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発見!日本を刺激する成長業界10 水力にも注目!マイクログリッド向け小型発電開発
石油の使用量を減らす脱石油が国際競争力のカギを握る中、注目を浴びているのがエネルギーの“地産地消”を目指すマイクログリッド。エネルギー供給の主役は太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーを使った「小型発電ユニット」だ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:10.07.14
再生可能エネルギー利用の理想形として市場拡大に期待
 風、小川、太陽光などの小さな再生可能エネルギーから得られた小電力を、集落、工場、学園といった小さなコミュニティの中で消費するというマイクログリッドが、脱石油を後押しするテクノロジーとして大いに期待を集めている。米ナノマーケット社の調査によれば、市場規模は2010年の814万ドルから、2017年には2458万ドルと、7年で3倍増に達する見通しだ。
 マイクログリッドの中心的役割を担うのは、屋上の太陽光発電、小型の風車、送水管や上水道管などに設置されたマイクロ水力発電などの小型発電ユニットである。これらから得られる電力は絶対的には小さいが、送電線を通して遠方に送らずに「地産地消」すれば、地域のエネルギー消費をかなり補完できる。その価値が認識されれば、市場はさらに拡大する可能性もある。
世界の新規マイクログリッド収益予測(アプリケーション別)
田中水力/水道管からもエネルギー!簡単設置のマイクロ水力発電機
 水力発電と聞いてまず思い浮かぶのは巨大ダムだろう。だが、水力のパワーは強烈で、ちょっとした送水管などに水車を設置するだけで相当の電力が得られる。田中水力は簡単でコンパクトに設置できる新世代水車を考案。マイクログリッド向け発電に打って出る。
小規模送水管、上水道、工場内……マイクロ水力発電はグローバル商品
リンクレスフランシス水車発電機
リンクレスフランシス水車発電機
 再生可能エネルギーで今日、主に注目されているのは太陽光、風力、バイオマスなどの新エネルギー系だ。だが、世界で最も普及している再生可能エネルギーは何かといえば、圧倒的に水力である。1m3の質量は約1トンと大気の800倍近くもあり、いったん流れ始めると、発生する運動エネルギーは風力とは比べ物にならないほど巨大。
 そのエネルギーを利用して発電すれば、ランナ(タービンのインペラに相当する回転体)径が数十cm程度のコンパクトな水車でも、出力100kW級の発電機を楽々と回すことができるのだ。風車ならば直径20m程度のローターが必要なところである。
 その水力発電機を送水管、上下水道、工場の水循環システムといった社会基盤に簡単にインストールできるよう、高効率を保ったまま小型化することに成功したのが、水力発電所のメンテナンスから自社開発の水車製造までを幅広く手がけてきた田中水力である。

「どんなところでも、標高差があればエネルギーを取り出せるのが水力の魅力です。ダムはその代表例ですが、そのダムの河川維持用水(メインの導水路を閉鎖しているとき、川の下流が枯れないように水を流す水路)をはじめ、工場の冷却水の配管や排水口、上水道、農業用水など、利用可能な水力はそれこそ至るところにあるのです」
 取締役営業本部長の須賀創氏は、水力エネルギーのキャパシティについて語る。田中水力が、マイクロ水力発電機の開発に本格的に取り組んだのは2005年。新エネルギー創出を事業のひとつとしている東京発電に、農業用水の流れを使って発電できる水車をつくれないかと持ちかけられたのが、そのきっかけだったという。
「もともと当社は水車の新造よりは整備点検やオーバーホールを主体としていたのですが、最近は水車の材質向上と事業者の経費節減で整備のインターバルが伸び、売り上げが落ちていました。マイクロ発電用の水車設計、製造を打診されたのは渡りに船でした」

 マイクロ発電での使用を考慮し、設置に必要なスペースを従来型に比べて大幅に削減した、出力95kWの新型水車が完成したのは2007年。初年度の納入実績は2台だったが、現在は年10台ペースに増えているという。
 設置場所は現在は浄水場がメインだが、送水管タイプをはじめ派生機種も開発しており、省スペースを生かして工場内発電などにも適用していくという。ほかの再生可能エネルギーに比べて得られるエネルギー量が大きいことに加え、安定性にも優れているため、マイクログリッドへの電力供給装置として大いに期待されている。
「需要は日本だけではありません。電力インフラが整っていない新興国、発展途上国でもマイクロ水力発電の引き合いがあるんですよ。既にベトナム、ミクロネシアのバヌアツなどに納入実績があります。品質で劣るが価格の安い中国製水車との厳しい競争にさらされていますが、販路を拡大していきたいですね」
須賀 創氏
取締役 営業本部長
須賀 創氏
水車整備のノウハウから「リンクレス・ハイドロパワー」を開発
「リンクレス」を可能にした「ガイドベーンギア」
「リンクレス」を可能にした「ガイドベーンギア」
手作業で削るというランナ部分
手作業で削るというランナ部分
「水車の開発はとても面白い。原理的には100年も前に極めつくされていて、エネルギー変換効率も既に天井に達しています。しかし、実際に水車をつくるとなると、実は改良すべき点がそれこそ無数にあるんです。新開発した『リンクレス・ハイドロパワー』フランシス水車は、長年の経験に基づくアイデアを存分に盛り込みました」
 水車開発を担当する取締役技術部長の國分清氏は語る。水車には軸流式、ペルトン式、クロスフロー式、ターゴ式、フランシス式などのさまざまな方式がある。フランシス式は効率の高さ、水の流量や落差への適応範囲の広さ、据え付けの自由度の高さなど、他方式に比べて性能面でアドバンテージを持っている。ダムの発電機は多くがこの型だ。
 だが、構造が複雑でコストが高く、メンテナンスも頻繁に行わなければならないという欠点がある。

「フランシスは複雑で高額というのは水車の世界で常識ですが、本当にそれが解消できない欠点なのかというと、実は違うのです。われわれは昔から水力発電のメンテナンスを無数に手がけてきましたが、その業務の中で『なぜここはこんなに複雑な構造になっているんだろう』と不思議に思うことが多々ありました」
 フランシス水車の構造を複雑にしている要因のひとつが、ランナを通過する水量を調節するための可動式のガイドベーン(絞り弁)だ。通常はそのベーンを動かすのに、テコの原理を利用したリンケージ機構が用いられる。
「そのリンクの整備がなかなか大変なわけですよ。支点、力点がリンクごとにいくつもあって、リンクが正確に作動するためには劣化したブッシュ(可動部の樹脂)を交換したり、潤滑性を保ったり。マイクロ水力発電用の水車は、低コストでメンテナンスも容易にすべきと思い、そのリンク機構を何とか簡素化できないかと考えたわけです」
 多数のベーンを同時に開閉させるにはどうしたらいいか、頭をひねった末に國分氏が思いついたのは、ベーンの支点にギア(ガイドベーンギア)を装着し、それらを環状のギアで回すという方法だった。リンク構造に比べるとシンプルで、かつ剛性が高く作動が正確、さらに水車の設置スペースも削減できるという、いいことずくめの結果が得られたという。

 水車は単に水で回るものをつくればいいというわけではない。例えばダムの発電用水車の場合、土砂がものすごい勢いで流れ込み、ランナの羽根にガンガン当たる。上水道に設置する場合は、カルキ成分に常にさらされる。
「そういうストレスに耐えるにはどんな材料、どんな機構にすべきか考えるのはもちろんですが、加えてどうすれば簡単に整備ができるかといった実用上の工夫も欠かせません。水車の世界ではこれまで、理論先行でモノづくりが行われてきました。それだけに、工夫のしどころがたくさん残っているのが実情です。再生可能エネルギー、特に水力に興味があるというエンジニアなら、専攻を問わずぜひ門戸を叩いてほしい。大事なのはスキルより、よりよいものにする方法を考えるイマジネーションです」
國分 清氏
取締役 技術部長
國分 清氏
エンジニアのアイデアがモノをいうマイクロ発電の開発
求人情報を調べるときは技術分野の特徴をつかむ
 マイクログリッドへのエネルギー供給ソースとして期待されている太陽光、風力、マイクロ水力、また燃料電池コジェネレーションなどの技術は、特殊な新技術ではなく、既に商品化されているものがほとんどだ。エネルギーの消費先は小規模なネットワーク。今後も究極のエネルギー効率を実現する先端技術を利用するものではなく、アフォーダブル(誰にでも購入・運用が可能)な価格、メンテナンスの容易さを実現した機材が中心となるものと思われる。

 小規模発電のシステム開発をやってみたいというエンジニアがウオッチすべき業界は、技術分野によって異なっている。太陽光および燃料電池と関係が深い企業は、家電、石油元売り会社、ガス会社、自動車メーカーなど。風力は一転、重工業やパワーエレクトロニクス系が主体となる。
 マイクロ水力は上記の田中水力をはじめ、ごく少数の専業メーカーが手がけている。ただ、設備の単価が意外に高いため、今後小水力の利用が世界で活発になれば、重工業系から参入事例が出てくる可能性もある。求人業界を要チェックだ。ちなみに住宅、建設、金属化学など、システム開発以外の施工や材料に視野を広げれば、転職のチャンスはさらに広がるだろう。
機械、電気、金属、半導体など多様なスキルにニーズが
 マイクログリッド向けの小型発電ユニット開発に求められるスキルは多様だ。全分野でニーズがあるのは言うまでもなく電気。発電機や制御ユニットの開発に限った話ではなく、例えば風車や水車を開発するときに、回転の変動が発電にどういう影響を及ぼすかということをイメージしながらつくれるというのは、技術者としての創造性にプラス作用するからだ。

 水車、風車など運動エネルギーを利用するユニットの開発では、機械設計、金属材料、複合材、流体力学などのスキルが生かせる。ただし流体力学については、風車、水車とも宇宙航空や自動車の空力、船舶の造波抵抗などとは内容がかなり異なるため、知っていれば勉強に有利という程度のアドバンテージで、知らなくてもさほど問題ないだろう。
 太陽光発電と燃料電池は半導体、セラミック、金属・樹脂薄膜、空気や液体の漏れを防ぐ封止技術などのスキルが生かせる。燃料電池では白金族金属などの触媒関連の知識がある人材も歓迎されるだろう。いずれも基礎技術だけでなく、製造プロセス経験者も求められている。
 マイクログリッドが本格化すれば、今後は「小型発電機」というジャンルが確立されるかもしれない。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
整備や保守を専業としていた会社が、長年のノウハウを生かしてメーカーに。シンプルに使いやすく、メンテナンスに手間がかからず、できるだけ安くしたい。そんな気持ちが実現させた製品が、市場で評価されないわけはない。水力発電の取材、面白かったです。

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