果は、どんどん発信し、主張すること。これが手柄を他人に奪われず自分を守り、成果を世に出すチャンスを高める有効な手段だと私は思います。

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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