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5月10日、海外のiPhoneプラットフォーム向けにゲームとコミュニティを展開することを発表したDeNA。「モバゲータウン」のノウハウはどこまで世界を驚かせるのか。前回の畑村匡章・ミニネーション代表取締役に続き、今回はモバゲータウンの生みの親の一人である、DeNA取締役・川崎修平氏に話を聞く。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.05.26
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1975年生まれ。早稲田大学・大学院時代に社内用コンテンツマネジメントシステムなどを個人請負で開発、東京大学大学院博士課程在学中に株式会社ディー・エヌ・エーにアルバイト入社。大学院単位取得退学後の2004年4月に正社員となる。携帯電話向けオークションサイト「モバオク」、アフィリエイトサービス「ポケットアフィリエイト」、携帯サイト「モバゲータウン」を開発。その他多くのサービスの開発・運用に携わる。2007年6月、取締役に就任。
ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が、同社の子会社ミニネーションを通して、アップルのiPhone /iPod touch向けに、「モバゲータウン」のゲームアプリと「モバゲータウン」をベースにしたコミュニティ機能「MiniNation(ミニネーション)」の提供を開始したことについては、前回既報の通り。アプリは当面、日本以外のApp Storeからしかダウンロードできないが、これは単にゲームの移植先を拡大するというだけでなく、海外ユーザーを獲得するための戦略があったからだ。
この海外市場開拓のためのプロジェクトの第一線で活躍するのが、川崎修平氏だ。ほぼ一人で、しかも3カ月という短期間でモバゲータウンを立ち上げたことで知られるスーパーエンジニア。実は、モバゲータウンのメンテナンスから手が離れた昨年暮れごろから、iPhoneでのゲームビジネスの可能性を探るため、アプリの構造などを研究していたという。
「iPhoneはたしかに素晴らしいデバイスです。開発者向けの機能は豊富で、誰が作ってもiPhoneらしいアプリになるようにできている。ただ、開発者の立場からみると、美しいグラフィックやわかりやすいインターフェイスの背後にあるのは、意外と古風なシステムなんですよね。アップル製品は、小学校6年生ごろにゲームを作りたくて、Macと、当時の教則本『インサイド・マッキントッシュ』を親に買ってもらって少しかじったことがあるだけですが、その頃と基本的なところは変わっていないという感じを持ちました」
iPhoneアプリの多くは、Objective-Cで書かれているが、それを使うのは今回が初めて。PerlとMySQLがメインであるモバゲータウンのゲーム開発とは相当勝手が違ったのではないかと想像するが……。
「どんな言語でも2週間もやればだいたいのことはわかるようになりますよ。DeNA にも Objective-Cの経験者はそう多くはない。でもみんな入門書を読んで、1週間ぐらい根を詰めてサンプル書いているうちに、書けるようになります」
おそるべき習熟のスピードの速さ。はたして一般的なプログラマーなら誰でもそうなのか、それとも川崎氏やDeNAのエンジニアがとりわけ優秀なのか、それはわからない。しかし、新しいデバイスやプラットフォームへの移行が、技術的にはさほど苦労ではなかったことだけはわかる。とはいえ、アプリが書ければそれでビジネスが成り立つというわけではないのも事実。
DeNAはミニネーションという子会社を設立し、自らがパブリッシャーになることで、iPhone市場に参戦することになった。
「海外向けを出すときは、やはり現地の人がつくらないと受け入れられないのではないかという考え方もあるけれど、それよりも、国内で顔と顔を付きあわせ、細かい作り込みをしたほうが、よりゲームの品質は上がるということもわかってきました。当面の開発拠点は国内に置きます」
今回、川崎氏が担当したのは、ミニネーションのプラットフォームの設計と実装。それからモバゲータウンの人気ゲーム「怪盗ロワイヤル」をiPhone向けに移植した「Bandit Nation」のプロトタイプ製作だ。いわば、ミニネーションが今後リリースするソーシャルゲームのサンプルづくりだった。
「ソーシャルゲームには大まかに言えば、ゲームそのもの面白さとコミュニティ機能がゲーム内に盛り込まれているという2つの要素があります。たとえコミュニティ機能がよくできていても、ゲームが面白くなくては、ユーザーはついてこない。“俺、今このゲームにはまっているから、みんなも参加しようぜ”という形で広がっていく。だから、ゲームの完成度にはこだわりましたね。ただ、ゲームとコミュニティ機能の2つを同時にやるのは苦手なんで、ある程度の形になってからは、エンジニア2人に入ってもらって、あとをよろしく、と」
プロトタイプ開発は今回もやはり、自宅にとじこもって。仕事が興に乗ると、食事は摂らず、ひたすら好物のミルクティーだけで過ごすという開発手法も変わることがなかった。自宅の仕事場で、机のそばにはミルクティーを冷やすミニ冷蔵庫を設置し、片時もそこから離れない開発スタイルだったそうだ。
「四六時中、自宅の仕事場に籠もりきり。ふつうの奥さんなら嫌になっちゃうでしょうね。ホント妻には感謝しています」
「Bandit Nation」サービス画面
一つのゲームを完成しただけでは、達成感はまだ半ばだ。 「本当の面白さを味わえるのは、ゲームをリリースして、ユーザーが増えて、トラフィックが伸び出してから。どんな風にトラフィックが伸びるのか、それを眺めながら分析しているときが一番楽しいですね。トラフィックが伸び出したら、そこからそれにどう対応していくか、インフラの整備とかを考えるのも楽しいですよ」
自分が生み出したモバゲータウンの毎日の成長ぶりを、この4年にわたって刻一刻と見守ってきた人物が、今度は海外ユーザーの動向を徹底的にウォッチする。国内の携帯電話向けと海外のスマートフォン向けでは、ユーザー層の違いはあると想定している。スマートフォンのほうが年齢層は全体に高め。コアユーザーは少数だが、お金は持っている。だとすれば「怪盗ロワイヤル」系のバトルゲームでは、お金を払っても強くなりたいという欲望を刺激し続けることが欠かせない。
「モバゲータウン自体は、実社会では得られないバーチャルなネットワークに自分の心を癒してくれる居場所を持ちたいという人が多いんです。その場所に癒しやアイデンティティを感じれば、ずっと居続けてくれる。その点、『怪盗ロワイヤル』はやや異色で、仲間は仲間、敵は敵という世界。敵に対しては仲間で結束して闘いを挑んでいく。iPhoneではその「バトル系」から入っていくので、これがどう受けいれられるか興味がありますね」
グローバル対応ということで、今回は日本版ゲームにはない試みも導入した。アバターの目の色や肌の色はローカライズのために日本版よりも増やしている。さらに、ユーザーの属性を示すために、それぞれに国旗のアイコンをつけたのだ。
「同じ国の人同士で仲間をつくるのか、あるいは逆に同じ国の人しか狙わないのか、どんなふうに結果が出るのか楽しみです」
自分がつくり込んだパラメーターが、どんな反響をもって迎え入れられるか。ユーザーの伸びや、ゲームの収益にどのように反映されるのか。あたかもゲーム世界の創造の神になったような気分で、いまごろ川崎氏は、トラフィックの推移をモニターの前で眺めていることだろう。
「本当は、アメリカにでも行って、ユーザーの声をダイレクトに聞いてみたい。モバゲータウンでは、“ご意見BOX”という意見を集約する場所があるので、そこに毎日滝のように流れるユーザーの意見には全部目を通していました。もちろん、意見をそのまま反映するということはほとんどないです。ただ、ユーザーの声の背後にある本質的な欲求をくみ取って、それを別の形で提示するということは大切ですし、そのようにしてきました」
「ゲームの出来の良し悪しは簡単には判断できません。ただ、重要なのは序盤のわかりやすさ、ツカミのところでユーザーがわくわくできるかどうかがキモ」
と川崎氏は言う。最初のインパクトでユーザーを惹きつけられるかどか。その段階さえクリアすれば、ソーシャルゲームは自然に発展していくのだという。
「モバゲータウンのときだって、ワケもわからず入ってきたユーザーが、何か知らないけれどアバターの洋服を着替えろとか言われて、着替えたら誰かからメールが届いていて、『友だちになりましょう』みたいなメッセージがある。その返信をしたら、だんだんと友だちが増えて、ゲームの世界に巻き込まれていくプロセスがあったんです。そこには、“流れの速い川”みたいなのが流れていて、その勢いでユーザーが増えていった。それを、海外スマートフォンの世界でどう実現するかが、海外戦略成功の鍵を握ると思います」
果たして川崎氏は今回も、急流を楽しそうに小舟でしのいでいく無数のユーザーの群を目にすることができるだろうか。そのシーンを実現するためには、もちろん川崎氏一人でなく、彼と共に開発に携わるエンジニアの力が不可欠だ。
「自分のプロダクトを世に出るわけだからそれをよくすることに1分1秒惜しまない人。英語のドキュメントが読める人」というのが、彼の仲間になる最低の条件だ。DeNAとほぼ同時期に海外スマートフォン市場に参入する競合は少なくない。
「僕らはフットワークが軽い。魂のこもったいいものがつくれる。それをお金につなげる知恵のある人がバックに控えている」
というのが、川崎氏からみたDeNAのアドバンテージ。そのDeNAだからこそ、今回の海外進出では絶対に失敗ができない。
「日本のソーシャルゲームが、世界に出てちゃんと勝負できることを証明したい。それはきっと僕らにしかできない。そういう使命感は強いですね」
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