マネージャーという役割に就いた際に求められるのは、チームとしての成果を最大化すること。その際、チームのメンバーが皆エース級の活躍を見せてくれていれば何も問題はないのですが、中には成績に苦しむメンバーもいることでしょう。
新人のような、やり方がわかっていないだけのメンバーであれば、「あれをやれ」「これをやれ」と指示を出すだけでも成績が向上していくかもしれません。ですが、ある程度経験を積んでいるメンバーが成績に苦しんでいる場合は、指示を出すだけでは解決しないことも多いです。
そこでポイントとなってくるのがメンバーとの対話力。成績に苦しむ理由は人それぞれ違うため、その人がなぜ成績を上げられていないのかをヒアリングしながら対話を進めていく必要があります。
では、ある程度経験を積んだメンバーが成績に苦しむ場合、どんなことが原因になっていることが多いのでしょうか。
中堅メンバーでも陥りやすい、成績に苦しむ3つの要因
1. タイムマネジメントがうまくできていない
中堅にもなってくると、さまざまな仕事をこなせるようになってきます。営業で言えば、担当する顧客数が増えてきたり、顧客から信頼を勝ち得た分、ちょっとしたことでも頼まれるようになったり。そうしていつの間にか「タスク」があふれていき、気づいたら「成果に直結しない行動」に大半の時間を割いてしまっていることがあります。
自ら効率化する方法を考えられたり、自分以外でもできる仕事に関しては誰か他の人に頼んだりできればよいのですが、それができないまま、目の前の仕事をこれまで通りの方法でひたすらにこなしていった結果、成果を上げるための行動に時間を割けなくなり、仕事自体は頑張ってはいるものの成績がなかなか上がらない、といった事態になってしまうのです。
2. 過去の成功体験に縛られている
過去に華々しい成果を残したメンバーほど陥りやすいのが、過去の成功体験に縛られるということです。技術の進化、環境の変化、競合の追随など、時代の流れは早く、これまで通りの方法が通用しなくなる事態が訪れることは、十分にあり得ます。
にもかかわらず、過去に大きな成果を残した経験を忘れられず、当時の方法に固執してしまうあまり、時代に取り残され、どんどん成績が落ちていく、といった事態になってしまうのです。
なお悪いのが、過去の方法を否定されることを嫌がり、他人の声に素直に耳を傾けられなくなってしまったり、自分自身を否定することができず、他の要因に理由を求め言い訳ばかりを繰り返してしまったりして、改善の方向へ向かいにくくなることが多いようです。
3. 自信の喪失がさらなる成績低下を招いている
例えば顧客に何かを提案する際、自信を持ってプレゼンテーションをする人と、自信なさそうにプレゼンテーションをする人であれば、前者の方が決定率が高いであろうことは、想像に難くないことでしょう。
成績に苦しむメンバーは、いつしか自分に自信をなくしてしまい、それが要因でプレゼンテーションにも自信がなくなっていき、さらに成績が悪化する、といった負のスパイラルに陥っているケースもあります。
「自分にはきっと無理なんだ」「きっと向いてないんだ」と、ネガティブな思考に捉われてしまっているため、解決策を提示したとしても、「でも…」となかなかアクションに踏み出せなくなってしまうことがあるようです。
成績に苦しむメンバーとの対話における5つのポイント
そんな成績に苦しむメンバーを引き上げていくためには、どのような対話をしていくべきなのか。ここでは5つのポイントをご紹介します。
1. まず「解消」から始めよ
心の中にモヤモヤを抱えて、ネガティブな思考になっているときは、ポジティブな解決策を提示しても、なかなか受け入れてもらえないものです。それを繰り返すと「自分のことはわかってもらえない」と、心にバリアを張られてしまう恐れもあります。
そんなときは、まずはメンバーの言葉に耳を傾け、共感し、「解消」を図って上げる必要があります。
たとえば、以下のようなステップで対話してみてはいかがでしょう。
・メンバーが不満に思っていそうなことから切り出す
「あのお客さん、独特だから、なかなか苦労するよな」
・メンバーの発言に共感する
「わかる、わかる」「そうだよな」「おまえは頑張ってるよ」
・メンバーの悩みを言語化する
「話を聞いてると、『●●』に苦労しているのかもね」
・メンバーに解決策を提示する
「まずは『●●』をやってみることから始めてみないか」
まずはメンバーの不満を聞き出し、自分の苦労体験などを交えながら共感し、「気持ちがわかってもらえる」とメンバーに思ってもらいましょう。その上での解決策の提示であれば、メンバーも試してみようと思ってもらえるはずです。
2. 業務の棚卸を行い、やるべきこと / やるべきでないことを明確にする
さまざまな業務に追われ、成果を出すための最短ルートを進めていないメンバーに対しては、まず現状の業務を棚卸してあげることから始めましょう。
具体的には、
- そのメンバーの業務プロセスや日々時間を割いている業務とその所要時間を書き出す
- その業務を「本人がやるべきこと」と「他人に頼めること」に分類する
- 「本人がやるべきこと」の、現状のプロセスをヒアリングし、効率化ポイントを探る
といったステップです。
その上で、自発的な行動を促すために、指示ではなくアドバイスという形での対話をとるとより効果的になります。
「この業務は●●さんにお願いして、君は■■に集中してみてはどうだろう」
「このプロセスはこういう方法でやってみたら、もっと効率的にならないかな」
「僕はこういうやり方でやって、うまくいったよ」
といったように、本人に「やってみよう」と思わせることが、実際にアクションを起こしてもらう上で大切なポイントになります。
3. 過去の成功体験を尊重しつつ、新しいやり方を提示する
過去に優秀な成績をおさめたメンバーは、その実績に誇りを持っているケースがほとんど。それを頭ごなしに否定しまっては、こちらの話に聞く耳をもってもらえなくなります。まずはその過去の実績に光を当て、尊重することがポイント。その上で、現状とのギャップを明示し、新しいやり方を試してみるよう促すことが大切です。
具体的には、
「●●(その人の象徴的な成功事例)の件、当時すごいなって思ってたんですけど、どうやったんですか?」
過去の案件に対する敬意を払い、「なるほど」「さすが」といった反応で、相手のやり方を尊重する。
「●●のあたりが、今は変わってきているのかもしれませんね。業界の変化が早いので」
ギャップのポイントを明示しつつ、「業界の変化」を理由とし、個人のキャッチアップの遅れのせいにしないようにする。
「●●さんがこの部分をマスターしたら、圧倒的なパフォーマンスになりそうですよね」
将来への期待値を明示し、その人の能力そのものは認めていることを伝える。
といったステップを踏むと、新しいやり方を身に着けてもらえるようになるかもしれません。
4. 小さな成功体験を積み重ね、自信を身に着けてもらう
自信を失ったメンバーが、再度自信を取り戻すためには、やはり「結果」が必要になります。そのため、顧客や案件の選定など、その人が成果を出しやすい環境を作って上げることが大切です。
とはいえ、いきなり大きな案件を任せるにはリスクが大きいので、一件あたりの大きさというよりは、小さくてもいいから、成功の「数」を増やしていく方がよいでしょう。
また、仮にすぐには成果が出なかったとしても、プロセスに光を当てて「以前よりも前進している感覚」を持ってもらうことが大切です。
「今月すごいね、成果が出てきたね」
「成果を出すコツをつかんできたみたいだね」
「今回は残念だったけど、以前と比べて●●はすごくよくなってきているから、成功は時間の問題だね」
といった声をかけて、しっかりと前進しているんだ、というメッセージを伝えるようにしましょう。
5. 成功のポイントを言語化してもらい、改めて自信をつけてもらう
上記のような対話を繰り返し、徐々に成果が出てきたタイミングで実践したいのが「成功体験」の言語化。コツやポイントを自身の言葉で言語化してもらうことで、自分自身の経験を整理、体系化することができ、改めて自信を得ることができます。
またそのポイントを他のメンバーにも伝えてもらうことで、より自分の重要感・自信が生まれ、主体的なアクションが引き出せるようになるのです。
「今月すごいね、どのあたりが成功のポイントだったの?」
「ぜひ成功のコツをみんなにも伝えてほしい」
といった声をかけて、組織におけるそのメンバーの重要感を醸成していきましょう。
成績に苦しむメンバーは「自分でトライして、成功した」という主体的な成功体験を経て、自信をつけてもらうことが大切です。強制的にやり方を変えさせる、というのも一つの方法ではありますが、対話を繰り返して自発的な変化を促すことで、今後についても継続的、主体的な成長を望むことができます。
メンバーの声に耳を傾けながら、自発的な変化・成長を促すコミュニケーションを心掛けたいものです。
文:河野富有