• はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
未踏スーパークリエータ衣川氏の“Objective-C特別授業”を再現
3カ月でリリースした「mixi for iPad」開発舞台裏とは
10月にミクシィが提供を開始した「mixi」のiPad向けアプリケーション「mixi for iPad」。未踏スーパークリエータと、新卒1年目のエンジニアがわずか3カ月という猛スピードでこのネイティブアプリを開発したという。そこにはミクシィならではのプログラム開発風土が表れている。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.11.09
未踏スーパークリエータ、ミクシィに転職
衣川 憲治氏
株式会社ミクシィ
UX統括部 開発グループ
衣川 憲治氏

 ミクシィは、10月にソーシャル・ネットワーキング サービス「mixi」を利用するためのアプリケーション「mixi for iPad」の提供を開始した。例えば、自分が見たいと思った友人の投稿をタッチすると、友人の投稿した写真や位置情報と共に、横スライド形式のパネルが表示される。そのパネルから、友人へ「イイネ!」やコメントなどのフィードバックも可能だ。画面をその都度遷移することなく、より直感的な操作で「mixi」を楽しめる。タブレット端末向けに最適なユーザーインターフェイスを実現したiOSネイティブアプリだ。実際にベッドに寝転んで、iPadの広い画面をタッチしながら読んでみると、単にSNSが利用できるというレベル以上の快適な操作性が味わえる。

 この「mixi for iPad」開発チームを率いるのが衣川憲治氏だ。かつては大手玩具メーカーでロボットの研究開発をしていたこともある。同メーカー在籍中に、情報処理推進機構(IPA)による「未踏IT人材発掘・育成事業」で「単機能入出力デバイスをマッシュアップするインターネットサービス」というプロダクトが採択され2009年度下期スーパークリエータに認定された。ミクシィへの転職は、2010年の11月のことだ。その未踏スーパークリエータがなぜ、いまミクシィに?
「世の中を変えるような大きな影響を与えるものが、メーカーからインターネット業界に移ってきたのではないかと思っていました。今後、インターネット上で起こる変化が非常に重要なものになる。それを見逃したくなかった。SNSなどのソーシャル・コミュニケーションにも関心があったし、大規模なユーザーのアクセスを処理する技術を持つ企業ということで、ターゲットにしたのが……」それが、ミクシィだったというわけだ。

「やりたい」と手を挙げた人のほうが絶対に伸びる

「mixi」のスマートフォン対応はもちろん今に始まったことではない。iPhoneへの対応は2009年から。Android対応アプリは2010年の年末に発表、WindowsPhone7.5への対応もこの8月にリリースされている。スマートフォンやタブレットの登場によって、今後は、様々なデバイスからアクセスできることがmixiにも求められる。多様なタッチポイントを提供し、あらゆるシチュエーションでmixiを利用できる環境を提供していくというのが、ミクシィの方針だ。

 衣川氏は入社するとすぐに、iPhone用アプリの開発を担当。iOS対応ということで社内に専任チームができ、開発を進めている。衣川氏は6月からiPhoneを離れ、iPad版開発に単身取り組んできた。iPhone版のベースはあったとはいえ、「実質的にはコードはゼロから」。開発着手からリリースまでわずか3カ月の開発だ。

 もちろん、この早業は衣川氏をサポートする貴重な若手人材がいたからこそ。それが、今年4月新卒入社の田村航弥氏だ。
「最初は開発者が一人しかいなかったので、iOS開発部隊を作るために、とにかく人を探しました。ただ、iOSの経験がある人は市場にそう多くはない。だから、社内でやる気のある新卒にも声をかけるため、新卒の懇親会に参加して、やりたい人がいないかと誘いまくりました」

 その懇親会で「やりたいです」と手を挙げたのが田村氏だった。iOSで動くネイティブアプリは、Objective-Cで書かれる。今回のiPadアプリもソースコードの99%はObjective-Cだ。田村氏は、学生時代に1冊だけObjective-Cの専門書を読んでいた。
「でも、本を1冊読んだぐらいでできる簡単な世界ではないんだけどね」
 衣川氏にそうあしらわれたことが、田村氏の発奮材料になった。「衣川さんの経歴を知ると、すごい技術者なんだなと。この人に食らいついていけば、自分も何か身につけることができるはず」という田村氏なりの“計算”もあった。

 先輩の衣川氏にもまた彼なりの人材登用戦略があった。 「やりたくもない人に無理してやってもらうより、やりたいと手を挙げた人のほうが伸びるはずというのが経験則。田村君は100%、iOSアプリをやりたいと明確に言ってきた」と、田村氏をチームにスカウト。それが好結果をもたらした。
「手取り足取り教えなくても、一定の環境に置かれれば、自分でどんどん勉強して消化していけるタイプ。すぐに戦力になりました。彼がいてくれてほんと助かったと思っています」

田村 航弥氏
株式会社ミクシィ
UX統括部 開発グループ
田村 航弥氏
mixi for iPad
mixi for iPad
実践的なアプリ開発で、新人のジャンプ力を試す

 衣川氏いわく、Objective-Cの開発は、PerlやRubyなどに比べると、非常に手間のかかる言語。中でも最も気をつけなければならないのは、メモリ管理だという。
「メモリ管理を怠ると、簡単にメモリリークを起こしたり、頻繁に落ちるアプリになってしまいます。さらにクライアントサイドのアプリとしては、並列したイベントの非同期処理の特徴である、イベントドリブン型のプログラミングも重要な観点。このあたりの処理には一定の修練とセンスが欠かせません」

 Objective-CはMac OS X用のアプリ開発でも標準プログラミング言語として用いられるが、以前は技法書や資料が少なくて、開発者泣かせと言われた時代もある。ただ、最近はiPhoneブームということもあるのか、「僕らの学生時代に比べても様変わりというぐらい、資料があふれています」(田村氏)。

 それらを参考書として使いながらも、ひたすら実践的なアプリ開発でトレーニングを積む。この現場でのジャンプ力が重要なのだ。それにしても、それまで1冊の技法書しか読んだことのない新人が、配属後2〜3カ月でこうも成長するものなのだろうか。
「僕が本格的に開発に参加したのは8月から。といってもアプリを作っては、動かし、わからないところを勉強するという反復運動でした。特に夏真っ盛りの2週間が、体力的にもきつかった。ただ、だんだん形になっていく面白さというのは、このときが一番味わえましたね」

ホワイトボードを前に“衣川教授のObjective-C特別授業”

 まずは、日記と写真を投稿する機能を切り出して、その開発に取り組んだ。ただ、アプリ全体の構造を把握していないと、その実装で十分なのかどうかが見えてこない。衣川氏がホワイトボードを前に、アプリ全体の構造を説明し、ときにはObjective-Cのプログラミング言語としての特性までも解説する。受講生は田村氏一人。1対1の真剣勝負の特訓合宿のようでもある。
実践アプリ開発を通して、エンジニアとしての基本的な態度のようなものは、教え込むことができたという。

「最初は、何が問題かが把握できていないので、質問のたいていは抽象的なんです。本質部分が見えてないから、枝葉末節にこだわる。アレ、コレという指示代名詞が多くて、具体的な状態を名詞化することもできない──。私はそこを突っ込んで、『「ソレ」ってなんのこと?』『今何に困っていて、何を聞きたいの?』と、曖昧な問いに対しては問いで返すようにしました。安易に解答を求めてはいけない。問いを通して自分で考えるという癖をつけなくちゃいけない。『解を知っている』ことではなく、『解への導き方を知っている』ことのほうが、エンジニアとしては最も大切なことだと思うからです」

 やはりこれは、マイケル・サンデル教授の「正義論」の講義にも似た、プログラミングのより本質に迫る“特別授業”ではある。授業と実践がたびたびくり返され、だんだんと開発スピードがアップしていく。しかし、深夜遅くまでとか、開発が徹夜になるという事態は避けた。
「頭が働かなくなったら、家に帰ろう──がチームのモットーです。開発がどんなに佳境で、自分では乗ってきている状態でも、遅くとも22時には仕事を終えるようにしました。徹夜仕事で一時的に150%の成果を上げるよりも、コンスタントに100%の力を出し続けられる環境のほうが、良いものを継続的に開発することができると考えているからです。
 これもまた、衣川氏がこれまでの経験で得てきた開発効率化のノウハウは、惜しみなく新人エンジニアに注ぎ込まれた。それができたのも、そのやり方がミクシィ本来の開発風土にマッチしていたからだろう。

 自ら手を挙げ、食らいついて仕事をする者には、その意欲を満たすだけの環境を与えよう。その環境にどっぷりとつかることで、年齢・経験を問わずエンジニアは成長するのだ。

リリース直後から、ユーザーの厳しくも温かい評価に晒される

 田村氏にとって、いや2人のエンジニアにとって濃密な夏の時間が過ぎた。10月に無事App Storeにリリースされた。だが、まだやりたいことは山のようにあるので、継続して開発を進めている。

「自分が関わったアプリが多くの人に使われるというのは、僕にとってはもちろん初めての経験です。その喜びもつかの間、リリースしたとたんに、ユーザーの評価もどんどん入ってくる。App Storeのユーザーレビューはおおむね好意的なものが多かったとはいえ、中にはネガティブな意見もありましたからね。それを読むたびに、ああ、こうすればよかったと思う。反省点は少なくないです」と田村氏。

 ただ、ユーザーからの批評も含めて、これこそがソーシャルサービスをつくるということの醍醐味だ。ファーストリリースは最終形ではなく、単なる始まりにすぎないのだ。SNSとしての「mixi」自体も進化するし、iOS自体もこれからバージョンアップを重ねていく。大きな画面を活かした、よりmixiを快適に楽しめるようなアプリに進化させるというアイデアもあるとのこと。

 サービス、OS、デバイスの急速な進化の中で成長する若手と、彼らと一緒にものづくりをしながら成長の手助けをする中堅エンジニア。その、タッグマッチというかガチンコ勝負は、いまミクシィの社内の至るところで見られる光景だ。
「秋からは、田村君がiPadアプリ開発の主担当として頑張ってもらうからね」
最後に、衣川氏はさらっと告げた。ソーシャルアプリ・エンジニアとしての入門編、ファーストステージはクリアした。次はプロジェクトを引っ張っていく力を磨くチャンスだ──その意味するところは、田村氏にも十分わかっている。

株式会社ミクシィ UX統括部  開発グループ 衣川 憲治氏

29歳。プログラミング歴は15歳から。電気通信大の学生時代からロボットベンチャーで開発などを担当。大手玩具メーカーに就職し、ロボットのプログラミング、回路設計に従事。在職中にIPAの2009年度下期「未踏IT人材発掘・育成事業」に応募し採択される。2010年11月にミクシィ入社。

株式会社ミクシィ UX統括部  開発グループ 田村 航弥氏

25歳。同志社大学大学院修士課程で情報処理を専攻。情報検索アルゴリズムを専門とした。修士一回生のときにミクシィでインターン。就活では他にインターネット企業を数社受けるも、ミクシィを選択し、2011 年4月入社。

  • はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録

このレポートに関連する企業情報です

◎インターネットメディア事業/ソーシャル・ネットワーキング サービス『mixi』  ◎インターネット求人広告事業/Webな人の転職サイト『Find Job !』(株式会社ミクシィ・リクルートメント提供)続きを見る

あなたを求める企業がある!
まずはリクナビNEXTの「スカウト」でチャンスを掴もう!
スカウトに登録する

このレポートの連載バックナンバー

人気企業の採用実態

あの人気企業はいま、どんな採用活動を行っているのか。大量採用?厳選採用?社長の狙い、社員の思いは?Tech総研が独自に取材、気になる実態を徹底レポート。

人気企業の採用実態

このレポートを読んだあなたにオススメします

ソーシャル時代を見据えた様々な仕掛けと舞台裏

ミクシィとバスキュール「mixi Xmas」開発3年間の軌跡

人気企業の採用実態「mixi」上で、クリスマスシーズンに実施しているソーシャル・キャンペーン企画「mixi Xmas」。この大規模なイベ…

ミクシィとバスキュール「mixi Xmas」開発3年間の軌跡

エンジニア目線の勉強会、自社の開放、学習する組織づくり…

ミクシィが取り組むエンジニアを育てる文化・組織とは

人気企業の採用実態自身のスキル向上のために、日々の学習が欠かせないエンジニアたち。プロジェクトの渦に揉まれて経験を積むのも一つの方法だが、勉強会や…

ミクシィが取り組むエンジニアを育てる文化・組織とは

立ちはだかる壁。それを自ら乗り越えるために彼らがしたこと

ミクシィ入社3年目――若手エンジニアの成長力を探る

人気企業の採用実態若手エンジニアが成長する環境とはどのようなものか。エンジニアの成長にとって、開発現場の習慣や風土は大きく作用する。2009年新卒…

ミクシィ入社3年目――若手エンジニアの成長力を探る

人のつながりを分析し、「心地よさ」を実証する

ミクシィの“ソーシャルグラフ”データ解析技術とは

人気企業の採用実態ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では、ソーシャルグラフと呼ばれる人と人との“つながり”の情報が活用されている。…

ミクシィの“ソーシャルグラフ”データ解析技術とは

ソーシャルネット時代に「mixi」が目指す姿とは?

ミクシィ原田副社長が明かすリアル・ソーシャル戦略

人気企業の採用実態「mixi」はソーシャルメディアとして、今後どのような位置付けを目指すのか。他のソーシャルメディアとは、どう差別化していくのか。…

ミクシィ原田副社長が明かすリアル・ソーシャル戦略

やる気、長所、労働条件…人事にウケる逆質問例を教えます!

質問を求められたときこそアピールタイム!面接逆質問集

面接時に必ずといっていいほど出てくる「最後に質問があればどうぞ」というひと言。これは疑問に思っていることを聞けるだけで…

質問を求められたときこそアピールタイム!面接逆質問集

この記事どうだった?

あなたのメッセージがTech総研に載るかも

あなたの評価は?をクリック!(必須)

あなたのご意見お待ちしております

こちらもお答えください!(必須)

歳(半角数字)
(全角6文字まで)
  • RSS配信
  • twitter Tech総研公式アカウント
  • スカウト登録でオファーを待とう!
スマートグリッド、EV/HV、半導体、太陽電池、環境・エネルギー…電気・電子技術者向け特設サイト

PAGE TOP