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スマートフォン向けソーシャルゲーム開発エンジン「ngCore」を、自社アプリ開発だけでなく、サードパーティのゲーム開発企業にも提供し、プラットフォームのグローバル戦略を急ピッチで進めるDeNA。その開発の面白さを現場のエンジニアの声で紹介する。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己) 作成日:11.06.22
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DeNAおよびそのグループ企業であるngmocoが開発・提供する「ngCore」は、スマートフォン向けクロスプラットフォームゲームエンジンである。通常iOSやAndroidではそれぞれObjective-C,Javaなど別々のプログラミング言語でアプリケーションを記述する必要があるが、「ngCore」を使うとJavaScriptで記述されたプログラムが両プラットフォームで動作する。また、ゲームに特化した高い性能を実現する構造を持ち、ブラウザ上でJavaScriptを動作させるより、ゲームに適したなめらかな描画やクイックなレスポンスが提供される。
今年6月にリリースされたAndroid向けMobageアプリケーションから利用できる「忍者ロワイヤル」「アクアコレクション」「牧場ホッコリーナ」というソーシャルゲームにもこの「ngCore」が利用されており、従来のフィーチャーフォン(ガラケー)とは異なる、タッチインターフェイスの特徴を活かしたゲームとなっている。
またすでにMobageプラットフォーム上で公開するソーシャルゲーム開発者向けに、「ngCore」を内包した「Mobage SDK」配布が始まっており、今後は徐々にドキュメンテーション、サンプルコード、ライブラリの充実を図っていく。
「ngCore」は、「Mobage」サービスを様々なデバイスに対応させ、そのプラットフォームをグローバルに展開しようとするDeNAのX-device / X-border(クロスデバイス/クロスボーダー)戦略における核となる技術となっている。
株式会社ディー・エヌ・エー
取締役 川崎 修平氏 |
「ngCore」のゲーム開発者にとっての強みを語るのは、「Mobage」生みの親であり、DeNAの最高技術責任者を務める川崎修平氏だ。「これまでJavaScriptや、Flashでゲームを開発してきたWebエンジニアには馴染みやすい環境で、スマートフォンアプリケーションへの移行が容易というメリットがあります。近年はHTML5を使った開発への関心が高まっていますが、現時点ではネイティブコードで書くのと比べるとどうしても性能面でハンデがある。ところが、「ngCore」を使うとHTML5で書くようなスタイルで、ネイティブとほぼ同等のパフォーマンスを上げることができるのも強みの一つです」 他の海外製ゲームエンジンがどちらかというとコンソールゲーム用に寄っているのに対して、ngCoreはソーシャルゲームに特化して、Web の世界と似たような作り方ができるので、これまでのWeb系エンジニアにとっては使いやすく、開発生産性の点でもメリットがあるという。もちろん「ngCore」を含むクロスプラットフォーム開発環境はいくつかオープンソースとしても流通している。
必ずしもそれを自社に抱え込む必要はなく、いわばよそから借りてきても開発ができないわけではない。わざわざ自社グループで開発する意義はどこにあったのか? |
「ngCore」はもともとngmocoというサンフランシスコに拠点を置く企業が開発してきた。昨年DeNAがngmoco社を買収したことにより、今後は「ngCore」はDeNAとngmoco社の共同開発ということになる。エンジンそのものの改修にもDeNAの要望を反映していく。さらにプラットフォームの共通化も進む。共同作業は遠隔テレビ会議を中心に、時には互いのエンジニアが行き来しながら進んできた。海外企業との本格的な共同開発はDeNAにとって初めての経験。当初は、ある程度の困難が予想された。 「ngmocoにはもともと“plus+Network”というスマートフォン向けのソーシャルプラットフォームがあり、DeNAにはMobageというプラットフォームがあります。似たようなプラットフォームとはいえ、日米で文化の違いがあるし、プラットフォーマーとしての考え方の違いもありました。それらの違いを吸収することが最初は大変でした」と言うのは、ソーシャルメディア事業本部メディア統括部でプラットフォームシステムグループのリーダーを務める木村秀夫氏だ。
ただ予想以上に、これらの共同作業が短期間にスムースに進んだのは、エンジニアならではの共通の志向性があったからだ。 とあるバーで日米のエンジニアが一緒に飲んでいたとき。川崎氏が店に置いてあった任天堂のスーパーマリオブラザーズをいじりだし、裏技を駆使しながらものすごいスピードで画面をクリアしていくと、周囲の米国人から「すげえ!」という歓声が沸き起こった。自分たちの会社を買収した日本企業のトップエンジニアがマリオの達人だと知って、文字通り「Oh! My God!」と彼らは叫んだのだ。 一度、共通の趣味や話題で盛り上がることができれば、他の障壁は簡単に乗り越えることできる。こうした国境を越えたエンジニアコミュニティの存在が、これからのDeNAのグローバル戦略を支えていく。 |
株式会社ディー・エヌ・エー
ソーシャルメディア事業本部 メディア統括部 プラットフォームシステムグループ グループリーダー 木村 秀夫氏 |
「ngCore」の提供によって、「Mobage」プラットフォームおよびゲーム・デベロッパのスマートフォン移行は大きく促進されることになる。DeNA自身も日本のMobageで人気を博す「ロワイヤル」シリーズを、「ngCore」ベースで開発しスマートフォン向けに提供し始めている。これを一つのモデルとして、今後続々とスマートフォン向けのゲームが登場してくることになる。
ユーザーにとっても、モバイルデバイスを使ったゲーム体験に新しい1ページが加わることになる。「フィーチャーフォンの寿命はもってあと数年」と見切る木村氏は、それを引き継ぐスマートフォン市場において、ソーシャルゲームはどう変わるかをこう語る。「スマートフォンでもこれまでの携帯ゲームのようにソーシャルグラフを活用して、ゲームを通したソーシャルコミュニケーションを提供するのが私たちの役目。デバイスがスマートフォンになることで、ゲームのリッチさ、触り心地が加味され、ユーザーは新しいゲーム体験を楽しめるようになります」
DeNAでは、フィーチャーフォン用ゲームをスマートフォン用に移植するだけでなく、ユーザーのデータをそのままスマートフォンで利用できるAPIも提供している。アプリケーション側で対応すれば、これまでフィーチャーフォンでゲームを楽しんでいたユーザーが、そこで得たアイテムやモバ友のデータをそのまま、スマートフォン・ゲームにも移行できるようになるという。これはユーザーがフィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えるうえでの障壁が一つなくなるということを意味している。同様に自宅のPCで遊んでいたゲームを、外出先ではスマートフォンでその続きを始めることもできるようになる。これができて初めてX-device戦略が達成されることになる。
「DeNAはフィーチャーフォンの国内ソーシャルゲームプラットフォームでは成功者の位置にあるけれども、スマートフォンや海外市場ではあくまでも新参の挑戦者にすぎない。海外のゲームファンにとって何が受け入れられるかはまだわからない。さまざまなタイトルを出して、反応を見ていくことになる。だから、今の状況だけでスマートフォンのソーシャルゲームを判断する必要はない。
これからその様子は想像もつかないほど大きく変わっていくはずだ」 と、川崎氏はこれからの市場の変化を語る。どのように変化するかはわからないが、その変化の大きさだけは実感できている。だからそこ、いまこのフィールドに参画する開発者にとっては仕事の面白さはハンパではないのだ。
だからこそ今求められるのは「マーケットの変化に、柔軟に、かつスピーディに対応できる」エンジニアだ。柔軟な対応ができるかどうかは、基礎的な知識や技術力以上に、エンジニアとしてのセンスにかかわるところが大きい。
「センスという意味では、今のDeNAには優れた人がいっぱいいますね。例えば私がちょくちょく顔を出すPerlコミュニティから、ギークと呼べるエンジニアがごそっとDeNAに移って来ました。いまDeNAはPerlギークがぞろぞろいる会社になってます。なかには私が誘った人もいるんですけれどね(笑)」と木村氏。
エンジニアリング大好きで、それぞれが書くコードに、その人らしい発見とセンスが溢れている。そういう才気溢れるエンジニア集団というのは、きっと一緒に仕事をしていて楽しいに違いない。
それに付け加えて川崎氏が面白いことを言った。
「実は、お金儲けをしたいという人、大歓迎なんですよ。DeNAという会社は事業を進める上でエンジニアの裁量範囲が大きい。しかも事業そのものが、今ある事業だけを堅く守るという風土じゃないですからね。新しい事業のアイデアをどんどん出して新しい柱を作らなくてはならない。だから自分が作ったものを、すぐに世の中に出せるチャンスはたくさんある。それで成果を出せば、それがそのままエンジニアの評価につながり、給料アップに直結しています。今こそたくさん儲けて美味い酒を飲もうって、呼びかけたいですね」
Webアプリケーション開発やサーバー・インフラ構築に限らず、いまDeNAでは携帯端末向け組込みソフトウェア開発経験者も求めるようになった。X-device戦略を深めていくと、「ngCore」開発のような今までより低いレイヤーを扱う必要が出てくる。限られたメモリ・リソースの中で、ハードウェアを意識しながら開発を進めてきた経験はこれからますます重要になる。
「そういう分野のエンジニアは、ゲーム自体の開発経験がなくても全然構いません」と、川崎氏。Webアプリからサーバー構築、さらには組込みエンジニアまで、DeNAが求めるエンジニアのスキルセットは、より重層的になりつつあるのだ。
1975年生まれ。早稲田大学・大学院、東京大学大学院博士課程了。在学中にDeNAにアルバイト入社。2004年4月に正社員となる。携帯電話向けオークションサイト「モバオク」、アフィリエイトサービス「ポケットアフィリエイト」、携帯サイト「Mobage」を開発。その他多くのサービスの開発・運用に携わる。2007年6月、取締役に就任。
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1970年東京都生まれ。アメリカの大学を中退、1996年にアルバイトをしていたインターQ(現GMOインターネット)に入社。社内情報システム、ホスティング事業などを担当。2000年、元同僚と独立。2008年、大手通信会社系のホスティング会社に入社。2009年、DeNA入社。Perl言語のコミュニティでも活動。
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