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ソーシャルネット時代に「mixi」が目指す姿とは?
ミクシィ原田副社長が明かすリアル・ソーシャル戦略
「mixi」はソーシャルメディアとして、今後どのような位置付けを目指すのか。他のソーシャルメディアとは、どう差別化していくのか。ミクシィ原田副社長に「mixi」のビジネス戦略やサービス戦略、技術的な優位性、グローバル展開を中心に語ってもらった。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/松浦 秀紀)作成日:11.03.09
人類発生以来のつながりたい願望が、インターネットを使って全面展開する時代

「ソーシャルメディア」や「ソーシャルネットワーク」という言葉はすっかり定着したが、人によって意味する内容はさまざまだ。SNSがソーシャルネットワークサービスの代表格であることはたしかだが、最近はそれ以外の領域を含んで幅広く語られることが増えてきた。日本では最大級のシェアをもち、最も早い時期からサービスを展開しているSNSの一つ、ミクシィ(mixi)の原田明典副社長に、あらためてこの問いをぶつけてみた。
──「ソーシャルネットワークの本質って何ですか」

「インターネットが本格的に普及してから20年が経ちましたが、インターネットはメールやインスタントメッセージに代表されるコミュニケーションと、Webなどに代表される情報取得──これはメディアと言い替えてもよいですが──という2つの機能に収斂する形で発展してきたといえます。

 ソーシャルネットワークは、このコミュニケーションとメディアの2つを掛け合わせた、インターネット活用の第3の道といえます。そしてこれこそが、インターネットテクノロジーのパワーをより本質的に示すものだと思います。私たちミクシィがそれを生み出したわけではないけれど、ミクシィもまたその流れを加速化させるために必要なサービスを提供してきたという自負はあります」

 コミュニケーションとメディアの片側だけでは、インターネットがもつ潜在力(ポテンシャル)を発揮したことにはならないと、原田氏は言う。メールコミュニケーションはいわば手紙や電話の代替ツールにすぎなく、無料でニュースが読めたり、居ながらにして動画を見られたりするメディアとしての利便性も、実はテレビや新聞が果たしてきた役割を代替するものでしかない。

 既存のテクノロジーには不可能で、インターネットだからこそできるようになったこと。それは複数の人々が同時に、ネットさえつながれば地球のあらゆる場所で、インタラクティブ(双方向)なコミュニケーションをしながら、情報をやりとりすることだ。これがインターネットのソーシャル化、つまりソーシャルネットワークだというのだ。

「人とつながりたい、人と何かを共有したいというのは、人類社会が発生したころ、集落の人々が火の周りに集まって踊っていた時代からある、人間の本質的な願望なのでしょう。テレビが登場した頃も、お茶の間のブラウン管の前でわいわい言いながら家族が語り合っていた。それが徐々に一家に一台になり、一人一台となっていき、集まって見ることがなくなっていった。それは社会的事情などでそうなっていったけれど、それでもみんなと一緒に見ることを望まなくなったのではないのです。本当はもっと家族も友人もつながっていたい。そうした願望を実現するためにはどうしたらいいか。ソーシャルネットワークは、それをソーシャルネットワークという新しいインターネットで、よりパワフルに実現するものです。それが生活の中に入ってきて初めて、インターネットの面白さを人々は実感できるように思うのです」

 原田氏の話には、ビジネス談義の前提として、しっかりとメディア論やコミュニケーション論がすえられていることが特徴だ。単なる技術論以前に人間社会の方向性を見据える長期的な視点もそこからはうかがえる。SNS企業が新しいネットワークやメディアを標榜するために、壮大な視野をもつ経営者がいることは重要である。

原田 明典氏
代表取締役副社長 兼 COO
原田 明典氏
1975年生まれ。NTTドコモでiモードポータルのオープン化などに貢献。2008年1月、株式会社ミクシィ入社。2010年7月から代表取締役副社長に就任。
リアル・ソーシャルグラフ──感情溢れる居心地のよい関係を人々は求めている

 ミクシィが自社のSNSサービスを語るとき、よく強調するのが、「リアル・ソーシャルグラフ」という言葉だ。リアルな人間関係といえばよりわかりやすい。

「本来、SNSというのは、友人や知人とのつながりを提供するサービス。決してバーチャルだけに閉ざされることなく、リアルな関係をより豊かにするために使ってほしいのです。単に情報が欲しいから匿名で質問したりするというネットの使い方もあるけど、ネット上で知り合った人とリアルでも交流し、そのリアルな交流をより楽しくするためにネットでも交流するというような使い方に、これからはだんだんなっていくと思います。
 このリアル・ソーシャルグラフにフォーカスして、徹底的に技術とサービスを磨いてきたのは世界でもそう多くはない。SNSの中では『mixi』と『Facebook』だけと言っていいかもしれません」

 原田氏は、リアルなソーシャルグラフをベースにしたSNSでは、他のネットワークに比べ、メールがもつ「感情含有度」がはるかに高いと表現する。「感情含有度」とは原田氏の造語だが、好きな人に送ったり、好きな人から送られてくるメールを想像すればよい。誕生日、顧客情報をもとに自動発信される企業からのグリーティングメールより、恋人から送られてくる「おめでとう」のメールの方が、はるかに高い「感情」が込められている。だからこそ、受け取るほうも嬉しいという「感情」が生まれてくる。

「いま自宅の郵便受けを覗いても、そんなに嬉しくないですよね。チラシや請求書ばかり。嬉しいのは年賀状のときぐらいでしょうか。Eメールの受信箱も、インターネットを使い始めのころは楽しかったけれど、今はスパムメールとか仕事のメールとかばかりで、そこには感情の動きがみられなくなってしまいました。ところが、『mixi』に届くマイミクさんからのメールは感情含有度が高い。よく知った相手だし、読むとなんかホンワカします。
『mixi』のコミュニケーション機能は、自分が入ってきて欲しくない人や情報を自分のゾーンに入れなくてすむように設計されています。誰もが自分の嗜好にあったコミュニティをつくれます。バーチャルに完結することなく、どこかでリアルな回路を開こうとする人々の感情がそこには流れています」

 感情豊かな居心地のよい人間関係。それが、ミクシィのいうところの「リアル・ソーシャルグラフ」なのだ。なぜ、いまリアル・ソーシャルグラフが重要視されるのか。それは、ネットを使いこなす現代人が、ネットに単なる情報価値だけでなく、コミュニケーションの温もりを求め始めたからだろう。

mixiサービスの2本軸──ソーシャルをもっと楽しくするための都市計画

 ミクシィの事業目的を、全ての人々に心地の良いつながりを提供するためのサービスと定義したとして、そのサービスの軸を原田氏は2つにわけて説明する。一つの軸は、「ソーシャルグラフ」。「mixiユーザーのソーシャルグラフ、つまり人と人とのつながりを分析し、そのつながりがより心地よいものになるような仕掛けを施すことで、より居心地の良いサービスをめざす。ここで原田氏は、『Facebook』や『Twitter』など米国発信のサービスと、『mixi』の違いをこう述べる。

「私の目から見ると『Facebook』は社交、しかも実名で堂々と交流する、欧米流の、どちらかというと社会的強者のための社交ネットワークに映ります。一方、『Twitter』は社交ではなく、ニュースが飛び交うネットワークですね。社交の場というと日本人はどうしても敬語を使いたくなる。海外でも公の場では公用語、家の中では現地語で話す人々は多い。その比喩で言えば、『mixi』は敬語ではない、母国語、タメ口で話すネットワークだと思います。」

 もう一つの軸が、先ほどのソーシャルグラフの上に乗る、「コミュニケーション」だ。「mixi」には日記やつぶやき、フォトなど様々なコミュニケーションツールがあるが、2009年8月にまず外部のパートナー企業にもmixiの中にサービスを提供できる「mixiアプリ」を開始した。さらに、2010年9月には、外部の企業が「mixi」サービスの外でも、「mixi」のソーシャルグラフを利用したサービスを提供できるように、プラットフォームを開放したのだ。

「基本的なコミュニケーションツールはミクシィ社内で整備しますが、それ以外はサードパーティ企業にプラットフォームを開放していきます。いわば、ミクシィは都市計画のデベロッパー。ここは住宅地、ここは公園、ここは遊園地といった区画整理はするけれど、そこにどんなお店をつくるかはパートナー企業にどんどん任せていきます」

 加えてミクシィ社が緊急課題と捉えているのが、ユーザーインターフェースの整備だ。「mixi」をPCのブラウザから使うのか、携帯電話やスマートフォンから使うのか、それぞれでどのようなインターフェイスにするのかといった、アクセスするデバイスのことを考えていく。当然ながら現在普及が進んでいるスマートフォン対応は重要だ。

「スマートフォンでは、Webブラウジングやメール、音声通話よりも、SNSを使う頻度の方が高いと私は思います。まさにスマートフォンは、ソーシャルネットワークのためのデバイス。私たちがスマートフォンに対応するというより、スマートフォンの側がSNSに対応してきたといってもいいぐらい」

プラットフォーム開放とグローバル化がさらに進む。若い世代の登用にも関心

 サービスの2本軸を横に貫くキーワードは、これまで述べてきたプラットフォームの開放だろう。プラットフォームのオープン化の現状について原田氏は、「ミクシィがプラットフォーム開放を進めても、その意図が業界内に広まるのは、予想より時間がかかった。最近、ようやくその乖離が埋まってきた」と述べる。

 グローバル対応についても、積極的だ。昨年の中国の最大手SNS「Renren」、韓国最大手の「Cyworld」との業務提携を皮切りに、今年はドイツ最大のSNS「Vznet」との事業提携を発表、プラットフォームの国際的な共通化が急ピッチで進む。
「プラットフォームのグローバルな共通化は、ソーシャルアプリ開発の参入コストを下げるという狙いがあります。今後は、ミクシィのサービス・コンセプトそのものの海外展開も視野に入れています。単に今ある「mixi」サービスをローカライズするということではないんですが、『mixi』のような居心地のよいサービスを求めるユーザーは、世界のネット人口30億人の何割かは必ずいるはず。そうした人々に向けた新しいサービスは十分、参入余地があると考えています」

求めるのは、独自技術をユニークなサービスへ展開できるエンジニア

 さてこうした事業やサービスを実現するための人材について、原田氏はどんなイメージをもっているのだろうか。とりわけエンジニアに絞って人材像を尋ねた。
「先日から、Near Field Communication(NFC)を利用したmixiチェックやmixiチェックインができるようになりました。携帯電話端末では、NFCと位置情報を組み合わせた世界初のサービスになります。このように、誰もやったことのない世界的にもユニークな技術を生み出せる人がほしいんです。私たちがいま必要としているのは、たんに流行を追いかけるのではない、単にこれまである技術をスケールアップするというのではない、新しいサービスを実現できるエンジニアです」

 しかし、それほどの先進的な技術や事業モデルに野心的な人物なら、もしかすると、かつてのミクシィがそうだったように、自分たちで新しい会社を起業してしまうかもしれない。
「いや、それでもいいんですよ。起業志向の人でも構いません。ただ、起業する前にちょっとミクシィに寄り道するのも悪くない。ミクシィには、もっとすごいアイデアと技術をもっている人がいるかもしれないじゃないですか。彼らと出会えるだけでも、ミクシィに入る価値はあると思いますよ」

 求める技術領域は幅広い。サーバー、データベースなどのインフラ技術はもちろんのこと、さらに、APIやAjax開発などフロントサイドに強いエンジニアへも原田氏は高い関心を示す。
「これまでは比較的バックエンドに高度な技術が集中しているイメージがありましたが、ソーシャルネットワークの時代には、エンジニアはフロントエンドの様々な技術も必要だと思います。
 またSNSでは、ユーザーを待たせたり迷わせたりすることなく、快適にコミュニケーションできるようにすることが大切で、それを実現するにはユーザーエクスペリエンスに関する技術との組み合わせもますます必要となるでしょう。
 たとえば、ユーザーエクスペリエンスと深い所の技術の両方に精通しながらサービスの基本設計ができる、言うなればエモーション・アーキテクトのような人材。こうしたエンジニアが、これからのソーシャル時代の花型になっていくと思いますよ」

 原田氏の言葉からは、ソーシャルネットワーク時代の到来を自分たちが準備してきたという自負と共に、その未来を新しいエンジニアの力を借りてさらに大胆に切り拓きたいという意気込みを感じるのだった。

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