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エンジニア目線の勉強会、自社の開放、学習する組織づくり…
ミクシィが取り組む「エンジニアを育てる文化・組織」とは
自身のスキル向上のために、日々の学習が欠かせないエンジニアたち。プロジェクトの渦に揉まれて経験を積むのも一つの方法だが、勉強会やカンファレンスを通してオープンに学び続けるスタイルもある。ミクシィが注力するエンジニアの技術や学習支援の仕組みづくりを取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:12.01.18
社外の人にも自社施設を開放。エンジニア目線で勉強会を企画

 エンジニアが自らのスキルを伸ばすためには、もちろん自助努力が不可欠だが、それ以上に求められるのが、個人の成長を促す組織的な仕組みだ。インターネットのような新しい技術領域には、ここまでやれば完成形、というものがない。従って、個人と組織が互いに影響を与え合いながら、絶えず学習し続ける組織をどのように作り上げるかが、技術力向上のポイントになる。

中村 譲氏
技術部技術支援グループ
勉強会担当
中村 譲氏

 業務を通してスキルを磨くというOJT型の学習スタイルももちろん重要だ。しかし、忙しい業務の中で、若手に対して体系的に教育を施すのは時間的にもリソース的にも難しい。そのため、大きな企業になれば、社員の教育研修を専門的に担う教育組織が設置されることになる。ミクシィの場合、それを担当するのが、技術支援グループである。設立は昨年秋。現在は7名の専任スタッフがいる。同グループのミッションには、サイトの構築支援や海外企業との技術連携、知的財産保護などもあるが、中でも重要なのが技術教育だ。

 技術系企業における教育専任組織はことさら珍しいことではないが、ミクシィの場合はSNSを運営する企業ならではの特色がある。その例が勉強会だ。 「社内・社外の勉強会のコーディネイトを担当しています。先日は社外のエンジニアのオファーを受けて、ミクシィのセミナールームを提供し、エディタのVimの勉強会を開きました」
 と言うのは中村譲氏。前職はイントラネット向けパッケージ製品を開発するエンジニアだったが、昨年秋に入社したミクシィでは技術支援を担当している。
「社外からも参加者がいらっしゃるので、ビルの管理会社との調整や、勉強会の後の懇親会のケータリングなども私の担当。前職でも外部の勉強会に参加する機会は多く、より有意義な勉強会にするため、無線LANや延長電源コードなど、こんな設備があったらいいのにと思うことがよくありました。エンジニア目線できめ細かいところまで気を配るようにしています」

オープンな交流を意識した勉強会。ミクシィがエンジニアのハブになる

 それにしても社内勉強会であれば分かるのだが、この場合は「社外」。あえて施設を提供する意味はどこにあるのか。
「もちろん社内のエンジニアも参加します。社外のエンジニアとの交流を通して刺激を受け、技術が高まるという可能性に期待しています。また社外のかた向けにミクシィのエンジニアが発表することもありますが、人前で発表する機会ほど、学習意欲を刺激するものはありません。こうした効果に期待しています」
 と語るのは、技術支援グループのマネージャーを務める森本淳氏だ。ソーシャルネットワークとオープンソースの時代には、エンジニアの勉強会もまた、オープンなソーシャル志向になるということだろう。

 これまで、PerlやAndroidのユーザーグループのイベントのほか、Google Appの開発、スマートフォンアプリ開発、セキュリティシステム、Webプランニング、HCD(ヒューマン・センタード・デザイン)などをテーマとした勉強会に施設を提供してきた。ミクシィが主宰し社内エンジニアを広く集めた「ミクシィ・エンジニアリング・セミナー」も、iPhoneアプリ開発やWindows Phoneをテーマにこれまで2回開かれている。

 こうした社外との交流がさらに深まったのは、2011年4月にオフィスを渋谷に移転した頃から。mixiチェックやアプリなどmixiサービスをオープンにしていくというプラットフォーム戦略を進めてきたが、サービスだけでなく、オフィスもコミュニケーションプラットフォーム化したいと、オフィスの設計段階から100人収容のセミナールームや、小規模コラボレーションに向いたスペースを計画し、社内外のイベントに使えるようにした。ミクシィのオフィスが日本のソーシャルの拠点になれればとのことだ。
「渋谷のミクシィを、エンジニアの勉強会のハブにしていきたい」
 と、同グループで新卒・中途採用者向けの教育研修を専任で担当する高井桂氏も言う。

森本 淳氏
技術部技術支援グループ
マネージャー
森本 淳氏
新人を育てる講師役。初期研修のカリキュラムづくりに挑む
高井 桂氏
技術部技術支援グループ
人材育成担当
高井 桂氏

 高井氏は2007年5月にミクシィに入社した。前職の人材派遣会社では、派遣技術者のスキルアップのためにJavaの講師役を務め、スキルアップ研修のカリキュラム開発に従事していた。ミクシィが新卒の採用を強化するようになると、ミクシィでも同様の仕事にタッチ。新人と中途採用者向けの初期研修プログラムを開発してきた。そうして自ら講師になったり、講師を手配したりするうちに、改めて「エンジニアの幸せってなんだろう」と考えるようになった。

 エンジニアの幸福の条件の一つは、技術を身に付けて自立することだろう。昔風に言えば「腕に覚えあり」という感覚だ。研修を通して、日に日に技術への理解が深まり、その知識を活かして、よいコードが書けるようになる。さらにプロジェクトを効率的に進めるためのノウハウなども、いずれは勉強が必要になるだろう。実際は研修と実務の往復関係が重要で、そこで蓄えられた経験値と絶えざる学習意欲が身体に染み込むようにインプットされれば、とりあえずエンジニアは一人前に自立したと言えるようになる。

 新卒採用エンジニアの場合、その土台を作るのは新入社員向け技術研修で、入社後の総合研修につづいて行われる。カリキュラムは大きく基礎編と応用編に分かれており、基礎編はそれこそUNIXの使い方に始まって、LAMP開発の基礎を徹底的に指導する。コード開発を進める上でのバージョン管理手法やテスト手法、データベース設計などサーバー周りの技術科目もある。

 応用編になると、オブジェクト指向設計の概要、ベンチマーク・プロファイリング、セキュリティ・プログラミングなどが科目に並ぶ。ミクシィの開発に特化したものだと、インターネット広告のテクノロジーや、課金システムの設計、モバイル・キャリアの通信仕様の勉強なども含まれる。演習科目もあり、その演習のフォローをするのがチューターと呼ばれる先輩社員たちだ。多くは前年度新卒入社の社員。コードを書く新卒社員の間を歩きながら、付きっきりで相談に乗る。人に教えることで、改めて自分の知識を整理するという狙いもある。

 基礎編と応用編を合わせて、技術研修の期間は約1カ月間(2011年入社新卒の場合)。この特訓を経て、それぞれ各部署に配属されていく。
「最近の新卒社員はレベルが高く、LAMPの基礎研修など必要のない人もいますが、研修を受けることで改めて自分のスキルレベルをチェックできるので、安心するという声は多いですね。チューター役の先輩との交流を通して、ミクシィという会社の仕組みを学べるメリットもあります」(高井氏)

 中途採用エンジニアについては、新卒研修の基礎編〜応用編レベルまでは身についていることが前提のため、ミクシィ特有の業務スタイルに関する研修から始まる。ミクシィにおける開発のルール、プログラマと他の職種との役割分担、部署間・職種間の業務依頼の方法といったものだ。
「ミクシィでは、プログラマ、デザイナー、プランナーがひとつのチームをつくってプロジェクトを進めています。そのためにお互いの分担とコラボレーションの方法を定義し、そのルールを学ぶことが欠かせません」と高井氏。

ライトニングトーク大会で、新たな仲間も一気に社内知名度が上がる

 各部署に配属されたエンジニアは、基本的にOJTで技術を磨くことになるが、自分のプロジェクトだけに閉じこもっているわけではない。社内にどんなエンジニアがいるのか、ぶつかっている課題は誰に聞けば解けるようになるのか、そうした社内のテクノロジーマップを把握する上でも、社内交流は欠かせない。逆に、この交流は、新卒社員にとっては自分の名前と顔を覚えてもらう上で重要な機会になる。

 そのための仕掛けとして効果的なのが、社内勉強会やLT(ライトニングトーク)大会だ。LT大会は月一で定期的に開催される。そのファシリテーションを行う「LTサークル」というチームもある。毎回、5〜10分ずつのトークセッションに5〜6人が登場。聴衆は毎回30〜50人前後だ。
「社内LTなので、テーマはなるべく緩く設定し、参加者の敷居を低くしています。技術的なテーマが主ですが、中には自分は顔文字をいかに速く手打ちできるかという自慢ネタの発表などもありますね。技術職だけでなく事務系の総合職の参加も促しています。テクニカルスキルだけでなく、ライフハックに近いような発表もこれから増えてくると思います」と、LTサークルの一員でもある高井氏。

「LT大会は新卒社員だけでなく、中途採用者についても自己紹介のよい機会になります。実は私も前回のLT大会で発表者になりました」
 と言うのは、前出・中村氏。実はDvorak配列のキーボード愛好者で、彼のMacBook Airはキーマッピングを入れ替え、キートップも交換してある。そのネタを披露したというのだ。
「社内でDvorak配列を使っているのは私一人。ま、“Dvorak中村”と顔と名前を覚えてもらえばいいということで(笑)」
 こうしたこだわりのある人材がミクシィにはあふれている。LTのネタは尽きない。

自分のテーマを追求できる週末のチャレンジ。新事業のネタがここから生まれる

 最近あまり聞かなくなったが、研究開発者の用語に「アンダー・ザ・テーブル」というのがある。業務として行う研究ではなく、研究者が自分の興味に沿って非公式に取り組むテーマ研究のことだ。組織論的には、研究者の学習意欲とモチベーションを持続的に保証するという狙いがある。

 ミクシィでそれに当たるのが、「Weekend Challenge 2.5」(ウィークエンド・チャレンジ)。ただ、旧来のアンダー・ザ・テーブル研究と違うのは、取り組み過程がオープンで、その成果発表を社内イベントして楽しもうというノリがあることだ。WC2.5制度は2011年8月から始まった。3カ月に1回、業務時間の2.5日分を使って、エンジニアが好きな技術開発を行い、その成果をコンテスト形式で競う。これまで累計で35組がエントリー。入賞者には賞品も出る。


「ソーシャルグラフ」を活用したサービスイメージをiPad2でプレゼン

「mixiの機能改良や新機能追加というテーマを中心に、ユーザ視点で分かりやすいテーマのエントリーを幅広く求めています。今後、mixi に新しいサービスが生まれたら、そのアイデアの元はWC2.5から生まれたということがあるかもしれませんよ」  と、森本氏はにやりと笑う。

IRCとWikiがつなぐコミュニケーション。学習する組織を自分たちで作り出す

 さまざまなイベントと同時に、ミクシィにはエンジニアのモチベーションを促し、学習意欲を継続させるための情報共有インフラがある。社内の通常のコミュニケーションでは、メールよりもタイムラグの少ないIRCが大活躍。業務の内容などはリアルタイムでやりとりできる。またグループを作成すれば、一度に情報発信ができる。
「社内でいま何が起きているかは、IRCを見れば分かります」(中村氏)

 案件ごとのノウハウを溜め込むものとしては、Wikiシステムで作られたナレッジ・データベースがあり、既決事項はここに放り込まれ、誰もが参照できるようになっている。スレッドがいくつにも分化したメールのやりとりをたどるよりも、Wikiを見ればたちどころに現在の知恵の到達点が分かるわけだ。

 また、ソフトウェアのバグや改善といった作業、それらの依頼や報告対応は、すべてチケットとしてBTS/ITS(Bug Tracking System, Issue Tracking System)で取り扱われている。こうした共有インフラが網の目のように社内に張り巡らされている。一人の知恵を組織の知識として活用する仕組みが柔軟に動く。そのスムーズな循環の中で、エンジニアは自分の成長を実感できるようになる。
「エンジニアが成長するメカニズムを可能な限り“見える化”していきたいですね。そのお手伝いをするのが技術支援グループの仕事だと思っています」と、高井氏は意欲を語る。

「どんな企業でも、ここはこれが強いと社会的に認知されるような強みがあると思っています。これからは“IT勉強会なら、やっぱりミクシィだね”と言われるようになりたいですね」と、勉強会担当の中村氏も負けていない。
「エンジニアを育てるための体系的な仕組みはまだ始まったばかり。これからも試行錯誤はあると思います。ただ、外部の社内教育機関に頼らずに、自前でそれを作り上げていこうというのが、ミクシィらしいかもしれません」と、森本氏がまとめてくれた。
 技術者を育て、彼らの幸福を追求するためにこそ全精力を注ぎたい。その気持ちがひしひしと伝わってくる、頼もしい支援グループの面々だ。

技術部技術支援グループ 勉強会担当 中村 譲氏

イントラネット向けパッケージ製品の開発の傍ら、社内向けの業務支援ツールの導入・開発などの効率化に携わり、2011年に株式会社ミクシィに入社。2011年秋から技術部技術支援グループへ。

技術部技術支援グループ マネージャー 森本 淳氏

コンピュータ・グラフィックス・ソフトウェアの研究開発から、Webの誕生に伴って次第に携帯コンテンツの開発運用に携わり、2008年に株式会社ミクシィに入社。モバイル、課金、管理、タイアップ、スマートフォンなど各種開発チームのグループマネージャーを経て、2011年秋から技術部技術支援グループにて現職。

技術部技術支援グループ 人材育成担当 高井 桂氏

Perl、PHPでの開発業務を始め、Java研修の講師とエンジニア育成に携わり、2007年に株式会社ミクシィに入社。カスタマーサポート向けツールの開発チーム・リーダーおよび新卒・中途エンジニアの教育を経て、2011年秋から技術部 技術支援グループへ。

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